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6 二人の恋のはじめ方

 ミゼルは包帯を巻いたヘンリーを連れてマリアヴェーラに会いに行った。

 二人で伯爵家に帰ってきた後、その足で父の執務室へ向かう。


「お父様、お話があります」

「な、なんだい急に」


 怪我をした男を連れてやってきた娘の真剣な表情に、小心者の父はうろたえた。

 相手が王立騎士団の制服を着ているので余計にだ。


 ミゼルは、改めて父にヘンリーを紹介する。


「この方はヘンリー・トラデス子爵令息です。貴族学園では私と同年の卒業でした。王立騎士団に所属していて、現在はレイノルド王子殿下の護衛を務めておられます。ちなみに、頭の怪我は私が殴りました」

「ミゼルがやったのかい!?」


 父は椅子から飛び上がると、ヘンリーに向かって平謝りした。


「娘が申し訳ありません。トラデス子爵家にもお詫びを入れましょう」

「結構です。やったというより、やり返されたという方が正しいですし、怪我のことを親父に知られたら『騎士にあるまじき不覚』と殴られるんで。それに、見た目ほどたいしたことない怪我ですよ」


 空笑いするヘンリーに、ミゼルは大きく首を振った。


「たいしたことなくても怪我をさせたのには変わりありません。ですから私、責任を取ると決めました」


 ミゼルはまっすぐにヘンリーを見上げて、一世一代の思いを告げた。


「ヘンリー様、私と結婚してください」


 突然の、そして大真面目なプロポーズに、ヘンリーは目をまん丸にした。

 驚きを隠せずに瞬いた後で、「あはは」と声を上げて笑い出す。


「結婚て、大げさだなぁ」

「大げさなものですか! 血もたくさん出ましたし、傷だって残るかもしれないんですよ?」

「令嬢じゃないんだからさ。オレ、女の子に言い寄られるのは慣れてるけど、プロポーズはさすがに初めてだよ」


 笑い過ぎて出た涙を指でぬぐったヘンリーは、じっと見上げるミゼルの瞳を見つめ返した。


「ミゼルちゃんの純粋なところ、嫌いじゃないよ。でもさ、オレは一人の女の子のところに留まっていられないと思うんだよね。今は記憶がぼんやりしているせいか夜遊びしたい気分じゃないけど、そのうち遊び歩くかもしれないし」

「平気です。ヘンリー様がどこにいてもわかるように情報網を構築しておきますから」


 飲み屋でも貴族の屋敷でも、ヘンリーの行く先々に味方を作っておけばいい。

 祖母がやっているのだ。ミゼルにだってできないわけがない。


「都中を監視するってこと? 本気で言ってる??」

「ヘンリー様を逃さないためなら、本気でやります」


 自信満々のミゼルに、ヘンリーは今度はお腹を押さえて笑った。


「熱烈だなぁ。そんなにオレが好きなの?」

「わかりません……。でも、これからも一緒にいたいと思うんです」


 マリアが教えてくれた本物の恋を、ヘンリーとできるかどうかはわからない。

 ただ、彼と出会ってわかったことがある。


 自分の理想の恋は、何も奪われずに与えあうだけでなく、お互いのびのびと生きていられる姿だと。


 ヘンリーは遊び人だ。

 悪いことも酷いこともそれなりにしてきたし、これからもするかもしれない。


(だけど、私に必要なのは彼だわ)


 天啓のような直感で、ミゼルはヘンリーに運命を感じた。

 

 しかし、好きだと告げても、ヘンリーはのらりくらりとかわしてミゼルから逃げようとする。

 だから、怪我を引き合いに出した。

 これから父の手前、すげなく振られることはない。


「ヘンリー様、お答えください」


 返事を求めると、ヘンリーは嬉しそうに頬を染めながらも視線を泳がせた。

 煮え切らない態度は、じつに彼らしい。


「あーっと、考えとく。まずは記憶の方をなんとかしないといけないし……。結婚するなら、浮気性が静まってるこのままでいた方がミゼルちゃん的にはいいのかな。それなら、オレも無理して魔法を解かなくてもいいかなって思うんだけど」


「いいえ、記憶は取り戻さないといけません。マリアヴェーラ様のために!」


 熱を込めて答えると、ヘンリーは一転して不満そうに口を曲げた。


「オレより高嶺の花の方が好きなの?」

「もちろんです。私、マリアヴェーラ様をお支えするために生きているので」

「……それは、ちょっと嫌かも」


 ぼそっと聞こえたのは本音だろうか。

 そうだったらいいなと思いつつ、ミゼルは父に要求した。

 

「――というわけなので交際を認めてください、お父様」

「オレからもお願いします」


 娘の懸命な様子と、戸惑いつつも幸せそうな表情のヘンリーを交互に見て、父は折れた。


「わかった。だが、不純なお付き合いは許さないよ。あくまで、プロポーズを受けるかどうか決めるまでの仮交際なのだからね」

「「はい」」


 ミゼルとヘンリーは視線を合わせて微笑み合った。


 二人の関係が動くのは、ヘンリーがルビエ公国から帰ってきた後。

 レイノルドに少し遅れて記憶を取り戻したヘンリーが、ミゼルのプロポーズにどんな返事をしたかは、二人だけの秘密。


 〈了〉

ここまでお読みいただきありがとうございました!

「高嶺の花」の主役を支える二人のスピンオフ、楽しんでいただけたでしょうか?

二人の関係がどうなかったかは本編第4部の方で書きたいと思っていますので、

楽しみにお待ちいただけましたら幸いです。


書籍版「高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい」は、

マッグガーデン・ノベルズより発売中です。

書き下ろしエピソードもたくさんありますのでよろしくお願いいたします。

https://www.mag-garden.co.jp/comics/12735/

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