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第7話 信じた者

 タイチョーと部下が去り、倉庫内でナインと二人きりになった事を見計らったように、PICTが着信を告げた。 それは『ウラギリモノ』からの連絡だった。


『やあ、アクム。まさか、()()が現れるとは……。忠告出来ず済まなかったな』


 恐らく『ウラギリモノ』は全てを()ている。 私達の行動から、各地で何が起こっているのかさえ。

「ねえ、さっきの……」私が口を開こうとしたその時、ナインの声と重なってしまった。

「ウラギリモノ、こっちは大変だよ!」

 自分の責任と使命について考えていたであろう手前、その声は熱を帯びていた。


『ナインも元気そうだね。まだ記憶は戻ってない様子だが、調子はどうだい?』

「調子も何も…。なあ、何で二人して俺の記憶を隠すんだい? 知ってることあれば、教えて欲しいんだけど」


 その言葉にウラギリモノは『うん…』と、相槌を入れた後、『それは出来ないよ、ここで何らかの情報を伝えたとして、それは君の本当の想いとは、違う可能性があるだろ。だから、自分で思い出して欲しいんだ』と、言葉を返す。

 ナインが、眉をひそめ納得いかない面持ちで黙る中、ウラギリモノは優しいトーンで続けた。

『ナインも、アクムも。これだけは信じて欲しいんだ。 僕は君の選択に賛同する者だという事、君達の協力者だという事をね』と告げられた言葉に、ナインは小声で「名前が裏切り者なのに」と、呟いた。


 ウラギリモノは、咳払いをすると口を開いた。

『ところで、アクム。S・フクオカが片付けば、次はS・オオサカに向かって欲しい。会ってもらいたい人がいるんだ』


 ここが片付いたらって……。

この人、今の状況解って言ってるのよね?


『今、大変な状況とは解っているが、流石はキサラギ、いい作戦を立てる。きっとうまくいくよ』

 そして続ける。恐らく、ナインの記憶もオオサカで戻る筈だ。と。


「そう。ウラギリモノのシナリオ通りに事が進むよう願っているわ。ところで、さっきの変わった天魔は何なの? まだ沢山いるの?」

 私の問いに、ウラギリモノは『ああ』と、一呼吸入れた後、歯切れ悪く『奴は天魔とは別物だ。元は『エリ』という少女で、()()()()の者だ。僕の調べでは()()()()残っている』と呟いた、その時。

 PICTの向こう『ウラギリモノ』の居る場所に警報が鳴り響いた。

『侵入者1名、玄関ヨリ、武器ソノタ探索機器ショジ』と、いう機械的なアナウンスと共に。


『おっと、また懲りないお客さんのようだ。また連絡するよ』

 そう言うと通信を一方的に切られてしまった。


『ウラギリモノ』 私に真実を伝えた男……。

 まだ会ったこともない、いや、会うこともないその男を私は信じた。

 彼の言葉が本当でなければ、私とナインは救われ無いのだから。


「なあ、アクム。『ウラギリモノ』って……信用していいのか?」

 怪訝な視線のナインが私を覗き込む。

「ええ、大丈夫よ。あなたの記憶の為にも、このセクターを早く攻略しないとねっ!  先ずは…キサラギさんの元に帰りましょう!」


 ── きっと間違っていない、もし、『ウラギリモノ』に騙されているのであれば、私は本当に……この世の『悪夢』になってしまうもの。



 その後、キサラギの元に訪れた私達に、彼女は死傷者0という実績を称えてくれた。

 きつい事を言っていたが、人が死ぬのは本望では無いのだろう。

 一瞬、垣間見えた彼女の笑顔が本来の姿なのかもしれない。


 ヒューマノイドのコーティング作業は夜通し行われるらしく、明日の朝に作戦決行が決まった。

「大した事は出来ないが、一緒に夕食でもどうだろうか?」

 打ち合わせのあと、キサラギが食事の提案してくれたのだが、何故か隣にいたタイチョーが驚愕というべき表情をしていた。 なぜなら、キサラギは今まで一度も人を誘った事が無かったらしく、例に漏れずタイチョーも誘われた事がないらしい。


 悔しがるタイチョーを少し哀れに思いつつ、

「是非お願いします!」私とナインの返事が被る中、キサラギは照れるような仕草をしていた。


 その晩は決して贅沢とは言えないが、キサラギのおかげで、久しぶりにまともな食事を取ることが出来た。

 シェルター上層で営業している大衆食堂だったが、ナインは『トンコツラーメン』に夢中だったし、私も『とおりもん』というお菓子の美味しさに驚愕した。


 シェルター内に食堂があるのは珍しい。

しかも、屋台のように軒を連ねている。

 キサラギ曰わく、つらい状況だからこそ、市民に楽しみが無いといけないと……。


 キサラギは立派な人間だ。このセクターで貧困者を見かけないのは、彼女の優しさが根源なのだろうと納得出来た。


 そして、食事の席でキサラギは言う。

『この作戦が上手く行けば、タイチョーを連れて行って欲しい』と……。

 早くこの国の災厄を収拾する手助けをしたいのだと。


「キサラギさん。 俺、頑張りますよ!」

 ナインが決意のこもった目を向ける中、『私もナインを守らないとね』と、心の中で呟く。


 ── 明日は、激戦になるだろうから。



 決戦の朝、居住スペースにある個室部屋の照明が明るくなり、私は『はっ!』っと目を覚ました。

『今夜はここで寝るから、私の部屋を使うといい』そう言って、昨夜はキサラギがいつも使っている個室部屋を私に貸してくれたのだった。


 寝汗のせいかシーツがジットリとしており、瞼の端からは涙が流れている。

 私は悪夢をみた……。 それは、染人となった友人と両親が襲ってくる夢だった。


「アクムが悪夢を見るなんてね…」

 自嘲気味に独り言を呟き、シャワールームに向かう。 この不快な感情を早く洗い流したいと、少し熱めに設定したシャワーを浴びると瞬く間に浴槽内が湯気で覆われていった。


「今日は大量の染人と戦わねばならないのに、こんな弱気ではいけないわね」


 目の前の鏡は曇ってしまい、私のシルエットしか写ってないが、きっと沈んだ表情を浮かべているに違いない。

 自分の両頬を手のひらで打つと、じんわりとした痛みが不安を少し和らげてくれた。


 染人になった者の気持ちは解らない、自分勝手かも知れないが、彼ら、彼女らの悪夢を終わらせてあげないと…と思う。

 

 もし、染人となった両親と、あの二人に会えれば、その時はすぐ楽にしてあげよう……。

 シャワールームを出ると、刀が目に映る。


「これで断ち切ってあげるわ」


 …ム…アクムッ!どうした?調子が悪いのか!?」 ナインが心配そうに私の顔を覗き込んで来ていた。

「あ…ごめんなさい、ボーッとしちゃって…私は大丈夫よ!」

 こんな事ではいけないな、と、目の前に拳を作り、心配そうに見つめるナインに笑顔を向ける。


「ずっと連戦だもんな、俺も迷惑掛けないように気を付けるから、無理はするなよ?」


「ええ、本当に大丈夫よ!」


 今は、ナインと居住スペースに配られた朝食を階段に腰掛け一緒に食べている。

 ボソボソして美味しいとは言えない栄養食だが、殆どの人に支給が行き渡っているようだった。


「なあ、アクム。このセクターが片付いたら、1日くらい休養を取らないか? ここの地上には、いい温泉があるってタイチョーも言ってたし…休む事も大事だと思うぞ」

 ナインが気遣ってくれているのがわかる。


「それもいいかもね。問題があれば『ウラギリモノ』から連絡があるでしょうし……。もしかして、ナインが休みたいだけじゃ無いでしょうね?」


「あちゃー、バレてもた!」

 わざとらしく、ナインが自分のおでこを『ぺちん』と叩く仕草に、ふふっ、と笑いがこみ上げる。


「よし!愛しの温泉ちゃんの為にも、がんばりましょうか!」


「願わくば!混浴で!」

 ナインの言葉に驚いてしまい、反射的に彼の頭をはたいてしまう。

「いってー!殺人級のツッコミ…」

 そう言うと二人してお腹を抱え笑った。 これだけ笑ったのは久しぶりだった。

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