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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
世界大戦
339/389

閑話:蒸発した夫

前回のあらすじ

愛する婚約者を手に入れたメル。

サブロワとの結婚生活と、それを突然奪われた様子を描きました。

ep.「天才鍛冶師」~ ep.「裏切りと王座」までのメル視点となります。


※作中期間で11年が経っている閑話となります。


・登場キャラ紹介(多いので後書きにも分割)

メル:ブールボン出身の戦災孤児。20→31歳。

シーナ:メルの姉。超人気BL漫画家。

サブロワ:メルの恋人→婚約者→夫。

ホールン:サブロワの研究仲間。

ミア・ジノゴ:貴族。サブロワの幼馴染。

「すみませーん、この花を中心に包んでくれます?」

「はーい」


 この度、ルクル様の所に第二子であるラガー様が産まれ、お祝いの花の注文が相次いで大忙しだ。

 花屋としてもお祝いの花を贈ったし、王都全体が祝福に湧いていた。

 多忙な日々を送っている中、ワールドン様から呼び出され、謎の懇願が行われる。


「メルなら分かってくれるよね!」

「……はぁーーー……」


 これはあれだ。懇願という名の強要だ。

 ワールドン様から忖度の圧力があったので、条件付きで許可したのに、「喜んで協力してくれた」とか寝言を言っている女神様。

 そもそも君主であり、女神でもあるワールドン様に頼まれて、断れる人は国民には居ない。それをこの金色のアホの子は分かっているのだろうか?

 国の行く末がじんわりと不安になった。


「じゃあ、メルもサブロワ君の開発を応援してくれるよね!」

「……条件付きですよ?」


 そうして、サブロワとの同棲生活を邪魔しない事を条件に、許可を出した。

 けど、このアホの子に約束を守る能力は無かったらしい。


「ワールドン様?メルとの約束忘れてない?」

「えー?なんの事かなぁー?僕、わかんなーい」


 あれほど約束をしたのに、何故か婚約者が他国へ留学する話になっている。

 同棲生活を邪魔されたので、ここで厳しくしておかないと何度も繰り返すであろうすっとぼけ女神に、お財布の限界を極めて貰う。


「僕のおこずかいが無くなっちゃうよ?(涙目)」

「あー、そういう演技いいから」


 ここで厳しく躾けて置かないと、このアホの子はもっと酷いやらかしをするはずだ。

 だからこそちゃんと線引きはしておく。

 そうして婚約者は遠い地へ留学する事になった。


(なんで、こんな事になってるのよ?)


 実の姉が、婚約者との別れのシーンを漫画にして販売し始めた。

 別に姉の趣味や飯のタネにケチをつけるつもりはないけれど、これは頂けない。

 何故か私が男にされて、BLとなっている。


「シーナ姉、これはどういう事なの?」

「えー?なんの事かなぁー?私、わかんなーい」

「……はぁーーー……」


 残念女神の汚染力たるや凄いものだ。

 姉から同人誌のネタにされて、男に性転換させられていた事に頭痛を覚える。しかもメルが攻めだなんて納得がいかない。


(シーナ姉からも私が攻めだと思われてるの?)


 そもそも経験もまだな姉にそういう事をとやかく言われたくないのに、やたらと口出しをしてくる。

 過干渉な姉に少しうんざりしていた。


(ちょっと、シーナ姉と距離を置きたいなぁ……)


 そう思っていた所に急遽舞い込んだ里帰りの話。

 私とシーナ姉の実の両親は、以前の世界大戦の頃に命を落としている。

 戦災孤児だったから、両親がいるという事への憧れがあった。

 ブールボンへ久しぶりの帰国を果たし、サブロワとの結婚の挨拶で彼の実家へ向かう。


「メルだったら大丈夫だから」

「……そうだといいけど、緊張する」


 サブロワから励まされながらも、気難しいと聞いていた父親や、母親と姉との対面を果たした。

 彼の両親からは大歓迎され、姉の子供たちからも叔母として迎え入れられた事に安堵する。


「こんなしっかりした娘はいない。サブロワは良い嫁を貰ったな」

「父さん、認めてくれてありがとう」

「受け入れられて嬉しい」


 これは本心だ。

 シーナ姉しか居なかった家族が増える事に、心が暖かくなる。


「メルおばさんよろー!」

「おばちゃんよろ!」

「メルお姉さんと呼ぼうね?」

「「ひぃぃ!」」


 ラシュとクーレには睨みつけておいたら、二人の母であるミルネからは苦笑い気味に謝罪を受けた。

 こういう事は最初が肝心なのだ。

 この歳でおばさん呼びは流石に勘弁してほしい。


(お父さんやお母さんが生きていたならこんな感じなのかな?)


 サブロワの両親からは、かなり温かく迎え入れられて、自然と笑顔になる。

 世界大戦で父を失い、混乱が続く中で無理な出産がたたった母を失くした。

 直接の面識が無いけれど、お墓はあるブールボン。

 それに幼い頃、育ててくれた孤児院への恩返しがしたい。

 受け入れて貰えるか不安だったけれど、この家族となら一緒に歩みたい。

 その思いが強くなった。


───翌日。


「だ、ダメだよ!サブロワ君は魔術具開発に欠かせない存在だから僕の国に居て貰わないと!」

「ぷっ!あはは!なんでワールドン様の方が焦ってるの?開発が終わるまではワールドン王国が活動拠点になるのは変わらないよ」


 サブロワと相談して決めたブールボンでの子育て、それをワールドン様へ報告したら本気で慌てていた。

 私は色々な面でブールボンの方が良いけれど、夫のサブロワはワールドン王国の方が生きやすいと思う。

 だけど、そんな事はおくびにも出さず、ダメ元で別荘のお願いをしてみる。

 それは「チョロ女神のワールドン様なら意外と言いくるめられるかも?」という思いもあったから。


(よっし!言質を取ったわ!)


 早速、良く見ずにサインをするワールドン様へ覚書の誓約書を差し出す。

 ニマニマしてしまうのは抑えられない。


「こ、これでいいかな?」

「うん。約束は守ってよね君主様!」


───後日。


 やっぱり予算的に無理があったのか、財務省大臣のダミア様から呼び出しを受けた。


「ねぇ、メル。ちょっとは手加減してくんない?」

「えー?だって誓約書がありますよ?」


 ダミア様から値切り交渉をされたけど、誓約書を盾にゴリ押しした。

 夫が君主にいいように使われるのだ。このくらいは許して欲しいと思う。

 そうして望んだ未来を手に入れつつ、穏やかな日々が3年ほどは続いた。


─────────────────────


「これから研究で缶詰になるから、暫く帰れない」

「……そう」

「メル、ごめんね?」


 ラガー様が病気に倒れ、夫が家に帰らなくなった。

 周囲から浮気を心配されたけど、たまに帰ってくる時に、お風呂に入っていない異臭を放つ夫にその疑いは無い。

 帰ってこない夫への不満は多いけど、恩人であるワールドン様の表情が暗いのは嫌だ。

 我慢の日々が続く。


「……ただいま」

「サブロワは良くやったと思う。そんなに自分を責めないで。ワールドン様には私からお灸をすえておくから」


 ラガー様が亡くなり、夫は抜け殻のようになった。

 亡くなった後も一年近くは精力的に活動していたのに、ある日を境に別人になる。

 何があったのかを尋ねても、曖昧に返すだけの無気力な夫。

 ホールンさんからも少し休むように言われたし、この機にブールボンへ行く事を決意する。


「メル氏、ちょっといいかにゃ?」

「なんでしょう?カルカン様?」


 あまり接点の無かったカルカン様に呼び出しを受けて、色々と教えて貰った。

 詳しい事は良く分からない。

 カルカン様から何の変哲もない石にサブロワの名を刻む事を提案された。

 いざという時に役に立つと言われたので、毎日見るスタンドミラーに石を取り付けてそこにサブロワの文字を刻む。


「杞憂に終われば良いのにゃー」

「ありがとうございます。このご恩は忘れません。いつか返すでしょう。……夫が」


 KYと呼ばれているカルカン様は、実は物事を良く捉えている。

 屈託なくストレートな性格で損をしているだけだ。

 お礼にウイスキーの酒瓶を贈ったら、飛び跳ねて喜んでいた。


「今までお世話になりました」

「いつまでも夫婦で仲良くにゃ。今度会ったら3人で飲み明かすのにゃ!」

「カルカン様はお酒を控えてね」


 そうして失意の夫を連れてブールボンへの帰国を果たし、子宝にも恵まれ、両親も得て幸せだった。


─────────────────────


───数年後の春。


「レザンヌちゃんは大きくなったわ」

「まだオネショが大変だよ。メルのとこも夜泣きが大変そう!お昼の間、ベビーシッターをしてあげた方がいい?」

「お願い、ロアンヌ」


 同世代のご近所さんであるロアンヌとは懇意にさせて貰っている。

 彼女は言葉に裏表が全くなく、ちょっと困る事もあるけれど親切な人だ。


「そうそう、ファミリア様が来てるよ」


 夫のサブロワはワールドン王国で開発のトップにいたので、貴族の知り合いも多い。

 その助けもあって、生活は順調だった。


───数日後。


 ブールボンでの穏やかな日々が続き、ある日の早朝に、違和感を覚える。


(何かが足りない?)


 自分の半身を失ったかのような違和感。

 だけどその原因が分からない。

 寝癖を直す為、スタンドミラーの前に立つ。

 日課となっていたその行為に、一握りの違和感を覚えて、鏡台を覗き込んだ。


(何これ?文字を刻んだ石?……サブロワ?)


 そう考えていた時に、ワールドン様からの伝心が届いた。


─────────────────────


───半年後の秋。


 サーーー、サーーー……


(やっぱり、何も記録されてないよね)


 夫を失ったのだけれど、実感は無い。

 最初から居なかったような感覚だし、転写の魔術具にも伝心オルゴールの魔術具にも何も情報は無い。

 現実感が無い日々が続く中で、貴族様から呼び出しを受けた。


「メル、私は戦争に出ます。ファミリアの事をお願いしますね」

「お子さんはまだ小さいのに、母が戦場に向かうのは違うと思いますけど?」

「でも、所有者になったのですから責務を果たしたいのです」


 ミア様から、お子さんのファミリア様の今後をよろしくと頼まれた。

 夫のカオ様と同じく平民と分け隔てなく育てる方針のようで、下町によく遊びに来る。その度に危険が無いように見守るのが私の仕事だ。

 ミア様は「滅竜武器」という存在から所有者に選ばれたようで、ワールドン様の討伐に参加しなければならないらしい。


「サブロワの仇は討ちますから!」

「……どうしてその名を?」


 滅竜武器の所持者だけは記憶を残しているそうだ。

 不参加だと全ての記憶を失うと聞き、争いが不可避だと悟る。

 ワールドン様は平和主義だからこの状況を良く思っていないだろう。


(夫って、どんな顔だった?声は?)



 記憶に無い夫が今をどう思うかは分からない。

 だけど、泣いている。そんな気がした。



・登場キャラ紹介(続き)

ワールドン:少し頭が残念な女神ドラゴン。

カルカン:マナ技術者。お酒好きのKY。

ダミア・マカ・ホリター:財務省大臣。

ミルネ:サブロワの姉。

ラシュ:ミルネの長男。

クーレ:ミルネの次男。

ロアンヌ:サブロワの幼馴染。

レザンヌ:ロアンヌの娘。

カオ・チキーズ・ジノゴ:ミアの夫。

ファミリア・ジノゴ:ミアの娘。


孤児だったメルは、両親という存在への憧れが強く、ブールボンでの子育てを望みました。

サブロワの両親との関係は良好です。


ギャグ寄りに描くつもりでしたけど、時系列の出来事を並べるとどうしても悲しい着地になってしまいました……。


次回はクリス視点の「閑話:命がけの薬品開発」です。

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代表作。全25話。
なろう執筆はじめました!なろう初心者作家向けのエッセイです。
― 新着の感想 ―
 お邪魔しています。  サブロワ君もちゃんと愛されていたんですね。メルが「アホの子」と呼ぶのが、現実になってしまいましたね。ただ、メルの予感があっても、あの事件は避けることはできなかったんでしょうね。…
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