貴族留学生と収穫祭
前回のあらすじ
感染症で国中が混乱に陥りましたが、猫魔族クシマの活躍で特効薬が完成。
敵の指示役が従者リッツだと判明し、投獄する事になりました。
「どういう事だ!?リッツ姫を解放しろ!」
僕は今、レオ勇者パーティーに詰め寄られている。
彼らとの関係は壊したくない。けれど、それとこれは話が別だった。
「彼女は罪を犯したから投獄してるよ」
「リッツ姫は騙されてたんだ!だから頼む!」
「……姫は無罪」
「そうよ!まだ子供の姫様に対して酷いじゃない!」
彼らから口々にリッツの擁護が発せられる。僕だって気持ちは同じだ。今の処遇が最大限庇った結果なんだから分かって欲しい。そう思いながら淡々と告げる。
「死者300人超の被害。その指示役を無罪には出来ない。だから牢に入って貰ってる」
「でも!」
「出たいかどうかはリッツ本人に聞いてくれる?あと……できればリッツとなるべく話してあげてね」
どうにか伝えたい事を伝えられた。でも、ピコラの反論に僕は言葉を失う。
「なによ!アナタだって沢山殺してるじゃない!」
「……我田引水」
「ピコラさん、やめましょ。ここは引いてまずは姫の意見を聞きましょう。ルヴァンさんも落ち着いて」
ノワール君が皆をまとめて連れていく。その際に僕の方を少し振り返り、ウインクをしていた。
今もまだ言葉が突き刺さっている。
(僕に、裁く権利なんてあったんだろうか?)
逃げたくて、引き籠りたくて、でもその感情を無理やり抑え込んで過ごす。
晩御飯の時、リゼが僕の様子を心配してくれた。
僕は「大丈夫」と頑張って笑顔を続けたよ。
翌日の早朝にルクルから呼び出しを受けた。けれども、怒られる事は何もしていないと思う。僕は首を傾げながら、ルクルの執務室を訪ねる。
部屋の中にはガトーとエリーゼ、それになぜかサブロワ君がいた。
ジャックにお茶を出して貰っていると、ルクルが今回の呼び出し理由を語りだす。
「感染症騒動の時にさー、ルマンド様に凄くお世話になってるでしょー?そのお礼をしたいんだよねー」
「ルマンド君にお礼参りってこと?」
「それ意味違ってくるからなー?えっと、お礼も兼ねてるけど、サブロワ君とエリーゼ様の一時里帰りと、ガトーへのご褒美なんだよー」
そのルクルの言葉に、エリーゼが力強く立ち上がり、ガトーは回転ポーズを決めてどやにゃんをしていたな。
「ワールドン様、気分転換は必要ですわ!」
「ワドよ。吾輩、ブールボン王国の収穫祭がめちゃ楽しみなんだにゃん」
「あ、あの、よろしくお願いします!」
こんな時でもサブロワ君は、礼儀正しくお辞儀をしていたよ。
ガトーやエリーゼはともかく、サブロワ君は親元を離れて結構経つし、良い機会なのかも知れない。
僕もカップを置いて立ち上がった。
「うん、行こう。ブールボン王国に」
直ぐに出発って事になった。ガトーが運ぶみたいで広場においてあったガトー専用空輸邸の所へ向かう。
ガトー専用空輸邸は、いつの間にかガレージが拡張されていた。既にお気に入りのホバーバイクが格納されているようだ。
普段ならイラっとするどやにゃん顔が、今日はなんだか微笑ましく感じるな。
(ガトー、皆、ありがとう)
僕に元気を出させようとしている事が分かるから、カラ元気でも、いつも以上にはしゃいで頑張る。
楽しいと自分に言い聞かせると、案外何とかなるもんだよ。
二人でメタモルフォーゼしてドラゴン形態に戻り、さっそく里帰りの旅へと出発する。
「インビジブルフォーム!」
「エターナルウィング!」
─────────────────────
到着っと。
ルマンド君のお出迎えを受けつつ、皆が空輸邸から出てくるのを待つ。サブロワ君はマイティにおんぶされて出てきた。
「あまりの急加速に失神したようです」
しまった!サブロワ君は普通の人じゃん。完全に失念していたよ!
数日は絶対安静って事で、家に送る訳にもいかず、ルマンド君の本邸で看護して貰う流れになったな。
翌日。
まだサブロワ君は寝込んでいる。仕方ないので、王都観光にでも繰り出そうか相談していたら、ルマンド君からの呼び出しを受けた。
って訳で彼の私室へとお邪魔したとこ。
「ようこそ、こちらへおかけ下さい」
「へぇ~、他と違って私室はそこそこ豪華なんだね」
「ルマンドよ、香りが足りないから置きパスタがオススメだぞにゃん」
「お兄様、こんなに隠し持ってたんですの?」
ルマンド君の私室には、美術品もそこそこあったよ。他の所だとエリーゼに売られるけど、ここだけはお気に入りを確保したみたいね。
リゼも初めて見たようで、キョロキョロと見回していたよ。
僕らが席に座ると、ルマンド君が今日の本題を語りはじめる。
「実は……新たにドラゴン学院への留学を希望している子供がいるのですが、現在受け付けていないのですよね?」
「うん。ここの所はお薬がなんだと忙しかったからね。受け入れるとしても来年頭からになるかな?」
ルマンド君は納得した様子で、来年からの2名受け入れを提案してきたよ。
僕の国に行きたいって子供もいるんだなと思いつつ、なんとなーく思いついたので宣言しておく。
「僕の国の学力レベルは高いからね!偏差値だっけ?あれもチョー高いし?編入試験と面接が必要だから!」
「ワドワド、そんな話なかったはずだぞにゃん?」
「ワドの思い付きには困ったの」
「では、私の方から断っておきましょう」
ガトーとリゼから即座にツッコミ入っているけど、ルマンド君はあっさり諦めたよ!?待って!そんな簡単に諦めないで!
僕は慌てて軌道修正していく。
「……って思ってたんだけど、えとんと、今は人となりを重要視してるからね!面接でOKならいいよ!」
「なるほど。では、本日の午後にもセッティングしましょう」
(ふぇ?早すぎない?)
だけど、ルマンド君は有能すぎてあれよあれよと各所への手配を澄ませ、午後には本当に面接の場がセッティングされたんだ。
それで僕らは面接官ってわけ。
リゼにお願いして、僕とガトーのスーツも用意して貰っている。
ガトーはちょっとぶかぶかだけど、グラサンかけてやる気マンマンだよ!
(ってか面接でグラサンって変じゃないのかなぁ?)
コン、コン……
部屋に控えめなノックの音が響く。
一体、どんな子供だろう?とちょっと期待に心躍らせながら「どうぞ」と入室を促す。
そーっと扉を開いて入ってきた二人は、どこか見覚えがある子供だ。赤茶色のふんわりした三つ編みで栗色の瞳の女の子と、ぼさぼさっとした黒髪でオレンジ色の活発そうな男の子。
(どこかで会ったような?)
僕が思い出せずにいると、ガトーが面接を仕切りはじめた。
「うむ、良い面構えだにゃん。吾輩はガトー、生半可な覚悟でFBIに入れると思うなよにゃん!では、そこのソファーに座るにゃん」
「「は、はいっ!」」
(はいーーー?FBIって何?なんだかガトーが勘違いしてるよ?)
ノリノリなガトーと、緊張でガチガチの二人。
僕はガトーを窘める為に、伝心で叱っておく。
『ちょっとちょっとー!なにがFBIだよ!僕の国にそんな期間は無いよ?』
『そこはノリだにゃん。吾輩専用の特撮特化の学院って感じだにゃん』
『FもBもIも掛かって無いじゃん!変だよ!』
僕が子供たちに見えない様に、ガトーの方だけ向いて顔芸で抗議を続けると、ガトーはグラサンをクイクイっとしながら反論してきた。
『なら、フェイバリット・ブールボン・いい感じの二人とかでどうだにゃん?』
(雑っ!意味不明!これはガトーに任せておけない!)
ガトーから進行を奪い取って、二人に自己紹介をするように促す。
少し経って緊張が解けた男の子が、ハキハキと答えだしたよ。
「俺はカオ・チキーズだ」
「私はミア・ジノゴと申します」
「ふむふむ。志望動機を教えてくれる?」
僕が間髪入れずに志望動機を問うと、二人は目を輝かせて答え始めた。
「サブロワからの便りが楽しそうだからだ!」
「私、エリーゼお姉様に憧れてるのです!」
(ん?サブロワ君と知り合い?エリーゼも知り合いなの?)
僕はリゼの方をチラリと見る。すると「ワドは覚えてないのね」と少し悲しそうな顔を一瞬だけ見せたリゼは、ミアちゃんに語り掛けた。
「お久しぶりなのミア。もう少しであれから3年ね。大分成長してて見違えたの」
「はいっ!お姉様!私、あれからお姉様みたいになりたくて努力しました!もう泣き虫は卒業です!」
「そう……なの」
(あーーー!思い出したよ!弓矢を外して号泣してたミアちゃんだ!めちゃ美人になってる!)
2年と10ヵ月ぶりに見たミアちゃんは、とても成長している。特にお胸が。年齢も13歳になったそうで、雰囲気も女性らしくなっている。
するとこっちの男の子は、あの時一緒にいた少年なのか。ぶっきらぼうな印象は変わって無いなぁ。
「カオ君は、僕をおばさん呼ばわりしないでよね」
「……ワールドン様って全然変わってないから、若作りの努力がすげーよな」
ここが面接会場だという事をすっかり忘れているカオ君。僕はジト目で睨んでおく。
でも、久しぶりにあった二人とは、思い出話で盛り上がったよ。勿論、二人とも合格。サブロワ君も喜んでくれると思う。
それでサブロワ君の話題を振ってみたら、明日から始まる収穫祭に参加したいって流れに。二人は貴族だから平民の手引きがないと、収穫祭には参加しにくいってさ。
二人と明日の再会を約束し、面接は終了。
(いやー、面接官気分は楽しかったな)
満足感に浸っていると、リゼが申し訳なさげな表情で質問してくる。
「ワド、明日の約束はどうするの?サブロワはまだ気絶したままで、明日の案内は無理だと思うの」
「あ!」
うっかりしていた。でも大丈夫。癒してしまおう。
「僕が癒すから大丈夫!」
(なんか、凄く不安だにゃん)
(なんだか、凄く不安なの……)
翌日。
サブロワ君は元気に目覚めている。
まぁ、加減が難しかったから、ちょーっとだけ寿命が多めに削れたかも知れない。でも誤差だよ誤差。
「人族の5年は、誤差と違うと思うぞにゃん?」
せっかくの収穫祭のアゲアゲ気分を、台無しにしてくる友達の小言は無視無視。今日のコーデは平民変装バージョンなのだ!ドヤァ!
(さぁ、収穫祭を食べつくすぞ!)
数日で回復するはずの気絶が、5年の寿命を失う事になったサブロワ君。不憫です。
ちなみに、カオとミアはep.「新年祭・前編」ep.「新年祭・後編」で登場しています。
次回は「鍛冶の才能と約束」です。