表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『希』  作者: 森 神奈
5/5

首輪を外して

あれから半年が経った。

胸の傷はまだ痛むときもあるけれど、日常を取り戻すには十分だった。

かんなも今は元気で、俺たちは静かな、でも確かな日々を生きている。

パトカーの巡回ももうなくなり、あの頃のような恐怖は、もう感じなくなった。

たまにふと、過去の記憶がよぎることもあるけど、それでも隣にかんながいてくれることが、

それを乗り越える力になってくれる。

そんなある日のこと。

昼下がり、かんなと並んで歩いていた帰り道。

彼女が急に、俺の顔をじっと見ながら、ぽつりと口を開いた。

「そういえば今更だけどさ、名前……聞いてなかったな。なんて言うんだ?」

俺は少しだけ笑って、肩をすくめた。

「名前、か……そういえば、そうだね。名乗った覚え、なかったかも。」

しばらく空を見上げてから、冗談まじりに続けた。

「じゃあさ、かんなが考えてよ。なんか、俺らしいやつ。」

かんなは一瞬、目を丸くしてから、すぐに笑顔になった。

「そうだな……じゃあ、**“のぞむ”**ってのはどう?」

「のぞむ?」

「うん。これまでも、これからも、私たちが“望む”ように生きていくって意味。

 過去に縛られるんじゃなくて、前を見て。一緒に、ね?」

その言葉が、胸にじんわりと染みていくのがわかった。

俺は少しだけ照れくさそうに笑って、小さくうなずいた。

「-のぞむ。いい名前だね。」

その瞬間、通りすぎた風が頬を撫でていった。

まるで、今まで巻きついていた何かが、ほどけていくような感覚だった。

空を見上げる。

あの日のような雨は、もう降っていなかった。

俺たちはもう、“首輪”なんかに繋がれていない。

そして、あの日、雨宿りしていた場所から、

ようやく歩き出せたんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ