小さな贈り物
前回のあらすじ
ワドたちは、ピルナの我儘につきあって遊園地へと出かけました。
ピルナが誘拐されるも、ジャックの活躍によりスピード解決で事なきを得ます。
断定は出来ないが、先日の誘拐犯の裏は取れた。
(トカプリコ元帥……どうしてこんな事を?)
ピルナの誘拐事件だけではなく、ビットの行方不明も元を辿るとトカプリコ元帥へと続いている。
ホリター公爵家が総力をあげて調査したので、その辺りは間違いなさそうだけれど、その力でも足取りが追えていないのが現状だ。
資料と睨めっこを続けていたら、近衛の人から「そろそろ時間です」と声を掛けられる。
事件への心残りは色々あれど、まずは国王としての責務を果たす為に僕は立ち上がり、今日の公務へと向かった。
「今年も僕の17歳の誕生節を祝ってくれてありがとう!楽しく飲んでね!かんぱ~い!」
「「「乾杯~!」」」
今日は建国祭。
年々、国民が増えて、新しい家庭が増えて、新しい命が増えていく。
守る物も人も随分と増えて、大変になっている。でも、僕はその大変さが嬉しい。
「ワド、スピーチ良かったですわ!」
「ほら、ケミラもワドに祝福の言葉と挨拶。ちゃんとできる?」
ピルナが満面の笑顔でスピーチを褒めてくれて、ラガーはケミラに挨拶するように促している。
「ワド、良かった。おめでとう」
「ケミラ、ありがとう。よく言えたね。偉い偉い」
僕はケミラをいい子いい子してあげた。
ピルナとラガーにもヤキモチを妬かれたので、一緒に撫でる。
ラガーは5歳、ケミラは4歳になった。ピルナももうすぐ8歳を迎えるし、皆の産まれた瞬間を知っている僕としては感慨深い。
他の子供たちも祝うために僕を囲み始める。
「ワールドン様、おめでとー」
「ワールドン様、私も誕生節だよ!」
「金牛節なの?僕とお揃いだよね!」
手作りクッキー、手作り帽子、どんぐりや松ぼっくりで作られたブーケ。色んなプレゼントが山のように積みあがる。
「皆、本当にありがとう!お返し楽しみにしててね!」
プレゼントそのものよりも、一生懸命に作ってくれた事が嬉しいし、そのお返しの約束を出来る事が幸せだ。
今年もプレゼントをしまう場所を新たに作らなきゃと思っていたら、ピルナがもじもじとしながら僕の前に来た。
「ピルナ、どうしたの?その後ろに持ってるのはなーに?」
「これ!焼いたのですわ!」
「……凄いね。ありがとう」
差し出されたのは苺のショートケーキ。僕も作るのに挑戦して、形が不恰好になった事を思い出す。
ピルナも同じように苦労して、一生懸命に作った事が伝わってきて目頭が熱くなった。
ピルナはドラゴン学院の二年生になり、周囲に対しお姉さんぶるようになったし、自分より幼い子には結構優しい。一年生も慕っている子は多い。
その様子をみて弟のラガーも入学を楽しみにしているようで、学院生徒に混ざって今から勉強を始めている。
そうして学んだ知識で何かを作ったのだろう。自信ありげな表情で、ラガーが目の前へとやってきた。
「ワド、僕からはこれ!」
「ラガーが書いたの?これは僕?」
「うん!」
ラガーが描いてくれた絵を見て「凄い凄い」と褒めちぎる。
ピルナはドラゴン学院で絵を習っている。その絵をルクルたちが褒めるものだから、ラガーも見様見真似で頑張って描いたみたいだ。
正直、金色の落書きにしか見えない。でも、本人なりに僕を描こうとした事が伝わってくるし、丁寧に描こうとして失敗し、失敗を消そうとした跡も愛おしい。僕にはどんな名画よりも美しく思えた。
「どしたのケミラ?」
「う、うぅ……うわーーーん!」
「え!?ほんとにどしたの!?」
突然の号泣を始めるケミラ。慌てて伝心で読み取ると、僕の笑顔が見たくて贈り物をしたいのに、何も用意していない事に泣いているようだ。
「大丈夫、泣かないでケミラ。ケミラはまだ小さいからね。笑顔が貰えたら僕、嬉しいな!」
「ううう……明日、プレゼントあげる!」
泣きながら明日までにプレゼントを用意すると言い張るケミラ。僕はその気持ちが嬉しくて何が貰えるのかを尋ねると「ナイショ!」と返される。
「ラガー、ケミラ、作戦会議をするのですわ!」
「ほらケミラ、一緒に考えよ?」
「うん、ワドによろこんでもらう!」
三人は僕の目の前で作戦会議を始めた。丸聞こえな内緒話にニヤニヤしてしまう。
(僕、幸せだなぁ)
多幸感に包まれながら建国祭初日を終え、二日目へと突入する。
ケミラがどんなプレゼントを用意してくれたのかが楽しみでソワソワしていた。
午前中は国民からの挨拶を受けて、午後からは子供たちと屋台巡り。その予定なのだけれど昼食後に子供たちに囲まれるも、ケミラたちが見当たらない。
僕は気になって三人に伝心を繋いでみた。
『そろそろ屋台巡りに出かけるよ!』
『あ!ワドは伝心で覗いたらダメですわ!』
『まだナイショ!』
『ワド、待ってて、ケミラは今頑張ってるから』
『ご、ごめんね。また連絡するから!』
新たに得た知識を教えたがるラガー。相手がケミラしか居ないのでケミラ専用の家庭教師な感じ。
ピルナは二人を見守っているみたいだ。以前は何でも自分でやりたがっていたのに、いつの間にか本当にお姉さんになったのだと思う。
三人とも「まだバレたくない」と考えていた事だけは分かったので、何をプレゼントに用意しようとしていたかは楽しみに取っておき、他の子供たちと出かけた。
「ワールドン様、今年の新作のスイーツがあるよ」
「私、もんじゃ!もんじゃがいい!」
「ハイハイ、順番順番。僕は逃げないから~」
こうやって子供たちと一緒に遊ぶのが僕は好きだ。
僕の国で産まれた子供たちには特別な想いがあるし、この笑顔を守っていける事が誇らしい。
一日中子供たちと過ごしても良いお祭りの日は、僕にとっての幸せチートデイだ。
元気いっぱいな子供たちに振り回されながら屋台を巡っていたら、もう夕暮れ時になっていた。
(ケミラたち、遅いなぁ……)
催促の伝心を再び繋ぐ。
『もーいーかい?』
『『『まーだだよ!』』』
伝心の向こう側で焦ってバタバタしている様子が伝わってくる。
結局、呼び出されたのは日没後だった。
「ルクル、エリーゼ!遊びに来たよ!お邪魔しまーす。あ、これお土産のフライドチキン」
「ワールドン様、いらっしゃいませですわ!」
ルクル宅でホームパーティー。エリーゼはリゼと違ってメシマズ嫁なので、全部デリバリーだ。
子供たちの様子はというと、ピルナとラガーの表情からするとうまく行かなかった事が伝わってくる。
だけど、ケミラからは強く真剣な瞳があって、自信のあるプレゼントのようだ。
「ケミラ、プレゼントは何かな?僕、楽しみ!」
「う、うん!これ!」
元気いっぱいに渡されたプレゼント。
(これって、ケミラの最初の……)
袋、箱、包み紙と何重にも包装されていたけど、中に入っていたのは小さな木の棒。
ケーキを焼いては失敗し、絵を描いても満足出来なかったようで、最後に選んだのがこれだ。
「……こんな大切なものを僕にくれるの?」
「うん。もう一本食べれるってワドが喜んでいたから。だからあげる!」
知っている。一緒に買ったのだから覚えている。
その「当たり」と書かれた小さなアイスの木の棒は、ケミラが初めて引いた当たりだから大切に取っていた事を僕はよく知っていた。
他人から見ればなんてことないプレゼントだけど、ケミラがこれを僕にくれた意味が分かるので、僕は泣いて喜んだ。
「使わずに取っておいた一番の宝物をくれるなんて、僕、嬉しいなぁ。来年のお返しを期待しててね!」
僕が喜んだ事で、ピルナとラガーも安心したように笑い出した。
二人にはアイス一本にしか見えなかったのだろう。
僕はアイスに変える気なんて無いし、これは永久に取っておくと決めていた。
「デリバリーが届きましたわ!」
「エリーゼは料理を覚えないの?」
「ワドー、ほんとにそれ怖いからやめてー」
エリーゼは料理にも気合いで挑むみたいで、過去に大変な事になっている。主にルクルが。
本心から止めているであろうルクルと、その家族たちとのホームパーティーで、新たに思い出が増えた。
「じゃ、撮るよ~。はい、チーズ!」
パシャ!
リゼへの贈り物も欠かさずに撮りためる。その映像をじっくり眺めていると、ピルナから叱られた。
「もう!わたくしが撮りますからワドも入って!リゼお母様がワドが居ないと悲しむでしょ!」
「はーい!可愛く撮ってね!」
最近は僕にもお姉さんぶるピルナ。叱られる事も増えて、それが嬉しくてニヤニヤしてしまう。
ピルナから「顔が緩みすぎですわ!」とまた叱られつつも、一杯撮影した。
皆にオヤスミとまた明日を告げて、今年の建国祭を終える。
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楽しい建国祭が終わり、普段通りの日常が始まる。
お祭りごとだけじゃなくて、日常の中でも幸せを感じるようになった。
普段通りの生活、いつもの街角で同じように交わす挨拶。何気ないその全てが僕の宝物。
「おはようございます、ワールドン様」
「あ、ワールドン様だ!おはよー」
「皆、おはよう!ホバーバスに気をつけてね!」
皆の通学を見送り、サブロワ君のラボへ視察に向かう。
入口の前に何故かガトーが来ていた。
(何かあったのかな?)
耳や尻尾が小刻みに動いているので、ガトーがソワソワしているのは分かる。
一先ず不安な出来ごとでは無さそうな事にホッと胸を撫で下ろした。
「う、うむにゃん。そういえばワドは誕生節のプレゼントを貰うと喜ぶのを思い出して、吾輩も用意したのだにゃん」
僕は「ホント!嬉しい!」と開口一番に伝えたけど、プレゼントをみて真顔になった。
「伝心で覗き見たらな、嬉しそうにしていたし、ちょうど一本引いたから持ってきたんだにゃん。でだにゃん、お返しにはホームサイズのイルミネーションの魔術具を……」
むき出しのまま渡された小さな木の棒。
僕はそれをガトーにオーバースローで叩き返した。
「な、何するんだにゃん!?」
「せめて洗ってから持ってきてよね!ベタベタするじゃん!」
苦笑いのサブロワ君に迎えられ、僕はラボへと入った。
ワドにとって、とても大切な木の棒になりました。
次回は「病という難題」です。