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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
過去の大戦と新世代
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モーターショーとコンパニオン

前回のあらすじ

パウス王国へと訪れていたワドやアルたち。

ワドは知識の番人であるキーちゃんと出会い、口論になりました。


※各節の補足

・双子節(6月)

 キーちゃんからの指摘は続く。


「雑念が多い状態では勇者フレークの力も分散されます。だから戦争で皆が疲弊するまでその力を浸透させられません」

「だけど!」

「ワールドン様は話し合えば戦争を回避できると仰りますが、そもそも戦争は話し合いが無い状態で唐突に始まる事の方が多く、一方的な逆恨みで始まる事もあります。心あたりはありませんか?」


 僕は思わず言葉に詰まってしまう。

 キーちゃんは何度か首を振って更に続けた。


「勇者フレークの力は本当に偉大です。ですが、彼の力が成立するのは『世界が痛みを知った時』でもあります。それを悟ったフレークは勇者を引退しました」


 僕が言葉を発せず俯くと、鋭い口調で責任を追及してくるキーちゃん。


「そこまで頑張った勇者フレークにまだ頑張れと仰るのですか?彼の幸せは?それに思考誘導による思想の統一は多様性を失う事でもあるのですよ?」

「……うぐ……ひっぐ、だって……ぐす」


 あまりにキツイ言葉の数々に、僕は涙した。

 僕らの間に座っていたアマミちゃんが、急に立ち上がって僕の擁護を始める。


「ワールドン様をいじめないでニャン!貴女が正しいとしても、ワールドン様の優しさを否定して追い詰める必要は無いニャン!」

「……いじめているのでは無くて、ワールドン様が現実を見ていないので私は教えてあげただけですよ」

「ワールドン様がどんな思いで、どれだけ頑張っているかも知らないで勝手なこと言わないでニャン!」


 アマミちゃんは、両手をいっぱいに広げて僕とキーちゃんの間に立ち、僕を守ろうとしてくれていた。

 僕は国民が豊かになるよう一生懸命働いているし、他国にも富を分け与えるにはどうすれば良いかいつも必死に考えている。

 誰かに褒めて貰いたくてやっていた訳じゃないけど、こうして認めてくれる人がいるだけで勇気が出るし、自然に頑張ろうと思えた。


「キーちゃん。僕、皆が幸せになれると証明して見せるから。すぐには無理かもだけど、いつか必ず!」

「……神が人の世にしゃしゃり出てくると災いになるのです。私はそれを懸念しています」


 僕は「災いになんかさせないから!」と笑顔で宣言すると、アマミちゃんは大拍手し称えてくれた。

 キーちゃんと別れた後、アルたちと合流してリコーちゃんとの晩餐会に参加する。


「アマミちゃん、これも食べる?」

「一人一つの豪勢なデザートなのに私が貰っても良いニャン!?」


 僕が頷くと、アマミちゃんは凄く喜んで2つ目を食べていた。

 さっき庇ってくれたことに凄く勇気を貰ったので、何かお返ししたかったし、喜んでくれて嬉しい。

 夢中で食べて鼻の先にクリームをつけてしまうアマミちゃん。それを見て、僕とアマミちゃんは二人で笑い合った。

 そうしたほっこり気分で心が温まっている所へ、ガトーからの伝心が届く。


『ワドワド、いつまでそっちでゆっくりしてるんだにゃん?TGSとモーターショーの準備は大詰めだし、開催間近だぞにゃん!』

『あ、そっか。いつからだっけ?』

『寝ぼけているのか?明後日だぞにゃん?』


(やばい!ゆっくりし過ぎたよ!)


 僕は慌てて戻る話をアルたちにしたけど、僕以外は明日帰国するつもりで今日の晩餐会へと臨んでいたようだ。

 皆から予定を忘れていたのは僕だけと指摘された。

 でも、イベントにはリコーちゃんが強く興味を示す。


「そのモーターショーとやらには私も参加して構わないか?」

「それはいいニャン!是非、代わりにコンパニオンをやってもらうニャン!」


(え?アマミちゃん、ウェルカムモードなの?)


 モーターショーは最新の魔術具の乗り物を展示する事が決まっていて、張り切っているガトーがコンパニオンを指名していた。アマミちゃんもその一人。

 コンパニオンは結構きわどい水着みたいな衣装を着なきゃいけなくて、指名された人は困っている人も多いみたい。

 アマミちゃんも衣装に抵抗ある一人で、リコーちゃんなら裸が平気なんだから「きわどい衣装 or 着なくてもOKでは?」と豪語している。

 リコーちゃんも乗り気で「布面積ゼロで参加だ!」と意気込んでいて、この流れは止められそうにない。


(あ、アルが長い溜息を吐いてるよ)


 僕も気持ちは同じだけれど、先ほどの恩がアマミちゃんにあるので、笑顔で話を進めているアマミちゃんを僕には止められそうにない。

 ……ってことでリコーちゃんの飛び入り参加が決まりました!


「なーにが、ってことなんだにゃん?吾輩、布面積少な目を要求しているが、モロ出しはダメだと思うぞにゃん?あくまで主役は乗り物だろにゃん?」

「や、やっぱダメかなぁ?」


 帰国をして真っ先にダメ出しされた。デスヨネー。


─────────────────────


 明けて翌日。

 今日はTGSとモーターショーの開催日。

 ちなみにTGSは、ゲームショーじゃない。

 サラブレッド・ガトー専用・スプリントステークスを略してTGSなんだ。要はガトー主催の競馬のレースタイトル。

 僕が「それだとSGSじゃないの?」とツッコミを入れたら、ガトーには鼻で笑われて「サラブレッドのスペルはTで始まるぞにゃん!」と、異世界知識で負けてしまったのだ。悔しい。


「では、吾輩が主催するTGSをゲートインだにゃん!ファンファーレ隊、カモーンにゃん!」

「「「うぉぉおおぉぉ!」」」


 物凄い熱狂。それもそのはず。優勝の褒章でガトーの竜鱗が貰えるのだ。1つでも手に入れれば一生安泰で暮らせると言われる高級品に、参加者は狂ったような盛り上がりを見せている。


「ワールドン様、競馬はいいな。是非、パウス王国にもターフを作りたいと思ったぞ」

「リコーちゃんはここでも目立ってるね」


 衣装が派手な髪飾りと靴だけのリコーちゃんは、競馬場で注目の的だった。

 夜に開催されるモーターショーは流石に衣装を来て貰うつもりだ。だけど、今のご満悦な表情を見るに、ちゃんと守って貰えるかがどうにも怪しい。

 何度も念押ししたけど「分かっている。乗り物が主役なんだろう?」と返すリコーちゃん。


(何かトラブル起こるけど……僕、悪くないし!)


 夜。幕が張るメッセで開催されるモーターショー。

 カルカンたちマナ技術者たちの新作、力作が数多く出展されている。

 ホバーバイクも初期型から最新型までずらりと並んでいて、技術の変遷がよく見て取れるし、最新の流行も良くわかる。


・初期型:円盤タイプ。見た目よりもまず飛ぶ事が重視されていた。

・中期型:ラザが加わり、銀のマナ鉱石が使われ始めて見た目も重視されだした。流線形のフォルムが増え始めたのもこの頃。

・後期型:見た目+機能面も重視されるようになり、ナビ機能や安全制御システム付きが人気になった。

・最新型:後期型から更に実用性を重視し、小型サイズが好まれるようになっている。


「こうやって見ていると、建国して10年経ったんだなぁとしみじみ思うよ」

「にゃ?まだまだ進化を遂げるのにゃ!見た目のカッコよさもどんどんバージョンアップするのにゃ!」


 作品の紹介をしていたカルカンが「進化はこれからにゃ!」と力説していた。

 国内外から多くの人が見学に来ているし、転写の魔術具で撮影をしている。

 ふと、見かけたのは撮影組が大きな囲みを作っているブース。

 興味を持って近づいてみたら、カオス空間だった。

 バシャバシャと撮影の音やフラッシュ点滅が激しいその中心には、リコーちゃんとガトー。


「おい、お前!服を着ろにゃん!」

「ふふっ、これはボディーペイントと言ってだな、塗料が衣装なのだ。それに私はコンパニオンであり、乗り物でもある!さぁ!私に乗りたいものは……」


 僕は頭が痛くなり、その場から離れた。

 後日、リコーちゃんはご機嫌で帰国したよ。


─────────────────────


 それからも収穫祭、冬コミ、新年祭と年末年始のイベントが続き、春になるとタートがドラゴン学院へ入学した。

 この頃の新入生は、僕の国で生まれた子供が入ってき始めたので感慨深い。正面入り口前は両親と記念撮影をする定番スポットになっていた。


(皆は、変わっていくのになぁ……)


 当時の在校生は皆卒業し、生まれていなかった子供たちが新たに入学する。毎年、繰り返される記念撮影で、皆は成長し変わっていく。

 そこに映る僕だけがずっと変わらない姿だった。

 永遠の時を生きる僕は年を取らない。だからドラゴンの姿でも、変化した人の姿でも全く変わらない。

 今まで気にした事が無かったけれど、僕だけが皆と違って取り残されてしまう。そんな感覚。


(素敵な映像のはずなのに、こんな気分やだな)


 それから建国祭を終え、双子節に入った。

 日差しは既に夏になっている。そんな中で皆はブールボンへの旅行の準備をしていた。


「忘れ物ないよね?サブロワ君もお土産用意した?」

「はい。大丈夫です!」


 ブールボン国王に招待されて、ブールボン出身の全員が一度里帰りをするのだけれど、出身のものは多くかなりの大所帯になっていた。

 アルもダミアちゃんと子供を連れての里帰りだし、サブロワ君はメルと結婚する挨拶を両親にしにいくのだ。

 成人して帰国を果たしているカオ君やミアちゃんにも再会できるって事で、僕も楽しみ。


「ルクルはめちゃ緊張してるね?」

「正式な招待だからなぁ。貴族としての挨拶回りもあるしー」

「ふふっ、ルクルは堂々としていればいいの」


 3人の子供を連れてルクルとリゼも、ホリター家とその親戚、関係者への挨拶回りを予定している。


「じゃ、ガトー!カルカン!留守番よろしくね!」

「うむにゃん。任せろにゃん!」

「ワールドン様!お土産にはブールボンのお酒をお願いするのにゃ!」



 カルカンの要望をハイハイと聞き流し、僕はドラゴン形態で空輸邸を抱えて飛んだ。

建国から10年。ワドたちドラゴンだけが年を取っていません。

ワドはその事に不安を覚え始めました。


次回は「皆の里帰り」です。

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