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星の終わり、ショットガンと監督

作者:
掲載日:2026/05/31

世界は、驚くほどに、

瞬く間に喧騒に包まれた。


その時は、

青く、青く、

むせるほど青かった。


だが、それでも、

世界は終わると言われた。


なぜならば、

隕石が落下してくるから。


隕石が地球に落ちてくるからだ。


何も知らないのは、

動物と、

建物と、

花と、

木と、

人間以外の全部だった。


そのすべてが終わりを知らずに、

今日を迎えていた。


あと何日かも分からないが、

確か、七日だった気がする。


世界が終わるまで、

あと七日。


かなり切りがいい数字で、

いわゆる陰謀論的なものだと言う人もいたし、

確か、デマとか、

暴動も起こっていた気がする。


それでも、

学者、

専門家、

テレビのニュースキャスター、

インフルエンサーが、

こぞって隕石は真実だと言っていたので、

やっぱり本当だと騒がれた。


空を見た。


全員が空を見ると、

そこには、とても大きな星があった。


段々と大きくなっていく。


確かに、

ここへ突っ込んでくるのが約束されているような軌道で、

こちらを向いている。


今の人類がやっていることといえば、

騒ぎ立てる者、

阻止しようとする者、

そして何もかもを諦めて、

堕落に進む者。


だが、

この話の主人公がしたことは、

押し入れの、

埃を被ったその奥から、

ビデオカメラを引っ張り出すことだった。


学校の映画研究会で使っていたもので、

まあまあ古い。


画質も、

充電も、

重さも、

今のものではないと言っていた。


けれど、

まだ動いていた。


それを持って、

主人公は窓を開けた。


街へレンズを向ける。


歩く人。

立ち止まる人。

叫ぶ人。


それを撮った。


レンズを通すと、

まるで昔のパニック映画のようになっていた。


アルマゲドンとか、

そういうの。


「映画です。

 これは映画です。

 なので、心配しないで」


と、主人公は言った。


趣味だった。


映画を撮るのは。


それで生計を立てたりとか、

お金を稼ごうとかではなくて、

ただの趣味。


意味も、

意義もない。


だけれども、

撮った。


この世界の終わりを、

撮ろうと思った。


そして、

パン屋さんに行った。


行きつけのパン屋さんで、

主人公は学校へ行く前に、

よくそこでメロンパンを買っていた。


主人公は、

メロンパンが好きというよりも、

メロンパンを買っている姿、

自分の姿が好きだった。


だって、

学生っぽいから。


「映画ですか?」


「そうです。

 すみません、忙しい時に」


「こんな時なのに、映画を?」


「こんな時なので」


「そもそも、

 あなたもパンを焼いていますね。

 こんな中で」


「まあ、

 幾分と気が落ち着くので。

 もしかしたら、案外、

 パンを食べれば、

 人生は終わってもいいと思えるかも」


確かに。


そう思って、

メロンパンを買って食べた。


主人公は、

美味しそうな顔をした。


「美味しいですね。

 とても」


「ええ。

 死ぬほど美味しいでしょう?」


河川敷へ行った。


子どもたちは、

野球とか、

サッカーをしていた。


「どうも」


「お兄ちゃん、映画撮ってんの?」


「そうだよ」


「じゃあ、

 ホームラン打つから見てて」


ボールは勢いよくバットに当たり、

吹っ飛んでいった。


「いいね」


「ありがと」


主人公は学校へ行った。


それは、なんとなく。

本当に、なんとなく。


屋上へ向かった。


主人公は、

屋上から見える景色が好きだったから。


誰もいなかった。


まあ、当たり前のことで。

来週、世界が終わるという時に、

何を学ぶというのだろう。


もちろん、教師もいなかった。


最後くらいは、

ゆっくり過ごしたいのだろう。


屋上の扉を開けて、

一番に目に飛び込んできたのは、

風とか、

空とかではなかった。


ショットガンを持った同級生だった。


なぜ同級生だと分かったのかというと、

制服を着ていたから。


そして、

何度か話したことがあったから。


別に親しい関係とかではない。


それでも主人公は、

その人を記憶していた。


ショットガンは、

というか、

そういう銃関係には明るくなかったが、

なんとなく本物だと感じる凄みがあった。


「ねえ、それ本物?」


目を輝かせて聞いた。


今の今まで、

銃は映画とかの中でしか見たことがなかったからだ。


「うん、そうだよ。

 弾も入っていないけどね」


同級生は、

その銃口を空へ向ける。


主人公は、

ファインダーを通してそれを見る。


迫り来る赤い星。

青い、

やっぱり青い空。

フェンス。

屋上。

同級生。

ショットガン。


「ショットガンじゃあ、星は壊せないよ」


「知っている」


「じゃあ、なんで撃つの?」


「これはね、抵抗の意思」


引き金を引く。


空砲が鳴って、

もちろん弾は出てこない。


何も起こらない。


「誰も彼もが諦めていて、

 つまらないから」


そうして主人公は、

少し考えた。


街を見渡す。


まるで、

幻想が迫ってくるような空だ。


明かりがついた街。

人が行き交う道路。


憂鬱とは言い過ぎだが、

ナイーブで、

メランコリーな、

そんなところだった。


「うん。

 やっぱり、つまらないことはないよ」


「そうなの?」


「うん。

 皆、様々なことを最後に成そうとしていて、

 それは興味深いよ」


「例えば、何?」


「謝ったり、

 告白したり、

 パンを作ったり、

 野球をしたりかな」


そうして、

カメラを構える。


「何かをしたり、

 何もしなかったり」


そして、

同級生にファインダーを向けて、

その世界を作り上げる。


「私の中では、

 あなたも、君も、

 その一人になっているよ」


「そう見える?」


「うん。

 この世界ではね」


同級生はショットガンを置いて、

空を見る。


空に目配せして、

主人公を見る。


「じゃあ、監督は?」


「ん?」


「監督は、

 何を成そうとしているの?」


主人公は少し考えて言った。


「映画を撮るんだ」


「誰も見る人はいないのに?」


「自分が見る」


「意味がある?」


「意味を考えて、

 映画を撮ったことはないよ」


「そっか」


それからというもの、

同級生と主人公は、

翌日から街を歩いたり、

話したりした。


ショットガンを肩にかけた同級生を見て、

街の人は驚いても、

何も言わない。


まあ、

いちいち驚いている暇もないのだろう。


そもそも、

星が落ちてくるのだから。


奇妙な光景は、

ずっと上にある。


だから、

多少の奇妙さは、

奇妙ではなくなる。


パン屋で、

パンを食べる二人。


河川敷で、

ホームランを打つ二人。


壊れかけのゲームセンター。


荒らされた図書館。


「何を読む?」


「うーん。

 絵本かな」


「絵本が好き?」


「いや。

 幻想の最中にいられる気がするから」


映画館に入る二人。


そして、

映画を観た。


古い映画だった。


二人とも、

観たことがなかった。


「そういえば、

 監督は映画に映らない?」


「まあ、

 監督だから」


同級生はカメラを取り上げて、

主人公を映す。


「じゃあ、

 何か話してみて」


「話すって言っても、

 何を?」


「何かを。

 ちゃんとね」


そう言われると、

何を話そうか迷うところだった。


それでも、

主人公は話し始める。


「大昔に、

 とんでもない疫病が流行ったんだよ」


「大勢が死んで、

 世界は暗く染まった」


「その後に、

 強く生きようとした人たちが、

 ここまで世界を繋いだんだ」


「何が起ころうと。

 例えば、

 戦争が起ころうとね」


「何が言いたいのかというと、

 人の生きようとする意思は強い」


「だから、

 人は美しいんだ」


同級生は、

黙って聞いていた。


「私は、

 本当は、

 本当に怖い」


「終わりたくないし、

 死にたくないし、

 皆にも死んでほしくなんてない」


レンズを、

はっきりとは見られなかった。


照れくさかった。


ここには誰もいないのに、

レンズに見られていると感じると、

目を逸らしてしまう。


「だから撮るんだ。

 自分のために」


同級生は少し笑った。


憂いも、

悲しみも帯びていない。


そんな笑いだった。


「うん。

 あなたも、

 皆と同じ人だね」


「知っているよ」


それから、

時々、

主人公も映画に映るようになった。


もうすぐ星が来るという日。


空は赤く、

紅く染まって、

少し暑くなった。


大きな星には、

もう皆、

諦めがついていた。


パン屋さんは、

パンを無料で提供していた。


街には、

人があまりいなくなった。


何かが、

起ころうとしていた。


その日の夜。


主人公と同級生は、

屋上へ来ていた。


風が強かった。


警報も鳴っていて、

かなりうるさい。


同級生は、

ショットガンを構える。


「弾を入れるから、

 気を付けてね」


初めて聞いた言葉だった。


というか、

弾があったのかと驚いた。


「何発?」


「一発」


主人公は、

カメラを構える。


そして同級生は、

空に向けて構える。


これが、

最後なのだろう。


同級生は銃床を肩に当てて、

引き金に指をかける。


でも、

撃たなかった。


代わりに、

その人は泣いていた。


涙が落ちていた。


「どうしたの?」


同級生は、

空を見ようとして、

目を逸らした。


「私は、

 私は、

 こんな時になっても、

 逃げることしかできないから」


声は、

少し震えていた。


「皆にも、

 何も言わずに、

 ここまで来て」


「最後の、

 最後まで、

 本心を言えなかった」


主人公は初めて、

まっすぐに、

自分の目で同級生を見た。


同級生は言っていた。


誰も彼もが諦めていると。


苛立っているのだと、

思っていた。


でも、

その目は、

何かを帯びていた。


こんな顔ができる人が、

泣いている。


なんで、

こんな日に泣いているなんて。


引き金を引くことが、

こんなにも困難だなんて。


「ねえ」


主人公は、

カメラを下ろした。


「もったいないよ」


「何が?」


「まだ終わっていないよ」


「それに、

 終わってしまうと考えるのは、

 まだ早いよ」


同級生は、

主人公を見た。


「でも、

 でも、

 終わるよ」


「大丈夫」


誰がどう考えても、

大丈夫ではなかった。


空は真っ赤に染まって、

星には手が届きそうだった。


主人公は言った。


「映画だったら、

 何とかなるから」


同級生は、

涙を落としながら主人公を見た。


「あなたは、

 ずっと、前を見ているね」


「そうなのかな」


「私にとっては、そう」


同級生はショットガンを構えて、

星へ向ける。


「本当はね、

 この一発で死のうと思っていた」


「私は、

 私の意思で死のうと」


「うん」


「でも、やめた」


同級生は、

涙の残った顔で少しだけ笑った。


「主人公たちが自殺した後に、

 助けが来た映画みたいに」


「もしかしたら、

 助かるかもね」


弾を込めた。


その姿は、

重々しくはなかった。


銃口は揺れなかった。


星へ向けて、

撃つ。


轟音が鳴る。


同級生は、

わずかによろめいた。


その瞬間。


空が白く、

真っ白に染まった。


巨大な光。


星から出ていた。


星の表面に、

亀裂が走る。


赤く光る、

細かい血管のように。


枝のように。


亀裂が走って、

走って。


砕けて、

破裂した。


破片が散る。


細かい破片が、

いくつも落ちてくる。


流星群だった。


同級生は立ち尽くして、

何も言えなかった。


しばらくしてから、

ようやく言った。


「壊れた?」


「うん」


「なんで?」


主人公は、

カメラを構えたまま答えた。


「この映画では、

 ショットガンのおかげで」


銃口から煙が出ていて、

同級生はそれを見た。


そう。


世界は、

最後まで立ち向かっていた。


その覚悟は届いて、

星を爆破することに成功した。


大半の破片は、

地球に行き着く前に燃えてなくなる。


残りの破片も海へ落ちて、

特に被害は出なかった。


世界は続いた。


そして、

その少し後。


学校では、

映画の試写会が開かれた。


屋上で、

ショットガンを構える。


撃つ。


星が壊れる。


その一瞬の衝撃を最後にして、

主人公は映画を完成させた。


様々な人が来た。





そして、そして空は青く染まって、

主人公と同級生は映画を見た。

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