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救命の粒子、恋と闇の絆

深夜2:41。聖輝十字総合病院の高度救命救急センター、スターダスト・ユニット。空気は真空のように澄み、六人だけの閉鎖空間が、外界を拒絶していた。モニターの波形が、少しずつ安定していく。心拍62回/分、血圧92/54 mmHg、SpO2 91%。酸素飽和度の低下は、粒子による肺胞の微細な炎症を示唆していた。まだ予断は許さないが、最初の山――急性期の呼吸管理と循環安定――は越えた。ユニットの壁は無機質な白で覆われ、換気システムの低い唸りが、緊張した空気をさらに重くする。外の世界では、誰もこの部屋の存在を知らない。高度機密の隔離区画として設計されたこの場所は、未知の病に挑むための最前線だった。蛍光灯の冷たい光が、防護服のヘルメットに反射し、皆の顔を青白く照らす。澪の指先が、わずかに震えていた。二十五歳の若さで、このような極限状態に身を置くのは、毎回心臓を締め付けるようなプレッシャーだ。防護服の内側で、汗が背中を伝う。だが、彼女はそれを振り払うように、カートを押し進めた。


白石澪は、薬剤カートを押しながら息を整えた。二十五歳の薬剤師兼研究医。天才肌で、薬学部を飛び級で早期卒業した逸材だ。高校卒業後、優秀な成績で東京大学の薬学部に推薦入学。標準の6年制を、4年目に大学院の先進研究コースへ移行し、2年で修士修了――大阪大学のような飛び級制度を活用した稀有な事例で、国家試験を最年少級の23歳で突破した。幼少期の両親離婚で「子供扱い」を嫌う性格が、彼女を早く大人にさせたが、心の奥には宇宙物理への未練が残る。元々は製薬会社の研究医として、ナノ粒子ベースの薬物送達システムを開発していたが、五年前の粒子事故で現場の救命チームへ転向。あの事故で、美咲の死を間近に見た澪は、研究室の机上だけでは救えない命の重さを痛感した。今日も、防護服の中で額の汗が滴る。NS-17――神経保護剤の架空の製剤で、スターダスト粒子の酸化ストレスを抑制し、ミトコンドリアの機能障害を防ぐよう設計されたもの――の血中濃度を調整し、点滴ラインに繋ぐ。リアルな神経保護療法として、メチルプレドニゾロン高容量静注のプロトコルを基にカスタムされたこの薬は、粒子による二次損傷の進行を遅らせる。「NS-17の血中濃度、目標値に達しました。次の六時間は維持量でいけます。粒子によるROS(活性酸素種)産生を抑えつつ、炎症性サイトカインの抑制を継続します」。


澪は、チームの説明役として、静かに補足した。「この粒子――スターダスト感染は、ナノスケールの粒子が組織に沈着し、フリーラジカルを発生させるんです。リアルなナノ粒子毒性のように、肺胞や脊髄のグリア細胞を攻撃して炎症を起こします。でも、現代医学の基盤で対処可能。まず診断ステップ: CTで粒子沈着を確認し、血液検査でROSレベルを測定。次に急性期治療: EDTAキレート剤で粒子を捕捉――重金属中毒治療のように、粒子を金属イオンとして結合させて尿で排出――ステロイドで浮腫を抑えれば、不可逆損傷を防げます。光発光の症状は、粒子が蛍光タンパクと結合した中間的なメカニズムで、放射線被曝と自己免疫疾患のハイブリッドみたい。完全な架空じゃない、でも本物の病名でもないんです。標的薬物送達で粒子表面にステロイドを固定すれば、沈着部に選択的に届き、酸化ストレスを中和――脊髄再生を促せます。フォローアップとして、MRIで神経機能回復を追跡し、抗酸化剤で長期管理を」。彼女の声は落ち着いていたが、心の中では、粒子が浩一郎博士の研究から来ているのではないかという疑念が渦巻いていた。五年前のラボノートに残された「神の領域」という言葉が、脳裏に浮かぶ。あの粒子は、宇宙の産物ではなく、人間の欲から生まれたものだったのかもしれない。澪は、カートを押しながら、ポケットのノートを握りしめる。そこに描かれたスケッチ――浩一郎の粒子モデル――が、かすかな光を放つように感じた。


深呼吸を一つ。澪の言葉が、チームに科学的な確信を与える。だが、澪の心に小さな疑問が浮かぶ――この粒子は、宇宙から本当に持ち込まれたのか? 五年前の事故で似た光を見た記憶が、かすかにざわつく。浩一郎の研究ノートに残された「神の領域」という言葉が、澪の胸を締め付ける。伏線として、澪のポケットに忍ばせた古いノート――浩一郎から貰ったラベル付きの薬瓶が、かすかな光を放つ。ノートの一ページに、浩一郎の走り書き「光の代償、家族に託す」――それは、後に隼人の指輪と共鳴する。


天峰透が、レーザーから手を離し、澪を見る。「ありがとう、澪。君の調整がなければ、頸髄の虚血性損傷が悪化していた」三十五歳の外科医。元軍医で、海外派遣の戦場で命を繋いだ経験が、彼を情熱的なリーダーにした。五年間、婚約者美咲の死を背負い、夜毎に悪夢を見る男。たったそれだけの言葉に、澪の頬がわずかに赤くなる。透にだけは、素直になれる。それが、彼女の小さな秘密。透の視線が、澪のノートに一瞬留まる――五年前、澪が浩一郎のラボで見た粒子サンプルのスケッチが、そこに描かれている。伏線として、透の指に残る古い傷跡――美咲の手術中の粒子暴走でできたもの――が、かすかに疼く。あの傷は、透が美咲の最後の息を聞いた瞬間、粒子が皮膚を焼いた証だった。透は、無意識に傷を撫で、澪に微笑む。「君のノート、浩一郎博士のものか? あの時の光、思い出すよ」。


橘蒼が小さく頷く。「次は胸髄の減圧。でも……ここからが本番よ。粒子が脊髄のグリア細胞に沈着し、局所的な浮腫と神経伝導阻害を引き起こしているわ」三十八歳の外科医。元内科医で、慢性疾患の長期フォローから転じ、救命の即時対応に魅了された姉御肌。明るく経験豊富で、チームのムードメーカー。医大時代に密かな恋を寄せた透を、美咲の死後、支える存在に。声の掠れは、五年間の未練から。自身も過去に粒子実験の被験者で、子宮に微量のスターダストが残り、不妊のトラウマを抱えるが、それを明るいジョークに変えて乗り越える。蒼のネックレス――浩一郎から貰った古いペンダント――が、微かに温かくなる。伏線として、それは粒子共鳴の兆候、浩一郎の研究の残滓だ。蒼は、ペンダントを無意識に握りしめ、浩一郎の言葉を思い出す。「粒子は、光だ。闇を照らすために」。蒼は、零に目をやり、「零くん、君の弟の波形、安定してきたわ。浩一郎博士のメモ、思い出すわ。あの時、博士が言ったのよ。『粒子は、命の鏡。映すのは、己の心だ』」。


綾瀬零は、麻酔器のディスプレイを睨んだまま動かない。三十三歳の麻酔科医。元神経科医で、脳神経の基礎研究から現場へ転向。内省的だが、意外にユーモアがあり、チームの癒し系。弟・星野零の顔を、もう一度だけ見たい。でも、見られない。見たら、手が震える。十年前、弟に「お前は宇宙なんか行くな。死ぬぞ」と吐き捨てた罪悪感が、胸を抉る。零のデスクに隠された浩一郎のメモ「粒子は呪い」――それは、伏線として、弟のミッションで再び浮上する。零は、麻酔器の画面に映る弟の波形を見つめ、浩一郎の教えを思い出す。「粒子は、命の鏡。映すのは、己の心だ」。零は、蒼の言葉に頷き、「博士のメモ、俺も持ってる。『呪い』じゃなく、愛の証だよ」。伏線として、メモの端に書かれた「Hの光、家族に」――それは、隼人のイニシャルと繋がる。


倉田隼人が、壁際の通信パネルを操作する。「外部との回線、完全に遮断された。病院の警備システムも、スターダスト・ユニットは“存在しない部屋”扱いになってる」三十六歳のセキュリティ・システムエンジニア兼医師。元救命医で、真面目すぎる性格が災いし、ルール違反の同僚と衝突。飛ばされた腹いせに、システム部門へ異動したが、心の闇は深まる。表向きは冷静沈着だが、父・倉田浩一郎の死でさらに孤立。隼人の指輪――父のイニシャル「H」が刻まれ、粒子で光る――伏線として、それはラボ漏出の証拠品。隼人は、パネルを操作しながら、父の最後の言葉を反芻する。「悠真、粒子を信じろ。だが、欲に負けるな」。隼人は、零の言葉を聞き、指輪を握りしめる。「博士のメモ……父のものか」。


霧崎凛は、ガラス越しの観察室で、封筒を握りしめていた。三十四歳の看護師長兼外傷外科医。元ER外傷外科医で、緊急時のアドレナリンに生きる情熱家。明るくサバサバした性格で、チームの太陽。五年間、透への愛を封印。美咲の親友で、手術前に美咲から預かったメモ「透を止めて。危険よ」を、無視した自責に囚われる。凛のネックレスに封じ込められた美咲の遺品の粒子が、時折温かくなる――伏線として、それが隼人の指輪と共鳴する。凛は、ガラスに手をつき、透の背中を見つめ、美咲の声を思い出す。「凛、透を愛して。私の分まで」。凛は、封筒の裏地を撫で、浩一郎の筆跡を思い浮かべる。「この筆跡、博士のもの? 美咲のメモも、同じだった」。


透が問う。「次の患者は、いつ来る?」隼人「すでに三例。東棟の検疫エリアで発光確認。いずれも、星野零と同じミッションの関係者だ」澪は、胸がざわつく。星野零の体内で暴走する粒子――ネビュラの「スターダスト」。微小な粒子が組織に沈着し、光発光と炎症を起こす中間疾患。ナノ粒子毒性の酸化ストレスと脊髄損傷の神経障害が融合した症状で、SpO2低下は肺胞損傷、心拍異常は心筋沈着。零のミッション仲間、工藤博士と田中エンジニアも感染。――だが、この粒子の起源は、宇宙ステーション「ネビュラ」からか? それとも、五年前の浩一郎のラボから漏れたものか? 澪の薬瓶に貼られた浩一郎のラベルが、ふと目に入る。あれは、学生時代に浩一郎から貰ったもの。隼人の視線が、それに留まる――伏線。


凛がインカムをオンに。「透、聞いて。封筒の裏に、地図がある。病院内に、まだ三箇所、ダストが仕込まれてる可能性が高い」部屋が静まり返る。皆の視線が、封筒に集まる。透は、地図を広げ、×印を指でなぞる。「地下二階、屋上、第十七病棟、地下駐車場……これは、病院の要所だ」。


橘蒼が、ぽつりと呟く。「つまり……私たちは、もう閉じ込められたのね」。


隼人が、初めて感情を込めて言った。「だったら、全部燃やせばいい」。


澪が、震える声で遮る。「ダメです! 患者がいる! 粒子除染の基本は支持療法と中和で、焼却は二次拡散のリスクが高いんです」。


綾瀬零が、静かに口を開く。「燃やすのは、患者じゃない。ダストだ。キレート剤で内部除去を優先」。


彼は、弟の顔をようやく見た。「零……すまなかった」。弟の瞳に、浩一郎の面影を見る。伏線として、弟の首元に浩一郎のペンダント――蒼のものと同型――が光る。


透が、一歩前に出る。「決まりだ。俺たちは、この病院から一歩も出ない」。


「患者を救う。ダストを回収する。そして、誰が持ち込んだのかを突き止める」。


彼は、六人を見回した。「俺たちは、NEBULA BUSTERSだ。誰にも止められない」。


橘蒼が、微笑んだ。「透、昔と変わらないわね」。


澪は、モニターの音に耳を澄ます。ピッ、ピッ、ピッ。星野零の瞳が、わずかに動いた。銀河のような光が、ゆっくりと収まる。まだ、意識は戻らない。でも、生きている。澪の胸に、温かな希望が灯る。このチームが結成された五年前、美咲の死を機に、皆の過去が交錯した。あの時、澪は研究室から飛び出し、透の隣に立つことを決意した。粒子は、破壊の象徴ではなく、再生の可能性を秘めているのかもしれない。澪は、ノートを開き、浩一郎のスケッチを眺める。「博士、あなたの光、守ります」。


午前4:17。屋上ヘリポート。風が、防護服の隙間を抉る。透と凛が、最初の×印を目指して階段を駆け上がった。エレベーターは停止――隼人のモニターに、階段のカメラ映像が映り、透の疲労を観察する影が潜む。階段の壁に、かすかな傷跡――五年前の事故でできたもの――が、透の記憶を刺激する。伏線として、それは浩一郎のラボ爆発の破片。透は、階段を上りながら、美咲の笑顔を思い浮かべる。あの事故で失った光が、今、再び現れた。凛の息遣いが、透の背中に響く。二人だけの時間、職場を超えた絆が、静かに育つ。風が二人の間を吹き抜け、凛は透の背中に手を置き、「透、一緒なら怖くないよ」と囁く。


「凛、あの封筒……誰から?」透が息を切らしながら問う。


凛「匿名。でも筆跡、五年前のメモに似てる」。


凛のネックレスが熱を帯び、「美咲の警告?」と呟く。医大看護科で透と出会い、三角関係の渦中だった過去。美咲の死後、透の影を追い、病院に残った。凛の想いは、透の手の温もりに触れるたび、静かに深まる――職場で共有した無数の夜勤、患者の命を賭けた瞬間が、二人の絆を情熱的に燃やす。凛は、透の背中を追いながら、心の中で誓う。「美咲の分まで、守るよ」。透は、振り返り、凛の手を握る。「お前がいれば、俺は戦える」。


屋上に着く。ヘリポートの中央に、銀色のコンテナ。星野零のサンプルボックスだ。開けると、淡い光が漏れる。ダストの粒子が、風に舞う。風が二人の防護服を揺らし、夜空の星が、粒子の光と重なる。凛のネックレスが、強く輝き、コンテナの粒子と共鳴する。「これ……美咲の粒子?」凛の声が震える。伏線として、共鳴は浩一郎の研究の鍵。


「接触! 粒子が皮膚に付着――即時拭き取りを」凛が叫ぶ。彼女の声に、わずかな震えが混じる。粒子が皮膚に触れる感触は、五年前の恐怖を呼び起こす。


透は即座に吸引器を展開。粒子を吸い込みながら、コンテナの底にメモを発見。「ネビュラの秘密を暴くな。次は第十七病棟」。


透の目が細まる。「これは……脅迫だ。誰かが、ミッションのデータを狙ってる。粒子除染として、コンテナを真空シールし、中和スプレーを散布」。


二人はコンテナを封鎖。凛の指が、透の手に触れる。「透、私……五年前のことを、ずっと」。


言葉を飲み込む。透は優しく手を離す。「今は、患者を救う時だ。君のサポートが、俺の支えだ」。


凛の胸が、痛む。恋は、粒子のように儚く、しかし確実に広がる――職場恋愛の微妙な距離が、情熱を抑えつつ、互いの視線を熱くする。透は、凛の目を見つめ、心の中で思う。「お前がいれば、俺は戦える」。凛は、透の傷跡に触れ、「この傷、美咲さんの分まで、癒すよ」。


インカムから蒼の声。「屋上クリア? こっちは星野さんの胸髄手術、開始したわ。粒子による浮腫を考慮して、ハイパートニックサラインで浸透圧管理。零、麻酔の調整お願い」。


零の返事は、静か。「了解。弟の分まで、完璧に。プロポフォールで誘導し、セボフララン維持で粒子興奮を抑える」。


午前6:30。手術後の休憩室。チームは仮眠を取る間もなく、簡単な朝食を囲む。フランクな空気が流れる。休憩室の窓から、夜明け前の薄暗い空が見える。皆の顔に、疲労の影が落ちるが、互いの存在がそれを和らげる。テーブルに並ぶパンとコーヒーが、わずかな安らぎを与える。


「はあ、今日の粒子、厄介だね。SpO2が91%で止まってるよ。澪のNS-17のおかげで持ちこたえてるけどさ」蒼がコーヒーをすすりながら笑う。彼女の笑顔は、チームの疲れを吹き飛ばす。蒼は、ペンダントを弄びながら、「このペンダント、浩一郎博士から貰ったの。粒子が温かいわ。まるで、博士が守ってるみたい」。


零がパンをかじり、「弟の顔見たら、手震えそうだったよ。でも、君らの顔見て落ち着いた。ありがと」。零の声に、感謝の色が滲む。弟の波形を思い浮かべ、浩一郎のメモを胸にしまう。「博士のメモ、俺も持ってる。『呪い』じゃなく、愛の証だよ」。


澪は紅茶を傾け、「零さん、いつもクールぶってるけど、弟バカだよね。かわいい」。澪の言葉に、零の頰が緩む。ゆっくりとした視線が交わり、澪の心に温かさが広がる――職場でのさりげない会話、共同のカルテ作成が、確実な進展を促す。零は、澪のノートに目をやり、「そのノート、浩一郎博士のものか? 粒子について、もっと聞きたい」。澪は、ノートを開き、「ここに、スケッチがあるの。博士の粒子モデル……光の代償って書いてある」。


凛が透の肩を叩き、「透、階段で息切れしてた? 軍医時代みたいに鍛え直そうか!」。


透が笑い、「おい、情熱的すぎるだろ。飲み会で罰ゲームな」。透の笑顔に、凛の心が熱くなる。情熱的な視線が、互いを引き寄せる。凛は、透の傷跡に触れ、「この傷、いつか癒すよ」。


隼人が黙ってコーヒーを飲むが、指輪の光が皆の目を引く。「隼人、君の指輪、光ってるよ。粒子か?」蒼が軽く言う。隼人は一瞬固まり、「古いものだよ」と誤魔化す。伏線として、その光は浩一郎のサンプルの残り香。隼人は、皆の笑顔を見て、心の闇が少し溶けるのを感じる。「このチームなら、父の遺志を継げるかも」。


フランクな笑いが、緊張を溶かす。皆の会話が、チームの絆を再確認させる。澪は、皆の顔を見回し、心の中で思う。「この人たちと出会えてよかった」。


午前5:52。第十七病棟。工藤博士が担架で運ばれてくる。末期がんの既往があり、体が光り、幻覚に苛まれる。「星が……落ちてくる……ネビュラのデータ、渡さない……浩一郎先生、許して」。


症状は粒子による中枢神経毒性:酸化ストレスと炎症が、既存のがんを悪化させ、転移性浮腫を誘発。澪は、NS-17を注入。「博士、落ち着いて。私たちが守ります。粒子キレート剤のEDTAを併用し、沈着を促進除去します」。澪の指が、ラインを慎重に固定する。博士の脈が、わずかに安定するのを見て、澪は安堵の息を吐く。博士の目が、澪を捉え、「君……浩一郎の生徒か? 粒子を、止めてくれ」。


薬瓶の浩一郎のラベルが、隼人の視線を捉える。隼人「光の源は、枕の下。ダストの小瓶だ。除染として、瓶を中和液で洗浄」。


瓶を回収し、粉砕。だが、その瞬間、工藤が呟く。「隼人君……君の父が、警告してくれたのに……オメガ・シフトの闇、軍の兵器化……粒子が心筋に達すれば、不整脈が」。


隼人の動きが止まる。透のインカムに届く。「隼人、何かあったか?」。


隼人の声は平然。「いや、幻覚だ。クリアした」。


だが、澪は気づく。隼人の指輪が光る――ダストの痕跡。父の死後、軍から接触した隼人。USBのデータで復讐計画を練るが、父の最後の言葉「隼人、粒子を信じるな。俺の過ちだ」を無視。工藤は父の同僚で、密かに警告を送っていた。澪は、博士の言葉を胸に刻む。「浩一郎先生……あなたも、戦っていたのね」。澪は、隼人の背中を見つめ、「隼人さん、あなたも、博士の生徒だったの?」。


病棟の廊下で、澪は隼人に問う。「博士の言葉……本当ですか? 粒子が心血管系に影響を与えるのは、リアルなナノ毒性のデータ通りですけど」。


隼人は笑う。「子供みたいな質問だな。俺はただ、病院のセキュリティを管理してるだけだ」。


澪の心に、影が差す。隼人の孤独な瞳に、初めて同情を覚える。ポケットのUSBチップが、澪のラベルを見て動揺を呼ぶ。隼人は、廊下の鏡に映る自分の指輪を見つめ、父の顔を思い浮かべる。「父さん、俺は正しいのか?」。


午後12:00。病院の屋上テラス。昼食の弁当を広げ、チームは息抜き。「今日のサンドイッチ、隼人作? 意外とセンスいいじゃん!」凛が大笑い。


隼人が肩をすくめ、「真面目すぎて料理しか友達いねえよ。昔の救命で飛ばされた時、ストレスで始めたんだ」。


透がビールをプシュッと開け、「おい、腹いせにシステムハックすんなよ。俺ら軍医上がりだから、ルール破りは日常茶飯事だぜ」。


蒼が零に寄り添い、「零くん、弟の話聞かせて。私の過去みたいに、ゆっくり解いていこうよ」。


零が手を重ね、「蒼さん、君の明るさが、俺の闇を溶かす。確実に、進んでいこう」。


澪が照れ、「えー、ただの天才気取りだよ。高校で物理コンテスト優勝して、推薦で薬学部。4年で大学院移って、2年で国家試験。23歳合格だけど、現場はまだビビってる」。


フランクな会話が、絆を深める――蒼と零のゆっくりした視線が、互いの過去を優しく繋ぐ。隼人が、皆の笑顔を見て、心の闇が少し溶けるのを感じる。「このチームなら、父の遺志を継げるかも」。


午後8:00。病院近くの居酒屋。夜の飲み会で、チームはリラックス。「かんぱーい! 今日の粒子、地獄だったね」凛がジョッキを掲げ、透の隣に座る。


透が彼女の肩を抱き、「凛、君がいると熱くなるよ。情熱的すぎて、俺の心臓もSpO2上がる」。


凛が赤くなり、「バカ! でも……五年前から、ずっと待ってたんだから」。


二人のキスが、情熱的に交わる。蒼が零にワインを注ぎ、「零くん、弟の話、もっと聞かせて。私の過去みたいに、ゆっくり解いていこうよ」。


零が手を重ね、「蒼さん、君の明るさが、俺の闇を溶かす。確実に、進んでいこう」。


ゆっくりとした進展が、静かな確信を生む。澪が隼人に微笑み、「隼人さん、飲み過ぎないで。明日の薬調整、頼むよ」。


隼人が苦笑、「お前みたいな天才がいると、俺の真面目さも霞むよ」。


飲み会の喧騒の中で、隼人は父のメモを思い出す。「闇を、光に変えろ」。伏線として、隼人のグラスに映る光が、粒子のように輝く。


午前7:23。地下駐車場。田中が車内で倒れ、担架で運ばれる。光がフロントガラスを染める。零がドアを開け、田中を運び出す。「脈弱い。ダストが心臓に到達してる――心筋炎症の兆候」。


蒼が即座に除細動器を準備。「ショック、200ジュール! 粒子による不整脈をリセット」。ショックの衝撃が、駐車場に響く。田中の体が跳ね、皆の心臓が止まるような緊張。蒼のペンダントが、強く輝く。「博士……助けて」。


透は、車内のダッシュボードを探る。そこに、USBドライブ。「ネビュラのデータ……これが狙いか? オメガ・シフトの設計図、重力兵器の全貌」。


田中が、意識を失いながら呟く。「持ち込んだのは……内部の裏切り者……隼人の……」。


言葉が途切れる。零の目が、透に向く。「隼人? 五年前の事件と繋がるのか」。


透は頷く。「美咲の死後、隼人は変わった。通信パネルを独占的に操作できるのは、彼だけだ」。


零の麻酔キットに、浩一郎のメモ「倉田家に呪い」が隠れている。蒼の体が、田中の言葉に疼く。蒼は、田中の脈を測りながら、自身のトラウマを思い出す。「この粒子、私の体にも残ってる。でも、諦めない」。


駐車場に、足音。隼人が現れる。「支援に来た」。


だが、零は気づく。隼人の袖に、光の粉。隼人は、田中の顔を見て、一瞬目を伏せる。「また、父さんの過ちか」。


午前8:45。スターダスト・ユニット。全員集合。星野零の意識が戻りかける。「散布者は……隼人だ。父親の仇を……」。


隼人が笑う。「よく知ってるな、星野。だが、遅い」。


彼は通信パネルを操作。換気システムが作動し、残りのダストが空気に混じる。「五年前、透のミスで父は死んだ。美咲の死も。ネビュラのデータで、軍を脅す」。


伏線が繋がり始める。指輪の光。筆跡。工藤の呟き。田中の言葉。零のメモ。ネックレスの共鳴。澪のラベル。USB。浩一郎の遺言。封筒の地図。工藤の幻覚。階段の傷跡。ペンダントの温もり。傷の疼き。グラスの輝き。ノートの一ページ。「光の代償」。――これらの糸が、粒子の起源を指し示す。


透が一歩進む。「隼人、待て。お前の父の死は、俺のミスじゃない」。


澪が説明を挟む。「粒子治療の鍵は、ナノキャリアの薬物送達。メチルプレドニゾロンを粒子表面に固定し、沈着部に選択的に届けるんです。酸化ストレスを中和し、炎症を抑える――現代の神経保護とキレートのハイブリッドで、脊髄再生を促せます」。


零が続ける。「弟のミッションで知った。お前の父は、隠蔽してた」。


星野零が、弱々しく。「兄貴……隼人さん、父さんのUSB、俺が預かった」。


橘が、ハック。「中和剤、散布開始!」。


澪が隼人の手を握る。「先生、私……信じてます。粒子みたいに、繋がってるんです」。


隼人の仮面が崩れる。涙が、防護服を濡らす。父の幻影が現れ、「隼人、赦せ」と囁く。


だが、ここで大どんでん返し。隼人が膝をつき、USBを差し出す。「これ……偽物だ。父の真実を、暴くための」。


十本の糸が一本に繋がる。封筒の筆跡は浩一郎の偽装――浩一郎が自ら書いた警告の手紙。指輪の光は父の粒子サンプル――ラボで浩一郎が隼人に託したもの。ラベルは贈り物として、警告の暗号――澪の瓶に隠された浩一郎の暗号「Hの光」。メモは贖罪の手紙――美咲に託した浩一郎の遺書。工藤の呟きは同僚の秘密共有――浩一郎の録音テープ。田中の言葉はデータの囮――偽USBの仕込み。零のメモは「呪い」の本当の意味――浩一郎の愛の暗喩。ネックレスの共鳴は美咲の粒子が浩一郎由来――美咲の遺品に混入したサンプル。USBは偽データで軍を誘導――浩一郎の罠。浩一郎の遺言は隼人を守るための自作自演――偽装死の計画書。地図は病院の隠し部屋を示す――浩一郎のラボ残骸。工藤の幻覚は浩一郎の録音――博士の声で語られる真実。階段の傷跡はラボ爆発の破片――浩一郎の事故の証。ペンダントの温もりは共鳴の証――浩一郎の粒子が皆を繋ぐ。傷の疼きは事故の記憶――透のトラウマ。グラスの輝きは粒子の残光――飲み会での予兆。ノートの一ページ「光の代償」――浩一郎の最終メッセージ。


浩一郎は軍の兵器化を止めるため、粒子を破壊しようとしたが失敗。死を偽装し、隼人を守る計画を立てた。隼人の「復讐」は、父の指示――軍の追及を逆手に取り、データを暴露するための芝居だった。逆転の真相: 隼人は犯人ではなく、父の遺志を継ぐ者。軍の真の闇を暴くための、内部からの逆襲。


――そして、粒子の起源が明らかになる。五年前の浩一郎のラボで生まれた試作品。浩一郎は、量子力学とナノテクノロジーを融合させた粒子を開発――微小な重力場を生成するはずが、酸化ストレスを誘発する副作用を発見。軍はこれを「銀河爆弾」として利用しようとしたが、浩一郎は良心からデータを改ざんし、粒子を「呪い」として封印しようとした。しかし、ラボの換気システム故障で粒子が漏出。美咲の死は、その事故の産物――粒子が手術室の空調に混入し、暴走したのだ。星野零のミッションは、浩一郎の遺志を継ぐための囮――粒子を地球に持ち込み、軍の隠蔽を暴くためのものだった。起源は、浩一郎の「愛」から生まれた闇。宇宙からではなく、父の犠牲から来た病。浩一郎は、粒子を「神の領域」と呼び、軍の欲を止めるために、自らを犠牲にした。換気故障の原因は軍のスパイによるサボタージュ――浩一郎はそれを予見し、偽装死で対抗したのだ。ラボのノートに残された「光の代償」という言葉が、すべてを繋ぐ。浩一郎は、粒子を家族の絆の象徴として、皆に託したのだ。


隼人が涙声で。「父は……俺を守るため、死んだふりを。粒子は呪いじゃない。俺たちの絆だ。起源は父のラボ――量子ナノ粒子のテスト中、軍のスパイが換気を壊し、漏出させた。美咲さんの死は、その代償。父は軍の欲を止めるため、すべてを賭けたんだ」。


感動の頂点――失われた家族が蘇る。浩一郎の贖罪が、チームの絆を照らす。隼人の肩が震え、皆の視線が集まる。透が手を差し伸べ、「隼人、お前一人で背負うな。俺たちも、家族だ」。澪の目から涙がこぼれ、「粒子のように、散らばっても繋がってるんです。起源が闇でも、私たちの手で光に変えましょう」。蒼が零を抱きしめ、「これが、医療の意味よ。命を繋ぐのは、科学だけじゃない。愛だわ」。零が弟の手を握り、「父さんの愛が、俺たちをここに導いた。ありがとう、兄貴」。凛が透の胸に顔を埋め、「これからも、職場で一緒に戦おう。君がいれば、どんな闇も怖くない」。隼人、膝をつき。「すまん……一緒に、闇を止めてくれ」。


透は頷く。「一緒に、だ」。


凛が、透に近づく。「透、私の秘密……五年前、メモを書いたのは私よ。でも、止めたくなかった。本当は、あなたを愛してたから」。


透は、凛を抱きしめる。「知ってたよ。俺も、ずっとお前を」。


情熱的なキスが、二人の絆を爆発させる。


蒼が、零に寄り添う。「零くん、私のトラウマ……粒子が残った体でも、君となら未来を描ける」。


零が手を重ね、「蒼さん、ゆっくり、君のペースで。一緒に」。


ゆっくりとした進展が、静かな確信を生む。


澪は微笑む。零の視線が、優しく。「澪、君の説明が、俺たちを救った。ありがとう」。


午前10:12。ダストは中和され、患者たちは安定。外部回線が復旧。NEBULA BUSTERSの戦いは、終わった。


屋上で、澪は朝陽を見る。透と凛の情熱的な抱擁を、遠くから見守る。「止まらないで、一緒に」。


蒼と零のゆっくりした手つなぎが、確かな未来を約束する。「恋は、薬より効くわね」。


外の世界は、知らない。聖輝十字の地下で、生まれた新しい絆を。夜は終わり、銀河は静かに輝く。だが、チームの心には、永遠の光が灯った。浩一郎の愛は、粒子のように散らばりながら、皆を繋ぎ続ける。命の救済は、科学の勝利ではなく、人間の温もりから生まれるものだと、彼らは知った。朝陽が、ユニットの窓を照らし、新たな一日を約束する。NEBULA BUSTERSは、闇を越え、光の道を歩み始める。浩一郎の声が、風に乗り、皆の耳に響く。「光の代償は、愛だ」。皆は、空を見上げ、静かに涙を流す。新しい朝が、希望の粒子のように、輝きを増す。


[完]

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