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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
ドラゴンスレイヤー
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勇者 vs 英雄

前回のあらすじ

カルカンとマチ・ラコア、フレークとレコカ・ショラド。

30年の時を経て、父を超える戦いにカルカンが挑みます。


カルカン視点の本編です。

「……恩に着る。カルカン先輩!」


 ラコアのその言葉に、カルカンはそちらを向かないままにサムズアップで応えた。


 ちゃんと背中を押せただろうか。

 不安な表情を見られていないだろうか。


 命が残り少ないラコアに、この時代を生きた誇りを抱えたまま逝って欲しい。後悔して欲しく無いのだ。

 自分自身に重ねてしまったのだろうか。それはカルカン自身にも分からなかった。

 ただ、今、この涙を見せることなく送り出せた事に心から安堵している。

 レコカとフレークは、この場に残ったカルカンへ歩みを進めながら口を開く。


「あらら、一人になっちゃいましたよ」

「ラコア将軍の相手はしんどそうだったから、ある意味助かったな」


 敵は、伝説の勇者フレーク。

 下手に友軍がいると、気づかないうちにフレンドリーファイアの罠にハメられるだろう。

 寧ろ一人の方が気が楽だ。大切な仲間を傷つける心配がないのだから。

 カルカンが沈黙を貫いていると、二人の雰囲気は少し和らぎ、諭し始める。


「英雄サイゴウの子よ。ここは引け。みた所、あまり寿命も長く無さそうだ」

「ええ、私からも引く事をオススメしますよ。ここで無駄に命を散らすことも無いでしょう」


 真剣な面持ちでカルカンは耳を澄ませる。

 近くで燃えている倒木が爆ぜる音を立て、それがその木の断末魔のようにも思う。

 この戦いは無謀だ。挑めば次の断末魔は恐らく……そう考えてやめた。


「思考誘導と降伏勧告の相性が良すぎるのにゃー」


 相変わらず恐ろしい能力で、危うく罠に落ちるところだった。

 過去の模擬戦を経験していなければ危なかったかも知れない。

 カルカンは影響をそぎ落とすように頭を振り、強い意思を持ってフレークたちを睨みなおす。


「でもにゃ、理屈や効率じゃなくて伊達と酔狂で格好つけているのだから、最善ではない事は百も承知……なのにゃー」

「……驚いた。見破られたこともそうだが、サイゴウと同じ言葉なことが特に……な」


 フレークは言葉通り、目を見開き驚いている。

 そうか。

 勇気と信念の元に果てたと思っていた偉大な父が、格好つけていただけと知って少し肩の力が抜ける。

 あれだけ遠いと思っていた父は、気づけば隣にいるような気がした。


(父さん、見てて欲しいのにゃ)


 自身でも残りの命が少ないことは理解しているし、そのおかげで効率と無縁でいられた。

 望みは己の生き様を貫くこと。ただ、その一つ。

 だからこそ生存の選択肢を捨て、フレークの能力を脱することができた。


(ガトー様はワールドン様に甘いから、南で無理しなきゃいいけど……)


 ワールドンに頼まれると断れないガトーは、南に逃げたのだと思う。

 無論、南の戦場を立て直す理由も本当ではあるが、恐らくはそうだ。

 その気持ちはカルカンにも理解できた。


(ワールドン様に、私の最期は見て欲しくない……)


 優しすぎる自国の神様には、なるべく笑顔でいて欲しい。心からそう思う。

 目尻に溜まった涙をぬぐい、一歩足を踏み出す。


「私は英雄カルカン!今はまだ自称だが、一人でも英雄であれと望んでくれる人がいる限り、私は戦う!勇者フレーク、覚悟するのにゃ!」


 一点の曇りもない眼差しで、フレークを正面に見据えるカルカン。

 その宣言を受け、フレークは佇まいを正しながら、レコカを手で制する。


「レコカは軍の方につけ」

「でも、フレーク……」

「いや、ここは一人でやらせてくれ。命を賭した男の挑戦だ。二人がかりで相手するのは気が引ける」


 フレークは一度もカルカンから目を離しておらず、相手を強敵と認め、その情熱に応える意思を見せた。

 その姿は、まだ世界に夢を見ていた頃に近しい。

 レコカは「あなたも充分に格好つけですよ」と言いながら小さく頷き、その場を後にした。

 直後、新たな大木が倒れ、ドシンと音を立てながら焼き焦げた匂いを舞い上げる。


「フレーク氏、挑戦を受けてくれて感謝するのにゃ」


 カルカンは心からの感謝を伝える。

 それを受けてフレークは自虐めいた笑みを浮かべていた。


「まさか俺に、こんなセンチな部分が残っていたとは意外だったし、俺が一番驚いている」


 その言葉を最後に長い沈黙が始まり、緩やかに近づいてくるのは闘争の足音。それはドクン、ドクンと大きくなっていく。

 お互いが放つ圧は最高潮へと高まり続け、燃え移った枯木の爆ぜる音で戦いは始まった。


─────────────────────


 燃え盛る周囲の木々に比べたら、二人の戦いは静かなものだった。

 銃声より、移動して落ち葉を踏みしめる音の方が多く、互いに射線を切りあう時間が続く。


「ふぅ……シッ!」


 カルカンは揺らぐ熱気のマナの動きを見極め、思考誘導を避けつつ、フレークを中心に回り続けた。

 フェイントなのか思考誘導なのかの判断が難しく、無駄弾を使う余裕もない。

 自ずと隙を釣りだすための動きが多くなり、互いの決定的な隙を伺う展開になっていた。

 幾度目かの攻防の後にフレークが小さく零す。


「やれやれ……そちらも弾切れ狙いか?だが、時間が経つほどに不利になるのはそっちだぞ」


 フレークの指摘は正しい。

 敵の援軍が迫っているのだ。フレークは時間稼ぎが優位に働くが、カルカンは制限時間が過ぎれば敗北は必至。

 フレークは「それは望みじゃないだろう?」と言い銃を投げ捨てた。


「来い!接近戦で相手をしてやる」


 あぁ、この男こそが勇者なのだと痛感する。

 勇気ある者。

 その勇を体現する姿に、人々は称える名を与えたのだと知る。

 この誘いに乗ることが思考誘導の結果なのかも知れない。

 それでもカルカンは不敵に笑った。


「どうせ騙されるなら、そっちの方がいいのにゃ!」

「……俺はこのコソ泥みたいな能力が嫌いなんだよ」


 カルカンも銃を仕舞い、逃げない覚悟を見せた。

 首を回しながら、ガントレットに包まれた拳を何度か握り直す。


「いざ!」

「ゆくのにゃ!」


 両者が一気に間合いを詰めた。

 激突した余波で、燃えカスとなった木の葉が爆心地から飛び散る。


 フレークは小剣(レイピア)

 カルカンは籠手(ガントレット)


 突きの応酬が、瞬きほどの間に幾度となく繰り返される。

 繰り返すほどにその力強さは増していった。


「やるじゃないか。意外に拳士でも!」

「そっちこそ。思ったより業物なのにゃ!」


 カルカンのガントレットは、王国の技術を結集した最強の代物。

 それとまともにぶつかり合って、刃こぼれ一つ起こさないレイピアに驚きを禁じ得ない。


「それが!……噂の滅竜武器のレイピアにゃ?」


 カルカンが言葉を発しながら繰り出した強打で、互いの間にスペースが再び生まれる。

 小剣を握り直しながら、持ち手を隠すように構えたフレークが答える。


「まさか。滅竜武器の訳がないだろう?」


 それを聞いてカルカンは、複雑な思いをしていた。

 長年、滅竜武器を見続けたフレークは、恐らく本心からそう言っている。

 自身の作りあげたガントレットがまだ遠く及ばないという事実は、嬉しくも、悔しくも、寂しくもあったからだ。


(あの無名の天才なら、簡単に超えるのに……)


 寂しさは、開発者としての挑戦が中途半端に終わったことから来るものであり、誰に理解して貰うつもりも無かった。

 カルカンの様子を見たフレークが、眉を顰めながら問う。


「どうした?滅竜武器でないことが不満か?最後はかの有名な武器が良かったとでも?」

「……そうじゃないのにゃ」


 そう言って再び交錯する二人。

 切っ先と拳がぶつかる甲高い音が何度も木霊する。


(構えが厄介にゃ!)


 フレークが持ち手を体で隠すようにしたので、今までよりもマナの流れ、すなわち攻撃の流れを読みにくくなっていた。

 迷いが生じるほどに、どれが思考誘導か分からなくなり、次第にカルカンの反応が少しずつ遅れ始める。


「どうした?息が上がっているか?」

「ぜぇ、ぜぇ……まだまだにゃ!」


 リーチの差。そして思考誘導という能力。

 この二つがカルカンの疲労を増幅させていた。

 先程から激しい応酬をしているのは、フレークだけ一方的に攻撃が通る距離。カルカンはもう一歩踏み込まなければ届かないので、そのリスクが精神的に負担となる上、回避は大袈裟にしなければならない。


「ぐっ!……ぜぇ、ぜぇ……しんどいにゃ」


 ギリギリで回避などは思考誘導の恰好の餌だ。

 少し認識をズラされただけで大ダメージに繋がるのは避けなければならず、疲労は蓄積していった。


(本当に、隙が無いのにゃ)


 手持ちのカプセルを飲めば疲労は癒せるが、それを飲む時間を与えてくれるほど優しい相手ではない。

 まるでチェックメイトに向けて、一手一手追い込まれている気分だ。


「俺も昔に戻れた気分だった。ありがとう」

「……まだ閉店時間には早いのにゃ!」


 勝ちを確信したのか店じまいのような挨拶をされ、カルカンは激怒した。

 まだ終わっていない。

 英雄とはこんなものじゃない。

 しかし、フレークは崩れない。それに焦りを感じていた時だった。


 ドゴォォォォオンン!


 それまでの空気が霧散し、強烈な熱波と冷気が渦を巻くように交互に訪れる。

 その発生源は、遠方に見えていた山の中腹から発せられていた。


(ラコア氏がやってくれたのにゃ!)


 カルカンの依頼通り、立ち去る前にラコアが全力ぶっぱの置き土産を残した。

 かつて山だった(・・・・・・・)そこにはマグマと氷塊のオブジェが折り重なるように渦を巻いている。

 その光景をみてフレークがぼやいた。


「おい、何人巻き込まれた?さすがに想定外だぞ」


 それはそうだろう。

 彼女の全力ぶっぱは神に届きそうな破壊力を持つ。

 数々の模擬戦を見て、カルカンはそれを確信していた。

 あまりの惨状にやや呆然とするフレークへ向け、カルカンは言う。


「さぁ?万は超えたのは確実にゃ」


 フレークが「冗談じゃない」と呟いたその時。彼の言葉は強烈な拳撃によって阻まれる。



「……よそ見厳禁、逆王手なのにゃ!」



 カルカンの攻撃が、初めてフレークへと届いた。



禁忌で名前を奪われた(・・・・・・・)作者の武器であれば、フレークの小剣を力づくで破壊できたのですが、カルカンはマナ技術者としてのプライドがあったのでそれを選べませんでした。


次回は「紡がれる伝説」です。

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なろう執筆はじめました!なろう初心者作家向けのエッセイです。
― 新着の感想 ―
 お邪魔しています。  カルカンの最後まであきらめない戦い方、凄いですね。どんなときにも前を見る生き方は、尊敬です!
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