表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/72

第5話 ヒューマノイド

 キサラギを先頭に階段を下ると、そこには大きくひらけた空間があり、全体が見下ろせるタラップの上に出た。

 そこで私の目に映ったものは……。


 300人位の男女が整列している姿、そして彼等は微動だにしていなかった。

 いや、これは……人ではない。


「ヒューマノイド……」

つい、私の口から言葉が漏れていた。


「そう、ヒューマノイドです。『ADM(アダム)』に知られると処罰対象となります」


『ADM』とは、各セクター長の決定事項を承認否決する人工知能で、いわば、AIの大統領と云うべきか、A decision maker(決定者)の頭文字からそう呼ばれていた。


 そして、目の前に整列しているヒューマノイドは云わば人型のロボットで、その外見は普通の人と見分けが付かない。50年程前には普通の人に混じり街中にも居たのだとか。

 しかし、ヒューマノイドを理想の人に近づけすぎたため、人間同士の結婚が減少、人口減を加速する結果となり、『ADM』は製造禁止を決定するに至ったのだ。


 ナインは手摺りから身を乗り出すと、ヒューマノイドを見渡す。

「うわー綺麗な子と、イケメンばっか…ん?もしかして、S•サッポロの美人秘書って…」


 キサラギは悲しげな横顔で話す。

「不本意ながら、今も特権階級者を対象として、秘密裏に製造を続けています。特権階級の圧力により、他のセクターも黙認姿勢を取っている状況です。とはいえ、このセクターの重要な収入源であることは変わりません」

 そう言うと、彼女は細い溜息をひとつこぼした。


「盾に……するんですね?」

キサラギの口から聴くまでも無く、私は作戦を理解する。

「ええ、これだけの数があれば充分に敵の攻撃を引きつけられると思います。問題は、天魔からの干渉が考えられる為、電波妨害のコーティングが必要ということです」


 ── 賢い人だ。

PICTが遮断された中で、独自に天魔の正体を調査し、目星までつけたのだろう。

 その上での作戦だったら、上手く行くかも知れない。


 しかし、天魔のシェルター侵入まで約3日しかない。

「作業に必要な時間はどれ位ですか?」

「作業自体は半日あれば可能です」


 それを聞いて安堵したのも束の間、「しかし、材料がシェルター内にはありません、先ずは、コーティング剤の確保が必要となります。そこで、タイチョー率いる天魔対策部隊と一緒に、地上にあるコーティング剤の確保をお願い出来ないでしょうか?」というキサラギの言葉に、私はすかさず反論した。


「ちょっと待ってください!天魔対策部隊といっても、普通の人でしょう? 天魔の攻撃もあるし危険です!」

 その意見に対し、キサラギは冷静な口調で返す。

「大局を見てください。少しの犠牲で他の大勢が助かるかもしれない。少しの犠牲を恐れて多くを失えば、それは本末転倒です」

 ── 確かに一理あるけど、危険すぎる。


 暫しの沈黙を打ち破る様に、ナインが突然質問を投げかけた。

「キサラギさん、コーティング剤の有る所って解ってるんですか?」


「はい、非常口E-6出口より北へ50メートルの所に化学工場が建っています、そこに有ります」


 それを聞いたナインは不敵な笑みを浮かべ「俺に任せて下さい。誰一人傷付けず、コーティング剤取ってきますよ。アクム、タイチョー手伝ってくれるよな?」と、自信がある様子で親指を立てていた。


「勿論よ」

「勿論です!」


 その後、ナインが話し始めた作戦は、確かに被害が出ないものだった。

「天魔には、残念なお知らせだ!」と、自信を持って話す彼の姿に、私は目を奪われていた。



 ……が。


「ナインっ! 何が『天魔に残念なお知らせ』なのよっ!こっちが残念な結果になりそうよっ!?」

 地上に出た私達は、襲い来る天魔と交戦していた。


 女神タイプと天使タイプ合わせて30体以上、次から次へと湧いてくる。染人は中央塔防衛に集中している為か姿は見えず、私にとって幸いといえたが。


 隣でタイチョーが叫びながら、武器の長い棒を振り回している。彼が言ってた通り、兵器でも倒せない天魔に有効打を浴びせていた。

 タイチョーは天魔の視線を防ぐ為に、ゴーグルを着用している。 表情までは分からないが、きっと鬼のような形相になっているのだろう。その気迫が肌を通して伝わって来る。


「アクムさん達は、天魔の目で洗脳されないんですか?!」

 タイチョーの余裕ある問いに、「ええ、私とナインは大丈夫よ」と返す。

 確かに私達は天魔の瞳で染人化しない。

でも、その理由を私自身よく理解していた。

 ── この世界における異物だという事に。


「アクムさん! あの女神みたいな奴は頼みます! 自分では致命傷すら与えられない様です!」


「ええ、任せて。ナインも早くなんとかしなさいよ!」


 刀から放った衝撃波で天魔を倒しながら、ナインに目を向けると、「アクムは本当に人使いあらいなぁ。上手くいくと思ったんだけどなぁ」と、彼は防壁をアーチ状にしてトンネルを造り続けていた。

 しかし、上部のカーブした部分で手こずっている。


「つっっ!!」

一瞬の油断だった。天魔の槍が私の左腕を掠める。

「一旦引きましょう!」

タイチョーの言葉でトンネルの中に避難すると、ナインが入り口を塞ぎ、明かりを灯した。


「アクム!大丈夫か!?」

ナインが心配そうに、流血している私の左腕に布を巻こうとしてくれるが、そこに、タイチョーが「私に任せてください!」と割って入り、そのつんざく声がトンネルに響いた。

「耳…が…… ちょっと!タイチョー!」

こっちの方がダメージ大きいかも…。


 タイチョーは私の傷口に手をかざすと、暖かい光が辺りを照らした。

「傷が塞がっていく!!」

 それは衝撃だった。私やナインの使う常人離れした能力は戦闘特化だと思っていたが、まさか治癒が出来るなんて。

 切り裂かれたコートも治っていく様子にナインも『すげーな』と、開いた口が塞がらない様子だった。


「有り難う。凄い能力を使えるのね」

タイチョーは恥ずかしそうに頬を掻きながら

「自分はこれでも医学を専攻していましたので、治療をイメージすれば出来たのです!」と語る。

 そこには隠しきれないドヤ顔も含まれていた。


「それにしても…ナイン!早くしないと倉庫に着くまで日が暮れちゃうわよっ!」

 ついつい言ってしまった。死傷者を出さない良い方法とは解っているが、流石にこの数の天魔を相手に気が立ってしまっている。

 日も傾きはじめ、時間も想定以上に掛かっている焦りもあったのかもしれない。


「済まない…防壁をカーブさせるイメージが難しくて、中々進まないんだ」

 ナインの悔しそうな表情に、言い過ぎてしまった事を後悔した。

 言い過ぎた事を謝ろうと思ったその時だった。

「なら、カーブさせないで、箱型で作れば良いのではないでしょうか!」というタイチョーの言葉…


「………」

「………」


「よし!ウォーミングアップは終わりだ! これからスピードアップするぞ!!」


「何が『よし!』よっ!!私達の苦労を返しなさい!バカナイン!」


 その後すぐに、難なく倉庫までのトンネルが完成する事になる。


「ふぅ、思ったより時間が掛かったわね。ナイン?」

「ごめんなさい」


 たどり着いた倉庫にはコーティング材が山積みされていた。流石に三人で運び出すには無理があるため、タイチョーは完成したトンネルを使い部下を呼びに戻っていった。


 その後、ナインはせっせと倉庫内の内側を防壁で固め、天魔が出現しない様に準備を進めていたが、あとは天井だけ…という時点で、『その天魔』は、再び私達の前に現れた。


 それは、厄災の日に見た悪夢を、絶望を…… 私に思い出させたいかの如く、唐突の事だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ