闇の中の勧誘
前回のあらすじ
久しぶりに会ったビットとプリスは、滅竜武器の所持者となっていました。
エリーゼが戦闘介入し、作戦本部へと一時撤退した所です。
『レッドもガトーも楽しそうにはしゃいでるな』
ヨーコが羨ましそうに感想を零した通り、二人は楽しそうだけれど、ちょっと迷惑な感じ。
地上は相変わらず物凄い被害状況で、ここまでの天災は観測史上初だという話だ。
『でもあれって寸止めだよな?』
「そだね。二人とも特撮ヒーローの殺陣を演じているだけだよ」
「世界一迷惑な殺陣だよー。やっぱ止めて来てよ」
ルクルから要望されるも、僕の出撃阻止はエリーゼが目を光らせているし、口調からも本気ではなく愚痴のようだ。
川は干上がりマグマが流れ、地形も変わって新たな渓谷ができている。数百の竜巻と見渡す限りの森林火災はまさに地獄絵図。
それでもレッドとガトーの争いを止めないのには理由がある。
「ガトーは上手く引き付けてくれてるし、完全に足止めは成功だよね?」
「まぁ、それはそうだけどねー」
トーハト王国軍とカービル帝国軍は、この影響で立ち往生。大嵐+大火災の状態でとても行軍できる状況ではなく、再開見合わせの状態だ。
しかし、被害も酷いので、ヨーコ経由で少しだけ被害を抑えるよう連絡した。
ーーー神々のじゃれあいへ苦情VTRーーー
『なぁ、こういう風にターンしながら、尻尾と後ろ回し蹴りの二段攻撃は良くないか?』
『そのまま回転して、大振りの左手の爪攻撃に連続で繋げてみたらどうだにゃん?』
レッドは練習で二段攻撃+大振りの動きを確かめ、その体の動きに合わせて地上では熱波と爆発が広がっていた。
なぜ大振りなのかを問うレッド。
『連撃を吾輩がガードするぞにゃん。最後の爪攻撃は炎を纏わせて強力な一撃にし、それをギリギリで交わして背後に回る展開は熱いぞにゃん』
『お、それいいぜ!その後は振り向きざまにお互いにパンチを繰り出し、拳同士をブチ当てた衝撃で二人の距離ができる展開はどうだ?』
ご機嫌で頷くガトー。
そこにヨーコが伝心で割って入る。
『あー、俺としては結構見ごたえがあるんだけどさ、お前らの動きが迷惑だってワドが言ってるけど?』
『む?人里からは少し離れているし、ちゃんと敵が行軍しにくいようにしてるぞにゃん?』
『あ?行軍を阻害しているなんて聞いてないぜ?』
ガトーがさりげなく行軍を邪魔する位置取りをしていた。ヨーコの指摘につられる形で自分からバラしてしまい、知らなかったレッドが噛みつき始める。
『悪かった悪かったにゃん。ん?それよりもヨーコが今、味わっているものが気になるぞにゃん?』
『俺様もその旨い食べ物が気になっていたぜ!』
二人の追及も、素知らぬふりで食事を続けるヨーコだった。
ーーー神々のじゃれあいへ苦情ENDーーー
『おい!ワドよ!何勝手にピザ食ってるんだにゃん?吾輩の分は?』
人里に被害出ない様にしつつ、敵軍の足止めとレッドの相手をしていたガトーから、逆に苦情が届く。
こういう時のガトーは粘着質なので、暫く続くのがかなり厄介な所だ。
『なーーにが、かなり厄介だコラにゃん!吾輩はめちゃくちゃ頑張ってるだろにゃん!ご褒美必要だぞにゃん!』
神の権能を失い、伝心ブロックも出来なくて考えている事が筒抜けだ。
これからは内心の陰口も控えようと、心に誓う。
そこへヨーコから『それよりも』と切り出される。
情報収集を楽しんでいて、別の戦場も逐一チェックしていたヨーコが言うには、黒の結界の中で変化があったらしい。
『やべーな、ボチョールが懐柔されたか?』
ヨーコに詰め寄り、結界内を伝心で共有して貰う。
ーーー剣聖を説得?VTRーーー
黒の結界に取り残されたラコア将軍とボチョールは、武器を納めて話し合っていた。
二人は数週間の拘束が確定しており、この戦争から締め出されてしまったも同然。それゆえ争う事が無意味になったので、腰を据えて話し合う事になった。
「しかしこんな形で退場させられるとは……私は記憶を消されてしまうのだろうか?」
「どういう意味だ?」
「こちらも事情がある。そういうラコア将軍は、なぜワールドン様に加担する?待つのは光なき未来ぞ?」
問いに問いで返す。
試練を果たせなければ、世界は光を失う。
そうまでして味方する事に、ボチョールは価値を見出せなかった。
「私は、知識の番人と面識があってな……」
古書の事を語るラコア将軍。
彼女はワールドンと共にそれを読み込んだ当時を思い返しながら、内容を詳らかにした。
「……と、あったのだ」
「しかし、その方法は消えていたのだろう?どうやって試練を打ち切るのだ?」
禁忌を犯して生き延びた事例の書物は、肝心な部分が消えている。
様々な情報を集め、独自に持っていた神々の情報とも照らし合わせた。
二柱の神と契約したラコア将軍は、眷属神の情報を多く持っており、神の真意を読み解けば見えるものもあると言う。
「これほど不確かな情報で分かるのか?」
「過去の事例では三種の神器。今回は七振りの滅竜武器。ここから見えてくるものが無いか?」
書物の読み取れる範囲で得られるのは、試練を打ち切った事象と密接な関りがある三種の神器。
鋭い視線が向けられるも、ボチョールは首を傾げて疑問を口にした。
「私には分からないが?」
「四大神の真意……それと最高位ドラゴンの由来に関連があると私は睨んでいる」
「真意とは?」
試練の真意。
四大神は、ワールドンが禁忌を犯す原因を用意した人族が最も罪があると考えており、増長して増えすぎた人を減らすため討伐という試練を課した。
それによって引き起こされる、大規模な戦争での「人の間引き」が真の狙い。
そう分析したとラコア将軍は語る。
「間引きとは過激な……」
「人も庭木の剪定くらいはするだろう?歪な枝葉を取り除き綺麗にする。神にとって枝葉が国家で、人々はそれを構成する細胞でしかない」
「ふむ。可能性はあれど裏付けが弱いのでは?」
「お答えしよう」
人の間引きについて。
増長した人族が減る、又は増長の成果物が減る事を望んでいる。
魔術具「七振りの滅竜武器」は準禁呪具だ。
神を殺せる武器を四大神は快く思っておらず、それにまつわる所有者が戦いへ参加するのを強制とした。
人へ「ワールドンを討とうとせねば光を失う」と宣言し、始まった世界規模の戦い。
欲深い人同士が争えば、より都合が良いと四大神は考えた。
だから四大神にとって、多くの人が死ぬか、滅竜武器が破壊されれば良い。
ラコア将軍はそのように見解を示した。
「確かにその前提であれば、我々は神の良いように扱われているのだろう」
「そうだ。実際に多くの者が命を落としている」
「しかし発想が飛躍しすぎでは無いか?現時点では首肯しかねるな」
その言葉にラコア将軍は反論する。
ワールドンが光の神であると同時に、その力が生命に関わるものである事を。
命の象徴でもあるワールドンが試練の意味。
ひいては「欲を選んで命を落とす」「命を守って欲を諦める」の二択を迫っていると、推察を語った。
「その象徴を討てという試練は、間引きが真の目的と考えると腑に落ちる部分が多く、欲深い人が勝手に巻き込まれての自滅が望まれているだろう」
「なるほど。それは望み通りなのだろうな」
ボチョールは、「欲深い人」に心当たりが多く、その推論をある程度認めた。
実際に「討伐を成した者は世界最高の名誉」として報酬を約束し、世界各国がこぞって参戦している上、戦争に便乗して儲けようとする者で物価は急騰。
それに伴って一気に治安が悪化し、各地では略奪行為に伴う殺害が相次いでいる。
欲に対し罰があり、それは命なのだろうと。
ワールドンが自死を申し出た時、頑なに却下し、禁止事項にも付け加えた四大神。
それを知っていたボチョールは得心する。
「そんな情報を……なぜ?」
「所持者には記憶があるのだ」
今度はボチョールが主体になって語り出す。
「今回の禁忌と神罰の共有があってな……所有者は記憶がチップにされておる」
「どういうことだ?」
滅竜武器の所持者は、この試練に強制参加となっている。
禁忌や神罰の全容も共有されていて、不参加の場合は、全ての記憶を失う代償が提示されたとの事だった。
「やはりな。滅竜武器を優遇しているように見せかけて、忌嫌っているのだろう」
「それが先ほど言っていた【増長の成果物】を減らすに繋がるのか?ふむ……」
ボチョールは思考の海に潜る。
改めて滅竜武器の所持者が強制参加な点に注目。
人が生み出した愚かさの証明である禁呪具。
禁呪具を忌嫌っている四大神は、準禁呪具である「滅竜武器」も本音では破壊したい前提で考察する。
ドラゴンとの戦いで破壊されても良いし、滅竜武器の所持者同士の戦いでも良い。
「確かに……準禁呪具を破壊出来れば満足なのやも知れぬ」
「であろう!」
やや興奮気味のラコア将軍が、書物で得た情報を再び語りだす。
唯一試練を打ち切った事例では、三種の神器についての記載がある。
だが、3つとはどこにも記載がなく、不自然に欠けている部分や文脈から察するに、以前は四種だったのでは無いかと推察した。
「……ふむ」
滅竜武器の異常な性能を知るボチョールは得心する。
また、「滅竜武器の持ち主が記憶を保持するのも、試練での間引きを円滑に進めるため」と理解し、同意を示す。
「それがチップにさせられた理由か……」
「誰だって白痴になるのは嫌であろう?酷い脅しだ」
「確かにな……記憶を守るためにも所有者は参加せざるを得ない。全ては神の思惑通りか」
やや不完全ながらも、ボチョールはある程度の納得を示し、様々な情報からの分析を褒めた。
「ここから動けないのであれば、意味が無くなってしまったがな」
乾いた笑いを浮かべるラコア将軍。
そこに真剣な眼差しをしたボチョールから「一つだけすぐに出れる方法がある」と提案を受ける。
急変した雰囲気に気圧されつつも、ラコア将軍は続く言葉を待った。
「……問おう。その命を賭ける覚悟はあるか?」
ーーー剣聖を説得?ENDーーー
ラコア将軍が考え込む様子が続いたので、僕らも二人の意見の話題が始まった。
緑と赤の戦いは、地上の一般兵から見上げるととても恐ろしいものだったようです。
次回は「切り裂かれる闇」です。