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第13話 ジェネシス

『ジェネシス』の決勝トーナメント戦が、間も無く始まる。


 超満員の店内は異様な熱気に包まれていた。

 客の半数近くがズイムやアルト、または自分のキャラクターだろうか、コスプレ衣装に身を包んでいる為、私服姿の3人がモニター最前列で陣取っていると少し浮いている感じがする。


 今夜は決勝トーナメントの8名が対戦し、

明日は準決勝と決勝が行われる事になっていた。


『レディース・エーンド・ジェントルメン!!

寒空の下、一番熱い夜にYO-KO-SO! 今夜皆様に、セクター・トーキョーからお届けする……』

 スクリーンに映し出されたピエロの様な格好のMCが妙なハイテンションで番組開始を告げ始めた。


 S(セクター)・トウキョウというのは、以前は『首都』と呼ばれていた地域である。中央集権体制が崩壊し、現在の分権社会になったのは何十年も前の事で、その時に地名の呼び方も変わったと以前に習った。


 ちなみに私達がいるのはS(セクター)・ナゴヤと云い、昔は愛知県と呼ばれていたらしい。


「壁面一杯に映し出されたスクリーン真正面で、サンドとポテトを頬張りながら至福の表情を浮かべる女。 その名はメア! 彼女はこれから始まる一大イベントよりも手中に収まった食料をどう攻略するかが、大事なのであった。うぐっ!」

 やれやれといったポーズのトオルにアズサの脳天チョップが華麗に炸裂する。


「成長期の健全な高校生という証拠でしょ。 トオルは止まっている頭の成長期を何とかしなさい!」

 アズサは更に言葉の追い討ちでたたみかける。 トオルは『はぅぁ』と、変な声を漏らし、テーブルに沈んだ。


「んふっ!ちょっと二人共、吹き出しそうになったじゃない!」

 目の前で繰り広げられるコントのようなやりとりに、ポテトが喉に詰まる。

 涙目になりながら、注文していた抹茶オレで勢い良く流し込んだ。


『…決勝トーナメントからは時間無制限、1本勝負! 1回戦の両選手はホームからの参戦、よって、残念ながらフェイス・トゥ・フェイスはナッシングだ!』

 このMC、言語が破綻しているな……と、口元を拭きながら思っていると、復活を果たしたトオルが「ちっ、家から通信かぁ… ズイム様のご尊顔を拝めると思ってたのになぁ」と、短い舌打ちをした。

 会場内の観衆も同じ想いだったのだろう、不満の声が辺りに充満していった。


 決勝トーナメントからは試合会場が設置され、プレイヤー自身も登場することになっていたが、ズイムとアルトは予選同様に自宅からの通信参加になるとのことだった。

 

「そもそも、なんで金曜日の夜にするのかしら。私達学生は社会人の週休3日と違って休みは2日しかないのに。 プレイヤーが学生で、会場の『S•トウキョウ』から遠い所に住んでたら、そりゃ来れないでしょ。これは運営側のミスね」

 アズサも腕組みをしながら不満の表情をしている。


『残念な顔をしている、そこのベイベー、今日は特別に1回戦の2人に回線を繋いでるぜ!試合前のホットな一言、頂こうじゃない!』


 MCの意外な発言に『おおっ!』っと、ざわめきが走る。 ゲーム内で言葉のやりとりは出来るのだが、コレまでズイムとアルトは殆ど話した事がなく、掛け声位しか聴いたことがない。

 店員を含めたその場全員が注視するスクリーンに、『Sound Onry』という小窓が現れた。


『レディーファーストに則り、ズイム選手から、決勝トーナメントの意気込みお願いできるかな!』


 まるで時が止まった様に、店内の喧騒が消える……。


『準備は出来ているわ。そんなの、いいから始めましょう』


……………。

 透明感のある女性の声だった。 静かだが力強く、短い言葉の中に、何だか鬼気迫ったものさえ感じる。

 しかし、彼女の予想だにしない冷ややかな言葉に、店内はどよめきが走った。


『…く、Coolなお便りサンキュー。続いて、アルト選手宜しく!』


 暫くの間があり、聞こえてきたのは、

機械的な声だった。音声読み上げソフトなのかもしれないが、声を聞かれると何かまずいのだろうか?

 店内のどよめきはざわつきへと変わる。


『決勝トーナメントマデ 来レタノハ幸運デシタガ、 初戦ガ ズイムサントハ ツイテナイデスネ。 チョット怖ソウデスシ・・・ デキルダケベストヲ ツクシタイトオモイマス』


『いっ、1回戦はとても個性的なプレイヤーのようだね……』

 MCも想定外の出来事だったのか、動揺を隠せない様子を払拭すべく言葉を続けた。


『無傷の女王、ズイム選手の独壇場となるか? それとも、アルト選手が得意の遠距離攻撃で寄せ付けず撃破か! 今宵、初めからして好カード!さあ、君達は時代の目撃者となる! 間もなく1回戦の開始だ!』


 熱狂的なアナウンスの後、一旦画面は変わりコマーシャルが始まった。


『古くから食文化に改革をもたらしてきた!セクタァー・オオサカが送る………南海屋台の【たこのみ焼き】!!』

 何故かセクシーな水着美女が、たこのみ焼きを片手に砂浜を満遍の笑みで疾走している。

 たこのみ焼きとは、たこ焼きとお好み焼きを融合させた食べ物で、決して()()()()ではない。

 しかしこのシュチエーションで、一体何を伝えたいのだろう?

 トオルがだらしない顔で、美女の揺れる谷間の虜となっている様子に、自然と私の口から溜息がこぼれ出た。


「ねえ、メア?どっちが勝つと思う?」

アズサからの唐突な質問で我に帰ると、

「うーん、普通はズイムの圧勝と言うんだろうけど、アルトが何か起こしそうで……」

 言葉の途中、目を見開いたアズサが切り込んできた。

「やっぱり!メアも気づいてた!? アルトのダメージ上限越えてること!!」

 

── 初耳だった。

アズサは続けて、

「ゲームで単発ダメージ上限は大業の25%じゃない!ところが、ベスト16で見せた技は34%だったのよ!」


── ああ、先程街の光景と重なったあの技か。

「でも、あの特技は単発じゃなくて連続攻撃になるんじゃ…?」


「それがね、部室で解析の結果、あれは初めの一撃によるダメージ量だったのよ!」

 ということは、あの特技は30%超えの連続攻撃だったと…あの距離で!? そんな馬鹿なことは、ありえない。

 ジェネシスのダメージ量は質量×速度×距離の概念で、ある程度はわかる。

 遠距離で素早い攻撃はダメージ量が少なくなる為、今の話は矛盾している事となる。


 頭の整理がつかない中、CMが終わり画面がプレイフィールドに切り替わる。 その途端、店内の雑談が嘘の様に消え、観客は一斉に画面に向き直った。


 フィールドは主に草原がメインだが、木造の建物、林に湖、遠くには山脈が連なっている。その映像は、まるで現実と見分けがつかなかった。


 ズイムはいつもの黒くタイトなコンバットスーツの上に白のコート、武器は無く体術を得意としていた。

 彼女の青緑色の髪が風に揺れると艶やかな輝きを放ち、同じ色の瞳が捉える先には金属製の杖を構えた青年が立っている。

── 謎多きプレイヤー、アルト。

 彼はフードを被り、口元は高い襟で隠されているため顔はよく解らないが、のぞかせている黒髪、意思の感じられる黒目をしていた。

 灰色のローブを身につけているアルトは、さながら魔術師という風体だった。


―開始まで30秒―

「あなたとの勝負、楽しみにしていたわ。がっかりさせないでね」

 突然ズイムが語りかける。

アルトは一瞬、狐につままれた様に目を見開いたが、すぐに、「あなたに勝てれば、優勝は目の前だ…簡単には負けないよ」と返す。

 その声は、先程の機械音ではなく、プレイヤーの生の声なのだろう、やはり、同年代なのかという印象を受ける声質だった。


 話せるのであれば、先ほどの一言は何だったのだろう? 観客にどよめきが走ったのは、皆がそう思ったからに違いない。



―開始10秒前―


ズイムは拳を前に構える。

アルトは開始前に制限一杯まで間合いを取る。


―残り3・2・lady・fight!!ー

『fight』の文字が画面に現れるや否や、画面に閃光が走った。 想定外の光景に観客全員が言葉を失う。


「な、何が……?」(起こった?)

 トオルは、いや、店内の全員が目を見開き、

スクリーンを見つめていた。

 それはズイムが一撃を受け、吹き飛ばされている光景だったのだ。


 ── その中、私は見た。

飛ばされているズイムの口元に笑みが浮かび、こう言ったのだ。


『見つけた』と。

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