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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
さぁ…観光へ、ようこそ!
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感染症に右往左往

前回のあらすじ

村人の暴動は狂暴化するお薬が原因と判明。

直近の薬不足に対応するべくドラゴン空輸をしてましたが、国民が倒れ始めたようです。

「お薬増えてるのに、どうして倒れる人が続出なの!?ちゃんと説明してよね!」


 僕はルクルの所に駆けつけて、今まさに吊し上げをする所だ。

 僕らが頑張って空輸したんだから、お薬は確実に増えている。それなのに多くの人が倒れているんだ。

 ちゃんと説明して貰わないと分からない。だから今、僕はここで仁王立ちをしている。


「いやあのなー、俺は医学の専門家じゃないんだぞー?専門なのはアルコールだからなー」

「そんな言い訳聞きたくないよ!」

「では、俺っちから説明するニャ!」


 ルクルの部屋に訪ねてきた猫魔族のクシマが、説明してくれるようだ。

 虎柄のクシマは最近白衣を着用していて、モノクルも着けている。

 他の猫魔族からは「研究者気取りニャ」と馬鹿にされているようだけど、僕の国でクシマが大活躍している事に変わりはない。

 僕は敬意をもって博士と呼ぶことにしている。


「教えて博士!これは一体何なの!?」

「流行しているのは感染症ニャ。ゲノム解析したところ新型ニャ。でも人為的な介入があると思うニャ」

「ゲノム?介入?分かるようにヨロ!」

「クシマっちさー、ワドにそんな小難しい事がわかるわけないじゃんー?」


 なんだか流れ弾でディスられているけど、僕は無視して真剣に聞いた。

 確かに難しかったけど、要約すると新しい株のウイルスで感染力が高く、ワクチンも特効薬もまだないって事みたいだ。

 そして、ワクチンの研究を急ピッチで進めているとの事。


「俺っちの見立てでは、ワールドン様の協力が得られれば、T細胞の活性化をしつつサイトカインストームを抑制できると思うのニャ」

「博士!僕でできる事なら何でも協力するよ!」

「えー、クシマっちはあのプランを実行するのー?なんかやだなー……」


 隣でヤジだけ飛ばしている使えない鬼畜は無視し、内容を聞いてみる。

 どうやら僕の唾液があれば、特効薬が作れるかもって話だった。


(僕の唾液で良ければ幾らでも提供するよ!)


 特効薬の研究に付き合う中、各地の被害が膨らみ始める。

 医師や看護師に黄金聖水を大量に配っても、多忙すぎて間に合わない医療崩壊状態。ベッドも足りない。ボン達が全速力で作っても追い付かないんだ。

 僕は不安や焦りを押さえて、必死に唾液を提供していた。


「報告しますニャン!セトチ村とポロッサ村、それから港町で犠牲者の報告があがってきてますニャン!」


 猫魔族のアマミちゃんから報告があがってくる。

 彼女は焦げ茶色の手で資料の束を抱えていて、その厚みで僕は被害の深刻さを知った。

 各地で死者が出始めている。犠牲になった人は、妊婦や幼い子が多い。僕はショックでパニックになりそうだよ。

 ホリター媚薬に逃げたいけど、同じ過ちを二度起こす訳にもいかないから必死で我慢する。


 翌日。僕にとって本当に深刻な報告が届く。

 報告者のリッツは全力で走ってきたのか、普段のお団子を解いていて、印象的な赤い髪が汗でびしょびしょになっている。

 でも、その報告内容は耳に入っても、頭に入ってこない。


(嘘だ……嫌だ!誰か助けてよ……)


 報告書には、リベラさんの名前があった。感染して倒れたと書いてある。ビットとは安全の為に隔離して生活しているそうだ。

 残り少ないビットとの時間を奪われるどころか、ヘタをすれば命の危機もあり得る。それほどに恐ろしい病気なんだ。

 僕はすぐにお見舞いに行こうとしたんだけど、絶対安静だからと止められている。


(僕は、僕はなんて無力なんだ……)


 代わりにビットの所にリッツと一緒に向かった。

 でも、入口で不審人物に止められる。


「シュコッシュ、シュコ、シュコッシュコーー」

「え……っと、ヴェスト?何してるの?」

「シュシュコー、シュコーシュコーシュシュコー!」

「わ!驚いた。リッツはいつの間に着替えたの!?」


 ヴェストもリッツも防護服を来ている。外からウイルスを持ち込まない様に、消毒をした上でこれに着替えろって話みたいだ。

 消毒用のアルコールを体中に吹きかけられる。目や鼻に入らない様に先にマスクだけ装着済み。


(なんかスイカみたいな匂い……結構キツイかな?)


 誰かが着ていたお古なので、匂いがきつかった。

 準備完了して中に入ると、テトサがビットをあやしていたよ。

 防護服越しだと満足に会話できないから、この場にいる全員に【伝心】(    )を繋げる。


『テトサとビットは無事なんだね、良かった』

『はい。ウチは、ヴェストに大事に守られてるから』

『テトサさん惚気はいいから!ワールドン様の恋バナの餌食だよ?』

『わーりゅどんしゃまへんなかっこ!キャッキャッ!あそぼ!』


 ビットは普段通りニコニコしていた。リベラさんと会えなくても、ガラケーの魔術具でお話は出来ているって話だ。ほっと胸を撫でおろす。


『ビットは、投獄経験あったから少し母親と離れても平常心を保ててるみたいです』

『なんだかヴェストの方が、やつれてない?大丈夫?ちゃんと睡眠取れてる?』

『ハハハ、俺は大丈夫ですよ。テトサを守らなきゃだから、ウイルスなんかに負けてられないです』


 恐らくはカラ元気なのだろう。肉体の疲労というよりは精神面の疲労にみえる。

 僕の黄金聖水は、心までは癒せないから。

 そのまま他の被害状況について話題が移る。


『妊婦の被害が一番大きいみたいです』

『……早く特効薬できるといいよね。博士の頑張りに期待だよ』

『あたし、クシマ博士ならやり遂げるって信じてる!』

『わーりゅどんしゃま?あそぼあそぼ!』


 色々と不安はあるけれど、その日はビットの笑顔の為にいっぱい遊んであげたよ。


─────────────────────


 日が変わって、雨が振る中でも報告でいっぱいだ。アマミちゃんが鼻息荒く報告をあげている。

 トリアージと隔離区画の設定が行われた。ここでのトリアージは助ける為の優先度じゃない。助かる見込みがないと見捨てた患者を、治療放棄して隔離しているんだ。

 もうどうすれば良いのか分からなくなっていた。

 気持ちだけが焦るけど、事態は一向に好転しない。

 僕ができるのは、クシマに協力し続ける事だけだった。


─────────────────────


 その日の日没と共に、大きな転機が訪れる。

 カルカンが犯人を炙りだす事に成功。首謀者はカービル帝国の者。人為ウイルスをまき散らしていた元凶を押さえられたんだ。

 クシマから人為的に作られたウイルスの可能性を示唆されたので、エリーゼ&カルカンで特捜最前線を張っていた。

 その網にようやく引っかかって成果があがったとこ。


 ルクルの読み通り、ドウエン将軍の介入のようだ。

 既に【伝心】(    )で裏を取ってある。それと共に疑惑も確信に変わった。メコソンが二重スパイってのも多分バレている。

 ここ最近はルクルが後手に回る事が多かったんだ。

 それはメコソンに流させていた情報に踊らされる事なく、逆手に取って作戦を立てていたドウエン将軍が凄いって事だと思う。

 ルクルが危険視していた意味が、やっと本当の意味で理解できたよ。

 そして、更に大きな朗報が飛び込んでくる。


「ワールドン様、やったのニャ!ついに完成したのニャ!」

「さすクシマだよ、さす博士!」


 クシマが特効薬を完成させた。時間との勝負だったけど、本当に不眠不休で頑張ってくれたんだ。

 治験も完了しているとの事。長期的な副作用は分からないけど、病気で亡くなるよりはいいだろうと投与する事が緊急閣議決定する。

 さっそく、その夜から夜通しで投与が始まった。


─────────────────────


 数日後。

 感染源の撲滅と特効薬のおかげで無事収束。

 リベラさんも回復して、元気を取り戻している。

 最大の功労者であるクシマには、正式に博士の称号を送って何度も褒め称えた。

 それから、犠牲者には国営のお墓を建ててあげる事を決定。もう二度と、病気での悲劇を繰り返さない為の戒めと誓いの場でもあるんだ。


(僕……お墓に祈る意味が少し分かったかも?)


 亡くなった人に、報告したり、約束したり、そんな気持ちになれる場所なんじゃないかな?皆が大切にする気持ちが、少しだけ僕にも理解できたよ。

 穏やかで平穏な日常に戻りつつあるけど、その前に犯罪者を吊し上げる必要がある。

 だけど、意外過ぎる人物で僕は困惑したよ。


「では、僕に説明してくれるかな?」

「あ、あたし、こんな事になるなんて知らなくて!」

「だけど、お前がフウカナット村の倉庫番に指示を出した犯人だにゃん!じっちゃんの名にかけるにゃん」


 赤髪の犯人は項垂れて、酷く落ち込んでいる。

 その目には涙が浮かんでいたよ。


(利用されたんだね……とても、とても残念だよ)


 犯罪者リッツ。

 彼女が指示を出していた。【伝心】(    )で読み取る限り騙されて利用されていたのは疑いようがない。

 リッツは出自の情報と引き換えに色々と指示を受けていた。自分の行動の結果がどうなるかも知らずに、それを遂行していたんだ。

 倉庫番の人が、不思議な指示に何の疑問も持たなかった理由も判明。だって、幹部に近いリッツが指示役だったんだ。疑う方が難しい。


「ワールドン様、ドウエンを殺してきますわ!」

「待ってエリーゼ。それは国際問題になるから」


 僕だって気持ちは同じだ。だけど、勢いで死刑にしてはいけない事をアモーク伯の一件で僕も学習しているんだ。

 【伝心】(    )での裏付けだけでは不十分なんだ。

 国際的にドウエン将軍を追いつめるには、確実な物証が必要になる。

 それは今後の課題として、今はリッツの処遇をどうするかだった。


(心情としては嫌だけど……ごめん。仕方ないんだ)


 僕は、独房入り一ヶ月間を命じた。

 騙されたから、子供だから、僕と仲が良いから……そんな事では許されない程の被害が出ている。

 リッツは消え入りそうな声で「はい……わかりました」と受け入れて、牢屋へと入ったよ。



(どうしてこうなった?……ドウエン将軍、僕を怒らせた事をいつか後悔させてあげるよ!)

ワドは成長し、お墓への理解を少しだけ深めました。

リッツは、ルクルが最大限庇った結果の刑罰です。


次回は「貴族留学生と収穫祭」です。

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