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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
ドラゴンスレイヤー
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陽炎の先に見えるもの

前回のあらすじ

カルカンとマチ・ラコアは合流を果たし、勇者フレークを止めるべく東の戦場へと移動しました。

二人とも髪や瞳の色が薄くなっており、その姿はかつてのリベラを想起させます。

「ヨーコ、ヨーコ!東の戦場を見せて!」

『あー、うっせ。しつこいぞワド』


 僕が伝心中継を頼みすぎるからか、ヨーコは不機嫌になっている。

 ヨーコにしてみれば、この戦争は余興の一つでしかなく、娯楽感覚の観戦なのだろう。

 けれど、交換条件を出しながら必死に頼み込む。

 ガトーは既に作戦本部には居ないから。


ーーーガトーが出撃!VTRーーー

「まずいぞ。エリーゼでは黒の結界から当分でれないし、あの中ではヘタすれば負けるぞ」


 エリーゼが黒の結界に捕らえられてしまった。

 マナ量からしても1ヶ月は出られないと思う。


『あー、カッパーの爺さんも王都に近づいてるぜ。なぁ、どうする?ん?』


 ヨーコは他人事な感じで陽気に問いかけてくるし、作戦本部の人たちは右往左往状態。

 そこにオペレーターからの報告が相次ぐ。


「報告!敵将エンビカをポロッサ村で目視確認!」

「滅竜騎士団の副団長が生存していた模様!現在は王都に向け、単騎にて接近中!」


 ビットが生きていた事は嬉しいけれど、状況は悪化する一方だ。

 先行しているエンビカ将軍を抑えるべく、様々な人が動いている。


「これはかなりピンチだよぉ……」


 僕が「はわわ」という感じで言葉を零したら、背後から肩をポンポンと叩かれる。


「吾輩が南の戦況を改善してくるぞにゃん」


 ガトーが参戦を申し出てきたけど、滅竜武器が3つもある所へ投入するのは憚られる。

 けれど「信じろにゃん」というガトーの言葉を信じたい。


「絶対に無理はしないでね!危ないと思ったら降参するんだよ!」


 僕が小言を伝えていると、うんざりした様子でガトーはそっぽを向いていた。

 でも、普段通りのガトーだからこそ信じられるし、やっぱり友達なんだと安心もする。

 だから送り出すんだ笑顔で。


『では、吾輩は行ってくるぞにゃん!』


 ガトーはドラゴン形態へと姿を変えて、今まさに戦闘モードだ。

 互いに信頼するように頷きあう。


「気を付けて!安全第一!無理は第二!」

『おうにゃん!』


 そうしてガトーが出撃する事になった。

ーーーガトーが出撃!ENDーーー


 ガトーならきっとエリーゼを助けてくれる。

 そう信じているから他の戦場で少しは役に立ちたいと思うし、それは僕の役目だろう。


『じゃ、伝心1回につき、1約束な』

「分かったからさっさとヨロ!」


 ヨーコとは度重なる協議の結果、和菓子フェアとヨーコの作品のファンブック1冊刊行を、伝心毎に行う事を約束させられた。

 何も出来ないよりは、戦場を見て各地に情報を配れる方が良いし、それを承諾。


『じゃ、繋げるぞー。感謝しろよな』


 交換条件を得たヨーコは、してやったりというドヤ顔をしていた。

 それを見て、渋っていた理由を何となく察する。

 恩着せがましいヨーコにイラっとしつつ、伝心を受け取った。


ーーーマチ・ラコアが見た東の戦場!VTRーーー

「カルカン先輩。東に見える山の中腹が敵軍がいるポイントなんだが何か分かるか?」

「いま、マナ心眼で見てみるのにゃー」


 漫画のアシ時代からお世話になっているカルカン。

 彼はスクリーントーンを貼るのが上手いだけの男ではない。

 数々の猛者に認められる実力者で、あのエリーゼ・ホリターからも「カルカンであれば問題ないですわ」と太鼓判を押される存在。


(実際、先輩は凄いからな)


 カルカンはマナ心眼という稀な異能を持っている。

 ただ所持しているだけではなく、その異能を使い熟すだけの才を持ち、日々研鑽をし続けているのだ。

 英雄サイゴウの子という呼び名にも納得しつつ、先程から目を凝らしているカルカンへと問いかけた。


「どうだカルカン先輩、何か見えたか?」

「マグマや炎が見えるのにゃ!」


 そんなものは肉眼でも見える。

 敵軍を確認して欲しいが、ピントのズレた意見に「相変わらずKYだな」とマチは体の力を抜いた。


「ラコア氏の指摘した方角に軍は居ないのニャ!」

「なんだと!?」


 立ち往生をしていると思っていた人影は、案山子やデコイの魔術具で作られたもので、兵は一人もいないと言う。


「そんな馬鹿な。何度も確認したんだぞ?」

「炎の揺らぐマナの中に、大量に蠢く人族のマナが見えるのにゃ。敵軍は炎の中を行軍しているのにゃ!」


 カルカンの言葉を聞いて、一瞬正気を疑ったが、彼が言うのなら事実だと思い直した。


(ありえない。私が指揮官ならば無理であろう)


 将軍という地位にあり、兵を指揮した身だからこそ、つきまとう常識。

 兵に炎の中へ突っ込めという指揮をして、誰がついてくるというのか。


「これが……レコカの策?そしてフレークの能力なのか?」

「恐らくそうにゃー!」


 認識を再整理して現状を確認し直したら、マチも見る事ができた。

 その光景に、やられたという思いが強くなる。

 こちらに対しては、軍がいる箇所を確認済み、いない場所を未確認の箇所として思考誘導。

 炎の中を行軍する兵には、それをしないと命が無いと思考誘導しているのだろう。


「フレーク氏の思考誘導は厄介なのにゃ」


 それはつくづく共感できた。

 カルカンの言葉にそちらを向かず、敵軍をその視界に納めたままマチは首肯する。


「私もそう思う」


 目に入っているのに、意識に上らない。

 いかなる蛮行も妄信的に信じさせる。

 直接戦闘時はある程度のランダム性を持たせれば対処できるが、軍事に用いるとここまで凶悪なのかと。


「妖術使いの呼び名は……正しかったな」


 レコカ・ショラド元帥。

 勇者パーティーの頭脳と呼ばれた女だ。

 参謀である彼女が、裏で糸を引いているのは間違いがなかった。


「あら、ラコア将軍に褒められて嬉しいですね」

「……レコカ氏、フレーク氏」


 ふいに背後から声をかけられて振り向くと、そこには勇者フレークとレコカ元帥の姿。

 カルカンが名前を呼んだ後、慌てて戦闘態勢を取り、マチもそれに続く。


(効率的になりすぎず、敵の思考を読み取らねば!)


 矛盾しているが、そうしなければ活路がない。

 レコカの戦術を看破しなければ勝機はなく、最善だと考えたプランは、フレークの思考誘導で用意された可能性がある。

 だからこそ多少非効率な考えをミックスさせつつ、妖術使いとも評される軍師の頭脳を読み取らなければならない。


『カルカンにラコアよ。ちょっといいか?』


 そこに突然、脳内に声が割り込んできた。

 風の神であるガトー様だ。


『ガトー様、語尾もつけずにどうしたのにゃ?』

『うむ、実は……』


 聞かされた事実に驚く。

 にわかには信じ難い。だが、神である存在が嘘をついているとも思えなかった。


『馬鹿な!?あの電光石火のエリーゼ将軍を捕らえたのか!?』


 エリーゼは黒の結界に捕らえられたそうだ。

 いかなる理由があったのか分からないが、この目で見るまでは信じられない。


『吾輩は後続を抑えるべく南へ往く。東は頼んだぞ』


 エリーゼは生涯のライバルと認めた存在。

 その窮地に心は揺れる。


 このまま模擬戦成績を勝ち逃げされたまま逝ってしまうのではないか。

 彼女を討ち取るという栄誉を他の誰かに奪われてしまうのではないか。

 もう二度と再会を果たす事が叶わないのではないか。


 色んな問いが心の中に渦巻く。


「ラコア氏、残り少ない人生。後悔しないようにするのにゃ。責任は私が取るのにゃ」


 平静を失う中、カルカンから声がかけられた。

 マチの残りの寿命を察し、提案をくれる。

 背中を押してくれる先輩には感謝するが、一人で戦わせるなど出来るわけもない。

 確かにマチはワールドン王国と無関係の立場であり、単なる客将でしか無いが、そこまで薄情だと思われるのも心外であった。


「あーもう、素直じゃないのにゃ」


 カルカンは「ラコア氏はエリーゼ様が大好きすぎるのにゃ」と言っているが、冗談ではない。


(私は、あの女が嫌いだ!嫌いなはずなのだ!)


 そう心の中で叫んでみても、それが説得力を持たないのは自分でも分かる。

 カルカンはマチに背を向け、敵軍へと向き直った。


「往きたいなら往くのにゃ!全力ぶっぱで数だけ減らしてくれればいいのにゃ!」

「……恩に着る。カルカン先輩!」


 背中越しのサムズアップで応じるカルカン。


「かっこよすぎだろ、カルカン先輩」

「なんなら惚れても構わないのにゃ」

「あぁ、惚れたよ。結婚するならカルカン先輩みたいな人がいいな」


 そうしてマチは敵軍へと強力な奥義を連続でぶっ放す。

 エリーゼの援軍へ馳せ参じるために。


(カルカン先輩、貴殿は……いや、貴殿こそ英雄だ!)

ーーーマチ・ラコアが見た東の戦場!ENDーーー


(こんなとこにラブコメの波動があるなんて!)


 いや、今は僕の趣味に走るべきじゃない。

 カルカンが東の戦場を一人で支えているというピンチなんだ。


『なぁ、カルカンの毛の色が薄くなってないか?』


 ヨーコからの指摘。

 僕が直視したくない現実だ。


(カルカン、いっぱいビール用意するから!)


 薄くなり白みが増したカルカンの姿に過去の出来事を重ね、寿命が尽きる直前のリベラさんを思い出す。

 寿命がある種族は、残りの寿命がほとんど無くなると髪や瞳の色が失われて白くなるのだ。

 ビールを飲めれば幸せだと言っていたカルカン。

 その無事の帰還だけを祈り続けた。


「カルカン君……踏ん張ってくれ!」

「余剰戦力は無いですから、カルカン殿に踏ん張って貰わないと」


 ルクルやバラン君も、戦況を見守っている。

 戦力は出し尽くしているので、カルカンに頑張って貰うしか無い。


(カルカンならどんなピンチも乗り越えるよ!)


 そう信じている。

 炎の中、行軍する敵を阻むのは、一匹の猫魔族。



 僕はモニターに映るカルカンの無事を祈り続けた。



敵軍は、グミが提供した大量の青のマナ鉱石で炎症を抑え、進軍しています。


次回は「勇者 vs 英雄」です。

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