凋落の実情視察
前回のあらすじ
リッツの戴冠式と結婚式に参加したワドたち。
リッツとは新しい約束ができました。
リッツの戴冠式を終えて、もうすぐ1年になる。
(うーん、亡命が多いよなぁ)
今年も忙しくしていた訳だけど、秋に入って少しイベント事も落ち着いたので、色々な資料を確認していた。
報告内容で一番目を引いたのは、ザグエリ王国からの亡命者の数。
最初、「桁が間違っているよ」とアルへ伝えたら、それで合っていると返された。それでザグエリ王国出身のストローとフェグレー将軍に相談し、一度視察に向かうという話になって、今から向かうところだ。
「さ、二人とも乗って乗って!」
「ハハハ、ワールドン様はビットはんに会えるのがそないに嬉しいんでっか?」
「あくまで視察がメインです。ミカド王にも挨拶せなアカンのですよ」
「分かってるって!」
フェグレー将軍には窘められたけれど、ストローはちゃんと分かっているみたいで、帰りにトト伯爵の所へ立ち寄るスケジュールを立ててくれている。
(ビットは11歳になっているからね!)
そうして、ザグエリ王都までやってきた。だけど、あまりに変わり果てたその姿に僕らは驚いている。
「これは、地方から難民が押し寄せたんやろうなぁ。困窮しとるのは知っとったが、ここまでとは……」
「この国の上層部には思う所もあります。やけど、民が苦しむのは本位ではありません。ワールドン様、援助の件、前向きに検討して頂けたらと思います」
「う、うん。分かったよフェグレー将軍」
王都の大通りは乞食で埋め尽くされ、かつては沢山あった屋台も見当たらない。
何よりも、以前は当たり前にいた子供たちを全く見かけないのだ。これはおかしい。
変わり果てたザグエリ王都の姿に後ろ髪を引かれながら、ミカド王との謁見へと向かった。
「ワールドン様、ご無沙汰しておりますわ」
「えっと、王宮ってこんなだったっけ?」
繁華街だけでなく、王宮内も以前とは違い閑散としていた。
ミカド王は乾いた笑いを浮かべながら答える。
「ハハハ、美術品は全て売ってお金に変えてもうた。そうして市井に配っても、全然追いつかへんのが今のザグエリっちゅう訳やで」
ザグエリ王国の衰退は色んな所で聞いていたけど、復興は少し大変なのだろうと軽く受け止めていた。
だけど、実際に訪れてみれば聞いていた以上の惨状だった事が嫌でも分かる。
僕はミカド王に援助を申し出た。
「有難い話ですわ」
「詳しい事情を聞かせてくれる?」
ザグエリ王国は復興するまでは順調だったようだけど、レベカ将軍が横暴な態度を見せて、それに民衆が反発し始めたそうだ。
そういった行き過ぎた行為を窘めてくれていた存在が、軒並み居なくなったという実情も大きい。
ストローやフェグレー将軍だけでなく、トカプリコ元帥の失踪に合わせ、数多くの有用な人材が中央から去ったそうだ。
民衆の暴動に便乗して、盗賊団の略奪行為が各地で多発し始めたらしく、現在はその被害が深刻だとミカド王は語る。
「特にトーハトとの国境沿いは毎日被害が出とるちゅう訳や。そっからの難民が多くて他も疲弊しとる」
「おけおけ!そっちもついでに視察に向かうよ!」
盗賊団の大元が掴めないという話だったので、僕が引き受けた。
【伝心】を使えば比較的簡単に背後関係は読み取れる。対策手段はあるけれど、神に対し隠し事は出来ないのだ。
「少し見て回ったら、ビットに会いに行こうね!」
「ワールドン様、そないに気軽に請け負って良かったんでっか?」
王宮からの帰り道で、盗賊の調査に首を突っ込む理由を聞かれた。
このような惨状は見過ごせないし、一生懸命に作った商品を奪われるのは可哀想なので助けたいと伝える。
「せやけど、些細な事にまで手を出しとったらキリないで?」
「ストロー殿の仰る通りや。ザグエリ出身としては助けてくれはるのは大変有難い。けど、粒さに対応していくよりは軍部の腐敗を正した方がええと思います」
「うーん、でもでも、今困っている人がいるんだよ?助けなきゃ!僕、神様だし!」
乞食たちにお金を配った事も二人からは苦言を呈された。
でも、食べるのに困っているのだからお金を渡す事は良い事のはずだよ。国のお金じゃなくて僕のポケットマネーを配る事に対し、なんでダメと言われるのかが分からない。
そう思っていたら配るお金が底をついた。すると、民衆は既に配った分を奪い合い始める。
「待って、待って!なんで喧嘩するの!?皆でちゃんと分け合って!ね?」
「うるせー!もっと寄越せ!」
乞食から奪おうとしていた体格の良い男が、僕の胸倉を掴もうとした瞬間、その男の腕が風と共に宙を舞った。
「ワールドン様への不敬は許さん。次は首を刎ねる」
「待って、フェグレー将軍も落ち着いて!」
僕がフェグレー将軍の名前を出したら、民衆は口々に軍部への不満を口にし始める。
「元はと言えば、レベカ将軍の横暴を許した軍部が悪いんやないか!」
「せやせや!フェグレー将軍も民衆の英雄や言われとっても見捨てて逃げた臆病者やないか!」
野次馬の中から一際強いレベカ将軍への恨みを感じたので、伝心で読み取ってみた。
ーーーレベカ将軍の蛮行VTRーーー
「あぁ、その商品はダメです!それを持っていかれたら、ウチは破産や!」
「なんや?お前は軍に逆らうんか?不敬罪で処刑せんだけでも有難い思っとけ」
そう言って店主を蹴り飛ばすレベカ将軍。
「母ちゃん!」
「なんで出てきたんや!?隠れとき!」
レベカ将軍が飛び出してきた子供を捕まえて、下卑た笑みを浮かべた。
「なんや、まだガキがいたんか。貰ってくで」
「いやーーー!堪忍やーーー!」
ーーーレベカ将軍の蛮行ENDーーー
何故、王都に子供が居ないのかが分かった。
レベカ将軍が子供を捕らえて奴隷として売り飛ばしていたようで、それで町の中では出歩かなくなっているんだ。
以前から貴族の身分を振りかざしていたけど、商品を取り上げたり、子供を捕まえて奴隷にしたりとやりたい放題だったようで、それが各地での謀反に繋がっている。
僕は痩せ細って今にも死にそうな女性へ歩み寄り、身に着けている宝飾品や高いドレスを渡した。
「今、持っている分だけでも受け取って」
「あの……ウチ……」
「僕がお子さんを見つけたら取り戻してくるから」
泣き崩れる女性を背に、僕は移動を開始した。
「ええんですか?」
「うん。着替えはあるし、服はまた買えば良いから」
フェグレー将軍がマントを僕へ被せてくれたので、感謝を伝える。
空輸邸へ戻り、もしものために用意していた予備に着替えた。
「お待たせ!さ、乗って乗って!ビットに会いに行くよ!」
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そうしてトト伯爵の元を訪ねたのだけれど、ビットが行方不明という事を聞いた。
「カイナ諸島へ旅行に行ったっきり、帰ってけえへんのです。心配ですわ」
「7年も帰ってきてないというのは心配だよね~。帰りが遅くなるなら連絡くらいあるといいよね!」
「は?……え?何を仰ってるんで?」
トト伯爵も、周りの皆も何やら戸惑っている。
ストローが僕のおかしい点を指摘し始めた。
「ワールドン様の時間感覚がおかしいのは知っとったが、ここまでやとは思わんかってん」
「え?だって帰りが遅くなる時は連絡入れた方がいいよね?」
「はぁ……そないな今日の帰りが遅いみたいな話とちゃいますわ。ワールドン様にとっては7時間前の感覚なんやろうけど……」
「ふぇ?どこが違うの?」
トト伯爵やフェグレー将軍も一緒になり、懇々と7年が人族にとっては大事の期間だと説明され、ようやく僕も理解が追い付いた。
「そんな!?事故か事件に巻き込まれたかもって、そんな悠長にしている場合じゃないよ!早く調査しなきゃ!」
「今度は焦りすぎやで」
「なんでそんなに落ち着いてるの!?」
7年も行方不明なのだから、今日明日で何か急変する訳では無いと皆から諭されたけど、僕は必死に反論する。
「僕は早く助けたいよ!」
「盗賊の問題の方はどうするんで?」
「そっちも急いで解決だよ!」
ストローが「やれやれ、手に負えへんで」と呆れ、アルとルクルへ相談する事を提案する。
僕はそれを受け入れて即座に国へと帰還した。
ザグエリ王国の盗賊団はフェグレー将軍が調査し、カイナ諸島で行方が分からなくなったビットはノサト提督が捜索する事になった。
「お任せください。必ず足取りを掴みますぞ」
「ザグエリ各地の調査含めて近日中に報告しますわ」
僕は「二人とも頼んだよ!」と激励を送り、彼らからの返事を待つ日常へと戻る。
……そして一節が経過。
盗賊団を捕らえたという報告が上がってきたので、早速現地へと向かった。
「ワールドン様、お待ちしておりましたわ。伝心をお願いしてもええですか?」
「うん、任せて」
読み取れた背後関係の存在は意外な二人。
フードリー・レベカ将軍。
彼が盗賊団の隠れ家などを手配していた。上納金を巻き上げている光景が読み取れたし、ザグエリ王国騎士団が盗賊を捕らえられなかった実態も、裏で繋がっていた訳だから当然だろう。
そしてもう一人の人物。その人の所へ僕は電撃訪問した。
「たのもー!」
「ワールドン様!愛しの君よ!私に会いに来てくれたのかい?」
「うん、ボネロに聞きたい事があって来たんだ」
ボネロ・ハウクバン・トーハト国王。
僕は同盟国の王へと質問する。
「ねぇ、ボネロ。どうしてザグエリ王国から略奪行為をしていたのか教えてくれる?」
「ハハハ!何を言っているんだい?マイハニー?」
「僕に隠し事は出来ないって知っているよね?」
ボネロが盗賊を裏で操っていた真の黒幕。それにザグエリ王国の各地の謀反にも加担している。
ボネロとは親交があるし、彼の人となりは良く知っていた。どうして温厚な彼が裏で糸を引いていたのかが分からず僕は問いかける。
(ボネロは友達だけどさ、これは許されないよ!)
ワドにとって7年は短いのです。
次回は「妻の報復」です。