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第2話 セクター•サッポロ

 防衛システム撃破後も、依然として現れる天魔の妨害を受けながら辿り着いた中央塔の最上階。


 私は『ウラギリモノ』から、PICTにダウンロードしてもらったコードを使い重厚な扉を開くと、目の前には円錐型の都市総合通信管理システム『パンドラ』が姿を現した。

 確か、名前の由来は、

P()ICT A()ll N()etwork D()esision R()eaching A()DM

 の、頭文字だった筈だ。


 その本体が放つ様々な光は、まるで巨大なクリスマスツリーの様にも見えた。

「これでっ!2つ目っと!」

ナインが魔法のような弾丸を放ち、実に呆気なくパンドラはその光を失う。

 これで、この一帯の『天魔』は消滅し、『染人』も無力化する筈だ。


「ナインお疲れ様っ。それじゃあセクター長に報告しに行きましょうか!お礼を貰わなくっちゃ!」

 私が刀を鞘におさめようとした時だった、突然PICTが受信を告げた。

 目の前に『Sound Only』という文字が浮かび上がり、『…やあ、アクム………………』と話し始めた男の声。

 それは、ウラギリモノからの着信だった。



「どうぞ、こちらに」

そう言う美人秘書に連れられて来たのは、地上にあるセクター長の執務室だった。


 セクター長に会う為に向った地下シェルターで待っていた彼女いわく「ご主人様は地上にお戻りになりました。どうぞ、ご案内致します」との事だった。


 しかし、セクター長を『ご主人様』って、一体どういう事なのかしら?

 そして…ナインの表情。 そのふにゃけた顔、何とかならないのっ!?


 その、ふくよかな胸の美人秘書がノックして開いた扉の先には、ふくよかな体躯…… いや、肉団子の様な男が、上機嫌な様子で迎えてくれた。


「なまら…… 失礼、とてもお強いのですな」


 そう、このセクター•サッポロを治める長だった。名前は…聞いてなかったし知りたくもない。

 大きなソファに身を沈め、庁舎内にも関わらず煙草をふかし、むせる様な匂いが部屋中に充満していた。

 内装は豪華なもので、様々な調度品が飾られている様子に『一体税金を何に使っているのだろう?』と、疑問が頭をよぎる。


 S(セクター)・ナガノから『リニア・ライン』を使用し、ここに来たときは、私の左目のせいで天魔の遣いだとか、ナインの髪を見て染人が来たなど散々言われたが、今では手の平を返した様に対応が変わっていた。

 自分にとって利益がある人物に対し尻尾を振るようなその態度に、私の苛立ちが募っていった。


 ちなみに、リニア・ラインとはセクター長のみが使える『特別車両』のようなものだ。

 地下の減圧されたパイプ内を走る磁気浮遊車両で、各セクターを繋いでいる。

 セクター長同士の会合はPICT回線で行われる為、視察という体で観光目的にしか使われないと、どこかの評論家が言っていたが……。


 話を戻すと、私達はこのセクターに国の機密戦闘員という建前で潜入した。

 災厄の日以降、PICT回線は沈黙し、情報が遮断された中で私達の言葉を信じるしか無かったのだろう。

 渋々パンドラの破壊を前提に報奨金を約束してもらったと云う訳だ。


「お陰で地上に出ることが出来た。本当に何とお礼を言っていいものか解りませんなぁ。 これはお約束した代金ですが、本当にこれだけでよいのですか?」

 男はそう言うと、厚みのある封筒を差し出してきた。

 誰が電子マネーが使えなくなる事態を予想しただろうか。パンドラの上に成り立つ経済とは、いかに脆く危ういものなのだろう。

 電子マネーが主流となった今、紙幣はその芸術性も含め価値が上がっており、要求した金額があれば当分困らない筈だった。


 私は封筒を懐にしまいながら、セクター長に向かって口を開いた。

「十分です。だだ、ひとつお願いがありまして。リニア・ラインをお借りしたいのですが」


 数時間前、無事ナインの特技《攻撃》によってパンドラを沈黙させた直後に『ウラギリモノ』より連絡が入った。

 本来、中央塔がPICTの電波基地となっており、『パンドラ』無き今は通信が出来ない。

 しかし、圏外の状態でも、何故かウラギリモノからの連絡は受ける事ができた。


 内容は次の指示で、S(セクター)・フクオカ(旧九州地方)に向かって欲しいとの事だったが、ここからだとフクオカは非常に遠い為、リニア・ラインを使わせて貰うよう頼め、拒んでも強奪出来るだろう?と、呑気に言っていたが……


 しかし、考えてみれば、S・トウキョウ(旧東京地方)の方が遙かに近いはず。何故遠回りさせるのだろう?

 そんな私の想いが顔に出ていたのか、「なんで、わざわざ遠いとこに行くんやろ?」と、ナインも首を傾げていた。


 ナインは稀にS・オオサカ(旧近畿地方)のなまりが出る事がある。ナインの記憶の為にもS•オオサカへ先に向かう提案もしたが、ウラギリモノの答えは「今はまだ、駄目だ」だった。

 ウラギリモノの考えは、全く理解が出来ない。


 セクター長はゆっくり立ち上がり、「リニアライン? 勿論結構ですとも! しかし、本当は此処に留まってボディーガードをお願いしたいんだがねぇ…… 金はいくらでも用意させてもらうぞ」と、あからさまな作り笑顔で歩み寄ってきた。


 命を狙われないように政治を行うべきじゃ無いだろうか? 私は不快感を隠す事なく「私達には使命がありますので」と、こたえながらナインを見ると、同じく嫌悪感を抱いるようだった。


 セクター長によると、リニア・ラインは整備中の為、出発は明日になるとのことだった。

 お礼として食事と観光のお誘いがあったが丁重にお断りし、宿泊先だけ手配して貰い庁舎を出ると18時という時間にもかかわらず、辺りはすっかり暗くなっていた。


「ふぅ、私あの人苦手だったわ…」

庁舎を出た途端、大きな溜め息をついてしまう。

「俺もだよ。何食ったらあんな体型になるんだ?それに、あんな美人にご主人様って呼ばれてるんだぜ!?」

 ナインも表情をしかめたまま灯りの無い建物達を眺めながら歩く。


 地下シェルターから戻って来ている人もまばらな為、街は本来あるべき姿を取り戻してはいない。

 地上にいた『染人』は天魔消滅と共に無力化する。今は一カ所に集められ、回復に努めるということだが、望みが無いことを私は知っている。


 私の気持ちが天に届いたのか、雪が降り始め、一面を白く染め上げていった……。

 その光景はまるで、穢れた大地を浄化するように。いいや、一時的に見えなくするかの様に。


 S・サッポロは観光名所で知られており、

いつもの街は輝きに満ちているのだろう。

 今は消えてしまっている数多くの電飾はいつしか再び光を放つのだろうが、染人は再びその瞳に輝きが灯ることが無い。

 ふぅ…と、私の白い溜め息が闇に溶け込んで消えた……。

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