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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
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20年という重み

前回のあらすじ

カイナ諸島で子供たちとの再会を果たすワド。

一緒に過ごすことで、少しずつ笑顔を取り戻しつつあります。

 あれから子供たちと勉強やモノ作りに勤しむ日々。


「こんなにも学ぶことが多いんだね」


 子供たちと一緒に授業を受けることで、多くの人たちに支えられて国が回っていたことを知った。

 無知だった僕が国政をひっかきまわしても、ルクルたちが全力でサポートし続けたから破綻しなかったのだと、今更に悟る。

 寝る間も惜しんで勉学に励むピルナが、疲れた様子も見せず、強い目力で僕を見つめながら言う。


「当然ですわ!お父様もお母様も凄かったのですわ!他の方も頑張っていたのですわ!」


 ピルナの頑張りに引きずられる形で、他の子供たちも努力を続けている。

 それでも、国を動かすには全然足りないということだった。

 マナ工学志望の子供や、マナ鍛冶師を目標にしている子供たちもいるけど、講師不足で、彼らには充分な教育ができないという現状もあった。


「カルカン様は凄いよ。これってどうやって作っているんだろう?」

「ねー、マナ工学はどれもこれもレベルが高すぎて難しいよね。ワールドン様は何か知ってる?」

「ご、ごめんね。専門外だから分からないよ……」


 あの戦争で多くのマナ技術者たちを失った。

 ワールドン王国のマナ工学は世界一だっただけに、多くの技術がロストテクノロジーになりつつある。

 共同開発に参加していたメイジー王国は、生物が死滅する事態となっていて、文献なども全て消失したと聞く。

 メイジー王国が滅んだのは「光のブレス」による影響だ。

 その現実も僕の両肩に重くのしかかっていた。

 そうして重くなり始めた空気を「パン!パン!」と乾いた手拍子が吹き飛ばす。


「ハイハイ。無いものをねだってもしょうがないですよ。魔術具が残っていないか王国跡地は捜索しているので、皆さんは今できる学びを進めて下さい」


 ポポロが手を叩いて注意を惹き付け、丁寧な言葉で子供たちを順に諭していく。

 彼は積極的に子供たちを先導しているし、遺品捜索にも力を入れていて、毎日のように何かしらを持ってきてくれた。


(あぁ、これ懐かしいな)


 今日、ポポロが差し入れで持ってきたのは、水質改善の魔術具。

 カルカンやサブロワ君が携わっていたことを思い出す。

 当時、港町が襲撃され、海上での戦争による影響で水質汚染が酷かった時に、サブロワ君の発案で作られた魔術具だ。

 17年前のことだけど、昨日のように思い出す。

 子供たちが魔術具を「凄い!」と褒めるたび、彼らが命を落とす原因を作ってしまった。そのことがチクリと心に棘を刺す。

 それに子供たちの楽し気な笑顔と笑い声に囲まれていると、以前の仲間たちの笑顔や笑い声を探してしまう。

 特にエリーゼと似ているピルナは、どうしても彼女を思い出してしまい、辛さの方が大きくなっていく。


(やっぱり、僕が生き残るより、皆の方が……)


 子供たちと未来を語る日々の中で、次第に寂寥感や喪失感の方が強くなった。

 その未来に、失った人たちが交わることがないと、痛感させられてしまう度に。


─────────────────────


 数日後。

 ポポロが関係各所に頼み込んで、亡くなった皆の遺品を集めてきた。

 子供たちは大切な家族の秘密箱の魔術具を手に入れ、安堵したり、中には大泣きする子もいた。

 秘密箱の魔術具は、本来、本人のマナでしか開けられないのだけれども、万が一のためにと生前のカルカンが家族であれば開けられるようにしていたそうだ。


(カルカンってば、そんなことしてたんだね)


 聞けば聞くほどに凄い。

 戦争の流れになって子供たちの疎開の話が出る前から、既にカルカンは行動していた。

 カルカンのことをKYだと長年なじってきたけど、本当は気配りを周囲に気付かせないだけだったのかも知れない。

 そうした水面下の気配りのおかげで、家族の遺品を手にすることができ、ポポロも、孤児たちへ家族の遺品を配布できたことに、胸を撫で下ろしていた。

 子供たちの歓声が次々とあがる。


「あ、お母さんの大切にしていたブローチ!」

「おー、父さんってばこんなにヘソクリあったの?」

「あ、この匂い、ママの日記だ!そうでしょお姉ちゃん?」

「お母様たちの日記。残っていてくれて嬉しいですわ……」


 秘密箱が開封され、思い出の品々が出てくる。

 ケミラとピルナが手招きしていたので、僕は彼女たちの近くに駆け寄った。


(これ、僕が誕生節にお祝いで贈ったものだ……)


 ルクルやエリーゼの秘密箱の中身は、僕が贈ったプレゼントが大量に詰まっていた。

 最初におねだりされた時に遊んだボードゲームなども入っている。プレゼントはどれも色褪せた色合いだけれど、20年の月日があってもその楽しかった思い出は色褪せることなく僕の中にも根付いていた。


(これも、これも……大切にしてくれたんだね)


 秘密箱からは思い出の品が洪水のように続く。

 今、ケミラが手にした古びたスプーンも見覚えがあった。


「これなんだろう?」

「赤ちゃんの使うスプーンに見えますわ!」


 首を傾げている二人は見覚えが無いようだ。無理もない。二人とも幼かったのだから。

 僕はケミラに近づくと、持っている手にそっと手を添えながら語る。


「それはね……ラガーの出産記念に僕がリゼにプレゼントしたんだ」


 誤って飲み込んでしまわない大きさで、軽くて丈夫で、ついでに抗菌で可愛いデザイン。

 それを探して沢山のお店をハシゴした記憶が蘇る。


「そっか、お兄ちゃんのスプーンだったんだね」

「ラガーの物は全部処分したと思っていましたのに、お母様ったらこっそり隠し持っていたのですわ」


 知っている。

 リゼは、自分で出産したラガーを本当に愛していたから、エリーゼが全部捨てる話をしていた時、一つだけは許して欲しいと懇願していた。

 そのことを思い出したら涙が止まらなくなったよ。


「ワド、泣く暇があったらお母様の日記を読むべきですわ!」

「うん。私もお姉ちゃんの意見と同じだよ。ワドはママたちの日記を読むべきだと思う」


 ピルナとケミラから「エリーゼの日記を読むべき」と言われるも、最初はそういうプライベートなものは読むべきじゃないと固辞した。

 けれど二人が言うには、僕は読まなければならないらしく、本人もそれを望むだろうってことだった。

 怒濤の剣幕に押され、読む事を決意する。


「分かった分かった。量が多いから今夜から少しずつ読むね」


 日記を読む事が当面の僕の宿題になった。


─────────────────────


 60冊にも及ぶ、20年間の日記の重みと量に圧倒されつつも、読み進める。

 エリーゼたちと過ごした時間、リゼたちと交わした会話が鮮明になっていく。


(どうして言ってくれなかったの?言われないと分からないよ……)


 日記に記されていた「リゼが欲しかった言葉」を知った僕は、それを生前のリゼに多く伝えられなかったことを強く後悔した。

 二人がどんな思いをもって、日々どんなやりとりをしていたのかを知り、もっと伝えておくべき言葉があったことを思い知らされる。


(こんなにも、感謝の言葉で喜んでくれたなんて、僕知らなかったよ)


 僕が言った何気ない言葉の数々。それを嬉しそうに二人は綴っていた。



《今日は一緒に屋台回れるの?嬉しい!一緒にいてくれてありがとね!》


《僕にはリゼが必要なんだ!映画の撮影に協力してくれる?》


《どんなレストランより、リゼの手作りが美味しいからまた呼んでね!》


《一緒に謝ってくれる?一人だと不安だったんだ!》



 本当に何も意識していなかった言葉。それを凄く嬉しいと何度も何度も。

 そして「大好き」の言葉について。

 エリーゼは「この戦争が終わったらきっと言ってもらえますわ!」と綴っている。

 それに対し「言葉よりも全員が無事であることが必要なの」と、少々説教気味なリゼの返信。

 リゼの最期に届けることができたけれど、彼女が20年もの間、その言葉を待ち焦がれていたことを初めて知った。


 ガスッ!バシン!


 僕は何度も自分の顔を殴った。

 気づいてあげられなかった不甲斐ない自分が許せなくて。

 もっと届けたかった。それが悔しくて。


「うぅ……リゼ、エリーゼ。……二人ともごめん。僕がもっと話をしていれば……」


 毎晩のように日記を読み進め、「あーしておけばよかった」「こーしておけばきっと……」と過去の後悔ばかりが募る。

 どれだけ後悔しても、彼女たちと共に過ごす未来はやってこない。

 次第に悲しみで押しつぶされるようになっていき、新しいことに取り組まなくなり、勉強も手につかなくなっていった。

 周囲の励ましの声も「立ち直らなければならない」というプレッシャーだ。

 そういう声を貰う程に、僕は身動きが取れなくなっていく。


「会いたいよ……」


 僕の独り言は日に日に多くなっていった。


─────────────────────


「ワールドン様!お父さんが発見されたって聞いたから会いに行きたい!」

「僕も!」


 そうした中、エリーゼの弟であるアルフォートが記憶喪失状態で発見された。

 息子であるチロルとマイボーから、会いに行きたいとせっつかれている。

 そんな声にも今の僕は消極的で、ネガティブな発言ばかりをしていたら、ピルナが腰に手を当て強く叱責してきた。


「ワド!いつまでもメソメソしていたらお母様に怒られますわ!アル叔父様に会いに行くのですわ!」


 ケミラやチロルも続く。


「ワド。会えばきっとアルおじちゃんも思い出してくれると思う」

「お父さんに会いたい!」


 マイボーが父親のモノマネをしながら、窘めてきた。


「まったく、ワールドン様は仕方ないですね。後は私がやっておきますから、スイーツでも食べてやる気を回復させて下さい!……どう?似てる?」



 そのモノマネに押され、久しぶりに会いたい方へと心の天秤が大きく傾いたよ。



直後よりも暫く期間が空いて、思い出の品に触れることで寂しさが増加していくワド。

立ち直りかけていたのに再び塞ぎ込みました。

そこにアルフォートの情報。心は揺れています。


次回は「忘却という祝福と呪い」です。

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