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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
育児はトラブルの連続
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深刻な小児科不足と薬不足

前回のあらすじ

騒動から逃げないと決め込んだワドは、アモーク辺境伯の処刑を断行します。

犯人が恩人だと語るリベラの反応に、ワドは困惑していました。

「伯爵様には、ほんま良くしてもろうてました」


 リベラさんが語るアモーク伯との繋がり。

 生前の旦那さんが一兵卒の頃から面倒を見てくれていたそうで、騎士への推薦もしてくれたのがアモーク伯だそうだ。

 リベラさんはバンナ村出身では無くて、王都の南に位置する村の出身らしい。旦那さんと結婚する前から、アモーク伯に良くして貰っていて、引っ越しに際しても、引っ越してからもお世話になった恩人で、頭が上がらない人だと語るリベラさん。


「ほんまに優しい良い領主様やったわ」


 伏し目がちに懐かしんで語るリベラさんは、本当に慕っているように見えた。僕は慌てて弁明をする。


「でも、あんな蛮行をした人だよ!悪い人だよね!神罰は必要だよ!」

「……したくてしとる訳や無い事くらい……分かります。あん時の伯爵様は、泣いてはりましたよ。食いしばり過ぎて唇からは血ぃでとりましたわ」

「……でも……でも……カタキなんじゃ?」


 僕、こんな事になるなんて思って無かったんだ。

 必死にカタキだから仕方ない事を説明する。でも、リベラさんは首を振って否定した。


「ミカド陛下をお恨みしとるもんはおるやろうけど、アモーク伯爵様を恨んどるもんはバンナ村にはおらんと思う」

「でも!でも!」

「……カタキゆうんなら、ウチの旦那を殺したゆう犯人の方がよっぽどカタキやわ」


 僕はその言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。僕だってザグエリ王国の国民を、不本意だったとはいえ多く殺している。僕にアモーク伯を裁く権利なんて無かった。


 それに……


 リベラさんの旦那さんを殺した犯人は、僕だ。

 その事実をずっと言えずにいた。ビットと一緒に過ごす日々が楽し過ぎて、忘れかけてすらいたよ。


「どないしたん、ワールドン様?具合悪そうやわ」


 心配するリベラさんに「大丈夫」とだけ返し、その場から離れる。違う。僕は逃げたんだ。


(怖い、怖い、怖い……リベラさんに本当の事を知られる事が……もしかしたら、許して貰えないかも知れない事が……)


 それから僕は引き籠った。重機のお仕事もサボって、一人部屋に籠る。マナ制御も不安定になっているので部屋の水は金色に発光して眩しいくらいだ。

 扉には鍵をかけている。

 初めて鍵をかけた。僕の部屋はいつも解放していたんだ。でも、今は誰にも会いたくない。


 コンコン。


 水の音に混ざってノックの音が部屋にこだまする。

 僕が黙ってやり過ごそうとしたら、扉越しに声をかけてきた。


「ワドよ、伝心で事情は把握してるぞにゃん」

「……ガトー」


 仕事へ誘いにきたガトーが、扉越しに語り掛けてきていた。そのまま言葉を続けてくる。


「ちゃんと話して、謝るんだにゃん。ワドが本気で謝れば、きっとリベラは許してくれるぞにゃん」

「……でも、僕……勇気が出なくて」


 ガトーが色んな言葉をかけてくれたけど、僕は言い訳ばかりをしていた。

 そんなやり取りをどのくらいしただろうか?

 扉の外に、新たに誰かやってきたようだ。


 ドン!

 ドンドン!ドンドンドンドン……ドドンドドン、ドドドドドンドドトドドトトドッッッドン!


(な、何事!?)


「ワールドン様!いい加減に出てくるのにゃ!さっさと仕事に戻るのにゃ!」

「カルカン、ドアはそんなに連打ノックしちゃダメだよ?」

「この間の仕返しなのにゃ!」


 僕が何度もカルカン宅の呼び鈴の魔術具を壊した事を根に持っていたみたいだ。

 カルカンは強く叫ぶ。


「リゼ氏は勇気を持って立ち直ったのにゃ!強いKとYを持っていて、人前に出ればKYでもあり、KY心もあるワールドン様なら出来て当然なのにゃ!さぁ!一緒に働いてKとYで溢れる国にするにゃ!」


 バン!


「さっきからKY、KYってうるさいんだよ!」

「お帰りなさいにゃ」

「お帰りだぞにゃん」

「お?出てきたかなー?」

「ワド……待ってたの」


 扉の外には、僕を心配した皆がいたよ。

 僕にはこんなに心配してくれる人達がいるんだ。友達がいるんだ。皆ありがとう。


(僕は……リベラさんに、本当のことを言うよ)


 ルクルがニヤニヤしながら、「やっぱりカルカン君の説得が一番だったかー」と言っている。

 悔しいけど、その通りだと思う。

 僕は甘えていたんだ。僕が落ち込んでいると、皆が気を遣って優しく接してくれる事に。

 カルカンはいつものKYで、そんなのお構いなしに飛び越えてくる。だからいつも心に届く言葉をくれる。


(後で、ちゃんとカルカンに感謝を伝えるよ)


 僕は、決心が鈍らない内にリベラさんの共同住宅を尋ねた。

 僕の様子を心配していたようで、色々と優しい言葉をかけてくれる。温かい。でも、この優しさに甘え続けちゃダメだ。


(ケジメ……だよね?)


「リベラさん、大事なお話があるんだ……」

「まだありますの?ウチの心臓に悪いわぁ、どないなお話なんです?」

「実は……」


 僕の住処での出来事を全部話した。ありのままを全部。リベラさんは静かに聞いていたよ。


「正直に教えてくれて、ありがとうなワールドン様」

「僕を……恨まないの?」


 リベラさんは首を横に振る。

 優しい声で、まるでビットに語り掛ける時の様に僕へと言葉を紡いだ。

 誰も恨みたくないし、人を恨むような母親をビットに見せたくない……と。


 リベラさんはとても強い人だ。僕なんかよりよほど強い。そりゃ暴力という力比べでは僕が勝つだろう。けれど、心の強さで僕はリベラさんに勝てる気がしなかった。

 ちょうど部屋の奥からビットがリベラさんを呼ぶ声がする。


(ビット、君のお母さんは本当に強い人だよ……)


 僕にはお父さんも、お母さんもいない。

 その日はやけにビットの事が羨ましく思えた。ビットが将来、リベラさんの事を誇りに思えるよう、いずれ二人が再会した時に(・・・・・・)笑いあえるよう、僕は全力でサポートするよ。

 その思いを改めて強くしていた。


 それからはリベラさんとビットのお世話をしながら、新しく増えた赤ちゃんやこれから生まれてくる赤ちゃんのお世話に奔走する日々。

 元の人口の倍の亡命者を受け入れた事で、色んな部署が悲鳴を上げている。

 難民に対する法の制定も急務なので、僕はリゼの所に嘆願にきていた。


「リゼ、これ皆からの嘆願書ね」


 そういってリゼの執務机の上に大量の紙束を置く。

 リゼは仕事のしすぎなのか、少し疲れているようにも見える。仕事の時だけつける眼鏡の奥に、疲労を見た気がしたんだ。


(黄金聖水の差し入れが必要だよね!)


「ん、ちゃんと処理しておくの。そこに置いてね」

「リゼも少しは体を休めてよね。黄金聖水飲む?僕がコッソリ差し入れするよ?」

「……ん、ありがと。お願いするの」


 リゼが仕事に打ち込むのは、媚薬を飲まない様にした反動だとさ。不安を誤魔化す為に、仕事に打ち込んでいるという。でも、僕って不安にさせるような言動をしたかな?


「だって、ワドが引き籠った時、なんて声をかけていいのか分からなかったの。カルカンほどには、力に成れませんの」

「それは違うよリゼ」


 これまで僕はエリーゼとリゼに甘えていたんだ。

 僕が何をしても、許してくれる二人の優しさに。

 僕はその事を謝り、そして感謝を伝えた。僕の力になろうとしてくれている事に。


「カルカンは凄いの。皆が言えずにいることも、なんでも言っちゃうの」

「そだよね、流石のKY力だよね。でも、カルカンってば何か勘違いしてるのか、最近はKYって言うと嬉しそうなんだよね」


 暫くカルカンをネタにいじって、心の糸をほどく。


「カルカンは、いつも皆の心を明るく照らしてくれるの。リゼには真似できない」

「うん、僕なんかよりよっぽど神様に向いてるよね」


(少し元気になったかな?)


 カルカンの話題で、リゼは少し元気になっていた。安心した僕は、次の用事であるギルドマスターの元を訪れる。

 ルクルも紙束の中で執務をしていた。


「んー?また嘆願書かなー?そこ置いといてくれるー?追い付かなくてさー」

「僕も何か手伝おうか?」

「……暴走して事態の収拾に今より大変になる未来しか見えない……かなー?」


(ひ、酷い!僕だって何か役に立つはずだよ!)


 それから仕事漬けで生返事のルクルと、少しだけお話をする。

 ルクルが大変になっている原因も、大量に増えた赤ちゃん達絡みのようだ。

 特に、僕の国は元々病院が少ない。小児科は更に少ないよ。子供が増えすぎた事で、小児科が逼迫しているんだ。


「だ、大丈夫なの?」

「んー、医療崩壊の一歩手前で踏みとどまってる感じー?でも、それ以上に深刻な問題があってさー」

「その深刻な問題って?」


 僕の質問に答えず、作業に集中しているルクル。

 そこで会話を切られると、めっちゃ気になるんですけど!?

 僕がルクルの肩を揺さぶろうか迷っていたら、仕事が一段落したのかルクルが顔をあげた。


「薬がねー、全然無いんだよー」

「何のお薬?」

「そらまー色々と全般的にだけどさー、やっぱり小さな子供の病気に処方する薬が絶対的に不足してる」


 かぶりを振りながら、しんどそうに言葉を続けるルクル。ルクルにも黄金聖水の差し入れが必要そうだ。

 ここに来るまでに入手した黄金聖水を、そっと手渡そうとしたら「竜鱗のティーバッグで作ったのしか飲まない」ってやんわりと拒否られた。

 効果は同じなのに酷いよ。僕の好意を踏みにじるなんてさ!

 な~にが、「部屋原産なのは衛生面が心配」だよ?同じだよ?


 そこからルクルが薬の確保に動いている事と、輸入回りでの妨害や、カービル帝国からのちょっかいで薬が削られている事実を語ってくれる。



「そ、それって、どういうことなの!?」

リベラさん強いわ。母は強し。


ワドは皆を信頼して意見を聞く事の大切さと、母親の偉大さを学びました。

自分にはいない親子の関係性に、羨望の念を抱き始めます。


13章「育児はトラブルの連続」の本編はここまで。

今回の別キャラ視点の閑話は4話予定です。


・苦境に立つ、アジャイン・トカプリコ視点

・自責から塞ぎ込んで媚薬に逃げるリゼ視点

・皆からチヤホヤされ上機嫌のカルカン視点

・特別指導を乗り越えた新勇者のアマミ視点


となります。


今回の閑話はKY祭りですよ。

ついにカルカン()躍進()する日がやってきた!


次回はアジャイン・トカプリコ視点の「閑話:神罰と責任の所在」です。

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 お邪魔しています。  泣けちゃいました! なんて、心優しいリベラさん。心の強さを持っているんですね。怒る強さじゃなく、許す強さかな?  ワド君の驚きと後悔は、手に取るように分かりました。あまりにも強…
リベラさんは強い人ですね、この人に幸があらんことを! ワドはまた一つ強くなりましたね、カルカン…( ̄ー ̄)bグッ!
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