かつての飲み仲間
前回のあらすじ
ラコア将軍が結界に囚われ、ノサト提督は海域を放棄して撤退しました。
ジャック、マイティ、コウカたちと、勇者フレークの戦いが始まっています。
コウカちゃんの奮闘もあって、勇者フレークに互角以上の展開が出来ている中、ガトーが大声をあげた。
「アマミ!頑張れにゃん!」
ピンチに陥るのを見ていたガトーの言葉を皮切りに、北の戦場へと意識は移る。
ーーーついに自称を卒業か?大苦戦VTRーーー
「くっ、まだまだニャン!」
「アマミ、強がらなくていいわ。その調子で秘薬を使い続けたら寿命が尽きてしまう。……お願い。降参して」
「忠告はかつての友として受け取るニャン。でも、私だって英雄サイゴウの弟子ニャン!あの偉大な背中を見て育ったニャン!」
絶望的な状況で思い描くのは、師事した英雄サイゴウの姿。
先の世界大戦にて、地平線まで見渡す限りの敵で埋め尽くされる大軍勢にたった一人で戦いを挑み、見事に救国を果たした伝説の英雄。
《生きるとは何か?その答えを出してくる》
アマミが猫魔族の国の大広間で聞いた、サイゴウの最期の言葉。
国が滅ぶかの局面でサイゴウ以外は諦め、終わりなき隷従か逃亡かで世論が割れていた中、まだ幼かったアマミにその背中は眩しく思えた。
生きる意味。誇りとは何か?
そう問われている気がした。
他国では勇者フレークが世界大戦を終わらせ盛り上がっていたが、猫魔族の国はサイゴウの死に陰っていたし、自国を救った英雄の方が遥かに上だと思っている。
「その答えは、掲げた理想を最後まで追い求めるその意思ニャン!」
「アマミ、何の話よ?ほら、脇が甘いわ」
「ぐふっ!」
何度目になるか分からない回し蹴りを左脇腹へと叩き込まれ、アマミは自分から飛んで地面を転がりながらダメージをいなす。
ピコラは明らかに強くなっている。それも戦闘中にだ。
戦闘中に身体能力が数倍に引きあがっていく事象など前例がなく、アマミは困惑しながらも必死に食らいついていた。
「アマミさん、無理しない方がいいぜ?」
「……アルゴス!こいつドンドン異常な強さになってやがるよ!どうすんだい!?」
後方で戦っているレオから声がかかる。
レオも異常だ。
最初はアルゴスとデドアラの二人がかりに押され、相当に苦戦していた。にも関わらず、今では余裕で二人を叩きのめしている。
アマミが「何かカラクリがあるはず」と考えた時に伝心は届く。
『アマミよ。レオの能力が分かったぞにゃん!』
ガトーから伝心が入り、レオの能力の全容が判明。
四大神から滅竜武器の所持者レオに与えられた力。
レオの持つ「竜殺しの魔剣」は、受けた攻撃のマナを蓄える事ができる。
そして四大神から与えられた力は、それを自身や絆の深い仲間の身体能力として分配する能力。
「二人とも聞いてニャン!」
アマミはピコラの連撃を捌きながら、味方に敵の能力とその危険性を大声で伝えた。
それを聞いた二人は青ざめていて、悔しさで強く噛んだアルゴスの唇からは赤い滴が滴る。
確実に仕留めようと二人で連携を取り、レオに攻撃を受けさせて足止めをしていた。
レオはその攻撃を全て刀身で受けている。
敵を強化し続けたのはアルゴス自身。それが分かったからこその悔しさだ。
「小官がもっと早くに気付いていれば……」
「おいおい、ガトー様か?俺の能力をバラすなんてとんだチート神様だよな!」
身体能力を大幅に強化されたレオからの神速の一撃が繰り出され、アルゴスはガードした大盾ごと吹っ飛ばされる。
「はん!どの口がチートなんていうんだい!?」
「デドアラだっけか?あんたも良くやったよ。そろそろ眠ったらどうだ?」
「生憎、あたいは男と寝た事は無いんでね!」
レオは「そういう意味じゃないんだが」と口では抗議しつつも、デドアラのトンファー攻撃を鮮やかに躱す。
デドアラが踵落としを繰り出そうとしたら、レオが大剣で受ける構えを取ったため、デドアラの動きが一瞬止まる。
その隙を見逃さず、レオは振り上げられていたデドアラの足を切り落とした。
「うぐあぁぁぁあ!」
「デドアラ氏!」
「アマミ、よそ見はいけないわね」
ドゴォオ!
デドアラの右足が宙を舞うのが一瞬視界に入ったのを慌てて戻したが、時は既に遅く強烈なボディーブローをアマミは叩き込まれた。
「……ヒュー……ヒュー、ぐぼばぁ」
肋骨が砕けて肺に刺さったのか、息苦しさを感じた時には大量の吐血となる。アマミは、その絶体絶命の中でも諦めなかった。
その時、目の前に見覚えのある姿が現れる。
「待たせたのにゃ。クシマ氏から治療を受けるのにゃ」
その背中はかつてのサイゴウそのもの。
初恋の相手で兄弟子でもあるカルカンが、アマミの窮地を救う。
「あら、カルカンさん。私との絆を取り戻しに来たのね。全力で愛してあげるわ」
「カルカンさん、悪いけど俺も参戦するからな。あんたのマナ心眼だけは油断できない。卑怯と言って貰って構わない」
「……3対1だ」
レオに加え、ルヴァンまでもが参戦した。
対峙したガロップに相当苦戦したルヴァン。
ガロップは相手の弾切れを狙う作戦で挑み、自慢の駿足を活かし、至近距離で銃弾を回避し続けた。
弾切れを狙われている事に気付いたルヴァンは、牽制もやめて温存に注力する。
高速移動と位置取りを繰り返す発砲の無い銃撃戦。
数時間に渡るその攻防が続いたが、レオから与えられる四大神の力の供給で、早さが上回るまで待ち続けたルヴァンの粘り勝ちだった。
「伝令!レイ氏がやられたニャ!」
デコイを多用して当初ノワールに対し優勢を築いていたレイだが、ノワールの身体能力が跳ね上がり、対処できなくなっていた。
狙撃合戦で互いの狙撃ポイントを割り出した後が異なる。
片や走って移動。片や一つの跳躍で崖をひとっ飛びできる身体能力。割り出された後の移動距離に大きな差が出始め、最終的にはデコイを見破られてしまう。
「ノワール氏も参戦にゃ?今日は同窓会か何かなのかにゃー?戦いをやめてビアバーで飲むのはどうにゃ?」
「カルカンさん、それはできねーな。俺は自称と呼ばれるのを卒業するためにここに来た。ワールドン様を討たせて貰う!」
そこでカルカンは初めて知る。
レオが自称勇者と呼ばれる事に、コンプレックスを持っていた事を。
「気付かなかったのにゃー……無神経な事を言い続けて、ごめんなさいにゃ」
「いいのよ。カルカンさんはそこが可愛いんだから」
「……悪気は皆無」
カルカンはペコリと頭を下げる。
飲みに行く度に「自称勇者」とカルカンは呼んでいて、カルカンも「KY」と呼ばれてきた。
カルカンはどちらも褒め言葉だと考えていたが、温度感があったようだ。
心から尊敬してそう呼称したカルカン。その思いは「英雄の子」の立場に甘えていた自分とは真逆だと。
父が称えられるのも、父の子と呼ばれるのも誇らしかったが、自ら「英雄」と名乗る勇気は持てなかった。
偉大な父と比較され、失望されるのが目に見えていたから。
だが、レオは違う。
伝説の勇者フレーク。そこに並び立とうと自らを勇者と名乗った。
嘲られたり、罵倒されたりもあっただろう。周囲から求められてもいないのにそう名乗るのは、とても勇気のいる事だ。
勇者である事に嫌気が指して引退したフレークよりも、自分の価値を証明し続ける自称勇者レオの方がカッコイイと、カルカンは本気で思っていた。
だからこそ自分にも課す事にし、甘えていた自分自身との決別の宣言をする。
「お詫びに全力で相手をして、私も子を卒業するのにゃ」
「ん?言っている意味が相変わらず謎だが、40歳は立派に子は卒業済みだぜ?」
そのやり取りをしながらカルカンは、クシマに仲間を連れて撤退するように指示を出す。
レオたちはその逃亡を見逃した。それはかつての飲み仲間に対する情けだったのかは不明。
担がれて運ばれるアマミは、薄れゆく意識の中でカルカンの背中だけを見ていた。
逃げる仲間に向け、背中越しに宣言するカルカン。
「生きるとは何か?その答えを紡ぐのにゃ!私は今日、超えて証明するのにゃ!」
アマミは涙を流しながら手を伸ばす。遠のいていく届かないその背中へ。
「俺ら相手に単騎で挑むとはな……カルカンさんはあるいみスゲーな」
「……KYは平常運転」
パーーン!
ノワールの狙撃を、見切ったように躱すカルカン。
「ノワール氏は黙っているのにゃ!そもそも4対1だろうが、メイジー王国軍が何人かかってこようが、魔術兵器が何体いようがあんまり関係無いのにゃ」
「凄いわカルカンさん。豪胆ね」
ピコラからの足刀が繰り出され、避けた所にレオの袈裟切りも殺到する。
反撃をしようにもルヴァンが射撃にカウンターを仕掛けようと狙っているし、狙撃ポイントからの射線も切らなければならない。
圧倒的な身体能力の相手だが、未経験で無い分、気が楽だった。
「だって、この状況よりエリーゼ様と模擬戦している時の方が怖いのにゃ」
「「「確かに」」」
この場にいる全員がエリーゼの特別特訓の被害者であり、その強さに打ちのめされた過去がある。
互いに暫く笑いあった後、激闘は再開。
ノワールは読まれていても狙撃を続行し、カルカンの行動に制限を強いる。
レオは攻撃が当たらないと見越して、大地ごと巻き込んだ攻撃を繰り返す。カルカンの足場を制限していく狙いだろう。
ルヴァンは常に射線をちらつかせる事でカルカンの意識を割いていく。
「さぁ、存分に愛し合いましょう!」
「ピコラ氏、これまでの借金を返すのにゃ!」
前衛のピコラとカルカンの戦闘は激しさを増していった。
ーーーついに自称を卒業か?大苦戦ENDーーー
あんなに仲が良くて、何度も飲みに行っていたカルカンとレオが本気で殺しあうのは見ていて心が痛い。
僕は双方の無事を祈らずにはいられなかった。
「英雄の子」と呼ばれる事に甘えてきたカルカン。
初めて英雄への道を自分の足で進み始めます。
次回は「孤軍奮闘」です。