旅立ち
前回のあらすじ
ドラゴンは尊厳を守る為に、知ったか&ドヤ顔を学習しました。
そして知識を交換する日々に、唐突に終わりがきたようです。
夜更けに神から、転生体が見つかったと御告げがあった。
夜明けと同時に迎えに来るとの事。
『暫くお別れだね。8年後に会えるのを楽しみにしてるよ』
「それは僕もだよー!約束の歌はしっかり覚えててねー。絶対だよー?」
『バッチリ』
記憶の呼び水があれば、転生後にも記憶を思い出せる可能性があるらしい。ケタの記憶を呼び起す為の鍵を、事前に相談していた。
洞窟の入口で夜明けを待ちつつ、最後の雑談をする。情報交換ではなく、本当にただ同好の士との語らいという雑談。純粋に……心から楽しい時間。
こんなに人やその文化に、興味を持った事は初めてだったので、別れが寂しくもあった。
ま、たった8年だし、すぐに会えるけれども。
「そろそろだねー。この3年間は、本当に凄く楽しかったなー」
『…………』
遠方の空が、うっすらと明るくなり始めた。朝日が昇らなければいいのに、と思ったのは初めてだよ。
陽の光が差し込むと、ケタが振り返ってこちらを見て何か伝えようとした。だけど、存在が朝日に溶け込むように既に薄らいでいる。
音もなく、すぐに消えてしまったので、最後の意識を読み取る事はできなかった。僕が言葉を理解していれば、口の動きで何を発しようとしていたのか、汲み取れたかも知れない。
振り返った表情は笑顔だったけど、あれは苦笑いだな。何を伝えたかったのか。ここでの記憶は無くなっているんだよね?
なんか……なんか凄く嫌だな。
(絶対に思い出させてあげるよ!)
朝日を見ながら、色んな事を心に誓う。必ずまた会えると信じて。
……それから僕はひと眠りした。
─────────────────────
……ん、んんん~~!
寝起きに大きなあくびをして、のそりと起き上がる。目覚まし運動の代わりに翼の動きを確認しつつ、洞窟の入り口へと向かう。しとしと降る雨が少し肌寒い。木々の葉が紅くなり始めているので、季節は恐らく秋あたりだろうか?
眠る前に確認した若木の成長具合を見て、概ね4年ぐらい経過している事を確認する。
(よし!バッチリ、ベストタイミング!)
探す旅のついでに色々覚えてビックリさせてやろう。魔法も先に見つけて度肝抜いてやろう。質問に答えられなかった事を、全部回答できるようになってやろうと決意していた。ドヤ顔をする未来の自分を思い浮かべながら、ニヤリとほくそ笑む。
なにより、文化を最大限エンジョイしなければならないだろう。「楽しんでなんぼ」だよ。
まずは捜索ルートを考える事にする。
魂の位置は大雑把にしか分からない。本人と特定するには、会話できるぐらいまで近づかなければ難しい。無計画に探すと時間がかかりすぎるのだ。
現時点での反応は「たぶん北」である。
記憶を頼りに北にあった人の国へ、まずは行ってみる事にした。洞窟を出て西の海岸まで向かい、そこから北上して港町を探す予定。
それから、全ての港町を海岸沿いに巡って行くつもりだ。
(港町巡りは楽しみだよ。海鮮グルメもね)
この大陸の北側の港町全てを回る過程で、海の方向に魂を感じたら別大陸か諸島。陸の方向なら、北の国で確定だ。
複数の港町で感じた大雑把な方向を集計し、大まかな辺りをつけられればベストだろう。地道に絞り込んで行くしかない。
絞り込みの過程で、文化を学習しつつ、言語を習得したいと考えていた。
お金を持っていないけど、大丈夫だろうか?
いざとなったら、ジャパニーズ土下座でお願いするしか無いと思っている。
(TVか、スマホがあるといいんだけど……)
教えてもらった異世界転生物では、家電の類は無いらしいので望み薄だ。だけどそれらがあれば、文化学習や言語習得をスムーズに行えるので、できれば見つけたいと思っている。
(今日は晴れたなぁ、絶好の出発日和だよ)
秋晴れの空に、虹がかかっている。雨上がりの香りが心地よい。出かけるタイミングで晴れてくれて、幸先のよさを感じる。思っていたより楽勝で見つけられるような予感を感じたが、フラグになるのを避ける為にあえて考えない。
例えば「僕、この旅が終わったら結婚するんだ」とかベタなフラグ考えるのヤメヤメ。
バサリと翼を羽ばたいて、マナを変換した力場を作る。ゆっくりと山を越えられる高さまで上昇した。テンションを上げていく為に、ケタから教えて貰った曲を脳内で再生する。ここは、ドラゴンの翼のメインテーマだよ。僕は凄く好きなんだ。テンションあがってきた!
やっぱドラゴンに関係する曲だとシンクロ率が高いのかな?
そんな事を考えながら、眼下に広がる景色を堪能しておく。
(ふぅー300年ぶりぐらいに飛んだかも?)
前回、飛んだ時と見える景色が少し変わっていた。
そういや今更ながらに思ったけど、ちょっと外を見て回ってケタに伝えれば良かったんでは?
(うーん、まぁケタも思いついていなかったし仕方ないね)
変わったと思われる景色へと近づいてみた。近づくにつれて、小さなディテールが分かってきて、ほぼ確信に変わる。
(これ、多分……鉄道では?)
異世界の知識をイメージ共有した時の【レール】にとても似ている。
形状が結構違うが、鋼材の質感が似ていて、恐らくレールだろうと思われた。大きな違いは地中に埋まっている所だ。壁面には、魔獣除けのマナ鉱石が使われていた。
(そういえば、人が来てウチからマナ鉱石取っていってたな……)
魔獣や動物は自身よりも、上位のマナの存在には敏感で寄ってこない性質を持っている。
僕が住んでいる所は、僕のマナを含む鉱石になる。だから、僕よりも格下の魔獣は寄ってこない。
(うーん、鉱石の代金を取っておけば良かったな)
路銀が無いので、ちょっと俗な事を考えてしまうね。是非、乗ってみたいけど僕のサイズじゃ無理だ。ケタに乗ってもらって【伝心】で読み取るしかない。つまりは、ケタに会うまでお預けって事になる。僕は早く車窓風景を、体験したいのにままならないな。
(僕が、もっと小さければ楽しみが増えるのに……)
それにしても、かなり遠方まで続いている。
この規模のものを作るのは、大したものだ。これをたった300年で作ったのか。
しかし、地下鉄にしていないのは何故なのだろう?
(あぁ……蒸気機関車なのか。なるほど……)
遠くから汽笛が聞こえてきて納得する。
黒い煙を出しながら走る銀色の車体を見て、「そこは黒の車体一択だろ」と思いつつそれを眺めた。
この時点でのオタク知識習熟度:★★★★★
オタクドラゴン ☞ 残念ドラゴン
エターナルドラゴンは残念ドラゴンに進化しました!
悠久のドラゴン改め、ワールドンは転生体を探す旅に出かけました。
これから、人との交流と、求めたエンジョイライフとズレていく物語が始まります。
序章「異世界コミュニケーション」の本編はここまで。
次回はケタ視点の「閑話:ドラゴンエンカウント」です。