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第6話「不意の通知」

由紀との電話から二週間が経った。美咲は日々の生活の中で、由紀のことを考えない日はなかった。彼女に何か連絡をしていいのか迷いながらも、結局いつも自分から連絡を取れずにいた。そんなある日、スマートフォンに見慣れない通知が表示された。


「えっ……由紀さん?」驚きと共に美咲は画面をタップする。由紀からのメールがそこにあった。


由紀からのメールを読んだ瞬間、美咲の心臓は大きく跳ね上がった。思わずスマートフォンを握りしめたまま、その画面を何度も見つめる。

「……どうしよう……」

喜びと緊張が入り混じる感情。すぐにでも返信したいけれど、どんな言葉を選べばいいのかわからない。


大学のカフェテリア。午前の授業を終えた美咲、紗英、俊樹の3人が、テーブルを囲んでいた。美咲は少し緊張した表情で、スマートフォンを握りしめている。


「どうしたの、美咲?」紗英が優しく声をかける。


「実は……」美咲はおもむろにスマートフォンを取り出し、画面を紗英に見せた。「由紀さんからメールが来て……」


紗英が興味深そうに画面を覗き込むと、「美咲さん、お久しぶりです。お元気ですか?もしお時間があれば、今度カフェでお茶でもどうですか?」という文字が目に飛び込んできた。


「良かったじゃん!」紗英はにっこりと笑った。「由紀さんが誘ってくれるなんて、仲良くなるチャンスだよ。」


「いや……そんなことないと思う。」美咲は俯きがちに言葉を続けた。「前に電話で……私が『またお会いしたいです』って言ったから、それに答えただけで、迷惑なんじゃないかって……」


紗英は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに落ち着いた声で言った。「美咲、それは違うと思うよ。もし由紀さんが迷惑だと感じていたら、こんなふうにわざわざ誘ったりしないんじゃない?」


「でも……」美咲は眉を寄せながら呟いた。「会いたいなんて、私が勝手に言っちゃったのに……由紀さんに無理をさせてるんじゃないかって……」

一方、俊樹はコーヒーカップを持ったまま興味津々の表情を浮かべた。

「ほうほう、美人のお姉さんからメールですか?」俊樹がニヤリとしながら、身を乗り出す。「なんだそれ、俺にも紹介してくれよ」

「そんなんじゃない!」美咲は真っ赤になりながら、スマホを引っ込めた。

「見せろよ、どれどれ……」俊樹は面白がりながらさらに身を乗り出す。

紗英が「俊樹、からかわないでよ」と笑いながらたしなめたが、俊樹は一向に気にする様子もなく、美咲に目を向けた。

「で、なんて書いてあったの?『美咲さん、会いたい』とか?『ずっと考えてました』とか?」俊樹はわざと感情を込めて深刻そうに言うと、すぐにふざけた顔に戻った。「いやー、大人の女性に狙われるとか、羨ましいわ。俺も美人とカフェでお茶したい!」

「もう、そんなわけないでしょ!」美咲は顔を真っ赤にしながら声を上げた。「由紀さんからは、『カフェでお茶しませんか』って、それだけで……」

俊樹はテーブルを叩きながら大げさに笑った。「おいおい、それだけでこんなにオロオロしてんのかよ!お茶しようって誘われたくらいで、どうしてそんなに緊張するんだ?」

「だって、由紀さんってすごく大人で、私なんかが行ったら迷惑じゃないかって……」美咲は俯きながら不安げに呟いた。

「はぁ?」俊樹は呆れたように肩をすくめ、「迷惑どころか、由紀さんはお前とお茶したくてわざわざメールしたんだろ?その時点で『行くしかない』って結論じゃん。」

「俊樹、少し黙ってなさいよ」紗英が笑いながら俊樹をたしなめ、改めて美咲に向き直る。「美咲、大丈夫よ。由紀さんが誘ってくれたってことは、それだけ美咲に会いたいってことだから。きっと素敵な時間になるよ。」

「でも……何を話せばいいのかもわからないし……」美咲は困ったように唇を噛んだ。

紗英は優しく微笑み、美咲の手にそっと触れる。「話す内容なんて気にしなくていいの。大事なのは、あなたらしくいること。それで十分だよ。」

俊樹がまた口を挟む。「そうそう。緊張してるなら、俺の話でもネタにしとけよ。『俊樹っていう変な友達がいてさ、いつもバカやってるんだよ』ってさ。」

「そんなこと言うわけないでしょ!」美咲は呆れたように笑った。

「マジでさ、美咲、もっと気楽に行けって。『カフェでお茶』だぞ?お茶だよ?別に『人生相談』でも『結婚の話』でもないんだからさ。」俊樹は肩をすくめて、冗談交じりに続ける。「むしろ、俺をカフェに連れて行ったほうが盛り上がるぞ?美人の隣に座って『いやぁ、このカフェラテ、人生の縮図ですねぇ』とか言ってやるから!」

紗英が思わず吹き出しながら俊樹の肩を叩いた。「それ、余計に迷惑でしょ!」

美咲もつられて笑いながら、「俊樹なんか連れて行ったら、由紀さんが困っちゃうよ……」と言った。

「いやいや、俺を添え物にして、『ほら、私ってマシでしょ?』って見せつけるのもありだぞ?」俊樹はウィンクしながらふざけた調子で続ける。

「もう、黙ってて!」美咲は笑いながら俊樹を軽く叩いた。

紗英が、柔らかい声で美咲に言葉を添える。「ほら、俊樹の冗談も含めて、そんなに気負わないで。由紀さんも、リラックスして話せる相手として美咲を誘ったんだと思うよ。だから、あなたのままで大丈夫。」

美咲は二人のやり取りを見ているうちに、少し肩の力が抜けていくのを感じた。「……ありがとう。私、行ってみる。」

俊樹がコーヒーを飲み干しながら満足そうに頷く。「よっしゃ、それでいいんだよ!でも、帰ってきたら報告は必須な。どんなお茶会だったか、詳しく教えろよな。」

「俊樹には絶対教えないから!」美咲はそう言いつつ、笑顔を浮かべていた。

紗英は優しい目で美咲を見つめ、「楽しんできてね」と静かに背中を押してくれた。

その言葉に美咲は深く頷き、スマートフォンを手に取った。画面を開き、由紀への返信画面で震える手を止めることなく、文字を打ち込む。

「お誘いありがとうございます。ぜひお茶しましょう!」


---

約束の日の朝、美咲は鏡の前で自分の姿をじっと見つめていた。

「この服でいいのかな……髪型はこれで大丈夫?」

淡いブルーのブラウスに白いスカート、シンプルだけど上品なコーディネートを選んだものの、自分の中で何度も不安が湧き上がる。由紀に会うことを思うと、どんなに準備しても自信が足りないように感じた。

「大丈夫、大丈夫……」美咲は自分に言い聞かせるように呟き、最後に髪を整えてバッグを肩にかけた。「行かなきゃ。」


大学に着くと、教室で紗英、雄太、そして裕也が談笑している姿が見えた。美咲が近づくと、すぐに紗英が彼女の服装に気づいた。

「美咲……今日、いつもよりおしゃれじゃない?」紗英が微笑みながら声をかける。

「えっ、そんなことないよ!」美咲は慌てて手を振ったが、雄太が首をかしげながら「なんか雰囲気違うな。どっか行くのか?」と尋ねる。

「違う違う!普通だよ、普通!」美咲はさらに否定するが、裕也がからかうように笑った。「絶対デートだろ。隠しても無駄だって!」

「ち、違うってば!今日は由紀さんとカフェに行くの」美咲は顔を赤くしながら否定する。

その時、教室のドアが勢いよく開き、俊樹が15分遅れて現れた。肩にリュックを掛けたまま、軽い足取りでみんなの方へ近づいてきた。

「おっ、美咲、今日どうした?いつもよりキマッてんじゃん。」俊樹はにやりと笑いながら美咲をからかい始めた。「まさか、俺に会うために気合入れた?」

「ちがいますー!」美咲は俊樹に突っ込むが、彼はさらに調子に乗って笑いながら続ける。「ほんとほんと、俺がいなきゃ美咲の朝は始まらないもんな!」

「ほんと冗談ばっかり……」美咲は呆れたようにため息をつくが、俊樹は面白がる様子をやめない。

「でもまあ、こんな日におしゃれしてるってことは……お相手はどこのプリンス様かな?」俊樹が肘で美咲を軽く突くと、紗英が苦笑しながら彼をたしなめた。「俊樹、もうその辺にしなさいよ。」

「いやいや、気になるだろ。だって美咲だぜ?何かあるってことだよな?」俊樹はまだ引き下がらない様子だったが、雄太が眉をひそめながら小声で「由紀さんと会うだけだってよ」と言った。

美咲は、俊樹の茶化す言葉に少し苛立ちながらも、同時に不安をごまかす自分を感じていた。「そう!由紀さんに会うだけ!」と力強く言い放つと、俊樹は面白そうに肩をすくめた。

「もう、俊樹ほんとにうるさい……」美咲は頬を赤らめながら呟いたが、紗英は優しく微笑みながら彼女の肩を軽く叩いた。「美咲、気にしなくていいよ。今日は由紀さんといい一日になるといいね。」

「……ありがとう。」美咲は小さな声で返し、紗英の優しさに少し心が軽くなった。



講義が終わり、教室を出ようと急いでいた美咲に、雄太が声をかけた。


「美咲、ちょっといい?」


「ん?何?」美咲は急いでノートをバッグに押し込みながら振り返る。


雄太は少し歩調を合わせながら話し始めた。「最近、新しい映画が公開されたじゃん。あの、話題になってるやつ。今度、一緒に観に行かない?」


美咲は足を止めることなく歩きながら、「映画?……あぁ、あれね!」と思い出したように言った。「ごめんね、今ちょっと急いでて……また今度、時間あるときに!」


「そっか……まあ、また都合がいいときに声かけるよ。」雄太は少し残念そうな笑みを浮かべながら、美咲の早足を見送った。


「ごめんね、ほんとに!」美咲は振り返りざまに手を軽く振り、急ぎ足で教室を出ていった。


雄太はその背中を見つめながら、心の中で小さく息を吐いた。「……また今度、か。」


鞄を持ち直しながら、教室を後にする雄太の表情には、少しだけ寂しさが滲んでいた。

雄太が教室を出ようとしたその時、後ろから俊樹と裕也が追いついてきた。俊樹が軽く雄太の背中をバンッと叩く。

「おいおい、雄太。美咲に映画に誘ったんだろ?どうだったんだよ?」俊樹がニヤニヤしながら聞いてきた。

雄太は一瞬驚いたが、すぐに顔を背けて答えた。「いや、特に何もないよ。急いでるみたいだったから、また今度って。」

裕也が笑いながら肩をすくめる。「なんだよ、それ。もうちょっと強引に押せばいいのに。『映画は急がないと席埋まるぞ』とかさ。」

「別にそんな急ぐ必要ないだろ。」雄太は努めて平静を装おうとするが、少し言葉が詰まる。

俊樹がその様子を見て、さらに背中を叩きながらニヤリと笑う。「へぇ~、ほんとにそれだけか?雄太、お前さ、美咲のこと好きなんだろ?」

その言葉に雄太は一瞬固まり、「な、なんだよ急に!」と慌てて否定する。

俊樹はさらに肩を組むようにして、雄太に顔を近づけた。「いやいや、もうバレバレなんだって。お前、美咲のこと見てるときの顔、完全に恋する乙女みたいになってるぞ。」

「乙女ってなんだよ!」雄太は俊樹の言葉に呆れつつ、少し顔を赤らめながら言い返す。

裕也も笑いをこらえきれずに、「まあまあ、俊樹の言い方はともかく、俺も気づいてたよ。雄太って、いつも美咲のこと気にしてるもんな。」

「気にしてるって……友達として普通だろ。」雄太は肩をすくめながら、照れ隠しのように目を逸らした。

俊樹がさらに追い打ちをかけるように、「ま、そうやって否定してるうちは何も進まねえぞ。お前さ、もっとガツンといけよ!『俺と映画行かなかったら、泣くぞ』くらい言っとけ!」と冗談を交える。

「お前じゃあるまいし、そんな軽く言えるわけないだろ。」雄太は少し苛立ちながらも、俊樹の言葉に乗せられる気にはなれなかった。

「まあまあ、雄太なりに頑張れよ。」裕也が軽く雄太の肩を叩きながら、「次誘うときは、もっといいタイミングでな。」と励ますように言った。

俊樹は腕を組んで満足げに笑いながら、「とにかく俺がアドバイスしてやるよ。お前がデートプラン考えられるようになったら、相談に来い!」と冗談めかして言った。

雄太は少し呆れながらも苦笑して、「余計なお世話だよ。」とだけ返し、先に歩き出した。

俊樹と裕也はそんな雄太の背中を見送りながら、俊樹がポツリとつぶやく。「でもまあ……あいつ、いいやつだよな。本気で美咲のこと好きなんだろうな。」

裕也は頷きながら、「だな。まあ、応援してやるか。」と静かに答えた。


放課後の静かな大学の図書館で、雄太が一人、テーブルに肘をついてぼんやりと外を眺めていた。いつも明るい彼の姿とは違い、どこか沈んだ雰囲気を漂わせている。


そんな雄太を見つけた紗英が、歩み寄ってきた。


「雄太、こんなところで何してるの?」紗英は穏やかな声で話しかける。


雄太は少し驚いた様子で顔を上げ、「あ、紗英……いや、ちょっと考え事してた。」と苦笑いを浮かべた。


紗英は雄太の正面に座り、じっと彼の表情を見つめる。「考え事……って感じじゃないね。落ち込んでるように見えるけど、どうしたの?」


雄太は一瞬言葉を詰まらせたが、結局観念したようにため息をついた。「……美咲のことなんだ。」


紗英は少し目を見開いたが、すぐに柔らかい表情で彼を促した。「うん、聞かせて。何かあったの?」


雄太はカップに手を伸ばしながら、目線をテーブルに落とした。「今日、映画に誘ったんだけどさ、あいつ急いでるって流されちゃって……別にそれ自体はいいんだけどさ。最近の美咲、なんか距離を感じるんだよな。」


紗英は頷きながら、「距離……か。美咲、ちょっと忙しそうだもんね。」と静かに答える。


「そういうのもあると思うけど、それだけじゃない気がするんだよ。」雄太は続ける。「俺、あいつが何か悩んでたり困ってたりするなら、助けたいって思うんだけど……最近は俺に何も話してくれなくてさ。」


紗英は雄太の言葉を黙って聞きながら、少し考え込むように視線を落とした。「美咲って、確かに自分のことを抱え込みがちだよね。私も時々、全部は話してくれないなって思うことがある。」


「そうなんだよ。」雄太は拳を軽く握りながら言う。「俺、なんか無力だなって思うよ。友達のはずなのに、何もできてない気がして……。」


紗英はふっと笑い、少し体を乗り出して言った。「雄太、それは違うよ。」


「違う?」


「うん。」紗英は優しく微笑みながら続けた。「美咲が雄太に何も話してくれないのは、雄太を信頼してないからじゃないと思う。むしろ、美咲は雄太がいつもそばにいてくれることを頼りにしてるんじゃないかな。」


「……頼りに?」雄太は眉をひそめながら聞き返した。


「そう。例えばさ、美咲って、雄太がどんなときでも優しくて、何も聞かなくても自分を見守ってくれるのを知ってるんだと思うよ。」紗英は言葉を選びながらゆっくり話した。「だから、何かを無理に話さなくても、雄太がそばにいるだけで安心してるんじゃない?」


雄太はその言葉を聞いて少し黙り込んだ。テーブルに視線を落としながら、自分の中で紗英の言葉を反芻する。


「……でも、それだけでいいのかな。俺、もっと美咲の力になりたいんだけどな。」


紗英は優しく笑って、「もちろん、力になりたいって思うのは大事だよ。でもね、雄太、時には『そばにいるだけでいい』っていうのも、立派な支え方だと思うよ。」


「そばにいるだけで……か。」雄太はぽつりと呟き、少し肩の力が抜けたようにため息をついた。


「焦らないで、雄太。美咲にはきっと、少し時間が必要なんだと思う。」紗英はそう言うと、静かにコーヒーカップを手に取った。「雄太は優しすぎるから、いろいろ考えちゃうんだよね。」


「……優しいっていうか、ただの心配性だろ。」雄太は苦笑いを浮かべた。


紗英は軽く肩をすくめて、「まあ、それも含めて、雄太のいいところだと思うけどね。」と微笑んだ。


雄太はその言葉に少し照れながらも、「ありがとう、紗英。少し気が楽になったよ。」と小さく頷いた。


「うん。何かあったら、いつでも相談して。」紗英はそう言って、最後に彼を励ますように笑みを浮かべた。

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