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第10話 記憶の欠片

 翌日、私たちは、タイチョーの運転するアクセラレータ(車)で、S(セクター)・オオサカではなく、S(セクター)・ヒロシマ(旧の広島近辺)を目指していた。


 昨夜、手配してもらったホテルでの出来事。

『ウラギリモノ』から入った連絡で、『S・オオサカに向かう手前、先にS・ヒロシマのパンドラを破壊したらどうだ?』と、提案があったのだ。

 ナインには待たせて悪いが、その方が各地のパンドラを破壊する目的には効率もよく、その指示に従ったわけだ。


 それにしても、ウラギリモノが言っていた、『オオサカで逢って貰いたい人』というのは、どういう人物なのだろう?

 きっと、ウラギリモノや私のように『この世界の仕組み』を知る者なのだろうけど……。


 関門海峡を渡る際、私は視線を外に向けると、太陽光が反射した海面が、まるで光の絨毯のように広がっていた。

 私の生まれたこの世界は、何故、こんなにも美しく創造(デザイン)されたのだろう。

 ── 何故、人は、こんな残酷な世界を作ったのだろう。

 そんな思慮の中、ナインとタイチョーも橋を渡る際には会話をやめ、終始無言にその風景に心奪われていた。


 昨晩もキサラギさんにご馳走になった。

私とナインはお酒が飲めないが、楽しそうにお酒を飲むキサラギさんとタイチョーをみて、いいものだな…と感じたのを覚えている。

 飲みすぎたタイチョーはそのあと苦しそうだったが。

 今朝も、出発前にキサラギは『少ないが旅の資金に…』と、現金を渡してくれたのだが、ポケットマネーだった事と金額が多かったため、気持ちだけ頂く事にした。


「本当に素晴らしいセクター長でしたね」

私の言葉にタイチョーは「自分が尊敬する、すばらしい人です!」と、鼻を鳴らし、『そういえば』と、言葉を続けた。

「素晴らしいといえば、この辺りは昔『シモノセキ』という地名で河豚(フグ)が有名だったみたいですよ。今は採れなくなってしまいましたが」


 噂には聞いた事がある。温暖化の影響で海流が変わり、この国には来なくなってしまった魚。

 その身は絶妙な歯応えと旨味が凝縮された白身だが、内臓には毒を有しているという。


「一度、食べてみたかったわね」

「実は、自分は海外で食べた事があるんですよ!この旅が終われば、皆んなで食べに行きましょう! それはもう、絶品ですぞ!」

 タイチョーの笑い声が車内を震わせる中、ナインは何か考え込んでいる様子だった。


「フグ、河豚…道頓堀……俺、食べたことがある…ような…? なんでかな?」


「何か思い出したのっ!?」

 ナインが記憶を取り戻せば、本来の力を解放できるかも知れない。『あの力』が発現すればこの先ずっと楽になるはず、と期待するものの……。

「ダメだ…わかんねー」と、うなだれるナインだった。


 暫く車を走らせる中、目をシパシパさせたタイチョーが「次のサービスエリアに寄っていいですか?」と呟いた。

 車を運転するというのは結構疲れるらしい。


「じゃあ、次は俺が運転するよ!」

ナインが嬉々としてタイチョーに詰め寄るが、昔は18歳からしか運転出来なかったらしく、『自分に任せてといてください!』と、却下された。

 ナインは『えー!?』っと残念がっていたが、調子に乗りやすいナインに運転を任せるのは不安なので、私の意見も勿論却下だ。


 立ち寄ったサービスエリアのベンチで休憩中、おもむろにタイチョーが私とナインに話しかけた。

「自分の『力』ですが…恐らく、天魔の物なんだと思います」

 その言葉に、ナインが自動販売機で皆に買ってきたソフトクリームを食べる手が止まる。


「お二人が倒された特殊な天魔に、私の家族が襲われました…… 飛んでくる触手から父が庇ってくれたのです。その触手は父の胸を貫きました。そして、その貫通した触手は自分の肩に刺さったのです」

 タイチョーは右の肩に手を当て、遠い目をして続ける。

「父は最後の力を振り絞り、その触手を引きちぎりました。普通であれば、天魔に物理的な攻撃は出来ないのですが、この自分を守る想いの力だったのでしょうか、あの天魔も驚いた様子でしたよ…… その直後、父は亡くなりましたが、自分は流れ込んでくる力を感じながら、意識を失いました。この力はあの天魔の一部なのでしょう。実際に、中央塔が沈黙した瞬間、力は使えなくなりましたので」


 ── 私と状況が同じだ。

ただ、タイチョーと違うのは、私とナインは中央塔が近くに無くても能力が使える事。


 やっぱり、この力はナインの……。


「すいません!こんな話!ヒロシマに着けば、バンバン治しますので、ボロボロになるまで戦ってください!」


「おいおい、アクム以上に人使いが荒いじゃないか!これ以上の悪夢は勘弁してくれよ!」

 そう言ってナインが笑う。

「とんでもない!自分は、皆さんを助けられるのですから、そうですね…悪夢の反対で、『瑞夢ズイム』とでも言ってもらいましょうか!」


 瞬間、私とナインが凍りついた。


 この災厄の元凶は、『ズイム()()』によるものだ。

「ズイム…ズイム…… ユ…ノ…?」

ナインが頭を抱え、顔色が青ざめていく。

 持っていたソフトクリームが地面に落ち、『べシャッ』と音をたてた。

「大丈夫っ?!ナイン!!」

「あ、ああ…俺は知っている…ズイムを…倒さないといけない相手を。 でも、倒す理由が解らないっ!」

 ナインは更に苦しそうに喘ぐなか、私はナインの手を取り叫んだ。

「落ち着いて!思い出すのはゆっくりでいいからっ!」


 タイチョーはナインの豹変した状態に驚いた様子だったが、彼の肩に手を置くと「ナイン!ゆっくり深呼吸しろ!」と指示をする。


 しばらくして、ナインは落ち着きを取り戻したが顔色は優れないままだった。


「すまなかったな…何か断片的だけど、見えたよ……青い髪の女が。 俺はその女を倒さないといけないし、パンドラも深く…関わっている…みたいだ…」

 肩で息をしながら、ナインは立ち上がると、「さあ、いこうか…」と、無理な笑顔を作った。

「苦しんでいる人達を助けにいこう。タイチョー運転大丈夫か?」


 ……自分より他人か。


 私はそんな彼をみて、改めて自分の成すべき事を思い返した。『私も、この身を犠牲にしてでもナイン。あなたを守るわ…』と。


 再びアクセラレータを発進させ、しばらくののち。遠くにそびえ立つ大きなタワーが目に映る。

「S・ヒロシマの中央塔が見えてきましたよ! 間もなく天魔と染人のテリトリーと思われます。自分の力も使えそうなので!」


 目指すはS・ヒロシマの最も西にあるシェルター入口、W-20。キサラギさんが事前に段取りしておいてくれると言っていた。

 

 それと、『S•ヒロシマのセクター長、『センガ』には気をつけろ。』…とも。

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