駆け込み妊婦と積もる敵意
前回のあらすじ
リベラさんの所で楽しい女子会をしていた所に、飛び込んでくる離反者の情報。
ワドは、楽しんでいた恋バナを強制中断させられてしまいます。
(な、なんだってー!?)
と、驚いては見たものの。実際に話を聞くと何やらザグエリ王国の離反者らしいんだよね。んで、僕の国に亡命者が相次いでいるんだと。
僕はルクル達に任せようとしたんだけど、亡命者が多すぎて僕の判断が必要だって言うから仕方なく、会議へと向かっている。
新設された僕の部屋。そこに幹部が全員集合なんだよ。
相変わらずの欠陥住宅で、濡れ濡れなのは変わって無いよ!
「で、なんで僕の判断が必要なの?小難しい事を僕に言われても困るんだけど?いや、分かるには分かるんだよ?でもさ、いい加減知ったかするのにも疲れててね?」
((ついに自分で知ったかと言い出したな))
僕は不機嫌オーラをまき散らしておく。
だって、楽しい恋バナタイムを邪魔されたんだよ?
僕はとっても怒っているのだ!
会議では、色々と細かい報告が上げられている。
要は亡命者が多いってだけじゃないの?
受け入れられない規模なら、お断りするしか無いよね?
「お断りすれば良くない?」
「いえ、それが本当に困窮している避難民もおりまして……」
「なら、受け入れれば?」
「それやと、規模が合わんのですわ」
バラン君は受け入れようとしているけど、ストローは無理だと言っている。お!僕、思いついちゃった!
「じゃあさ!一部だけ受け入れればいいよ!(渾身のドヤァ)」
決まった……久々に渾身のドヤ顔。
自分の完璧なドヤ顔に酔いしれていたら、ガトーからツッコミを貰う。
「ワドワド、その基準をどうするのかって話をしてるぞにゃん?話聞いてたかにゃん?」
「だから困ってる人を優先だよ!」
「んー、困って無ければ亡命しないからなー。で、結局はその選ばれない人達をどうするかなんだよー」
(え?皆困ってるの?それは困ったね……)
数が多すぎる事くらいは僕でも分かるよ。
僕の国は人口5000人程度の小国。そこに15万人の亡命者が殺到しても、とてもじゃないけど受け入れられない。
だから、僕としてはちょっとだけ受け入れて、後は知らんぷりすればいいかなーと簡単に考えていた。
でもそれだと、受け入れなかった層から不満が僕に殺到するらしいんだ。
(そんな事言われても、逆恨みじゃないの?)
あーだこーだ色々と平行線な議論が続いた所に、最近めっちゃ影の薄かったヴェストが小さく挙手をして発言を求めていた。
ヴェストも最近は、仕事より家庭が大事なのは分かるよ。愛妻家で有名だしね。飲酒を我慢しているテトサに付き合って、禁酒までしているし。もう絶対、立派なお父さんになるよね!
ヴェストが、コーヒー色の瞳を所在無さげにウロウロさせてから、口を開く。
「せめて……せめて妊婦と幼子だけでも受け入れられないでしょうか?他人事だと思えなくて……」
その言葉に僕はハッとする。最近はずっとビットと遊んでいたから、子育てが大変な事は僕も知っているんだ。そんな人達が国を捨てて逃げないといけないほどだなんて……僕、僕やだな。
「僕、2歳児までとその家族を受け入れたい!」
「それやと9646人ですわ」
(え!?ストローから人数まで即答されたよ?)
どうやら、僕がそういうだろうと見越して、幼い子の各年齢毎の人数と両親の数は予め算出していたそうだ。
ストローってば優秀だと思ったら、一応はザグエリ王国の元宰相だったね。優秀じゃないと成れない役職らしいよ?皆でさすストさすストしたよ。
それで、受け入れられない人達には帰ってもらう事になったんだけど、返却された手土産の10億カロリを無利子でザグエリ王国へと貸し出す事にしたんだ。
さらに、国で蓄えていた大量の食料を放出する事になっている。ルクルが飢饉に備えて、もみのままのお米や加工前の麦とかを大量に保存していたそうだよ。痛む前にアルコールにしたり、アルコールも飲用以外に回したりしていたらしいよ。
つまり何が言いたいのかと言うと、年間15万人分の食料の蓄えはあったのだ!(ドヤァ)
とは言っても、今の生産ラインの上限だし、本当の飢饉に備えられなくなったら本末転倒なので、8割をザグエリ王国へと売る予定。なので大半のお金はまた戻ってくると言う不思議~。
(しかしさ、ルクルは世界征服でもするつもりなの?食料作りすぎだよ?)
帰って貰ったんだけど、数千人は居座ろうとしたり、潜伏したりして揉め事になったな。舐められたらいけない事を学習していたから、毅然と対応してお帰り願ったよ。
ようやく事件は一件落着かと思っていた所に、ザグエリ王国からの使節団がやってきたんだ。
今日はそれのお出迎えに、僕は大慌てで着替えて準備しているとこ。
「どう?変じゃない?」
「ふぅーーー!世界で一番素敵ですわ!」
「えと……マイティの評価は?」
「お嬢様が贈られた物ですから、大丈夫ですよ」
リゼから贈られた髪留めを初めて着けてみた。
重機のお仕事で着けていたらすぐに壊れそうな繊細な銀細工だったから、中々着ける機会が無かったんだよね。
さっきからエリーゼが激写タイムしている。
挨拶しに応接室へと向かうと、既にストローが歓談を始めていたよ。
「ようこそ、僕の国へ」
「あ、ワールドン様、紹介しますわ。こちらナパップ・フェグレー将軍とプリマッツ・トト子爵ですわ」
「はじめましてや」
「お初にお目にかかります、トト言いますわ」
なんか今日はザグエリ語の比率が高いなぁ。うっかりすると口調が移るので、僕も気ぃ付けんとあかんなぁ。
(……ハッ!既に移り始めてる!?)
高身長でピンクの髪の彼が噂のフェグレー将軍か。とても優秀な人だとストローからは聞いているよ。
白髪が混ざり始めた赤髪の……なんだかめちゃくちゃ痩せている彼がトト子爵。将軍でもあるそうだ。
彼らが手土産に持ってきたキャラメルをお茶請けにして、早速色んなお話をしたよ。
「難民への衣類の無償提供、誠にありがとうございました。ほんまに助かりました」
「言葉はもっと崩してくれてもいいよ!」
「食料を低価格で融通してくれたんも、えろう助かりました」
「まぁね!(ドヤァ)」
なんだか終始褒められて、こんなの久しぶりで凄く気分が良かったよ。
気分がいいから色んな提案に内容を読まずにサインしたくらいだし?ストローから「流石にちょっとは読んでくれんか?」とか苦言を言われたけど、あーあー聞こえない!って返したん。
それから悠久の秘宝にご対面だよ。
僕はその事実からそっと目を逸らす。つつがなく使節団への応対は終わったんだけど、ルクルから居残りを命じられて、僕はまだここにいる。解せぬ。
「で、その悠久の秘宝を見た時に目を逸らしてたのは何でなのー?ちゃんと説明してくれるー?」
「な、なんの事かな?僕、分かんなーい」
(何でバレたの?まさかの伝心?)
しつこいくらいに追求が続いていて、僕はついに観念し、真実を告げる事になる。
「喜んでるストローには申し訳ない悲報だけど……」
僕の説明を皮切りに、場が凍ったよ。いや~僕ってば空気読むからさ、フェグレー将軍達がいる前ではダンマリで通したのよね。
【悠久の秘宝】だかなんだか知らないけどさ、それ……僕が昔にお鼻をホジホジしていたら、久しぶりに採れた巨大な成果だからね!しかも正円で渾身のサイズだったから記念に取っといたのだ!(テヘペロッ)
「つまり……これってワドの鼻◯ソって事ー?」
「私、さっき頬ずりしてしまいましたやん!」
これをお宝だと扱われていた事が、僕的には既にヤなんだけど?
ストローは顔を流れるプールで必死に洗っている。
まぁ、僕は悪く無いんだけどさ……なんだかごめんね?
話はザグエリ王都の被害や、バンナ村の事に移っている。ガトーがやり過ぎたみたいで、被害が凄いんだってさ。内政も悪化しているらしく、僕が恨まれているんだと。
(それって完全にとばっちり&逆恨みだからね!)
その件が終わってからは、平穏な日々が続いた。
今日もリベラさん親子を温泉に案内しているとこ。
カルカンが護衛に来てくれたんだけど、何故かピコラと勇者パーティーまで一緒に来ているのは何でなの?
ま、カルカンが飲んで役立たずになるのは目に見えているし、護衛が増えるのはいい事だよ。
宿に着くなり、様々な温泉を堪能する。
リベラさんには「ウチにはよういらん」と固辞していた香油も堪能して貰っている。
ちなみに、リゼも一緒していたんだけど、マイティにお願いして、リゼの香油は僕が塗ってあげたの。
頑張っているリゼへの感謝&ご褒美ね。
隅々まで塗ったら、リゼは珍しく「らめーーー」って大声を出していた。
マイティから「脈アリと思われても知りませんよ?」とか言われたな。
(でも、僕も生きてるんだし脈ぐらいあるよ?)
それからは宴会コースに舌鼓。
テトサが産休中なんだけれど、それで奮起している温泉組合の面々はやる気ギラギラだよ。
「お!この刺し身うめぇ!」
「仲居さん、ビールお代わりなのにゃ!うぃっく」
「はぁ……はぁ……ハァハァスーー」
「……混浴とは全人類の夢と希望が詰まったその聖域とその浪漫にはカロリで表せない程の価値が存在し湯着でもその輝きは変わらぬそれはすなわち」
「ワールドン様、ルヴァンさんを止めてくれますー?自分、もう嫌われたくないんで」
僕らを差し置いて、カルカン+勇者パーティーが楽しんでいて、イラっとするな。
宴が盛り上がる中、リベラさんが体調を少し崩し、先に休むそうだよ。
僕が「病気ならお薬出して貰う?」って聞いたんだけど、遠慮された。それで心配しつつも宴会を楽しんでいたんだけど、変な呟きを耳が拾う。
「にゃー、残念にゃー」
「ん?どしたんカルカン?」
リベラさんが部屋を去ってから、急にカルカンが悲しげな雰囲気になっていて、僕が訳を問うとポツポツと語りだしたよ。
「リベラ氏はもう……長く無いのにゃ……もって1年なのにゃ……ビットが可哀想にゃ」
(ど、どどど、どういう事なの!?)
悠久の秘宝は何度か盗まれて人の世界に流れています。(過去に盗まれた物と現在のは別物です)
ワドにとっては無くなっても「ま、いっか」で流せる代物だったので、それが人の世界で高い評価を受けているなんて夢にも思ってなかった感じです。
次回は「過ごした日々の記憶と記録」です。