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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
世界は巡る
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近づく白と黒の足音

前回のあらすじ

ピルナ女王の新体制になってから、初の夏コミを迎えたワールドン王国。

ワドは出展側で参加しています。

知識の番人ことキーちゃんが訪ねてきたところです。

 キーちゃんが語る「くまちゃん事件」の全容。


「ぼ、僕はなんてことを……」

「全ては終わった事です。よく受け止めましたね」


 人族が生まれる遥か前の太古の時代。

 僕は80億もの生命の命を奪い、数多くの種を絶滅に追いやった事件を起こしている。

 万物の男神が降り立ち、救済する事態に陥った。

 多くの行き場を失った魂たち。

 それを一旦異世界へと逃がすことになったそうだ。


(こんなの、忘れてたでは許されないよ)


 当時の僕は、ラザと一緒に熊魔族の赤ちゃんを育てていて、必死にお世話をしていたらしい。

 そこへ、僕に取り入ろうとした天使族がくまちゃんを騙す。

 騙されたくまちゃんは、それが原因で命を落とす事故にあってしまい、それを知った僕は暴走した。

 全力で光のブレスを吐き散らし、狂ったように暴れる日々が続いていたので、四大神が介入の流れになる。


 虚無の女神の祝福。

 それが世界中に降り注いだ。

 そうして僕は、くまちゃんを含め関連することの全てを忘れた。

 それからの僕が覚えているのは、ガトーやラザがやたらと心配し「忘れていい」と言っていたことだけ。


(全然いいわけが無いよ!)


 命を産み出すことの重さ。その尊さ。

 それを知った今の僕は、罪の重さが分かる。


「ワールドン様……貴女の力は強すぎます。その影響力を良く考えて行動して下さいね。あと泣き止んで下さい。ほら、ハンカチ……」

「ありがと、キーちゃん……ズビビビー!」


 ハンカチを受け取って、どうにか色んなものをまとめて吐き出す。

 過去を変えることは出来ないけれど、今後をより良く変えていくことは出来る。


「僕の力は平和なことに使うよ。約束する。これからは多くの命を活かすために尽くしたいよ」

「はい、頑張って下さいね」


 そうしてキーちゃんは立ち去った。

 それと入れ替わる形でグミが訪ねてきた。


『夏コミ、来てあげたわ。なんか混んでるわね。あんた、どうして泣いているの?それより、わたくしの漫画のブースはどこ?あぁ、それと新しいアシの紹介も後でするわね』

「相変わらずのマシンガントークだね。ヨーコは来てるの?」

『来てるけど……男が多いって隠れているわね』


 (ヨーコ)はどこかに潜んでいるのだろう。

 グミには僕の新作も渡しておいた。


『ふーん。あんたが料理ねぇ……そういえば、滅竜武器の所持者が再び現れたそうね。名前は黒雷だったかしら?』

「え!?何それ!僕、聞いてないよ!?」


 カービル帝国の各地で黒雷の目撃情報が相次いでいるらしく、グミたちの話題にも時々のぼるそうだ。


『あんた、所在がバレてるんだし、気を付けなさいよね』


 グミが心配してくれているのは分かるし、レッドと協力して調査してくれるとのことだ。

 黒雷には、白と(ヨーコ)の感知が利かない。残りのメンバーだと(ラザ)に調査なんて無理だし、伝心の使えない僕にはもっと無理だよ。


(それに、キーちゃんと約束もしたし)


 僕の光のブレスは強すぎるし、戦闘になるのは避けたいので、グミの好意には甘えることにした。


『代わりに、美味しいドーナッツを奢りなさいよね』

「うん!勿論だよ!」


─────────────────────


「目撃情報はもう何回目だっけ?」

「秋に入ってからだけでも10回を超えてるな」


 立て続けに入ってくる黒雷の噂。

 そのことについて、夫のビットと相談をする日が増えた。

 来年のドラゴン学院入学を心待ちにしているリーベだけど、どうしても不安が尽きない。ドラゴン学院に通っているところを敵に狙われ、ケミラが窮地に陥った事件を何度も思い出してしまう。


「ワドが不安なら……どこかに逃げるか?」

「……リーベには泣かれちゃうかもね」


 例えリーベに恨まれることになったとしても、狙われるリスクを少しでも低減したいと思い、ピルナに相談をすることにした。


 翌日。

 ピルナの執務室を訪れ、国政から退いてどこか田舎に引き籠りたい旨を伝える。


「ピルナ、国がまだまだこれからって時期に申し訳ないけれど、僕はどこか田舎に行っても良いかな?」

「例の黒雷から逃げるの?」

「うん、そう」


 僕が何度か頷くと、ピルナは悲しそうな表情をしながらも認めてくれた。


「……いってらっしゃい。わたくしはついていくことができませんけど、ワドが望むようにしたら良いのですわ!」

「ありがとうピルナ」

「ワドが帰ってくる場所はここですわ。それを忘れないでくださいませ!」


 そう。

 ここは住処では無くなったとしても、僕の故郷。

 帰ってくる場所がある。待っていてくれる人がいる。

 それが今の僕の支えだ。


(あの時のリベラさんも同じ思いだったのかな?)


 リベラさんは、ビットを故郷に預ける選択をした。

 当時は幾ら考えても、僕の国を選ばなかった理由が分からなかったけれど、今は何となく分かる。

 我が子に平穏を。

 たったそれだけの願いなんだ。

 ただ無事に、平穏で元気に育って欲しい。その純粋な願いを、今の僕は理解することができた。


─────────────────────


「そっか。ワドは出発するんだね。どこにするの?」

「うーん、最初は東の方に行く予定だけど、トスィーテちゃんを頼って猫魔族の国の外れにでも住む予定だよ」

「私、絶対に遊びに行くから」


 出発の日。

 泣きながらそう言って抱きついてきたケミラ。

 ここに漕ぎ着けるまで、リーベの説得は難航していたけれど、やっと納得して貰えた。


「あーあ、ドラゴン学院に通いたかったなぁ。母さんのいじわる」

「こら、リーベ。我儘言うなよ。ワド母さんだって本当は残りたいんだし、その話はもう何度もしただろ?」

「だって……」


 ビットとリーベがまたも言い合いをしている。

 まだ幼いリーベには、命を狙われるかも知れない不安が分からないのだろう。

 仲の良い友達と離れることや、楽しみにしていたドラゴン学院に対する未練の方が強そうだ。


「母さんって強いんでしょ?そんなのが来たらやっつけちゃってよ!」

「嫌だ。僕は争いを好まない」


 そう返しながらも、指先が震える。

 怖いのは、夫であるビットや我が子のリーベを害された場合だ。

 その時に冷静さを保つことができるのだろうか?

 正直、自信は無かった。


「リーベ元気でね!ワドも!」

「騒動が片付いたらいつでも帰ってくるのですわ!」

「うん!いってきます!」


 後ろ髪を引かれるリーベの手を引いて、僕はワールドン王国を離れた。


─────────────────────


「父さーん、荷物ここ置いとくよ。収穫は順調?」

「あぁ、リーベ、ワド。順調だぞ」

「お疲れさまだよ。皆でお茶にしよう」


 あれから半年が過ぎ、猫魔族の国の西に位置する所でひっそりと暮らしている。

 ガラケーの魔術具の電波も届かない秘境。

 荒れ果てていたので、最初はどの農作物も根付かなかったのだけれど、そこは僕の力で改善していった。


「あまーーーい!」

「お、今度の苺は凄くいいよビット!」

「ワドのおかげで11代目だしな」


 品種改良も進んで、今では様々なフルーツが採れるし、食卓も彩り豊かになっている。3人だけで暮らす不便さはあれど、幸せな日々を過ごしていた。


「母さん、これでケーキを作ってよ!」

「んー?そうだね。どんなケーキにしよっか?」

『苺をたっぷり使った真っ赤なケーキがいいぜ!』


 ……っていきなりレッドからの伝心が届く。


「ちょちょ!レッド!?どこにいるん?」

『お前の真上だ!バーカ!』


 そう言われ慌てて見上げると、成層圏に近い所にレッドと白が見える。

 そこからレッドだけが急下降してきて着地した。


『俺様が来てやったぜ!』

「一体何の用なの?というか溶岩対策は?」


 3分間までならマナを抑えられるとのことで、その間に情報交換を行う。


『ま、という訳で手短に説明するぜ。黒雷がここを嗅ぎつけて向かっている情報を得たんだぜ!』

「ど、どこにいるの?」

『あ?そんなの俺様が分かる訳ないだろ?』


 レッドは不機嫌そうに首を鳴らしながら、肩を竦める。

 どうやらただ単にメッセンジャーとして来ているようだ。


「うーん、つい数日前にトスィーテちゃんと手紙のやりとりをして暫くは大丈夫そうって話だったのにぃ」

『どうやら代替わりしたらしいぜ!』


 鼻息荒く言い切るレッド。少し興奮しながらのドヤ顔は構わないけれど、周辺は真夏を超える暑さになってきた。


「代替わりってどういうこと!?」

『良く分からねーが【白い黒雷】と【新しい黒雷】がいるらしいぜ?』


 説明不足過ぎてイミフだけど、レッドに論理的思考を求めるのがそもそもの間違いだろう。


(メッセンジャーとして人選失敗してるよぉ……)


『あ?伝心だから筒抜けなんだが?どういう意味なんだぜ?』


 心の中でディスったことがダダ漏れだったよ。

 悪気は無い事を伝えつつ、伝心を終える。気温は50℃を超え始めていたので、そろそろリーベに健康被害が出そうだったし、既に農作物には被害が出始めている。

 とっととお帰り頂くのが吉だろう。


(やっぱり、レッドは凄く迷惑)


 タクシー要員として控えていた白がササッと連れ帰ってくれた。

 怒涛の勢いでドラゴンたちが帰った後、静寂が残る我が家に戻り今後の方針を相談することに。


「ワド、どうするんだ?俺はワドを支えつつ、リーベが健やかに過ごせれば何処に行ったって構わない」

「母さん……この家も離れるの?」


 ようやく生活が軌道に乗ってきただけに、不安に揺れるリーベの気持ちも理解できる。

 それでもリスクは可能な限り減らしたい。


「暫くは転々とすることになるかも……大丈夫だよリーベ!毎日が旅行と思えば楽しいはずだから!」

「……うん。母さんは前向きすぎるよね」

「ま、ワドは真っすぐ進むことしか出来ないからな」


 ビットにはさらりとディスられてしまったけど、リーベの不安は少し和らいだようで、いつもの笑顔が戻っている。


「酷いよ二人とも!僕だって免許持っているから右折も左折もバッチリなんだよ!バックだってイケちゃうんだから!」



 それがその家で暮らす最後の夜だった。



滅竜武器の所持者で唯一の生き残りである、黒雷が再び現れました。


次回は「三度の魂の邂逅」です。

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