CROSS ROADS(1)
―――人は死んだらどこへ行くんだろう?―――
うんざりした顔で彼は目を閉じた。
もう何度目になるのか。二十回を越えた時から、数える事もやめてしまった。
ある時は旅行中。ある時は帰り道。ある時は大事な試験の直前。
いい加減慣れてしまった。
―――死ぬ事にも…。
叶郁也はごく平凡な一般家庭の長男として生まれた。
父と母は子供の頃に他界、親戚の叔父夫婦に引き取られ、今は1人暮らし。
人の良い叔父夫婦に育てられたこともあり、さして荒れることもなく16歳を迎えた。
郁也自身も自分の人生に不満を感じることはなかった。
ある一つの事を除いては………。
(またか…)
いい加減慣れてしまった状況に、彼はさして驚きもしなかった。
だんだんと近づいてくる救急車の音も、今となっては子守唄に近くなった。
自分の安否を確認する誰かの声が聞こえる。……大丈夫です。慣れてますから。
そう思って振った腕を勘違いしたのか、更に大きくなる声。……あ~、うるさい。
その声にだんだんと意識が遠のいていく。
次に目を開けたら、どうせまたあの白い部屋の天井が見えるのだろう。
そう思いながら、彼はゆっくりと意識を失った。
しかし―――、
その日の目覚めは、いつもと少し違っていたのである。
……ニャー……
(……ん………)
……ニャー…ニャー…
(……なん…、…だ…)
……ニャー…ニャー…ニャー…
(……猫……?)
(…そういえば…、今回は…猫……助けたんだっ…け…)
「……どう……?」
(…よかっ…た…、生き…)
「…具合は?」
(………………………………………………………てた?)
覗き込む少女の顔。
「………………………」
「大丈夫そうね」
「う」
「?」
「うわああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!???」
とっさにベッドの反対側まで飛び退る。
「ねっ!猫がっ!!ひっ!人型にぃいいいいいいいいいっ!!??」
手近なカーテンを引っつかんで羽織ると、どこかで聞いたお経をくり返し唱える。
これはいつもと違う…。全く違う!!
「……驚かれた事は何度もあるけど、……泣かれたのは初めて」
背中にどこかあきれたような声がかかる。それは人間の…、
「…………女の……子?」
そこに佇んでいたのは紛れもなく少女だった。
年の頃は10歳位であろうか。フードのついた長いコートのようなものを羽織っている。
少女は一瞬彼をじっと見つめると、少し安心したようにベッドから離れた。
「意識ははっきりしてるみたいね。…それだけ元気ならすぐに生き返るでしょ」
そう言って部屋を出て行こうとする。
「…え?それって」
問いかけようとしてベッドに手をかける。
「待っ…!!」
急速に意識が遠のく。事故にあった時と同じような感覚に体が崩れる。
全身が燃えるように熱い。急激な痛みに声を上げて倒れこむ。
次に彼の意識が戻った時には、いつもの天井が見えていた。