魚聖
本編の「第60話 初恋」で触れたエクストリエントでのキャトレーブのお話♪
エクストリエントでは海と湖と川の魚が全部まとめていっぺんに食べられるって聞いたにゃ。
お魚さん大好きのうちとしては絶対にこれを食べないで帰るわけにはいかないにゃ。
そんな醜態をさらすことになっては拳聖、んにゃ魚聖キャトレーブの名折れにゃ。
エクストリエントは都市を二分するように真ん中を大きな河が流れている。その河の少し上流で大きな二つの湖からの川が合流し、少し下流では大青洋へと注ぎ込んでいるので魚介類が豊富な都市としてその名を知らしめている。
その豊富な魚介類をこれでもかと一杯の丼ぶりに詰め込んだのがエクストリエント名物百種魚介丼である。
「あー、悪いな。エクストリエント名物百種魚介丼は品切れだ。」
にゃ?
「ちょっとだけ遅かったね、お姉さん。最後の一つがさっき出ちまった。」
にゃっ!?
「うちの店じゃ十種魚介丼しか出してないのよ。ごめんなさいね。」
なんでにゃ。
うちのお魚さんにかける想いはカナタに対する想いに勝るとも劣らないのにゃ。
それがなんで届かないにゃ。
二魚を追う者は一魚も得ず、なんてことはあっちゃダメなのにゃ。
かなり走り回ってようやくなんとかなりそうなお店を見つけたにゃ。
「百種中二種類だけ切らしちまったんだ。それさえ持って来てくれりゃ食わしてやれるよ。」
「絶対にゃ。食べられなかった時は猫ぱん百裂拳をお見舞いするにゃよ。」
「お、おう…男に二言はねぇよ。」
足りない二種は近海でとれるハモとイカだってことにゃ。
ここ数日、天候が悪くて漁ができてなかったらしく、店主の倉庫に保管していたものも使い切ってしまったそうにゃ。
他の店もどこも同じようにあれがないこれがないって感じで、特にハモとイカはどこも切らしていて融通がききそうにないらしいにゃ。
うちの倉庫にハモとイカがないわけじゃにゃいけど、エクストリエントでとれたものを使わにゃいでどうすんだって話にゃ。
たかが魚って侮っちゃダメにゃ。
そこの土地ならではの味があるにゃ。
うちは違いの分かる女なのにゃ。
決して伊達で魚好きを公言してるわけじゃないにゃ。
うちの面子にかけて、エクストリエント産のハモとイカを何としても入手するにゃ。
さて、そうと決めればうち自ら獲りに行くにゃ。
夜の内は天候が荒れていたようだけど、幸いにして今の時間は好転してきているらしく船を出してくれる人も見つけられたにゃ。
時間帯も明け方前だから、まだ十分に釣れる可能性は高いはずにゃ。
ハモとイカ、待ってるにゃ。必ず釣り上げてみせるにゃ。
「あんた、すごいね!」
日が出る前にハモの漁場に行ったにゃ。
冗談でしょ、ってくらいの入れ食い状態で船を出してくれたおじさんも驚いてたにゃ。
うちも十英傑の一人だから、カナタの不思議な力の一端でも使えてお魚を引き寄せる技能みたいなものがついたのかもしれないにゃ。
だけど、目当てのハモだけ釣れないにゃ。
なんでにゃ。
こうなったら竿で釣るなんてまどろっこしいことはやめて手で捕まえるにゃ。
「あんた、何するつもりだい?さすがにこの時期の海は冷たいから飛び込むのはやめといたほうがいいよ。」
船縁に立ったうちを見かねて、おじさんが声をかけてきたけど拳聖を舐めてもらったらこまるにゃ。
でもカナタには全身隅々までいっぱい舐められたいにゃ。
「うちは大丈夫にゃ。ちょっと揺れると思うからおじさんの方こそ気を付けるにゃ。」
うちは勢いよく船縁を蹴って飛び出すと、海面に向かって連打を繰り出したにゃ。
ハモがいそうな岩の下を目掛けて拳による連打で水を押し退けて突き進むにゃ。
運よく狙いをつけた岩の下にハモがいて、多分目が合ったにゃ。
「ハモさん、運がなかったにゃ。うちが美味しく食べてあげるから観念するにゃ。」
ハモは驚いたのかうちに噛みつくように飛び出してきたけど、そんなのどうってことないとばかりにハモの顎を打ちぬいて船の方に弾き飛ばしたにゃ。
途中で目に付いたお魚さんもついでに船の方に弾き飛ばしておいたけど、おじさんはちゃんと逃がさないようにしてくれてるか心配にゃ。
ちなみに今使ったのは連撃の上位技能のさらに上位技能の千手の技能にゃ。
技として名付けるなら「にゃんこ海破拳」ってところにゃ。
どこら辺がにゃんこなのかは気にしないでいいのにゃ。華麗に流すのが素敵な大人ってものにゃ。
最後に海底を一蹴りして船上に戻るとおじさんが唖然としてたにゃ。
そのすぐ側でうちの身長と同じぐらいのハモが気絶してぐったりしてたにゃ。大物で大満足にゃ。
「へー、あんた拳聖だったのかい。どうりであんな凄いことができるってわけだ。」
次のイカの漁場に向かってる間におじさんがいろいろ聞いてくるから、ハモをはじめとしたお魚さんを締めて倉庫に入れながら話してあげたにゃ。
「なら、次もなんか凄いの見せてくれよ。俺は拳士止まりだったからどんな高みがあったのか知りたいんだ。」
「仕方ないにゃ。そこまで言うなら見せてやるにゃ。期待してるといいにゃ。」
イカの漁場に着くとうちの身長の半分ぐらいの大きなイカが泳いでいるのが見えてるにゃ。
うまそうにゃ。
それじゃあ、おじさんの期待に応えて凄いの見せてやるにゃ。
ハモの時と同じように船縁に立つと、おじさんがその一瞬を見逃すまいと静かに見守ってるにゃ。
「しかと見るのにゃっ!にゃんこ秘奥義『震雷』!」
船縁を蹴って今度は高く飛び上がると渾身の一撃を海面に向かって放ったにゃ。
うちの拳から飛び出した気弾が海面に触れると同時に半径100mぐらいの範囲で強い閃光と衝撃波が発生したにゃ。
一瞬遅れて海中から無数の小さな泡が噴き出し、辺り一面が白く泡立ったにゃ。
うちは反動で船上に余裕で戻ってきたにゃ。
「拳聖!今いったい何をしたんだい!?」
イカはあんまり手で触らない方がいいって聞くし、ハモの時みたいに殴っちゃうと身が崩れそうだし、ビリビリさせて気絶させてみようと思ったのにゃ。
ってことで、強撃の上位技能のさらに上位技能の凶撃の技能で遠当の派生技能の気弾に雷属性の魔法を加えてぶちかましたにゃ。
でも、調子に乗ってやり過ぎたみたいにゃ。
目当てのイカは予定通りにビリビリ痺れてくれたようでいっぱいプカプカ浮いてるけど、それ以外もめちゃくちゃプカプカしているにゃ。
「拳聖、こりゃしばらくここの漁場は使いもんにならなそうだ。」
ごめんにゃ。
この後、おじさんとうちの倉庫に入れられるだけ入れて船にも積めるだけ積んだけど、それでもビリビリさせたお魚さんたちは全然減らなくて困ったにゃ。
当然、プカプカしないで海の底に沈んでるのもいっぱいいるだろうってことで、船着き場に戻るとおじさんはそこら中の人に声をかけてお魚さんを回収してくれるようにお願いしてくれたにゃ。
本当に申し訳ないにゃ。
「それじゃあ残りは俺たちのものってことでいいんだな、拳聖。」
漁場を荒らしちゃった償いはそれとは別にちゃんとさせてもらうにゃ。
大勢の人を狩りだす羽目になって、凄く肩身が狭いにゃ。
カナタと行動するようになって、以前より更に強くなってたのに調子に乗り過ぎてたにゃ。
「そんなへこまなくて大丈夫だ、拳聖。可愛い顔が台無しだぞ。」
な、なに言ってんのにゃ。
カナタ以外に言われても…ちょっとうれしいにゃ。
軽く脇腹に突っ込んだらおじさんが悶絶してしまったにゃ。すまんにゃ。
おじさんたちの船がうちが荒らした漁場に向かって出ていくのを見送ると、百種魚介丼を出してくれるお店に向かったにゃ。
「お、猫ぱんの姉ちゃんじゃねえか。ハモとイカは手に入ったのかい?」
とってきたハモとイカを見せると店主が驚いてたにゃ。
どうやらすごく状態がよかったらしいにゃ。
当たり前にゃ。そこら辺の食べるだけの魚好きと一緒にされちゃ困るにゃ。
「アナゴ、テス、イラ、センメ(ハギ)。」
にゃ?
「ああ、これはエクストリエントあるあるで、魚介類の名前だけで言葉遊びするんだ。さっきのは『侮ってすいません』ってことだ。」
なんにゃ、それならうちも負けていられないにゃ。
「ヤマメ、タラ、ヤリイカ、エツ。」
「お、コウガイ、ポンダラ、メナダ。」
それは無理があり過ぎるにゃ。
「バイガイ、シイラ。」
「マイカ。」
この後、エクストリエント名物百種魚介丼を堪能させてもらったにゃ。
大絶品だったにゃ。ただ一緒に盛り付けてあるだけじゃなく、下拵えが調和を生むように抜群の配慮がされているのにゃ。
コリコリにプリプリにムチムチにプチプチ、ありとあらゆるお魚さんの味わいが口いっぱいに広がって、まさに口の中が大水族館だったにゃ。
いつか、世界のすべての魚介をまとめて魚聖千種丼を完成させてやるにゃ。
「ノマ、エイ、マンボウ、ブリ、トウバ、スマ。」
キャトレーブは、始まりの十人の四番目。身長は160cmでディスマルク、ユイトセインの次に小さい十英傑。機敏な猫を彷彿とさせる元気な拳聖。語尾が「にゃ」なのは仕方ないことなのにゃ。にゃんこ聖拳の使い手なのにゃ。嘘にゃ。




