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神が迷惑

作者: 森田金太郎

【舞台】


現代日本を模した空間。




【登場人物】

※名前のみの紹介になります。


「癒しの先に」より


ももら

伊集院いじゅういん 章平しょうへい

スバル

蒼虎あおとら

はるひこ

コスモス

千羽漢鶴ぴーすがい

うっちー

あき

アクシー


「涙を照らす者」より


日下部くさかべ 亜香里あかり

物部ものべ 朝陽あさひ

文室ふむろ 教宗のりむね

大伴おおとも 守常もりつね

ほり あきら

小槻おつき 忠通ただみち

五十嵐いがらし 光輝こうき

観月みづき 妃果梨ひかり

不破ふわ あかつき

ちか


本物語オリジナル

YUGO(ユーゴー、融合)




【本編】


◆戦闘組織

アビリティを使用したユニーク・テクニックと手に入れたばかりのフォースを使用したセイクリッド・シード。2つの力を駆使することを選択した「ユーロ」は、よりよい形で力の発動が出来るようにしていこうと考えた。

そして、使い慣れていないフォースの方のセイクリッド・シードの発動訓練をしてみないかとはるひこから提案された。蒼虎は、提案を受け、この際「訓練」ではなく、実際に場数を踏んで行こうと、セイクリッド・シードを発動していなかった場所を戦闘のパトロールを兼ねて回り、導きを施して行こうとメンバー全員に伝えた。

その指示に皆従う「ユーロ」のメンバー。戦闘停止作戦のように、蒼虎チームとはるひこチームに別れ、各地に、自由、希望、勇気、信念、知恵、安息、慈愛、正義、抑止の導きを施して行った。

その際、戦闘組織同士の交戦を発見し、介入したりした。ももらは、アルティーテが言った「アーロス」の存在を気にしながらも、ある日は、蒼虎に、ある日は、はるひこにメンバーと共について行った。


◆対立解消

凶悪になった邪悪な神気を爆発させた後、姿を消した八大蛇の行方が気になって仕方ない亜香里だったが、とにもかくにもその八大蛇に吹き飛ばされてしまい、気を失っている暁への対応が先だと命士たちに知恵を借りることにした。命士たちは、天子に負担をかけたくないと亜香里と共に全員で暁に対応すると申し出た。

すると、調子を取り戻した妃果梨が報告のため亜香里を訪ねて来る。そこで妃果梨は、暁の惨状を目の当たりにして、亜香里や命士たちと共に暁の面倒を見たいと申し出る。乗っ取られていたとはいえ、暁を従者としてそばにおいた自分の責任の果たし方と言った。

意識を取り戻した暁は、亜香里や妃果梨、命士たちに代わる代わる面倒を見てもらい、世の中に対する目が変わる。破壊衝動を抱いた自分の行動を悔い、罪滅ぼしと恩返しを亜香里たちに協力することで果たそうと決意する。


◆異変の感知

その日、うっちーは初めての事態に戸惑っていた。

「ねぇ、章平、戦闘感知器に移動機能をつけてあったのかい?」

「え?そんな機能、つけてないよ?えー、それもいい考えだなぁ。」

「じゃあ、これ、どう説明する?」

うっちーから提示された小型の薄型モニター。章平の目に、戦闘感知器の位置がゆっくりだが確実に移動している様子が映った。

「な、何これ?」

章平の声が動揺する。その瞬間、戦闘開始を知らせる信号がモニターに出現。それを受け、うっちーが言った。

「どこかの戦闘組織に感知器が見つかったのかも知れない。」

「カムフラージュは完璧だったはずなのに!」

「とにかく、出動しなきゃ!リーダーに報告だ!!」

章平は、未だに感知器の移動を示すモニターを持ちながらうっちーと共に蒼虎の元へ行った。一通りの説明を受けた蒼虎は、メンバー全員を召集。

「感知器設置以降、初めての事態だ。原因は不明だが、万一の可能性を考えて総力戦で行く。総員、急ぎで準備を!」

蒼虎の命令で「ユーロ」のメンバーは、出来る限りの手早さで戦闘準備をする。ももらは、章平から渡されたばかりの槍を確実にその手に握り締め、準備を終わらせた。

「ももら、準備完了です!」

全てのメンバーが準備を終わらせたことを確認すると、蒼虎ははるひこと共にメンバーたちの先頭に立ち、拠点を後にしていった。


◆異様な邪気

亜香里たちは、引き続き八大蛇の活動開始に警戒しつつも、1つでも多くの守護結界を張っておこうとこの日、出発しようとしていた。

「妃果梨さん、暁くん、もしよかったら儀式、見学してみる?」

妃果梨と暁は、それを受け入れた。

「私たちが、八小蛇に利用されて壊した物がどんな形で作られてたのか見てみたい。」

「俺も、見ておくべきだよな。」

そして、守護結界の穴にたどり着く。そして、儀式は何事もなく終了。妃果梨が亜香里たちに声をかけた。

「凄い。」

妃果梨は、それ以降も亜香里たちに言いたいことがあったのだが、その一言を言った瞬間、邪気が8人を襲った。

「えっ、八大蛇?」

亜香里は戸惑った。それを受け、教宗がこう返した。

「八大蛇とは、何かが違う。」

それに守常も続ける。

「しかし、八大蛇にかなり似通っている。」

亜香里は困惑。

「え、どうしよう。だけど、こんな邪気放ってはおけない。」

その言葉を聞いた後、忠通がこう言った。

「八大蛇が八小蛇のように新しい僕を作ったのかも知れませんね。」

晃がそれに反応する。

「それ、まずくね?」

朝陽がそれに続ける。

「八大蛇だけでも大変そうなのに!」

暁もそれに反応。

「その新しい僕って奴を潰すのが、俺の最初の罪滅ぼしになるかもな。」

その声を受け、亜香里はこう言った。

「行ってみよう!邪気の元へ!!」

天子2人、命士5人、従者1人の8人は、収まらない邪気をたどり、歩を進め始めた。


◆疑念

未だに戦闘感知器はモニター上で動いていた。「ユーロ」メンバーは、行けども行けども戦闘組織の交戦現場にたどり着かなかった。スバルがそこで声を上げる。

「戦闘感知器か、モニターの不具合の可能性は?」

章平が居心地悪そうにこう返す。

「故障か。それだったら皆に迷惑をかけちゃったかもね。」

うっちーがそれに続く。

「いや、その線はないよ。念のために感知器が元あった場所を軽く確認したけど、本当に感知器は消えてた。僕が設置したから間違いないよ。」

「じゃあ、なんなんだ、これ。」

章平は、意気消沈しながら呟いた。その声を心配するももら。

「私は、章平を、章平の作った物を信じたい。章平を手伝ってきたから。」

そのももらの言葉で、章平は少し気が楽になり、改めてメンバーに前進を要望。

「みんな、迷惑かけるけど、もうちょっとだけ進んでくれないか?」

それに、はるひこが答える。

「これも、パトロールを兼ねてということにしよう。」

その言葉で、「ユーロ」は再び感知器を追い始めた。


◆長い旅

「どこにいるんだろう。」

亜香里は少し焦りを感じてきた。進めども進めども八大蛇のような存在と出くわさない。

「天子、お疲れではありませんか?」

忠通が気遣う。

「ありがとう。だけど、どこかで何かが起こってたら嫌だから、この邪気がなくなるまで進もう?みんな、疲れちゃうかも知れないけど。」

7人は、その亜香里の言葉に頷き、「大丈夫」と口々に言いながら再び歩きだした。

「なんだか、みんなと散歩してるみたいだな!」

朝陽はそう言って場を和ませた。その一言で朝陽を含む8人の表情は軽い物になり、心なしか歩く速度が上がった。


◆包む闇

戦闘感知器は、やがてモニターの中で止まった。うっちーがその事を報告。止まった場所まで行くことを「ユーロ」は決定。

そして、そこにたどり着いた。蒼虎は、困惑の声を上げた。

「感知器の信号は?」

それに章平は答えた。

「まだ、ある。」

そこには誰もいなかった。戦闘も起こってはいなかった。

「相棒の懸念通り、故障か。」

コスモスがそう言ったのを聞いて、ももらはかなしげに呟いた。

「そんな。」

その瞬間、「ユーロ」メンバー全員を闇が包んだ。


◆襲う闇

亜香里たちが歩を進めていると、邪気が濃くなっていく。

「異様な邪気よの。」

近が亜香里の口を借りつつ言った。

「近様、大丈夫ですか?」

教宗は近を気遣った。

「我は、この邪気の正体を知りたい。だから、我は進む。」

そう言うと、近は口を亜香里に返した。

「近ちゃんも、頑張ろうね。」

足を止めずに繰り広げられたこの会話中、これ以上ないという程の邪気の濃さを感じる場所にたどり着いた。

「苦しい。」

妃果梨が悲鳴のような呟きを響かせた。

「大丈夫?妃果梨さん!」

亜香里がそう妃果梨を気遣ったその瞬間、亜香里たちを闇が襲った。


◆邂逅

やがて闇は、取り払われた。すると、「ユーロ」は、天子たちは、先ほどとは違う風景の中で知らない集団を目にした。

「戦闘をしていたのは、8人組?」

はるひこが自信なさげに言う。

「10人も八大蛇の僕がいるのか。これは、難儀なことだ。」

守常が困惑したように言う。

臨戦態勢になる「ユーロ」と命士たち。そんな中、見つめ合う2人が。ももらと亜香里だ。

「待ってください。なんだか違うような気がします。」

ももらは「ユーロ」のメンバーに呼び掛ける。

「私も、なんだか違うような気がする。待って、みんな。」

亜香里は自らの仲間に呼び掛けた。

その証拠に、感知器の信号は消え、邪気は止まった。


◆招待

困惑の時間は、長くは続かなかった。

「ようこそ!ようこそ!!」

聞き覚えのない男の声が響き、その後、男が出没した。

その声や姿に「ユーロ」や天子たちは驚いたり、警戒したりした。

「はじめまして、皆様?私はYUGOという者です。神の端くれではございますが、この度皆様とお会いしたくご招待させていただきました。」

突然の言葉に「ユーゴー?」という声や、「融合?」という声を上げながら戸惑う一同。それを全く意に介せず、YUGOは、話を続けた。

「本来ならば、招待状を送らせていただきたかったところですが、警戒されて来場いただけない可能性も考えて、絶対に皆様がこちらに来るであろう状況を作らせていただきました。」

すると、YUGOは、戦闘感知器を「ユーロ」のメンバーに見せた。

「いや、この戦闘感知器を探して、信号を送る状態にするのは骨が折れました。ああ、骨が折れると言えば、この邪気を作るのにも大変な思いをしましたね。」

すると、天子たちがさっきまで感じていた邪気が一瞬ではあるが、YUGOから放たれる。その衝撃で戦闘感知器は粉々になった。

「ああ、これは失礼。」

戦闘感知器の残骸をYUGOは、地面に捨て、こう締めくくった。

「まあ、その苦労が実って皆様全員と会えて私は嬉しいです!改めて、ようこそおいでくださいました!!」


◆取り残される者

理解が追い付かない一同。その中で、ももらは安心したようにこう言った。

「さっき感じたこと、間違ってなくてよかったです。あの人たちは敵じゃなかった。」

その言葉に亜香里も続けた。

「よかった。何も罪のない人たちと戦うところだった。」

その2人の言葉に「ユーロ」メンバーや命士たちは同意した。

すると、YUGOは急に苦々しい顔をして、態度を変えた。

「やはり、その2人は『鍵』。こうしてやる!!」

YUGOは、突然、ももらと亜香里を捕まえた。一帯に「ユーロ」メンバーの「ももら!」と言う声や、命士たちの「天子!」と言う声が響き渡った。

呼ばれた本人たちも急なことで悲鳴を上げた。そして、ももらと亜香里は口々にこう言った。

「何をするんですか!!」

「止めて!離して!!」

そんな言葉も空しく、ももらと亜香里は出現した鳥かごのような1つの牢屋に入れられてしまった。

呆然とその牢屋の中で座り込むももらと亜香里。そんなルーキーや天子を助けようと我先に「ユーロ」のメンバーや命士たちが牢屋に群がる。

そんな様子を見ていたYUGOは、こう言い放った。

「もう少し、辛抱しておこうとは思ったが、やはり、そういうお前たちの態度は虫酸が走るな!!」

その言葉に千羽漢鶴が疑問を投げ掛ける。

「どういうことだい?」

アクシーがそれに続く。

「私たちは、仲間をただ、助けたいだけなのよ?それをそんな言い方。」

YUGOは、それに返した。

「そう言うところだ!そうやって仲間愛で世界を幸せにしていくのが透けて見えるところだ!!」

あきが呟くように問い掛けた。

「幸せを作って何が悪いのかしら?」

YUGOは苛立ちを隠せないようにこう言った。

「『幸せ』は、私の一番嫌うところだ!排除する!!そうだ!ここは、お前たちを排除するために作ったお前たちの棺だ!!『鍵』は、後でなぶり殺すことにして、その取り巻きは、今すぐその命を散らせ!!」

一旦、牢屋を空中に浮かせた後、YUGOは、ももらと亜香里以外の者たちに強烈な衝撃波と猛烈な風圧を浴びせかけた。「ユーロ」メンバーや命士、妃果梨と暁は、地面から舞い上がった後、散り散りに吹き飛ばされ、姿が見えなくなってしまった。

あまりの光景に、ももらと亜香里は悲鳴すら出ない。ただ、目下で起こったことに震え、仲間がいた場所を見つめることしかできなかった。


◆孤独感

しばらくの沈黙の後、泣き声が辺りに響きはじめる。ももらの涙が流れていた。

「やっと、力が戻って、やっと、新しい武器をもらって、またみんなと、戦えるように、なったのに、また、また、私、1人になっちゃった。今度は、二度と会えないの?私、嫌。」

そんな様子を隣で見ていた亜香里。

「私は、初めてかも。1人になるの。そして、これからずっと1人?」

亜香里は、抱えた自らの膝に目線を移し、凝視しながら呟いた。

「いい気味だ。しばらく観賞でもしようか。あの悪神のようにな。」

YUGOは、ももらと亜香里に聞こえない呟きを響かせた。


◆会話の始まり

一方、ももらと亜香里は、はじめ自分の感情で手一杯だったが、ももらは次第に泣き止み、亜香里は上を向いた。そして、一緒に捕まった相手に興味が沸く。

「あ、あの、はじめまして。私、ももらって言います。『ユーロ』のルーキーです。」

「自己紹介まだだったね。私、日下部亜香里。天子をやってます。」

2人とも自らの仲間ではないが、1人ではないと思えるようになった。そして、急速に打ち解け、すぐに敬語を忘れる。

「ももらさん、かわいい名前。」

「ありがとう。コードネームで本名は違うんだけど、内緒にさせてね。」

「うん、いいよ。」

「本名で活動できるんだね。日下部亜香里さん、素敵な名前だね。」

「ありがとう。でも、最近『天子』って呼ばれてるから、あまりそっちの名前で呼ばれてないけどね。」

「それも、コードネームみたいな感じだね。」

「確かに!」

自然と、ももらと亜香里に笑顔が訪れた。その様子に、YUGOは、苛立った。

「お前たち、自分の立場がわかってるのか!!」

その大声にももらと亜香里は驚いたが、ももらはこう答えた。

「わかりません。」

それを聞き終わると亜香里はこう答えた。

「勝手に捕まえておいて、それはないよ。」

そう言うとももらと亜香里は、顔を見合わせた。そして、ももらはこう続けた。

「でも、これだけはわかります。仲間がいなくなってしまった今、仲間の分までたくさん起こってる戦いを私が止めなきゃいけないってこと。新しい仲間を探さなきゃいけないけれど。」

その言葉に亜香里も触発され、こう続けた。

「私も、破壊から世界を守らなきゃ。みんながいなければ、私1人になっちゃうけど、でも、戦える力があるから逃げないよ。」


◆目的変更

YUGOは、その2人の言葉に腹が立ち、こう言った。

「そういうお前たちの態度!気に入らないな!!不快極まりない!そうだ、これだけ不快な思いをさせられたんだ、死ぬ前にお前たちにも不快な思いをしてもらおうか!」

すると、空中にホログラムが浮かび上がる。そして、映像が流れる。

「これは、お前たちがいた世界の今だ。」

ももら向けに「ユーロ」の拠点の様子が、亜香里向けに「大伴命前神社」や各地の避難所が、2人向けに自宅の様子が複数の画面で流された。また、戦闘組織同士の戦いや大きな災害にて命を落としていく見知らぬ人々も大勢映し出した。

ももらと亜香里は、きつく目を瞑り、こう言った。

「戦いが、今、起こってる。」

「八大蛇が、動き出してる。」

しかし、今の自分では止めに行けないと絶望した。

「これからずっとこれを見続けろ!そして、その心を壊せ!そうしたら、お前たちを殺してやる!!」

先ほどまであったももらと亜香里の笑顔は、完全に消え、曇った目で映像を見続けることになった。


◆生存

牢屋を中心にした広大な円を描くように、人の集まりが5つ出来た。その集まりの中の人々は、しばらく動かなかったが、1人、また、1人と起き上がった。

しかし、ここまで来た際の歩行への疲労と飛ばされた際の傷などから全員、移動できる状態ではなかった。仕方なくそれぞれの場所に留まることにした16人。集まりの中で会話をし始めた。


◆先頭に立つ者

「リーダー、大丈夫かい?」

はるひこが蒼虎を支えながら起こす。

「はるひここそ。私の心配はいい。」

そんな「ユーロ」首脳陣のやり取りの中の「リーダー」と言う単語をを聞いて、教宗は、晃の一言を思い出す。そして、蒼虎に向けて話しかけてみた。

「貴殿が、そちらの筆頭者だったか。私も、天子に支える命士の筆頭者、文室教宗だ。先程は、敵意を向け、大変失礼した。」

蒼虎は、その自己紹介を受け、襟を正した。

「申し遅れた。私は『ユーロ』のリーダー、蒼虎だ。こちらこそ、敵意を向けたこと詫びる。すまなかった。」

それに続き、はるひこも自己紹介をする。

「私は、『ユーロ』のサブリーダー、はるひこ。私からもお詫びの言葉を。申し訳なかった。」

教宗は、「サブ」という意味はわからなかったが、なんとなく意味を解釈し、こう返した。

「筆頭者の補佐という解釈で間違いないか?」

はるひこが頷くと、教宗は続けた。

「筆頭者2人からの謝罪、受け止めた。」

蒼虎、はるひこ、教宗は、自らの戦う目的の情報交換を行った。

「戦いが、止まらない?100年も?なんということだ。」

教宗は、「ユーロ」を取り巻く事情に驚いた。しかし、驚いたのは、教宗だけではなく、蒼虎とはるひこもそうだった。はるひこが先に声を上げる。

「1,000年を旅してまで、私は戦おうと、思えるだろうか。」

「封印か。私たちの止めたい戦いも、封印できたなら、いいがな。」

3人は、お互いの戦いに思いを馳せたが、教宗が立ち上がる。蒼虎とはるひこはそんな教宗を見上げた。

「天子の所へ、行かなければ。筆頭命士として、救わなければ。」

その言葉に、蒼虎も不調を振り切ろうと立ち上がった。

「私も、リーダーとして、ルーキーの救出に行かなければな。」

「メンバーも探しながら行くとしようか。」

はるひこの「真のレストレイション発動覚悟」の気持ちを乗せた一言だった。教宗は引き続き「ルーキー」や「メンバー」の意味はわからなかったが、意味を想像し、表面だけの言葉を受け止めた後、触発され、こう言った。

「私も、他の命士、陰の天子、そして、その従者を探して行かねば。」

3人は、迷う可能性への懸念を抱きながらも、必ず目的を果たすと心に命じながら歩き出した。


「リーダー、サブリーダー。」

「教宗。」


◆愛多き者

「コスモス、問題ないか?」

「見ての通り、問題ないだろう?スバル。」

スバルは、自分の状況から、それに加えて元々病を抱えていると推測している相棒の状態が気になった。その相棒は、何かを見透かされている雰囲気を感じつつも、本当に問題なかったため、多少大袈裟に体を動かした。

「なら、いい。」

そのコスモスの様子に本当に問題なさそうだと安心したスバル。

多少の沈黙の時間が流れたが、守常が話し始める。

「コスモス、スバルと言ったか。私は、大伴守常だ。」

古風な名前に違和感を感じつつも2人は、「よろしく。」と返した。

「お前たちの所には、3人女がいるのだな。花のような女、柔らかい女、凛々しい女、どれもいい輝きを持っていたな。」

スバルは、急な話に短く笑った後、それに返した。

「あの状況で俺たちのそんな所を見てたのか。それは、お前の所も変わらないだろう?確か、2人だったか?」

「そうだな。」

「お前風に言えば、涼やかな女、儚い女、そんな印象だったけどな。」

「お前もよく見てんじゃねえか、スバル。」

コスモスがそれに割って入った。多少それに苦笑いしつつも、スバルはこう返した。

「昔取った杵柄ってやつかな。」

それを受け、守常はこう言う。

「細かいところは詮索しないが、やはり、女はいいものだな。」

スバルは本格的に笑い、それに守常も続く。そんな様子をコスモスは呆れながら見てこう言った。

「やれやれ、俺は、女好きに囲まれちまったみたいだな。」

そう言いつつも、率先して立ち上がるコスモス。

「その女が今、捕まってる。相棒、そして、守常って奴、助けに行きたくねぇのか?」

「そうに決まってんだろ、相棒。」

「勿論だ。」

スバルも守常も立ち上がり、コスモス共々宛もなく歩き始めた。


「スバル、コスモス。」

「守常。」


◆導いた者

「朝陽、そっちの2人、怪我は大丈夫か?って言っても、処置道具どっかに飛ばされちまって何もやってやれねぇけど。」

晃が言う。朝陽がそれに返した。

「大丈夫だ。って言うか、晃もボロボロじゃん。そんな晃にやらせるわけいかないよ。」

その呼び掛けに章平が反応した。

「なんだか、僕らの事まで心配してくれてありがとう。はじめまして、僕は伊集院章平。」

「あ、僕はうっちー。」

「あだ名かよ。まあ、なんかの事情があんだろうな。俺は堀晃。よろしくな。」

「えっと、俺、物部朝陽。こっちの俺の仲間、看護師でさー、いつも俺たちの怪我とか心配してくれてんの。」

「余計なこと言わなくていいんだよ、朝陽。」

晃は朝陽の頭に手を乗せた。すると、うっちーがこう言った。

「ももら、みたいだね。」

「確かに。」

章平もそれに続く。

「え?ももらって誰?」

朝陽が疑問を投げ掛ける。すると、晃は直感で尋ねられた本人たちの代わりに答えを言う。

「天子と一緒に捕まったあの女の子だろ?」

章平とうっちーは頷く。それに返す朝陽。

「えー、女の子が治療してくれるんだー。」

「男で悪かったな。朝陽。」

「違う、違う!天子が治療してくれる姿、想像出来ないって話。晃にはいつもありがとうだよ。」

「まあ、そうだよな。確かに、想像出来ねぇ。」

うっちーは、そのやり取りを聞きながら暗い顔になる。

「そうだよ。今、ももらは捕まってる。僕があの時、ももらにぶつかってなければ、ももらはここで捕まってなかったかも。」

一瞬の沈黙が流れた。

「よくわかんないけど、俺も同じかも。肝だめしなんてやらなければ、天子は今、捕まってなかったかな。」

「『肝だめし』の件は知らねぇけど、天子が天子になったのは、多分俺のせい。そっちには罪ねぇよ、朝陽。自分責めんじゃねぇ。」

そんな3人の言葉を聞いていた章平が立ち上がる。

「君らは、僕の反面教師だねぇ。」

その一言に3人は顔を上げる。

「過去のこと後悔しても仕方ないじゃないか。変わらないんだし。僕らが今、出来ることはなんだい?」

うっちー、朝陽、晃の顔がその言葉に引き締まった。そして、次々と立ち上がった。

「ももらの所に行かなきゃ。」

「天子を助けなきゃな。」

そんな朝陽の一言に晃は頷いた。4人は前を向き、歩き始めた。


「章平、うっちー。」

「朝陽、晃。」


◆包む者

「アクシー、ああ、君とはぐれなくてよかったよ。」

「私もよ、千羽漢鶴。」

2人は、座りながらそばに寄りつつ、抱き合った。

「仲がよろしいんですね。」

忠通は微笑ましく言った。それを聞いた千羽漢鶴とアクシーは、はっとし離れた。

「ああ、お邪魔でしたね。申し訳ありません。」

「いいえ、気にしてないわ。あなたは?」

「小槻忠通と申します。」

「随分、古風な名前だね。」

「そうですか。」

すると、忠通は少しの間、気を失う。慌てる千羽漢鶴とアクシー。しかし、すぐに目を覚ます。

「心配かけたね。いや、忠通が疲れてるみたいだからちょっと代わらせてもらったよ。」

理解が追い付いていない2人。

「はじめまして、僕は五十嵐光輝。この体の本体って感じかな。さっきの忠通は、1,000年前の人でね、僕の体を貸してる人なんだ。」

「不思議なことってあるのね。」

そう言ったアクシーを光輝は見つめる。千羽漢鶴はその視線を指摘した。

「妻に何か?」

「ああ、ご夫婦だったんだね。奥さんの髪が乱れててかわいそうだと思ったから、つい見てしまって。ごめん。髪、整えさせてもらっていいかな?その、美容師免許は持ってるから。」

少し、不快感を示しながらも、千羽漢鶴はこうアクシーに訊く。

「どうする?やってもらう?」

「試しに、お願いするわ。」

その声で光輝はアクシーの髪を素早く整えた。千羽漢鶴の顔が一転ほころぶ。

「アクシー、素敵だ。何だか疑って悪かったね。ありがとう。」

「いいえ、どういたしまして。」

すると、光輝は忠通に戻る。

「ああ、光輝、お仕事されたんですね。いつもは天子にしていることですが、やはり、素晴らしい。」

そう言った忠通は伏し目がちに言葉を続けた。

「その天子を、助けに行かなければいけませんね。」

忠通が立ち上がると、千羽漢鶴とアクシーもそれに続いた。

「そうだね。僕らはももらをね。」

「ええ。」

3人は、ゆっくり確実に歩き始めた。


「千羽漢鶴さん、アクシーさん。」

「忠通、光輝。」


◆肩を並べる者

「妃果梨様、じゃなかった、妃果梨さん、お互い無事でよかったぜ。」

「そうだね。暁くん。」

そう2人は、言葉を交わすが、すぐに静寂が場を包む。しばらくしたあと、妃果梨は暁に小声で呼び掛けた。

「ねぇ、あの女の人と、話しに行かない?」

暁は、頷いた。そして、その暁がこう切り出した。

「あの、俺、不破暁。」

「はじめまして、観月妃果梨です。」

少しの間を空けて、あきは一言。

「私は、あきよ。」

「怪我、大丈夫ですか?」

妃果梨が尋ねた。すると、再び少しの間を空けてあきは答えた。

「大丈夫よ。」

「ああ、それはよかった。」

そう微笑みながら言った当の妃果梨も、傷だらけではあった。その様子に、あきは少し感情的になる。

「あなた、ももらみたい。話しかけないで。」

その一言に暁は怒りを見せた。

「ももらって奴のことは知らねぇけどよ!怪我心配した妃果梨さんになんだよ、その態度!!」

「ちょっと、暁くん。」

「ももらは、あの捕まってるお荷物後輩よ。いっつも自分も怪我してるって言うのに、人の怪我ばっかり心配して来るのよ?それを思い出すわ。」

「ももらさん、優しいんですね。」

あきは眉間に皺を寄せながら、それに返した。

「そのお荷物ちゃんを、今の私では、助けてあげられそうもないもの。辛いわ。」

「なんだよ、そんなことかよ。」

「なんだか、ごめんなさい。でも、気持ちわかります。私も自信ないです。亜香里さんを助けたいけど、足手まといになっちゃいそうで。」

再び、静寂が場を包む。しばしの静寂の後、あきは再び口を開いた。

「まあ、顔だけ見せに行こうかしらね。」

「そうですね。亜香里さんのそばにいてあげよう。」

あきと妃果梨が同時に立ち上がる。暁もそれに続き、立ち上がると3人並んで歩み始めた。


「あき先輩。」

「妃果梨さん、暁くん。」


◆失望の中

ももらと亜香里は、延々と絶望の映像を見ながら仲間の名前をランダムに呼んだ。

「私、どうしたらいいですか?皆さん、教えてください。」

再びのももらの涙色の声だった。

「やっぱり、私、みんながいないと駄目かも。情けないな。」

今にも地の底に落ちそうな亜香里の声だった。

その様を見ていたYUGOの顔は、満面の笑顔だった。

「亜香里。」

そんな中、亜香里の脳内に近の声が響いた。

「我がおる。」

「近ちゃん。ごめん。そうだったね。」

「しばらく、口と場合によっては体を借りていいかの。隣の娘とあの神とやらに話したいことがあるのでの。」

「いいよ。」

すると、亜香里は、近として話し始めた。

「ももらといったの。そなたは。」

「え?亜香里さん?」

「我は近。亜香里の内におる力の源ぞ。その亜香里、聞くのだ。命士らを勝手にそなたの中で滅するでない。そなたは感じられぬかも知れぬが、我はわかる。命士、妃果梨、暁の気配は消えてはおらぬ。それぞれの場所に散ってしまったようじゃが、今、確実にこちらに向かっておる。」

亜香里は、その言葉を受け、感覚を研ぎ澄ました。すると、わずかながら仲間の気配を感じた。

「残念じゃが、ももらの仲間の力を感ずることは我には出来ぬ。しかし、命士らと同等の意思を持っておると仮定し、その意思をもって生存しておるとすれば、そなたの仲間も命士らと共にこちらに向かっておるであろう。希望を棄てるでない。」

「そ、そうですか。ありがとうございます。信じてみます。」


◆神の会談

YUGOは、近として話し始めた亜香里を見て、腹を抱えて笑い始めた。

「天子、日下部亜香里!絶望の底でとち狂ったか!!おかしな言葉で希望的観測を述べるとは面白い!!」

「そなたの中でそうしたいのなら、そうすればよい。じゃが、我は神、近ぞ。」

「近など、すべての神を知ってるが、聞いたことがない!!よく考えたな!天子!!」

「知らぬか、我の存在を。なにゆえであろうな。」

近は理由がわかっていそうなさびしい笑みを浮かべた後、一転厳しい目線でYUGOを見た。

「しかしだがな、亜香里を悪く言うでない、神の風上にも置けぬ存在よ。」

「何を?架空の神ごときが私を貶すのか!」

「貶さざるをえぬ。そなたは、『幸せ』を嫌うと申したな。『幸せ』を作らぬ神など、神ではない。我は、それをそなたに申したかったのじゃ。今すぐ、このような暴挙は止め、我らを解放するのだ。」

「うるさい、うるさい!うるさい!!」

YUGOは、怒りの神気を放った。

「怒っておるようじゃの。我も、怒っておる!」

そして、近も怒りの神気を放ち返した。

「な、なんだと?神の力が。」

「申したであろう?我は神だと。」

「何故だ!すべての神を把握している私が知らない神などいない筈!!」

YUGOは動揺のあまり、先ほどと同じ事を繰り返した。

「我は産まれ出ることのかなわなかった、元は名無しの神。そなたの神の名鑑に加えるがよい。」

「くぅう。」

「まあ、加えるほどのことはしなくてよいかもしれぬの。我らが、ここでそなたを滅する。見えるかの?そなたの敵の集団が。」

YUGOの目に、先ほど吹き飛ばした者たちが1人も欠けることなく四方八方から歩み進んでくる光景が映った。

「な。」

「申したいことは、これまでじゃ。せいぜい我らと対峙するがいい。」

そう言うと、近は亜香里に口を返却した。


◆集結

ももらの、

「皆さん!」

亜香里の、

「みんな!」

の声が一帯に響く。呼ばれた16人は、再びももらと亜香里を救出しようと傷だらけの体で動き始めた。最終的に、妃果梨や暁の中の破壊の力により牢屋は壊された。その際、ももらと亜香里にも多少傷がついたが、命に別状はなく、身柄が解放された。

ももらは「ユーロ」メンバーに、亜香里は命士らに囲まれ、2人は涙した。

「皆さん、ありがとうございました。」

「みんな、ありがとう。」

そんな涙の止まらない2人を他の仲間に任せ、蒼虎と教宗は集団とYUGOの間に並び立った。

「我々の大事なルーキーを捕らえるとは、随分な真似をしてくれた。神というものと戦ったことはなく、戦闘停止作戦ではないものに力を使うことは不本意ではあるが、ユーゴー、お前を敵と見なし、戦いを申し込む!」

「同感だ。大切な天子を囚われの身とするなど、言語道断。融合、我々は復讐などと言う汚れた物に手を汚したことはないが、この度の事は、お前に何かを仕掛けなければ気が済まない。その復讐の名のもと、お前に攻撃を仕掛けさせてもらう!」

そんなリーダーや筆頭命士の言葉を聞いた「ユーロ」メンバーや残りの命士、妃果梨や暁は、1人、また1人とYUGOに対峙していく。

その16人の様子は、ももらと亜香里の心を震わせ、再び大粒の涙を流させた。生きてた、1人も欠けることなく自分の元に来てくれた、その仲間が自分のために怒ってくれている。その戦いは、その攻撃は、自分も加勢しなければと思った。

「リーダー、皆さん、ありがとうございます。私も戦います!」

「教宗、みんな、ありがとう。私も戦うよ!」

2人の涙は空中に弾け散った。そして、18人の戦意がYUGOに向けられた。


◆戦いの前の

YUGOは薄ら笑いを浮かべながらこう言う。

「まさかなぁ、こうなることは想定していたが、実現してしまうとはなぁ。」

そして、両手を大きく広げ、こう叫んだ。

「Y.U.G.O!Yearning!Unhappiness!God!the Only!渇望する!不幸を!私は!神!唯一の!神!略してYUGO!!」

その唐突な自己紹介に、晃は呟く。

「適当な英語喋ってんじゃねぇよ。あいつ、馬鹿なのか?」

そんな呟きに言葉を返すことなく、YUGOは18人を目の前に、長い演説を開始する。

「私が一番欲しい『不幸』は、お前たちの2つの世界に色濃く成立しようとしている!悪神、アーロスと八大蛇によって!」

YUGOは、「ユーロ」の10人を指差す。

「『ユーロ』!お前たちは、いずれ、アーロスの始めた戦い、『グローバル・バンダリズム』を止めてしまう暗示が出ている!!」

続いて、YUGOは、天子たちを指差す。

「天子たちよ!お前たちは、いずれ、八大蛇を打ち倒す暗示が出ている!!」

YUGOの拳が強く握られる。

「困るんだよ。そんな事が成立したら。戦いでの人類滅亡、災いでの破壊完了という『最高の不幸』をこの目に焼き付けられなくなってしまう。」

そして、その拳から親指を突き出し自らに向ける。

「ついでに、アーロスと八大蛇の行為を阻害する存在を私が処分したという事実でアーロスと八大蛇に一目おいてもらう計画だ。そして、私は、この世界随一の悪神の頂に登り詰める!!」

そして、その手を開き、18人に向けるYUGO。

「そちらが、私に抗うと言うのなら、受けて立つ!そして、今度こそこの空間をお前たちの棺とする!!」


◆苦戦

YUGOの開かれた手から、禍々しい闇の力が溢れ出て来る。その闇は、人形の大群を生み出す。

「『ロック』と『メタル』の数に匹敵する!」

うっちーが叫ぶ。

「なら、その態勢で行く!」

はるひこが檄を飛ばした。いつもの通り、スバルの先制攻撃、「シューティング」が行われる。

そんな中、亜香里は立ち竦んでいた。

「嘘、こんな数の敵と戦ったこと、ない。」

それは、命士もそうだった。勿論、妃果梨も暁も。どう対応していいかわからず、自分たちの戦いどころか「ユーロ」の加勢も出来ない状況だった。

そんな8人を置いて、「ユーロ」は、自分たちの戦いを繰り広げるが、人形から放たれた光の攻撃に蒼虎と章平が刹那の動揺を見せた。

「『リフレクション』の盾が。」

「『トラッキング』の盾が。」

2人の盾は、攻撃を反射、無効化できずに粉々になる。蒼虎は、こうメンバーに呼び掛けた。

「この力は、いつもの物と違う!警戒を!!」

9人の「はい!」と言う揃った声が響く。すると、コスモスが苦々しい顔をしながら、こう言った。

「効きそうなバックラーは、俺とうっちーだけってことか!」

呼ばれたうっちーは、「ダザル」を発動しつつ困惑しながら叫んだ。

「やってみてるけど、戦力分析と平行してやるのはきついよ!!」

舌打ちしつつ、コスモスは「アクセレーション」を、多くのメンバーに発動する。

「少しの間、引き受ける!戦力分析頼む!!」

その負担を心配したスバルは、怒鳴るようにこう言った。

「相棒だけにやらせるかよ!ハルバードが早いところ片付ければいい!!」

そう言いながらスバルは、攻撃力増幅器の出力を最大にする。千羽漢鶴もそれに続く。

「勿論、全力でやるよ!!アクシーも準備はいいかい?」

「勿論よ!!」

夫婦2人の「エクスプロージョン」が発動。その穴を埋めるようにあきが「リストレイント」を発動。はるひこも「訓練の刃」にて攻撃する。

ももらは異常事態の中ではあったが、いつもの通り、槍で自衛、傷ついたメンバーに「セラピー」を施していく。

今の段階で考えられる最善の戦いをするが、ハルバードの攻撃で倒れた人形は、再び立ち上がる。そんな絶望的な光景の中、うっちーの動揺の声が響く。

「わからない。ハルバードなのか、バックラーなのか。ユニーク・テクニックもわからない。」

戦力分析の双眼鏡を力なく目から離した。

亜香里は、一緒に捕まっていたももらの戦いを見て、自分たちも何かやらなければと思った。戦力分析をしていたうっちーの姿に自分がいつも八大蛇にやっていることを思い出す。

「落ち着いて、私。もしかしたら、私に、何か出来るかも。見たい、見なきゃ。あの人形の力を!」

やがて、人形がひとつずつではあるが、八大蛇のように禍々しい「金」、「火」、「木」、「水」、「土」の破壊の力を持っている様子が亜香里の目に映った。

「見えた。でも。」

しかし、それはバラバラに位置し、一体一体に命士奥義を展開して回るのは、命士の負担が大きすぎると亜香里は判断した。


◆反転攻勢

亜香里は、「ユーロ」メンバーにも聞こえるように人形の戦力の説明をした。そして、こう締めくくった。

「力ごとに人形を集められたらいいんだけど。」

そこで、指揮官同士の話が始まる。蒼虎が亜香里の元へ。

「我々はその『禍々しい力』というものを見ることは出来ない。何か目印などをつけてもらえれば、5つの集団を分けることに協力しよう。」

「大丈夫ですか?」

蒼虎は、力強く頷いた。

「なら、目印、考えます。」

亜香里は、少し考えた後、力の種類別に頭、胴体、右腕、左腕、脚に破魔の剣にて傷をつけることにした。蒼虎はそれを「ユーロ」メンバーに周知した。

亜香里はそれから命士5人、妃果梨や暁に守られながら一体一体に傷をつけていく。しかし、破魔の剣の連続使用は、継続的な亜香里の体の痛みを引き起こす。それに耐え、亜香里は破魔の剣を振るい続ける。

「ちょっと待って、亜香里さん。」

ももらが亜香里に駆け寄ってきた。

「危ないよ!ももらさん!!」

首を横に振りながら、ももらは亜香里の顔を直視する。

「あなた、とっても痛そう。」

「え?」

隠している筈の「痛み」をももらに見透かされ、驚く亜香里。

「何で?何でわかったの?」

「小さな頃から人の『痛み』と付き合って来たからわかるの。」

「ももらさん、凄い。」

「私の『セラピー』が亜香里さんに効くかどうかわからないけど、受け取って?」

頷く亜香里。ももらは亜香里に「セラピー」を発動。すると、亜香里の体の痛みが取り払われていく。

「こんなの、初めて!ありがとう、ももらさん!!」

「効いて良かった!」

それ以降、痛みがない状態で亜香里はすべての人形に傷をつけ終わった。

その作業と平行して、「ユーロ」メンバーは傷を目印に人形を振り分けていった。

「金」の集団には朝陽の「炎周渦」、「火」の集団には教宗の「雨状剣」、「木」の集団には守常の「切硬矢」、「水」の集団には晃の「斬爪砂」、「土」の集団には忠通の「毒花嵐」が展開され、人形は弱体化。

「これで、大丈夫。」

と言った後、亜香里は「ユーロ」に呼び掛けた。

「皆さん、また、この人形たちに攻撃してもらえませんか?」

蒼虎は、それを受け、こう指示を出した。

「ハルバードのメンバー、攻撃を。」

はるひこ、千羽漢鶴、アクシー、スバル、あきは再び全力のユニーク・テクニックを人形に発動。

すると、今度は立ち上がることなく人形は崩れ去った。


◆YUGO

YUGOは、悔しがった。

「まさか、人形が突破されるとはっ!!」

そして、再び人形を生み出そうとした。しかし、18人の厳しい目線に晒され、一瞬の躊躇を見せた。

「く、悔しい。」

YUGOは、そこから落ち着かない様子で独り言を言う。

「『馬鹿神』と罵られ、どうも良神になれなかった。だから、悪神ならば頂点極められると思ったのに、これか。力は持ってるが、人間どもに負けるとはな。」

それを話し終わると、YUGOは、18人に向けこう負け惜しみを言った。

「お前たち、わかってるのか?私を倒せば、元の世界には戻れるが、『ユーロ』は、天子どもに、天子どもは、『ユーロ』に二度と会えなくなるんだぞ?」

18人は、交流を持った相手と視線を合わせた。そんな中、ももらと亜香里は、こう言った。

「亜香里さんたちと会えなくなるのは、辛いです。けれど、私の世界では、戦いが起こってる。止めにいきたい。だから、帰ります。」

「私も、ももらさんたちと別れるのは嫌だよ。けれど、動き出しちゃった八大蛇を放っておくのも嫌。だから、戻るよ。」

そして、2人は声を合わせ「あなたを倒して!!」とYUGOに言った。

その話に他の16人も帰り、戻る覚悟を決め、YUGOに視線を向けた。

YUGOは、自暴自棄になり、全ての神気を暴走させた。

「お前たち、お前たちだけは、私が消えても『不幸』になればいい!!」

その言葉に近が再び話し始める。

「そのようなことはさせぬ。みな、我の力を受けとるがいい!我の力よ!あの者を滅するみなの力となれ!!」

近の願いは、「ユーロ」メンバー全員のアビリティとフォースを融合させた。10人は、その力を放出。それは混ざり合い、「フォース・アビリティ・キャノン」という光を生み出した。

そして、亜香里たちは近の願いが乗った力をその身に受け止めた。8人は力を放出。それは混ざり合い、「創破合流砲」という光を生み出した。

それは、YUGOの神気をも巻き込み、YUGOを直撃。YUGOは、ゆっくりと崩壊していく。

「やっぱり、私は、『幸せ』を願う、べき、だったか。まあ、『不幸』を、少しは、楽しめたか。Bye、皆の共。」


◆帰る戻る

YUGOと共に、18人のいる世界もゆっくり崩壊していく。全員に降り注ぐ光が、2つの集団の別れを教えた。

「亜香里さんたち、お別れ、だね。」

「そうだね。元気でね。ももらさんたち。」

その場の全員が頷く。

「私、頑張って戦いを止めるから、亜香里さんたちも頑張ってね!」

「ありがとう。私も災いを止めるの頑張る。だからももらさんたちも頑張って!」

そして、ももらと亜香里の「ずっと忘れないから!!」との一言で、お互いの姿は見えなくなった。


◆戦闘停止への決意

次に「ユーロ」が目にしたのは、最後にモニター上で戦闘感知器が止まった場所だった。

ももらはまた泣き始めた。

「亜香里さん。」

はるひこがそばに行き、ももらを労りながらこう尋ねた。

「ももら、戦闘が起こっていると言ったね?」

ももらは、その一言に涙を振り切る。

「はい。」

蒼虎はそれを聞き、こう指示を出した。

「任意参加とするが、戦闘停止作戦を行う。」

メンバーは、そんなリーダーに全員ついていった。


◆破壊の災いへの抗い

天子たちが光が収まった時立っていたのは、YUGOの邪気が一番濃かった場所。

「ももらさん。」

亜香里はうつむいた。そんな亜香里を励ますように隣に立ち、守常がこう言った。

「天子、感じるか?八大蛇の邪気を。」

それに教宗が続く。

「今度は間違いなく八大蛇だ。行けるか?天子。」

亜香里は顔を上げ、表情を引き締めた。

「勿論だよ!みんなこそ行ける?」

全員の頷く姿を見た亜香里は先頭に立ち、声を上げた。

「行くよ!みんな!!」


◆心

YUGOの招待から月日が経った時のことだった。

「ユーロ」は、アルティーテの力を借りつつ「アーロス」にたどり着き、導きを与え、「グローバル・バンダリズム」を終結させた。

天子たちは、八大蛇を完全に排除することができた。

ももらと亜香里は、いつもの仲間との強固な心の繋がりと、もう二度と会うことはない友と言うべき存在を糧に仲間と共にそれをやり遂げた。それは、それぞれの仲間も同じだった。


◆顔の見えぬ感謝

ももらはその日、とある場所に来ていた。

「亜香里さん、私、アーロスを止めたよ。その時、亜香里さんたちがそばにいた気がした。そのおかげで戦いが止められたよ。」

同じ日、亜香里はとある場所に来ていた。

「ももらさん、私、八大蛇を倒したよ。その時、ももらさんたちが隣にいるって思って戦ったんだ。おかげで災いをなくすことができたよ。」

2人は、「今、どうしてるかわからないけど、ありがとう!!」と同時に言った。

その声を、静かな青空が受け止めた。

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