閑話:特別指導と恋のライバル
前回のあらすじ
エリーゼの特別指導を受ける事になった猫魔族のアマミ。
その過酷な野外特訓と、猫魔族の日常です。
片思いとやきもち、そして恋の予感。あとKY祭り回でもあります。
ep.「ホラーハウスで女子会」~ ep.「3年目の17歳」までのアマミ視点となります。
「ふんっ!誰が人族の女なんかに従うかにゃん」
「あー、アマミ氏ダメなのにゃーーー!」
私はなんて無知だったのだろう。
今、思い返しても恐ろしい。エリーゼ様に口答えを行うなんて、正気を疑われる行為だ。
あの日、私は音速を超えた。
正確には音速を超えるエリーゼ様に振り回されながら、鰐魔族を説得する光景を見ていた。
(私たちのせいで、ごめんニャン)
大量の鰐魔族が空を飛んでいた。彼らに飛行能力は無い。エリーゼ様の訳の分からない攻撃で、数百メートルの上空へと強制ダイブを強いられていた。今、思い返しても訳が分からない。
ワールドン王国での絶対の掟。
それはエリーゼ様に立てつかない事。
あの日、猫魔族全員が共有する事になる絶対の掟だった。
ワールドン王国に移住してからは、ガトー様から「吾輩と被るからお前らは口調を改めるにゃん」と言われ、必死で口調を直す。
ワールドン様もだけど、神様はいっつも唐突で理不尽だなと思わなくも無い。
これも、エリーゼ様の前では禁句。もし聞こえる範囲でワールドン様たちの愚痴を零したのなら、特別指導が待っている。
ソースは私。死ぬかと思った。
(そう言えば、皆の反応が凄く変わった……かな?)
ーーー特別指導ビフォーアフターVTRーーー
〜〜〜特別指導前の猫魔族達〜〜〜
「ここの神様達は空気読めないよニャー」
「オラ、この口調がまだ慣れないニャ。なんか硬くて言いにくいニャ」
「そうニャそうニャ。あとさ、ワールドン様が意外に気難しく、厄介なんだよニャ」
「わかる。なんで恋バナ誘惑モードばかりなのかが困りもんだし、過剰にヨイショして相手しないと拗ねるもんニャー」
私は皆の元にフラフラと立ち寄り、これからの予定を告げる。
「皆、私はこれからエリーゼ様の個人レッスン特別指導ニャン。……お墓は立派なのを頼むニャン」
「お、おう、アマミ氏、頑張るニャ」
「い、生きるのを諦めるなよニャ?」
〜〜〜特別指導後の猫魔族達〜〜〜
「オラ、昨日はワールドン様の飲み相手だったから、KYモードが全開でさニャア……」
「あーワカル。KのYしないと不機嫌になるからなぁ。俺っちはガトー様が相手だったけど、KでYだから自腹だったし」
「二人を混ぜると一気にKでYになるよニャー。いつもKしてYな事しかしないし」
「分かりみニャ」
私が皆の会話の中に加わる為、近づくと……
「今日は何の話題ニャン?」
「あ!アマミの姐さん、ちーーーすニャ!」
「「「姐さん、ちーーーすニャーー!」」」
「姐さんはやめて欲しいニャン。おいコラ、マジでやめろニャン!(ギラリ)」
((ガクガクブルブル……!))
ーーー特別指導ビフォーアフターENDーーー
私がエリーゼ様の特別指導を乗り越えたら、皆は私を一目置くようになった。姐さん呼びだけは断固阻止するけどね。
それに、愚痴は必ず隠語を使うようになった。
最近は言葉のニュアンスや会話の流れで、相手の言っているKYがなんの意味を指しているのか、察せられるようになっている。
褒め方から貶し方までバリエーション豊富なのだ。
それはそうと、最近はピコラという女と、いっつも喧嘩をする日々が続いている。
私の憧れであるカルカン氏にまとわりついて、セクハラ行為を繰り返している変態。それがピコラ氏。
なんでも絆があるとかで、カルカン氏も無理に振りほどこうとしないのだ。不愉快でしかない。
(カルカン氏、変わってしまったのニャ)
私とカルカン氏は同い年。二人して生前のサイゴウ氏に師事していた。サイゴウ氏はカルカン氏の父君で、猫魔族の国で知らない者はいない英雄だった。
過去形で語らなければならないのが、惜しい人だ。
彼の下でカルカン氏と共に切磋琢磨した修業時代。
私の大切な思い出。あの頃のカルカン氏は父に追い付こうと、気高く・勇敢だった。
ワールドン様と出会ってからは、すっかり腑抜けになってしまい、正直失望もしている。
(それでも、この想いは……)
私の初恋はまだ終わっていない。私の戦いはこれからだ!
今夜はピコラ氏がデートに誘っていた。薄暗い中、二人きりにさせたら何をするか分からない。
危機感の薄いカルカン氏を守る為、私は無理やりに同行をもぎ取る。ダメでもストーキング行為で追う予定だったけど、意外にあっさり許可が出た。
(ピコラ氏の、私に向ける視線がなんか怖い)
仲間と思われる男3人組に聞いてみても「いや、アマミさんも気を付けた方がいいぞ」「……危険回避」「飲み過ぎて記憶失ったらやられちゃいますよ?」と様々な忠告を貰った。有難い。
今日のデートは新しく出来たデートスポットのようだ。
なんの意味もない橋が出来上がっている、新デートスポット。ラザ様が「橋の下の秘密基地」に憧れて動こうとした事が出来た由来らしい。
ラザ様に動かれると地震が起きて大変になるから、「いっそラザの住処の上に橋を建てちゃおう」ってワールドン様の軽いノリで決まった。
(正直、ノリで国家事業を決めるの……どうかしてる)
橋が架かっているけど、小丘があるだけなので橋じゃなくても向こう側に渡れる。ただ、ガトー様が拘ったから無駄に稼働機能を搭載したダイナミックな橋が出来上がっていた。
私には、国家予算の無駄遣いにしか思えない。
ただ、国民には高評価だった。
眼下には銀色に輝く小丘。夜は幻想的な雰囲気なので、新王都のデートスポットになっている。
そこに3人で来ていた。
暫くピコラ氏と喧嘩をしていたのだけれど、遠くから金色の物体が近づいてくるのが見える。
間違いなくワールドン様だ。
ワールドン様は色々とお忍びで動いているつもりっぽいけど、光っているので全く忍んでいない。特に夜は目立つ。
だけど、マナが濃すぎるから虫などは寄ってこない。ワールドン様がいると、ちょうど良い虫よけになるのが便利だと思う。
「ねぇ!これ何の修羅場?ねぇねぇ?」
ワールドン様は恋バナモードになると……正直ウザイ。
だけど、どこでエリーゼ様が聞いているか分からないから、皆は過度に、ヨイショして持ち上げている。
そして、調子に乗ったワールドン様は更に恋バナモードがエスカレートしていく。と、いう悪循環だ。
妙な修羅場現場で私は必死にカルカン氏を守った。
ついにGWW。私はリベラ氏の護衛という大役を任された。ここまでの地獄の特訓の日々に涙が出る。
皆は口々に私を褒めてくれたが、どうも「エリーゼ様担当」みたいな位置付けになっている事だけが、どうにも解せない。
(いや、お前らも同罪だからな?)
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GWW初日の記憶が無い。
皆は「いや、初日なんか無かったよ、うん」と言っているので、無かったのだろう。私は初の護衛任務に気合いを入れた。
知らない置手紙がある。字は主治医の先生の物に思えた。
(えーと、なになに……)
『今回の寿命は30年分です。あまり無理しないよう、お体を労わって下さい』
と、書いてある。一体なんの事だろう?記憶にない置手紙はなんとも気持ち悪いが、そんなのを一々気にしていたらエリーゼ様の特訓にはついていけないのだ。
ついていくには猫魔族の、いや生物の限界を超える必要がある。
私はカルカン氏を除く猫魔族の中で、トップと目されるまでに至った。ピコラ氏に勝つ日も近い。
(それにしても……)
「じゃあ、アマミちゃんこれもやっといてねー」
「……はいニャン」
なんだか人族の子供が、やたらと仕事を積んでくる。しかも文句を言いにいくと何故か仕事が3倍に増えるのだ。訳が分からない。
ちなみに、二人ほどは暴力手段に訴えたようだ。
その二人は国外へ逃亡したので、もうワールドン王国にはいない。今、どこでどうしているのだろうか?
一人はエリーゼ様に。一人はリゼ様にやられている。片方はこの世から逃亡したのかも?
(二人の尊い犠牲による教訓は忘れないニャン!)
KでYがないルクル様は、猫魔族の中で絶対のアンタッチャブル存在になっていた。
貴方はKYを何個発見できましたか?
(かなり油断する所にも差し込んでますよ)
次回からは新章「さぁ…観光へ、ようこそ!」となります。
次回は「帝国からの亡命者」です。