裏切りと王座
前回のあらすじ
知識の番人のキーちゃんと会って、ラコア将軍からの助力の申し出もありました。
試練を終える手段がある事が分かり、それを一筋の希望として目指すワド。
そして暗殺事件の情報を聞いた所です。
・メイジー王国の登場キャラ紹介。
ミレール・クト・メイジー女王:ワドと仲が良い。
ヨーグ・ブルガリア宰相:権力を常に狙う野心家。
ノヤマ・ココ元帥:ワドたちと親交が深い。
・ワールドン王国の登場キャラ紹介。
ノサト・ココ提督:元メイジー王国。ノヤマとは盟友。
ダミア・マカ・ホリター:アルフォートの妻。
「ミレール女王が暗殺されたってどゆこと!?」
国に戻るなり、ルクルを問い詰める。
帰路の間、ラコア将軍から色々と他国の情勢を仕入れていたのだけれど、その中の一つに、ミレール女王が暗殺されたのも含まれていた。
ルクルが鼻の頭をかきながら、宥めてくる。
「バレちゃったのは仕方ない。ちゃんと説明するから怒るなよワドー」
「ギルドマスター殿、その……余計な情報だったようで済まない」
ラコア将軍はルクルに頭を下げた。
ルクルは「そろそろ話す予定だった」と返し、気にしていない風を装っている。
(やっぱり、【伝心】が無いと不安だよ……)
伝心を失ってからは、皆が何を考えているのか分からなくて不安だ。
どうして皆は平気なのだろう?
相手の気持ちが分からないままに行動する……それがこんなに怖い事だなんて今まで知らなかった。
ルクルから「明日、会議するから」と切り出され、一旦飲み込んで明日に持ち越す事にした。
「なんというか、事情を知らずに申し訳ない」
「ううん。ラコア将軍は何も悪くないんだ。それよりももっと詳しく教えて欲しい」
その日は、ラコア将軍から詳しい情報を聞く事に終始した。
「では、メイジー王国の話だが……」
ミレール女王を暗殺したのは、ヨーグという男を擁立する勢力らしい。
メイジー王国も討伐への意見が真っ二つに割れていて、どちらかと言えば好戦家が多くなっていた。
対応を迷っていたミレール女王。その迷いをワールドン王国につくのでは無いかと不安を煽り、敵対者を増やすヨーグ。
ヨーグ派の中でも特に過激な集団が、勇み足で暗殺に走ったそうだ。
「恐らく、数日の間にヨーグが新王として即位するのだろう」
「ブールボンとリアロッテが揉めてるって話も詳しく!」
リアロッテはミユキ新王の元、討伐一色となっていて、ラコア将軍たちのような異端者は既に国を離れている。
一部の貴族は周辺諸国に入り込んで、ミユキ新王の牙城を崩そうと工作を始めた。
その理由は様々だが、ミユキ新王の派閥への私怨がほとんど。
「王位が譲渡されてから、反対勢力を強硬に排した影響だな。モナリーガにも潜伏している」
ラコア将軍は強すぎるがゆえにアンタッチャブル扱いで影響が無かったが、他の貴族への締め付けは厳しかったそうだ。
新体制の地盤を築くのに反対勢力の存在は都合が悪かったのだろう。理不尽な扱いを受け続けた貴族の反発は相当だとラコア将軍は言う。
「そんな、僕のせいで……」
「何度も言うが、ワールドン様のせいじゃないぞ。元々世界に燻っていた恨みが試練をきっかけにして噴出しただけだ」
そのきっかけを作ったのが僕自身だから、どうしても落ち込んでしまう。
夜も遅くなったのでラコア将軍たちを宿に案内し、僕はラザの所へ向かった。
『ワド~、元気ない~?おまんじゅうたべる~?』
「おまんじゅうよりも、他の皆の情報教えてよ」
『う~、それはできない~ごめんござる~』
その拒否に落胆しながら「そだよね」と短く返す。
ラザは、四大神や他のドラゴンにも義理立てしているので、情報をあまり寄越してくれない。
餡子が食べられなくなるのは困ると言って、給食のおばちゃんや飲食施設の防衛、シェルターの防衛だけは辛うじて協力してくれるだけだ。
(やっぱり、ガトーの帰りを待たなきゃだね)
ガトーは全面協力を約束してくれた。
今は各地を回って他のドラゴンたちの動きを牽制している。
友達思いのガトーには、他のドラゴンと戦って欲しくないし、話し合いで済むのならそれがいい。
「お、こっちに居たのかにゃん!」
「おかえりガトー!」
ガトーの事を考えていたら、ちょうど帰ってきた。
どうやら最初は僕の部屋へと訪ねたけれど、不在だったからラザの所に来たようだ。
ガトーは愚痴を語りながら、ラザのお饅頭をひょいパクした。
『あ~~!それボクの~ござる~!勝手にとるのダメござる~』
「全く、ラザは欲張りだにゃん。いっぱいあるから一つくらい良いだろにゃん」
欲張りなガトーに言われたくは無いよね。ラザに視線を向けると、同意するように頷いていた。
「ヨーコのやつがはしゃいでて大変だったぞにゃん」
人が知覚できないヨーコ。
人が視認できないガトー。
二人は世界各地を飛び回っていた。
「各地で起こっているトラブルは大体ヨーコ起因だにゃん」
「どゆこと?」
メイジーの分断と暗殺、各地でのリアロッテとの衝突、ブールボンやモナリーガの内部分裂。
それら全てにヨーコが関与している。
正確にはヨーコの力。
その「周囲の感情を泡立て気持ちをざわつかせる」による影響だ。
黒い感情が噴出しやすい環境下で、ヨーコがその感情を増幅させるべく動いた。
「吾輩は必死に止めたのだが、無理だったにゃん」
耳と尻尾が垂れて、文字通りの猫背になっているガトー。
僕は背中をポンポンと叩いて励ました。
「大丈夫、ガトーはよくやってるよ!」
「……ノヤマ元帥の話を聞いても、そう言えるのかにゃん?」
ノヤマ元帥には何度もお世話になっているし、その情報はラコア将軍からも得られていない。
会議前に詳細を聞いておきたいので、ガトーに詰め寄った。
ガトーは「焦るな」と諭しつつも【伝心】し始める。
ーーーノヤマ元帥が討伐軍に!?VTRーーー
「ヨーグ宰相……なんて事を!」
「おや、元帥。私という証拠は何一つ無いのだ。迂闊な事は口にするべきでは無いな」
証拠は無いが確証ならある。
ミレール女王が毒に倒れたその日の内に、要所を全て押さえ、地方領主にも崩御する連絡を終えている。
翌日に亡くなったのだから嘘では無いが、行動が迅速すぎるので犯人は明白だった。
(くっ、軍関連施設が全て押さえられたのは痛いな)
本当に電光石火の如く全ての要所を押さえている。
元帥である私が、作戦本部にも立ち入れない状況は夢にも思わなかった。
新ワールドン派だった者は悉く締め出されており、世論も味方して機運は討伐に傾いている。
(完全に外堀を埋められているな。一人での打開は無理だ)
こんな時、盟友のノサトがいてくれたら……そう思わずにはいられない。
ヨーグ派で染まっていく国を憂いながら、孤立感を高める日々の中、呼び出しを受ける。
私は、ヨーグ派が集う会議へと単身で飛び込んだ。
「お呼びですか、ヨーグ宰相」
「あぁ、その呼び方は古いな。私は近日中に王位継承を発表する」
「左様ですか」
それからは取り巻き共が、まるで吟遊詩人のように今回の神託、試練、討伐を聖戦だと語っていく。
今までどれほどワールドン王国から恩恵を受けてきたのかも忘れ、恥知らずにもかの国を神敵の国だと言い切っている。
(……度し難い馬鹿共だな!)
怒りを飲み込み、彼らが語り終えるのを待つ。
壮大な前振りを終わる頃には、怒りを通り越して失笑に変わっていた。
「で、卿らは私に何をさせたいのですか?」
「ほぅ、察しが早くて助かる。元帥には討伐軍の総司令官をお願いしたい」
その言葉にそっと目を伏せた。
既に退路は断たれている。友人や家族が処刑台に乗るかはこの回答にかかっているのだ。
長い沈黙。
ワールドン王国への感謝と、そこに住まう友人たちに内心で詫びを済ませていく。
(ワールドン様、ノサト……すまない)
私は覚悟を宿した瞳で、ヨーグを睨みつけながら答えた。
「謹んでお受けいたします。……陛下」
ーーーノヤマ元帥が討伐軍に!?ENDーーー
(え……え!?ノヤマ元帥が攻めてくるの!?)
僕は混乱し、ガトーの肩を掴んで揺らす。
何度も「落ち着けにゃん」と言われたけれど、落ち着ける訳が無い。
そんなやり取りをしているといつの間にか朝になっていて、会議に招集される。
ガトーと二人で会議室に向かい、その情報を皆にもぶちまけた。
「……でね、だからね、ノヤマ元帥が攻めてくるんだけど彼一人じゃどうにもならなかったからなんだ。だからさ、どうにかして戦争回避できない?」
言い終えた後、ルクルとバラン君からは長い溜息が出る。
どうやら知らなかったのは僕だけのようだ。
「もうこちらに向かっているから無理なんだよ。ワド」
「本会議はメイジー王国軍とカービル帝国軍が動いたので、迎撃をどのように行うかの会議なのですよ」
「何それ!?聞いてないよ!」
メイジー王国軍は既に数十万の兵力が投入されて、進軍を開始。カービル帝国はそれよりも小規模だが布陣が終わりつつあるそうだ。
僕はガトーの方へ振り返り無言で抗議したけど、ガトーは首を横に振っている。カービル帝国の挙兵はヨーコと無関係に始まっていて、ガトーも初耳のようだ。
「ついでに報告しとくと、トーハト王国がザグエリ王国に攻め入って戦争が始まってるから」
「何それ!?ルクル!なんで教えてくれなかったの!」
明らかに「ついで」の範疇を超えている情報に、僕は目を白黒させる。
僕の混乱を他所に会議は進み、方針が決まっていった。
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・対メイジー王国:ノサト、カルカン、ラコア。
・対カービル帝国:フェグレー、バラン。
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最強戦力であるエリーゼを温存し、ラコア将軍をメイジー側に投入する事が決定。
ノサト提督とノヤマ元帥は特に仲が良かったので、僕はこの布陣に反対した。
「友達同士で戦う事はないよ!エリーゼかガトーに頑張って貰おうよ!」
「彼は彼なりの決意と覚悟を持って戦場に立つのですぞ。武人として礼節を持ってお相手しなければ、恥に当たります」
ノサト提督の覚悟も固まっているようで、髪をかきあげながらやる気を漲らせている。
エリーゼを温存する理由は、想定外のケースに対応する事と、スパイの暗躍を阻止するのに必要だからと説明を受けた。
「スパイ?大した情報は流せないんじゃないの?」
「ってワドは言ってますけど、どうですダミアさん?」
「あーしの旦那がご迷惑を……」
ダミアちゃんの言葉に会議室を見回してみたけど、旦那のアルが見当たらない。
所在を尋ねると、衝撃の言葉が返される。
「だからー、アルが帝国のスパイなんだよ」
伝心が使えなくなったワドは、一気に情弱になりました。
ノヤマ元帥の事で頭がいっぱいになっていたので、アルが不在な事にも気付かなかったようです。
次回は「新たな四天王」です。