CROSS ROADS(10)
「どうして助けたの?」
どこまでも続く海を見ながら、郁也は橘と話した砂浜に少女と佇んでいた。
橘の姿はない。光に包まれた後、忽然と姿を消してしまった。
もとの世界に還ったのだろう。確証はないがそんな気がした。
「…別にあいつを助けようと思ってたわけじゃない」
少女が海から視線を外し、無表情のまま郁也を見る。風がやんでいた。
「ただ…、あの猫を助けたのは俺だから。…そのままにしておけなかっただけだ」
「あの子を死なせたくなかったから?」
「せっかく助けたのに、また勝手に死なれたら…それはそれで、なんか嫌だろ?」
「そう…かしら」
再び海へ視線を戻す少女。波の音だけが辺りに響いている。
「………ところで」
「?」
「なんで俺はまだここにいるんだ?」
先ほどからずっと頭にひっかかっていた疑問を口にする。
この空間の唯一の住人(さっきからひたすら水平線を眺めている)が何もつっこまない為、あたかもここにいるのが当然のように錯覚しかけてはいたが。
「…そもそも。俺は迷ってさえいないんだけどな」
「迷いは願いの分かれ道」
「は?」
「こうしたい、ああしたい。でもできない、でもやりたい。
希望、願望、挫折、絶望。願いが叶わず挫折して、でも時に絶望の中から希望を見出す。
願いを叶えるために甦る命もあれば、生きることに疲れ消え逝く命もある。
この先生きるにしろ死ぬにしろ、ここに来る人は願いの答えを求めてやってくる。
自分の願いが、その答えが見えたから、彼は元の世界に戻ったの」
そう言うと、少女ははじめてまっすぐに郁也の目を見た。
「あなたの願いは人を助けること。言動や行動で突き放していても、困っている人がいたら放っておけない。その願いを手助けしたくなる。
だからあの人の『本当は死にたくない』という願いに引き寄せられてここに来たのよ」
「……それが本当なら、俺ってすげえいい奴じゃん」
少女から顔が見えないように1歩前に出ると、スニーカーの先が海水に触れた。
少しだけ頬が熱かった。ごまかすように声を大きくして問いかける。
「あいつが助かったなら尚更。俺の願いも叶ったってことだろ?なのに…、
何で帰れないんだよ、ばかやろ~っ!!」
海に向かって鬱憤を晴らすように叫ぶ。その後ろで身を翻し歩き出す少女。
家へと足を向けながら、少しだけ…ほんの少しだけ楽しそうに言った。
「…貴方にも何かやり残した事があるんじゃない?」
小さな波の音の中で、白い砂の粒が風に舞ってきらきらと輝いていた。
了
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
「CROSS ROADS」第一話はとりあえずこちらで完結となります。
続きのお話も同人誌が出来上がり次第、徐々にアップしていこうと思っていますので、そちらもお付き合いいただければ嬉しいです。
拙い文章ではございますが、ほんの少しでも読者様の心に何か残すことが出来たなら幸いです。
本当にありがとうございました。