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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
世界は巡る
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バトンタッチ

前回のあらすじ

新生ワールドン王国も軌道に乗り、色々と関係性が変化しています。

ワドはビットと結婚し、お腹に子を宿しました。

「おめでとうございます!ワールドン様!」

「おめでとうなのですわ!」

「ワド、おめでとう!」


 産婦人科の先生が満面の笑顔で祝福を告げ、側でずっと手を握っていてくれたピルナとケミラも、弾むような声でお祝いの言葉をくれる。


「……はぁはぁ……ありがとう……」


 先生が抱きかかえる新しい命が目に入る。

 無事に産まれてくれたことにホッとしたし、遅れて幸せがこみ上げてきた。

 夫であるビットが入室してきて、我が子を抱いた。

 あの時、赤子だったビットがこうして父親になっていることは感無量でもあるし、むずがゆくもある。

 赤子の泣き声が落ち着いたタイミングで、ビットが労いの言葉を口にする。


「ワド、良く頑張った。名前はどうしようか?ワドに何か案はあるのか?」

「僕、考えてた名前あるんだ。それでもいいかな?」

「ワドが名付けてくれるなら問題ないよ。俺の名前もつけてくれたんだし」


 僕とビットが話している脇では、ケミラが赤子を見たかったと残念そうに何度も繰り返していて、ボンがそれをひたすら宥めていた。


「あ~あ、ワドの赤ちゃん見たかったなぁ。可愛いんだろうなぁ……」

「ですから、あとでアラザン様に伝心してもらいやしょう。今は拗ねる言葉よりも祝福の言葉でやすよ」

「そうよ、ケミラ。ワドが名づけをするのだから静かにするのですわ」


 ピルナも叱ったので、皆が一気に黙る。

 シーンとした空気が、逆に名前の発表をしづらくさせた。


(な、なんか緊張するよぉ……)


 ためらいがちに口を開こうとしたら、赤子が勢いよく泣き出してしまい、皆も緊張の糸が解けたのか一斉に笑い出した。


「ふふふっ!ワドったら緊張しすぎだよ!」

「ワールドン様はいつまでも変わらないっすね」

「そういう所も可愛いんだ。……ワド、この泣き虫の名前は何かな?」


 僕はネーミングセンスをいじらないように皆に念押しをしながら、そっと我が子の名前を呼んだ。


「その子の名前は……リーベ・モンド・ワールドン。こんな名前つけたらルクルからまた色々言われちゃいそうだけどね」


 度々、ルクルにネーミングセンスをからかわれていたことを思い出す。

 ピルナから名前の由来を問われたので、ポツポツと名前に込めた思いを語る。


「異世界のドイツって国の言葉で(リーベ)とフランスという国の言葉で世界(モンド)というのを合わせたんだよ。目に見えない愛を沢山知って、世界を沢山見て欲しい……そんな思いを込めたよ」


 そう言い終えて周りを見回してみる。

 皆は穏やかな表情で僕を見ているけれど、名前について何か言ってくれないと不安になるよ。

 でも、ケミラが近寄ってきて僕の両手を優しく握り、笑顔で褒めてくれた。


「すっごくいいと思う!ワドらしいよ!」

「そ、そう?」

「ワールドン様のカオスな感じが出てやすね。複数の国の言葉をくっつけるのは常人に思いつきやせん」

「ボンは頭悪いのですわ。この名前に込められているのは世界平和ですわ!そうでしょうワド?」


 僕はゆっくりと頷く。

 色んな国が手を取り合って欲しい。その願いを込めて異世界の複数の国から言葉を貰った。

 ちゃんと思いが伝わったことに心が温かくなる。


「よしっ!今日からこの子の名前はリーベ・モンド・ワールドンだ!大切に育てていこうなワド」

「うん!」


 そんな感じで良い雰囲気に包まれていたのに、後からお祝いに駆けつけたタートが「これ、リベラさんの名前から少しダジャレで取ったんじゃ?」と言い出し、バレて焦った様子を皆にからかわれた。

 照れ隠しでそういう反応をしてしまったけれど、結婚してからずっとリベラさんを思い返していたから、似た響きを求めてしまったんだ。


(僕、頑張って育てるよ!見ててねリベラさん!)


─────────────────────


 他の人からのお祝いの言葉と贈り物も沢山届いて、温かい気持ちで胸が一杯になる日々。

 その中でも今日の来訪者は特別だ。

 古くからの友達であるドラゴンたちがやってきて、それぞれのお祝いを述べてくれた。


『おうおう!子供ってマジだったのかよ!こりゃあビッグニュースだぜ!』

『この目で見ても信じられないわね。あんた、ちょっと赤ちゃんを貸しなさいよね』

「ダ、ダメ!」


 やたらとハイテンションな(レッド)と、抱いてみたいと言って僕からリーベを奪おうとする(グミ)

 やっと首が座ってきたのに、人と感覚が違い過ぎるドラゴンたちに任せるのは不安だし、何よりリーベが心配だよ。


『なぁワド。そんな噛みつくように牽制し続けんなって。俺らもその子供と仲良くなりたいだけなんだし』

「ヨーコは特に近づかないで!悪影響しかないし!」

『ひ、ひでぇ!』


 過保護すぎるとか散々な言われようだったけれど、皆は周囲にまき散らす影響をもう少し真剣に考えた方が良いと思う。


『まぁ……ワールドンの言い分も分からんでは無い。贈り物をしたらさっさと帰るべきだろう』

『あ?それは白が帰りたいだけだろ?俺様は貿易の交渉をしないと帰れないんだぜ!』

「もう!とっとと帰ってよ!しっ!しっ!」

『『『おい!』』』


 頑なに態度を崩さない僕の様子に呆れたようで、口々に文句が相次ぐ。


『こんなに噛みつくんならプレゼント要らないんじゃね?』

『そうよね。わたくしも馬鹿らしくなってきたのよね』

『俺様も腹が立ってきたぜ!なんか色々とどうでも良くなってきたぜ!』

『なら帰って良いか?』


 皆がワーワー言い出して収拾がつかなくなってきたところに、ラザが割り込む。


『う~。ワドに贈り物するござる~。ワガママ言うなら~殴るござる~』


 ラザの本気の雰囲気に押され、皆も大人しくなった。


『ワド~、贈り物~受け取って~ござる~』


 五柱のドラゴンたちが憎まれ口を叩きながら、全員で協力した出産祝いを届けてくれた。

 僕と神界を伝心で繋いでくれたんだ。


『お、やっと繋がったにゃん!ワドよ。元気してるかにゃん?』

「ガトー!」


 あれ以来、ガトーと連絡が取れなかったから本当に嬉しくて僕は泣いた。


『ビットとの結婚、リーベの出産、おめでとう。命を産み出すなんて凄いぞにゃん。吾輩、友達として誇らしいぞにゃん!』

「うん……うん!」


 自分事のように喜び、祝福の言葉をくれるガトー。

 傷を癒しながらも、輪廻の女神を手伝って今回の被害者たちの魂の転生をサポートしているそうだ。


『ルクルの魂は既に輪廻転生へ送り出したぞにゃん。どうだ?褒めろにゃん!』

「凄いよ!ありガトー!さすガトー!」

『だから名前をくっつけるなと言ってるぞにゃん!』


 色んな話をガトーとした。

 たった10分間。億を超える月日を生きる僕らにとって瞬きにすらならない僅かな時間。

 だけど、とても大切な時間になった。


『ではまたなにゃん!』

「うん、またね!」


 伝心を終えた今も、満足感のある余韻が残る。


(ガトーも神界で頑張ってるんだ。離れていても親友だよ)


 確かな繋がりを再確認できて、やる気が漲っていたところに水を差すドラゴンズ。


『随分と話し込んだわよね?これは延長料金を貰わないと割に合わないわね』

『ドーナッツと寿司とナポリタンを褒美な。あ、俺は一気に食うから一緒に出してくれ』

『たくさん伝心した~褒めて褒めて~』

『おーし、延長料金は貿易成立でいいぜ!』

『で、帰って良いか?』


(あーもう!良い雰囲気が台無しだよ!)


 そうして皆は帰っていった。

 ルクルの魂が既に転生しているというニュースに、ピルナとケミラも大喜び。

 伝心を失った今の僕では魂を探すことができないけれど、この世界にいるのならいずれ再会することはできる。


(今からルクルの魂に会えるのが楽しみだよ!)


─────────────────────


 あれから3年。リーベも3歳になった。

 ケミラも結婚して1歳の子供がいるので、母親同士色々と情報交換をしているんだ。


「ねぇ、メル。リーベの好き嫌いが多いんだけど、どうしたらいい?」

「メルさん、それ私も知りたい」

「はいはい、順番ね」


 今日はメルの料理講座を受けに来ている。

 幼い子には食べさせてはダメな食材や調理法、好き嫌いやアレルギーと学ぶことが多い。

 世の中のお母さんは大変なのだ。

 それでも子供の笑顔が見たくて頑張っているし、美味しいという感想が貰えた時は飛びあがるほど嬉しい。


「じゃあ、バター使わないクリームシチューの作り方を教えるね」

「オナシャス!」


 メルが教えてくれるレシピや色んなアドバイスを、忘れないようにメモを取る。


「ワールドン様って……そんなにマメにメモを取るんだ?」

「え?ダメだった?」

「ううん。こまめにメモを取るのはいいことだよ」


 メルにしみじみと褒められた。

 料理講座が終わった後も、忘れないように書き残すのは大切なことだと話し合う。


「今じゃシーナ姉も超える人気作家だもんね」

「うん。ワドの人気は凄いよ」


 僕の作家活動を二人が凄いと囃し立ててくれる。

 メイジー王国の歴史書、カルカン伝記、第一期ワールドン王国を記した書。

 ……と、色々な執筆活動をしている。

 念願だったワールドン王立図書館も完成したので、寄贈もした。


「皆が生きていた軌跡をなるべく書き残したいんだ」

「ひょっとしてメルのレシピも書き残すの?」

「うん。今は『お料理格闘の日々』全20巻を執筆中だよ!」


 メルは「歴史に残すほど大したレシピじゃない」と照れたように言っているけれど、割とまんざらでも無いのかニヤけている。

 ケミラは「ワドは女子力高いよね!」と褒めてくれるので、僕もドヤ顔をしておいた。


─────────────────────


(さぁ、今日も書くことがいっぱいだよね)


 良かったことも、悪かったことも。次の世代へと引き継ぐために書き記していく。

 何も知らなかった頃には書けなかった。

 多くの人に出会い、支えられてきた今、書き残せるものが沢山ある。

 その記憶と記録を少しでも繋いでいく。

 皆と過ごした日々を。皆が生きていた証を。



 遠い未来でもう一度巡り合うよう願いを込めて。



青、黒、赤は散々飲み食いした後、白タクで帰ったみたいです。

『タクシードライバーじゃないんだが?』

と、不機嫌になりつつも、白は律儀に全員の送迎をしたようで……。


次回は「再び手にした幸せ」です。

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