第7話「二週間後の再会」
美咲は午前中大学の授業を終えると、すぐにカフェへと向かった。カフェに到着すると、既に由紀が座っていた。大きな窓から差し込む陽光が、由紀の横顔を柔らかく照らしている。すっと背筋を伸ばし、落ち着いた表情でスマートフォンを見ている彼女の姿に、美咲の心はさらに緊張で跳ね上がった。
「美咲さん、こちらです。」由紀が気づき、柔らかな笑顔で手を振った。その笑顔に少しだけ気持ちがほぐれた美咲は、小走りで席に向かった。
「こんにちは……遅れてすみません。」美咲は少し息を切らせながら椅子に座った。
「大丈夫よ、私も今来たところだから。」由紀は優しい声で答え、メニューを差し出した。「何か飲む?」
「えっと……カフェラテで。」美咲がそう答えると、由紀はウェイターを呼び、二人分の注文を手早く済ませた。
少しの沈黙が流れる中、由紀が口を開いた。「最近どう?大学、忙しい時期よね。」
その一言に、美咲は少し驚いたように顔を上げた。「あ、はい……でも、少しずつ落ち着いてきました。友達にも恵まれて、なんとかやれてます。」
「そう、よかった。」由紀は微笑みながら、美咲の表情をじっと見つめた。「でも、なんとなく……まだ何か抱えているように見えるわ。」
由紀の言葉に、美咲は一瞬目を伏せた。どうしてそんなに見抜かれてしまうのだろう――そんな戸惑いが胸をよぎる。それでも、自分の中に渦巻く感情を少しでも分け合いたいという気持ちが、自然と口を開かせた。
「実は……子供の頃に嫌な経験をして、それが思い出されるたびに自分でも何を感じているのか、よくわからないことがあって……」
由紀は少し間を置いてから、問いかけた。「その、子どもの頃にあった嫌な経験って、どんなことだったの?」由紀の言葉に、美咲は一瞬息を呑み、視線を下げた。カップを握る指先が少しだけ強張り、テーブルに小さな沈黙が落ちた。
「……あまり、話したくないんです。」
美咲はカップを両手で包みながら、ぽつりと呟いた。「感情が溢れすぎて、自分をどうコントロールすればいいのかわからなくなるんです。」
由紀はその言葉を静かに受け止めながら、「なるほどね.....特にどんなときに?」と優しく問いかけた。
美咲は一瞬ためらったが、意を決して口を開いた。「何か急に寂しくなったりすると……自分を抑えられなくなって。食べ物かお酒に逃げてしまうんです。」
由紀は一瞬目を見開いたが、すぐに柔らかな表情に戻して頷いた。
「この前も……コンビニでスナック菓子やアイスをいっぱい買い込んで、それを家で一人で食べて……。後で自己嫌悪してしまって……」
美咲は震える声で続けた。「本当は、そんなことしても何も解決しないってわかってるんです。でも、止められなくて……」
由紀の心には、先日コンビニで見かけた美咲の姿が浮かんでいた。袋いっぱいのスナック菓子を抱え、どこか必死な表情でレジを通る彼女。そのとき感じた違和感が、今ようやく解消された気がした。
「美咲さん。」
由紀は穏やかな声で言葉を紡いだ。「それって、食べ物そのものが欲しいわけじゃないのかもしれないわね。別の何かを求めているのだと思うわ。」
「……別の何か?」美咲は驚いたように顔を上げた。
由紀は少し微笑んで続けた。「例えば……孤独感とか、不安とか。そういった気持ちが、他の形で表に出ているのかもしれない。」
美咲はその言葉にハッとし、静かにカップを見つめた。「……確かに、そうかもしれません。何か、寂しくて、不安で……その気持ちをごまかそうとしてるんだと思います。」
「大丈夫。」由紀は美咲の手をそっと見つめながら言葉を紡いだ。「その感情を持つこと自体が悪いわけじゃないわ。でも、少しずつそれを誰かと分け合ってみることも大事よ。あなた一人で抱え込む必要なんてない。」
「……分け合う、ですか。」美咲は不安げな顔を浮かべた。「でも、そんなことをしたら、迷惑にならないでしょうか……?」
由紀は小さく笑い、「むしろ、誰かに頼られることで喜ぶ人だっているわよ。私だってそう。美咲さんが頼ってくれるなら、嬉しいわ。」
その言葉に、美咲は胸が温かくなるのを感じた。「……本当に、迷惑じゃないですか?」
「もちろん。」由紀は微笑みを浮かべ、「だから、美咲さんも焦らずに少しずつ、自分の気持ちに正直になってみて。きっと、楽になれる瞬間が来ると思う。」
「ありがとうございます……」美咲は小さな声で答えた。その瞳には、どこか救われたような光が宿っていた。
「少し前に、ミュージカルを観に行ってきまして....」美咲は思い切って口を開いた。「『オペラ座の怪人』だったんですけど、すごく感動して……」
「『オペラ座の怪人』ね、いいわよね。」由紀の目が少し輝いた。「私もあの作品は好きよ。音楽や舞台装置、すべてが壮大で、引き込まれるものがあるね。」
美咲は由紀の反応に一気に顔が明るくなった。由紀も同じミュージカルを好きだと知っただけで、心が躍った。二人はそこからお互いの好きな作品や観たミュージカルについて話し始める。由紀が好きな作品について語るときの表情は、普段の冷静な雰囲気から少し離れて、とても楽しそうだった。
「由紀さんって、こういう舞台が好きなんですね!」美咲は由紀の意外な一面を知れて嬉しかった。今まで遠い存在に感じていた由紀が、少しだけ近くに感じられた気がした。
「なら今度一緒に行きたいです!」美咲が勢いよく言うと、由紀は少し驚いたように微笑んだ。「いいわね。美咲さんがおすすめの舞台があったら教えてほしいな。」
カフェでのひとときが過ぎていくのも忘れるほど、二人は趣味の話で盛り上がった。美咲は、由紀の前で初めて自然に笑うことができた気がした。そして、そのひとときが、彼女の心に大きな温かさを残した。
「美咲さん、もう少し時間ある?」由紀がふと尋ねた。
「え?はい、大丈夫ですけど……」美咲は一瞬驚いたが、うなずいた。
由紀は少し視線を遠くに向けながら、「実は、この近くに私のお気に入りのバーがあるの。とても落ち着ける雰囲気でね、よく一人でふらっと立ち寄るのよ。」と軽く微笑んだ。
「お気に入りのバー……」美咲は想像して少し緊張したが、同時に由紀がどんな場所を好むのか知りたくて興味が湧いた。「行ってみたいです!」
「そう?」由紀は嬉しそうにうなずいた。「それなら少し寄ってみましょうか。歩いてすぐのところだから。」
二人はカフェを出て、夜の街をゆっくりと歩き始めた。街の灯りがキラキラと輝き、ビルの合間を抜ける風が心地よい。由紀は足取り軽く歩きながら、「ここは隠れ家的な場所なの。静かで、ちょっと特別な時間を過ごせるわ。」と説明した。
「特別な時間……」美咲は、その言葉に期待と緊張が入り混じる感情を抱きながら、由紀の横顔をそっと見た。
由紀が連れてきたのは、シックな外観のバーだった。ドアを開けると、控えめな照明と落ち着いた音楽が迎えてくれる。カウンター席の向こうには、整然と並んだリキュールボトルが美しくライトアップされていた。
「どう?素敵でしょ?」由紀が振り返って、美咲に問いかける。
「……すごい……なんか、大人の空間ですね。」美咲は少し圧倒されながらも、期待に満ちた表情で店内を見回した。
「ここね、よく一人で来るの。静かだし、お酒も美味しいのよ。」由紀は笑みを浮かべながら、カウンターの一番端の席を選び、美咲を隣に座らせた。
「どんなお酒があるんですか?」美咲はメニューを手に取りながら尋ねた。
「この店は、カクテルが特に美味しいわ。フルーツを使ったものが多くてね。」由紀はバーテンダーに軽く手を上げ、「この子には飲みやすいものをお願い。私はいつものを。」と注文した。
「由紀さん、いつものって……常連さんなんですか?」美咲が驚いたように尋ねると、由紀は少し照れたように笑った。「まあ、たまにね。お酒を飲むのが好きなの。家でもちょっとしたカクテルを作ることもあるわ。」
「自分で作るんですか?すごい……!」美咲は感心したように目を輝かせた。「なんだか、すごくかっこいいですね。」
「そう?」由紀は少し肩をすくめながら、「簡単なものばかりよ。でも、お酒を作る時間って、意外とリフレッシュになるの。」と答えた。
バーテンダーが、美咲の前にフルーツカクテルを置いた。そのカクテルは、鮮やかなオレンジとピンクが層になり、トップには小さなミントの葉が飾られている。美咲はその美しさに思わず目を見張り、ストローをそっと口に運んだ。
「……美味しい!こんなカクテル、初めて飲みました。」
美咲は目を輝かせて微笑む。その無邪気な反応に、由紀も自然と微笑みがこぼれた。
「それならよかった。このお店、フルーツカクテルが得意なのよ。美咲さんに気に入ってもらえて嬉しいわ。」由紀はグラスを持ち上げ、静かに一口飲んだ。
ふと間が空いた後、由紀がグラスを軽く揺らしながら切り出した。「美咲さん、詩とか書くこと、好きなんじゃない?」
その言葉に、美咲は驚いて目を見開いた。「どうして……わかるんですか?」
「なんとなく、そんな気がしたの。言葉を大切にしている人って、話し方や表情に現れるものよ。」由紀は軽く笑みを浮かべながら答えた。
美咲は少し恥ずかしそうに目を伏せた。「そうなんです。昔から、気持ちを言葉にするのが好きで……上手く伝えられないことも、詩にすると素直になれる気がして。」
カクテルのグラスを両手で包みながら、美咲は少しずつ言葉を紡いでいく。「でも、そんなに人に見せるものじゃなくて、ただ自分のために書いてるだけなんです。」
由紀はその言葉に頷き、グラスをテーブルに置いた。「いいことじゃない。それが自分の気持ちを整理する手段になってるなら、とても素敵なことだと思うわ。」
その優しい言葉に、美咲は安心したように微笑んだ。「高瀬さんも、詩を書かれるんですか?」
由紀は目線を遠くにやりながら、少し懐かしむような表情を浮かべた。「ええ、昔ね。仕事で辛いことがあったり、自分の気持ちがわからなくなったときによく書いていたわ。でも、最近は書く時間がなくて……たまには書いてみようかしら。」
「由紀さんが書いた詩、読んでみたいです!」美咲は目を輝かせながら言ったが、すぐに慌てて付け加えた。「あ、もちろん無理にじゃなくて……。」
由紀はその言葉に軽く微笑み、「ありがとう。美咲さんにそう言ってもらえると、また書いてみようかなって思えるわ。」と答えた。
少し間が空いた後、由紀が静かに尋ねた。「美咲さんの詩も、いつか読ませてくれないかしら?」
その一言に、美咲は一瞬戸惑った表情を浮かべた。自分の詩を他人に見せたことなんてほとんどない。ましてや由紀のような存在に……。
「……本当に大したものじゃないんですけど、それでもいいですか?」美咲は少し震える声で尋ねた。
由紀は真剣な表情で頷いた。「もちろんよ。美咲さんがどんな気持ちを言葉にしたのか、それを知りたいと思うから。」
その言葉に、美咲は少しだけ勇気を出し、スマートフォンを取り出した。メモアプリを開き、いつか書いた詩を見せるために画面を由紀に差し出した。「これ……読んでみてください。」
由紀は慎重にスマートフォンを受け取り、画面に目を落とした。文字を追う由紀の表情は静かで、時折わずかに変化する。
「……とても繊細で、美しい詩ね。」由紀が感想を口にした。その声はどこまでも柔らかく、詩の一部を丁寧になぞるようだった。「こんなに真っ直ぐな言葉を紡げるのは、美咲さんが自分の感情を大切にしているからだと思うわ。」
その言葉に、美咲は胸がいっぱいになった。「ありがとうございます……嬉しいです。」
由紀はそっとスマートフォンを返しながら、美咲に視線を向けた。「またいつか、別の詩も読ませてほしいわ。詩を書くことは、心の声を聞くための大事な時間だから、ぜひ続けてほしいわ。」
「はい!頑張ります。」美咲は小さく頷き、由紀の言葉に励まされる自分を感じた。
二人で詩について語り合ううちに、話題は自然と由紀の年齢の話に移っていった。
「今年で、32歳になるの。」由紀が静かに告げると、その声には少しの切なさが含まれていた。美咲はその言葉に、彼女が感じている重みや葛藤があることに気づいた。由紀は、強くて冷静な印象を見せているが、こうして少し心の内を明かしてくれると、彼女の人間らしい弱さに触れた気がした。
「32歳……」美咲は由紀の横顔をじっと見つめる。何か、由紀を抱きしめてあげたくなるような衝動が湧き上がる。しかし、その気持ちを抑え込むように、拳を握った。
「素敵な年齢ですね。」美咲はそう言葉を選び、穏やかな微笑みを浮かべた。由紀は彼女の言葉に、少しだけ表情を和らげた。
「ありがとう」由紀がグラスを傾ける姿を見ながら、美咲は自分の心の中でいろいろな感情が交差するのを感じていた。彼女にとって由紀は憧れであり、手の届かない存在。それでも、こうして少しずつ彼女の心に触れていくたびに、その距離が縮まっているような気がしていた。
---
美咲の心臓は、由紀の穏やかな微笑みを前にしてますます激しく鼓動を打っていた。言うべきか、言わないべきか――その選択肢が頭の中をぐるぐると回る。これまで築き上げてきた関係が、この一言で壊れてしまうのではないかという不安が、美咲の胸を締めつけていた。
「……言わなきゃ、でも……」美咲は心の中で何度も自分を説得しようとしたが、由紀がどう思うのかを考えると、その言葉が喉でつかえて出てこない。
「由紀さん……私、実は……」彼女はためらいながら、かすかに震える声で言いかけた。由紀は静かにグラスを置き、じっと美咲を見つめている。その強い視線に美咲は圧倒されるが、それでも逃げ出さないように自分を奮い立たせた。
「……まだ、18歳なんです。」その一言を口にする瞬間、まるで心の奥から重い扉を開けたような感覚がした。美咲の手が少し震えていた。
一瞬、時間が止まったように感じられた。由紀が何も言わずに美咲を見つめ続けていたからだ。美咲はその沈黙が耐えられず、視線をテーブルに落とした。もし由紀が失望していたら――もしこの一瞬で全てが変わってしまったら――そんな考えが、彼女の胸をさらに締めつけた。
だが、次の瞬間、由紀の口元に小さな笑みが浮かんだ。「そうだったのね。」その声は、意外なほど穏やかで、まるで美咲の懸念を打ち消すかのようだった。
一瞬の沈黙の後、由紀はクスリと笑いを漏らし、まるで何かを面白がるように目を細めた。「18歳ね……ふーん、なるほど。」彼女はしばらく美咲をじっと見つめた後、ゆっくりとした口調で続けた。「そう言うと、あのバーでのことは……全部不正飲酒だったってことね?さて、これは警察に報告した方がいいのかしら?」由紀は片眉を上げて、冗談を楽しむ様子で微笑んだ。
「えっ!?そんな……」美咲は顔が一気に真っ赤になり、目を大きく見開いた。
「冗談よ、冗談。」由紀は笑いながら軽く手を振ったが、その目にはまだいたずらっぽい光が残っていた。
「ちょっと、からかいすぎましたか?」由紀は軽く肩をすくめながら、さらに笑いを含んだ目で美咲を見た。「でもね、美咲さん、お酒を飲んでるとき、あなたったら大人っぽく振る舞ってたけど、今こうして見ると、やっぱり18歳にしか見えないわね。」
美咲は反論しようとしたが、由紀の視線がまるで大人が子供を見つめるように優しさとからかいに満ちていて、言葉がうまく出てこなかった。
「だって、見ていてすぐ分かっちゃったもの。」由紀は微笑んで、テーブルに肘をついて美咲を見つめる。「あなた、何度もグラスを持つ手が震えてたし、顔もどんどん赤くなって……可愛かったわよ。」
「えぇっ、そんなに?」美咲は恥ずかしさでうつむきながら、顔をさらに赤くしてしまった。
「そう、まるで子供が薬を飲むときみたいに。」由紀はニヤリと笑いながら、美咲をさらにからかうように言葉を続けた。
「もう、いじわるですよ、由紀さん!」美咲は思わず笑いながら言い返したが、内心は少しホッとしていた。由紀がこんな風にからかってくれることが、彼女の気持ちを軽くしてくれた。
「まぁまぁ、冗談よ。」由紀はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、グラスを再び手に取った。「次からは隠し事はなしにしてね。」
美咲は、その言葉に少し照れながら頷いた。「わかりました……でも、本当に驚かないんですね。」
「驚く?そんなことで?」由紀は軽く肩をすくめて笑い、「むしろ、これで美咲さんの可愛らしさがもっと増したと思うわ。」
話が落ち着いてきた頃、由紀がふとスマートフォンを取り出した。
「そうだ、美咲さん。インスタやってる?」彼女の突然の問いに、美咲は驚きながらも頷いた。「ええ、少しだけ……」
「良かったら、交換しない?」由紀が微笑みながらスマートフォンを差し出した。その表情に、美咲は胸が温かくなるのを感じた。由紀の私生活が垣間見られるということに、少し緊張しながらも喜びがこみ上げる。
美咲も自分のスマートフォンを取り出し、二人はアカウントを交換した。画面上に表示された由紀のアカウントには、旅先の風景や日常の風景がセンスよく切り取られていた。美咲はその写真を眺めながら、由紀の生活に触れることができることに、少しだけ近づけた気持ちになった。
「お、結構友達が多いのね。」由紀が、美咲のインスタの投稿を眺めてそう呟いた。美咲のアカウントには、大学の友人たちと一緒に撮った写真や、イベントに参加した様子がたくさん投稿されていた。
「あ……はい、大学の友達がたくさんいて……」美咲は少し照れくさそうに答えた。由紀に自分のプライベートを見られることが少し恥ずかしくもあったが、それと同時に由紀が自分のことを知ろうとしてくれていることに嬉しさを感じた。
「それはいいことね。大切にしなさい。」由紀は柔らかく微笑んだ。その言葉に、美咲は胸が温かくなるのを感じた。自分を見守ってくれる由紀の存在が、彼女にとって少しずつ大きな支えになっていくようだった。
翌週の月曜日
「紗英、ちょっと聞いて!」
大学のカフェテリアに駆け込むように現れた美咲は、興奮した表情で紗英の隣に座った。
「どうしたの、そんなに急いで?」紗英が驚きながら問いかけると、美咲は息を整えながら答えた。
「実際にカフェに行ったんだけど……由紀さん、本当に素敵だったの!」美咲は目を輝かせながら言葉を続けた。「すごく落ち着いてて、でも話しやすくて、なんていうか、話してるだけで安心するような感じで……。」
紗英は優しい笑顔を浮かべながら美咲を見つめ、「前言ってたやつね!それで、それで?どんな話をしたの?」と促した。
「ミュージカルの話とか、私が詩を書くことを話したらすごく興味を持ってくれて。それで……実はスマホで書いてる詩を見せたの!」美咲は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。
「えっ、本当に?美咲がそんなにすぐ見せるなんて珍しいじゃない!」紗英は驚いた顔で身を乗り出した。「由紀さんはどんな反応だった?」
「『とても綺麗な言葉ね』って、優しく言ってくれて!」美咲の声は少し震えながらも、嬉しそうに続けた。「その瞬間、なんだか心の中の緊張が全部ほぐれたみたいで……私、あの時間が本当に大好きだった!」
紗英は美咲の様子をじっと見つめ、ふっと笑みを浮かべた。「そっか、良かったね!美咲。」
「でもね。」美咲は急に少し沈んだ表情を見せた。「最後の方で、私……18歳だって話したの。初めて。それまでは隠してたんだけど、さすがにいつまでも黙ってられなくて……。」
その言葉に紗英は少し眉を上げた。「そうだったんだ。それで、由紀さんはなんて言ってたの?」
「それが……全然怒られなかったの。」美咲は拍子抜けしたように言った。「『そうだったのね』って、冗談みたいに笑いながら『お酒の件は内緒にしておくわ』って……。」
紗英はその話に思わず笑い出した。「あはは、由紀さん、余裕あるなぁ。でも、それで美咲がほっとしたんじゃない?」
「うん……なんていうか、もっと怒られるかと思ってたけど、全然そんなことなくて……。」美咲はしみじみと呟いた。「むしろ、すごく安心したの。私がどんなことを話しても、由紀さんは全部受け止めてくれる気がして。」
紗英は少し考えるような表情を浮かべ、「由紀さんって、本当に包容力がある人なんだね。」
美咲は静かに頷いた。「でもね、由紀さんと一緒にいると、私の中でいろんな感情が溢れてきて……怖くなることもあるの。」
紗英は優しく微笑みながら、美咲の手にそっと触れた。「美咲、それは自然なことだよ。まだ過去の記憶と向き合ってる最中なんだから。」
美咲は紗英の言葉を聞いて、少し目を潤ませた。「そうだね……。でも、自分の気持ちが荒れすぎて、相手に迷惑をかけちゃうんじゃないかって思うこともあって……。」
紗英は優しく首を振り、「迷惑なんてことないよ。由紀さんは、美咲が素直に気持ちを伝えることを大切に思ってるんだと思う。だから、これからも無理しないで、自分のペースで接していけばいいんじゃない?」
美咲は紗英の言葉に少し元気を取り戻し、微笑んだ。「ありがとう、紗英。いつも私のことをわかってくれて……本当に感謝してる。」
「それが友達でしょ?」紗英は軽く肩をすくめて微笑んだ。「それに、美咲がこうやって嬉しそうに話してくれるのを聞くのが、私も好きなの。」
美咲は照れたように笑いながら、「もう紗英って、いつも優しすぎる……。」と小声で呟いた。
「もしまた何か不安になったり、悩んだりしたら、ちゃんと話してね。由紀さんにも、私にも。」
美咲は一瞬驚いたように紗英を見つめたが、すぐに深く頷いた。「うん、わかった。ありがとう、本当に。」
その時、紗英の携帯が振動して通知が届いた。紗英が画面を確認すると、軽く笑って「裕也からだ。『雄太とご飯行くけど、紗英たちも来ないか』だって。」と呟いた。
「えっ、私も?」美咲は少し戸惑った様子を見せた。
「行きたくなかったら別にいいけど、みんなが待ってるよ。」紗英は微笑みながら続けた。「でも、今日は由紀さんとの話をゆっくり振り返りたいなら、それもいいと思う。」
美咲は少し考え込んだが、「うん……今日はちょっと一人で考えたい気分かも。」と静かに言った。
「それなら、また今度ね。」紗英は優しく頷き、美咲にもう一度笑いかけた。「でも、帰り道気をつけてね。」
「ありがとう!」美咲はカバンを肩に掛け直しながら微笑んだ。「また明日話すね。」
「うん!楽しみにしてる。」紗英は手を振りながら、美咲を見送った。




