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第17話 アルト

※アクムの意識干渉によりアーカイブエラーが発生。

 視点を変更………完了

日時 2157年12月23日(金)17:28

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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

      LOG:アルト

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 学校の帰り道、街は夕焼けに染まり、ネオンが点り始めていた。ビルのガラスに反射する光と夕日の強烈なオレンジが混ざり合い、俺は目を細めた。


「なあ、有斗(アルト)、お前の『ジェネシス』の決勝トーナメント戦、今日やったっけ?」


 同級生の中崎貴志はアイスを口に咥えたまま喋る。器用なやつだなと思う一方で、寒い中でよくアイスなんて食べられるもんだと感心した。


「ああ、今夜19時からだけど、相手が強いんだよなぁ」

 対戦相手の名前は『ズイム』という。名前の由来は『瑞夢』だろうか? たしか『いい夢』という意味だったと思うが、彼女と対戦する者にとっては悪夢でしかないほど強い。あの実力なら、プロチームに所属していてもおかしくないが……。


「でも、策士の有斗くんには、とっておきの秘策があるんやろ? やっと、お前の本気が見れるな!」


 そう、『ズイム』の予選試合を見たとき、手の内が知られたら勝ち目がないと悟った。それで、初戦直前に得意の近距離攻撃を封印することにしたんだ。


 それにあわせて、見た目も遠距離攻撃が得意そうな服装に変えた。おかげでイメージが定まらず、操作はハチャメチャになり、決勝トーナメントにたどり着くまで苦戦を強いられたけど……。


 アイスを食べ終わった貴志は、棒を口から抜くと、「にしても、なんで公式戦には出ないで非公式ばっかりエントリーするんだよ? お前なら、世界王者の『ハデス』にも勝てるんじゃね?」と、不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。


「ゲームは好きなんだけどな……。親があまり良い印象を持ってないんだ。だから、目立たないようにしてるんだよ。全く、考えが古いっていうか、『将来、ゲームなんぞで家族を養えるか!』ってね」


 eスポーツの人気は高く、スポンサーのついたプロになれば、スポーツ選手並みに稼ぐ者もいるというのに。


「もったいないなぁ。あふれる才能を持ちながら、それを活かせないなんて。少しでいいからその才能、分けてもらいたいわぁ。きっと、ご両親は将来、うだつの上がらない『サラリーマン有斗』を見てガッカリするんやろうな……」


 『うだつの上がらない』は余計だと言いかけたが、言葉を飲み込んだ。果たして、好きでもない仕事を毎日繰り返す日々に楽しみはあるのだろうか? このまま、親の敷いたレールの上を走り続ける意味は……。貴志の言葉が妙に胸に刺さる。


 俺が代わりに口にしたのは、「サラリーマンって……まだ俺たち、高1だぜ」だった。


 風景はいつも通りだ。空には飛行車が行き交い、道路には卵型のモビリティ。歩道には、自走移動機に乗って見下すような表情の高所得階級者もいれば、地べたにシートを広げて、売れることのないだろう商品を並べながら物乞いをする者もいる。


 いつからこんなろくでもない世の中になったんだろう……。


「今日の試合、見てるからな! 頑張れよ!」

 貴志は左手をひらひらと振り、角を曲がっていく。彼の首元にある『PICT』が夕日を反射してギラッと光った。

 


 自宅マンションの玄関を開けると、室内の照明が一斉に点灯する。「ただいまー」と声をかけてみるが、返事はない。いつものことだ。


 俺の両親は共働きで夜勤が多い。帰ってくるのはいつも朝の3時前後だ。休日出勤すると手当がつくらしく、休みは平日、月曜日から水曜日にしている。仕事は、国が行っている夜行性動物の管理らしいが、詳しいことは知らない。


 自分の部屋に入り、『PICT』を首から外してデスクに接続すると、目の前に大きな画面が現れ、メニューが表示された。


「あれ?」

 メニュー画面に『新着メッセージ1件』と表示されている。着信があればわかるはずだが……今来たのか?と不思議に思いながら開封すると、『ジェネシスカップ 運営より』というタイトルの下に次の本文が書かれていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

決勝トーナメント参加の皆様へ。


 この度は決勝トーナメント進出おめでとうございます。

前もって連絡致しましたが、試合開始時間は本日19時で変更はございません。開始20分前までにはログイン頂きますようお願いいたします。


 なお、試合会場にお越しになれない方を対象に、試合前のコメントを頂戴したいと思います。下記コメント欄にご入力、返信頂きますようお願いいたします。


 賞金のお支払いにつきましても、以前お伝えした通り変更はございません。


それでは皆様の熱い戦いを楽しみにしております。


以上。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「コメントねえ……」

急に言われてもなぁと思いながらも、デスクにキーを表示させ、文章を入力していく。音声入力やイメージ入力が主流だが、俺は頭のトレーニングのため、今でもタイピングを続けている。


『決勝トーナメントまで来れたのは幸運でしたが、初戦がズイムさんとはツイてないですね。ちょっと怖そうですし……できるだけベストを尽くしたいと思います。』


「こんなもんか?」

 少しビビってるふりをしておけば、少しは油断してくれるかもしれない。我ながら抜け目ない……そう思いながら、「返信っと!」とenterキーを押した。


「しかし、この賞金額の多さは一体……」

エントリー時には桁が間違っているのでは?と思うほどに、優勝賞金が非公式大会としてはあり得ない額だった。確かに予選だけで30人以上と対戦したため、参加人数は多いのだろうが、それにしても額が大きすぎる。


 だが、これが俺にとってはまたとないチャンスでもあった。優勝賞金を獲得すれば、両親の固い頭を正すことができる。eスポーツのプロになれば稼げるのだと証明できる……。


 時計を見ると、19時まではまだ時間があった。対ズイム作戦のおさらいでもしようと『ジェネシス』のソフトを立ち上げ、コントローラーを頭に装着する。


 何度もシミュレートし、抜かりはないと思うが、今夜の相手は少しのミスが命取りとなる。何度、作戦通りの動きを確認しても足りないだろう。


 作戦はこうだ……。


 ズイムは俺が遠距離攻撃主体と思っているはずだ。開始直前まで間合いを取るフリをして、開始と同時に接近する。接近方法は、皆がよく使う重力方向変更式ではない。それだと初速が遅いため、距離が離れていれば見切られる可能性が高い。


 そこで、奥の手『空間消去』を使う。自分と相手の間の空間を切り取り、貼り付けることで、まるで瞬間移動するかのように移動するのだ。この特技はまだ誰にも見せたことがないため、成功確率は高いだろう。


 接近と同時に得意の直接攻撃を打ち込む。2連続ヒットでダメージ量は40%を超えておきたい。相手を吹き飛ばした後は、着地点に遠距離攻撃の罠を仕掛ける。うまくいけば、この時点で勝てるかもしれないが、回避されたことを想定し、電撃の矢を複数放っておけばいいだろう。


 そして、ズイムを感電させ、直接攻撃の連撃でとどめを刺す。


「ズイムには、残念なお知らせだ」

 つい口にした呟きに、油断してはいけないと気を引き締める。


 決勝トーナメントのメンバーを見ても、初戦のズイムがズバ抜けて強い。今夜勝つことができれば、優勝は目の前だと言っても過言ではない。


「優勝あるのみ!」

拳を握りしめると、じわりと汗が滲んできた。


 そして、決勝トーナメント第一試合……ズイムとの対戦が始まった。

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