表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/72

第40話 記憶の罠

 中央塔正面。

タイチョーが、カグラに貰ったパスカードをポートにかざすと、入口の扉が静かに開いた。

「自分の力が使えるようです!皆さん、天魔に気をつけて下さい!」


 目の前には銀色のフロアが広がっている。もう何度も目にしてきた見慣れた中央塔の内部だった。


「天魔が居ないわね」

 警戒しながら歩みを進めるが、何も襲ってこない。脳裏にS・ヒロシマで遭遇した巨大天魔の姿が過ぎる。

 俺は、中央塔に入る前、『緑の矢』を腕輪にストックしておいた。

 どうやら、5本が限度のようで右手の腕輪は淡く緑色に輝いていた。


「タイチョー、ヒロシマのときと同じかもしれない。後方にも注意を払ったほうがいい」

 俺の言葉にタイチョーは「そうですね」と、新しい武器を握り締める。警戒する俺たちにアクムは

「それって、ナインが言ってた『超大型天魔』のこと?再生するのは、確かに厄介だわ」と、刀を鞘から抜き構えた。


 固い床にこだまする足音。それ以外は電子機器の作動音しか聞こえない。

 その後しばらく歩を進めたが、天魔は現れなかった。


「きっと、何か企んでいる事でしょう!」

 タイチョーの懸念はもっともだった。中央塔を攻略するたび、天魔は何かしらの対策を講じてきたからだ。人の考え得る範疇を超えた罠が待っていてもおかしくはない。


 タワーの中層位まで来ただろうか。

緊張し続けることで、体力が消耗する中、急に視界が拓けたフロアに出た。

 そこは、タワー内部のはずなのに、地上の風景が広がっていたのだ。

 大きな幹線道路に高層ビルの群。これは、四方に映像を投影しているのだろう。


「誰かがいる!気をつけろ!」

 そのスペース中央に二人の人影が見え、俺は両手を前に突き出した。

「アクム? タイチョー?!」

 しかし、二人は武器を構える事なく、脱力したかのように両腕を下げていた。

 次の瞬間、アクムは刀を落とし甲高い金属音がフロアに響き渡る。


「お、お父さん!お母さん!!」

 アクムの発した言葉に耳を疑った。俺には人影が同年代の青年と少女に見えたからだ。アクムの両親の年齢とは考えられない。


 続けてタイチョーも、「キサラギ様!親父!」と、叫ぶ。

「アクム!タイチョー!しっかりしろ!!」

 理解できない状況に混乱する中、不意に同年代の青年が俺に語りかけてきた。

『おいおい、アルト。親友の俺を忘れてしまったのか?』


── 何を言っている?誰だ…アルトって?


 続けて青いツインテールの髪型をした少女が口を開いた。

『アルト。私が間違っていたわ……。あなたが正しいとわかったの。さあ、一緒に帰りましょう。『こんな展開の続き』の約束、忘れてないわよね?』


「誰なんだよ、アルトって!? あんたらは誰なんだ?」


『私を忘れたの? 私はユノよ』


── ユノって誰だ?


『こう言った方がいいかしら?』

 そう言うと、少女の姿が変わっていく。 青緑色に輝く髪と瞳。身体のラインがわかる黒くタイトなコンバットスーツ。その上から白のコートを纏っていた。

『私は『瑞夢ズイム』腐りきった現実を正す夢……と』


 刹那、脳裏にフラッシュバックする記憶の断片。

「ズ…イム…!」

 それは、俺が倒さなければならない相手だという事。 しかし、その理由までは思い出せなかった。


『なぜ、あなただけ暗示にかからないの?』

 そう語るズイムに構わずアクムとタイチョーは、ふらふらと二人に近づいていく。

 そして、ズイムの背後に天魔の軍勢が現れた。


「アクム!タイチョー! 目を覚ませ!」

 俺の叫びは届かず、二人の歩みは止まらなかった。


「くそっ!」

 正体不明の二人と天魔向け、右手の腕輪にストックした緑の矢を全弾放つと、その反動で腕が跳ね上がる。

 想像以上の威力で放たれた矢の塊が、甲高い音とともに二人を射抜いたが。

 

「効いて…いない!?」

 緑の矢が二人と映し出された風景を貫くと、派手な衝撃音がフロアに響いた。おそらく、中央塔の内壁に当たったのだろう。その僅かな瞬間だったが、風景と謎の二人に一瞬ノイズがかかる。


── もしかすると、全ては幻影…敵の本体は。


「アクム!タイチョー!暫く我慢してくれ!」

 そう叫ぶと、俺は二人を防壁で包み込んだ。


『アルト。私達は守ってくれなかったのに、その二人は守るのね』

 ユノという少女の言葉に、彼女の笑顔と白衣を着た男性の姿が脳裏にフラッシュバックする。それと同時にめまいが襲ってきた。


「俺の名はナインだ! 訳のわからない事を喋るなッ!」

 俺は等身大の岩をイメージすると、それを四方に向けて何発も放った。

 辺りに鳴り響く衝突音と共に、ノイズがかかる風景。 

── どこかにあるはずだ。この光景を作り出している本体が!


『アルト。あなたを許さない』

 ズイムが腕を突き出すと、夥しい数の天魔が四方から俺に襲いかかる。

 左右から突き出される天魔の槍を躱し、上から降り注ぐ矢を腕で払う。

 身体の反応が速くなっているのは、カグラの開発したインナースーツのおかげだったが、圧倒的な敵の物量に押され始めていた。


── ここで負けられない。 せめて、()()()みたいな攻撃が出来れば!


 俺は微かな記憶を辿り、辺りに光球をイメージする。すると、激しい頭痛を伴い無数の光が現れた。

「蹴散らせッ!」

 俺の叫びと共に光球間で電流が走る。

それにより、天魔は虹色の破片と化し辺りはノイズに呑まれて行った。


『アルト。いずれ必ず決着をつける日がくるわ』

 そして、ズイムと青年は消え去り、映し出されていた光景は見慣れた中央塔内部へと戻っていた。


 上部から落ちてきた、大破した基盤。 おそらく、これが映像の原因だったのだろう。

「はぁ、ヤバかった」

 激しい頭痛が続く中、アクムとタイチョーの防壁を解除すると足の力が抜け、その場に片膝をついてしまった。


「何があったの…ナイン!大丈夫!?」

 我を取り戻したアクムが駆け寄ってくる。

「ああ、なんとか……な。ここで気を失えば、また『お寝坊さん』呼ばわりされちまうから」


「冗談言ってる場合じゃないでしょ!顔色が真っ青よ!」


 不意に頭痛が治まった事に、後ろを振り返ると、

「ナイン済まない!また助けられたみたいだな!」

 タイチョーが俺の頭に手をかざし、治癒してくれていた。


「タイチョー、ありがとう。こっちも助かった」


 天魔の攻撃が多彩となっている。

今回は俺が記憶を失っていた為、なんとかなったが。 カグラさんの装備が無かったと思うと寒気がした。

 それにしても、先程のニ人は俺の事を『アルト』と、呼んでいた。


 ── それが、俺の本当の名前なのか?


「なあ、アクム。『アルト』って知っているか?」

 俺の質問にアクムは表情を陰らせながらも、しっかりと視線を合わせてきた。

「ええ、知っているわ。きっと、あなたの本名。そして、この国を守ろうとしていた人の名前よ」


 そうだ……。俺の名は、アルト。

S•オオサカに住んでいた。そして、ズイムに裏切られて……。

 しかし断片的に記憶が戻るが、繋がりが無く曖昧なままだった。


 アクムは寂しげな声で、「これから、あなたの事を何て呼んだらいい…?」と問いかけてくる。その声は震えていた。


 穴の空いた壁からパラパラと破片が落ちる。

それをみて、俺の記憶が戻ってもアクムとタイチョーとの関係は崩したく無いと思った。


 ──どこかで聞いたな。

『大切な人と世界どっちを選ぶ?』と。


 大体の人であれば『世界』を選択するのだろう。

だけど俺は……大切な人、仲間を失いたくないんだ。

 たとえ自分が犠牲になっても、どっちも救いたい。わがままな願いだとわかっていても。


 俺は息を大きく吸い込むと、答える。

「俺の名前は……決まってるだろ。これからは、こう呼んでくれ」と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ