破壊活動と人質誘拐
前回のあらすじ
ワドが暴走してしまいワールドン王都は崩壊しました。
トラブルも相次いでいるようで緊急招集されています。
※各節の補足
・双魚節(3月)
「じゃあー、諸々を説明するねー」
事件は少し前から発生していたようだ。
セトチ村での破壊工作。リニアモーターカーの線路の破壊工作や、スーパーマーケットに設置されている魔術具の破壊とマナ鉱石の窃盗。その他にも細々としたインフラ設備へのダメージが報告されている。
次に港町ナーハの人質誘拐。村と違い港町は人口規模が大きい為、国民全員を常に把握するのが難しい。そこで神隠しのような誘拐が発生。被害者はいずれも女性との事だ。
淡々とした報告を終えたルクルは、コリアンダーティーを飲んで寛いでいる。被害が出ているし、誘拐された人の安否も分かっていない状況。なのに、その落ち着き払った態度が、僕は気に入らなかった。
「ルクル!破壊活動した犯人を探さなきゃ!それに、攫われた人を一刻も早く救出だよ!」
「んー?まーまー、ちょおーっと待てよー」
ルクルは、慌てるような時間じゃないジェスチャーで、僕を黙らせようとする。僕は気が急いてしまい思わず立ち上がった。そこに突如ノイズ音が鳴り響く。
……ピー……ピー、ザザ……ザザ……
鉱石ラジオの魔術具の受信音だ。
国民の心配で視野が狭くなっていた僕は、その魔術具が幾つもこの部屋に設置されている事すら見えていなかった。
(落ち着かなきゃ。前みたいな事になっちゃう)
僕は落ち着くよう必死に、何度も王都の惨状を思い返しては、自分自身を戒めていた。
エリーゼとテトサが心配して僕の顔を覗き込んでくる。
「ワールドン様、わたくしがついてますわ」
「顔が青いですよ、ワールドン様。お茶を飲んで落ち着きましょう?ウチが港町から仕入れた良いお茶がありますから」
僕が二人に大丈夫と返していると、鉱石ラジオの魔術具から声がなり始めた。
「……こちらメコソン。敵組織の証拠資料を押収。暗部と連携して、首謀者の身柄確保任務を継続中。敵は温泉宿の仲居。繰り返す……」
メコソン兵士長が首謀者を追っているみたいだ。こちらから返事をしようとしたら、別の魔術具も鳴り出した。
「……こちらカルカンにゃ。誘拐されてた人達の監禁場所を、レオ氏達と順次解放中にゃ。合計8箇所の内、7か所解放済。事情聴取の為に一旦王都に全員運ぶにゃ。繰り返す……」
(カルカン!やっぱり頼りになるよ)
僕は緊張の糸が解けたのか、脱力して椅子に腰を落とす。マナ力場調整も忘れていて、物凄い衝撃音が鳴ったけど、椅子は無事だったな。僕やガトーの椅子は特別製で頑丈な物を用意しているみたいだね。
ふと、視線をあげてルクルを見ると、さっきまでの余裕の表情では無くて、真剣な表情になっている。
「ルクル、皆が既に対策に当たってたんだね。……何か懸念でもあるの?」
「……んー?」
「誤魔化すのは無しだよ」
僕は強い瞳でルクルを見据えた。一切の誤魔化しを許さないとの意思を携えて。ルクルは嘆息し、一度肩の力を抜いてから頷いた。
「カルカン君の方は、予定よりちょっと早いくらい順調だよー。問題はメコソンの方。首謀者の身柄をまだ確保出来てないのは、予定より悪いねー」
「僕が捕まえに……」
「ダメーーー」
ルクルは手を交差させてバツ印を作っていた。
でも、首謀者を逃したら背後関係も分からなくなると伝えたら、ルクルが指をチッチッチと振る。
「いやいや、背後関係は分かってるよー。首謀者は証人として生きたまま確保したかったのー。だけど、形勢不利とみたらさー、自決する可能性があがるのー」
「その背後関係は!?」
「カービル帝国のドウエン将軍だよー。メコソンに追わせてる時点で察してよねー」
(言われてみれば、確かに)
メコソンが対応にあたるのは、主にカービル帝国絡み。しかもドウエン将軍関連の時だ。彼のスパイとして振る舞っているのだから当然だよね。僕は冷静じゃないみたいで、そんな事も思い出せずにいたよ。
(僕、反省。冷静になるよ)
改めてダメな理由を問うと、僕が捕まえに行くと、諸々バレている事が相手に伝わってしまい、自決率が上がってしまうのがダメなんだとさ。
暗部が不審人物を追っているのと、国王が取り押さえに来るのと、どっちの方が犯人の素性が完全にバレていると思う?って逆に問われ、めちゃ納得したよ。
半刻後。
カルカンから全員の無事奪還報告と、メコソンからの敵首謀者の自決の報告がほぼ同時に入った。
─────────────────────
事後処理に追われるまま翌日の早朝になる。
ホバーバスで誘拐の被害者とカルカンが王都にやってきた。午後から事情聴取を行うらしい。メコソンと合流すべく温泉宿へ向かう。
ホバーバス3台が温泉宿に到着。
王都が再建途中だから、温泉宿の方は過密なくらいに繁盛している。活気がすごいんだ。
生活の基盤は皆ほとんどこっちになっているね。
仲居さんに大宴会室へ案内されて、幹部が一堂に会しての、今後の対策相談だよ。
「申し訳ございません」
開口一番、メコソン兵士長は平服し、謝罪の言葉をあげた。ルクルからは詰めが甘いと指摘されている。
それからエリーゼが、国際法でカービル帝国を罪に問えるか否かを報告していた。
明確なカービル帝国との繋がりは資料からは読み取れないそうで、唯一繋がりのあった首謀者は既に死亡していて、どうにもならないそうだ。
ちなみに首謀者は、以前スパイで入り込んでいた仲居さんだったよ。
「どうしてカービルはリベラさん救出と王都再建で、こんなに忙しい時期に限って事件を起こすの!」
「にゃ?ワールドン様は分からないのにゃ?」
カルカンってば理由わかるの!?ちょっと驚いたけど、慌てて理由をカルカンに質問する。すると、カルカンは腕を組んで自慢げに語りだす。
「そろそろ双魚節も終わりにゃ。年度末の予算の関係で使い切っておく必要があるのにゃ。だからこの時期に犯人は行動を起こしたのにゃ!」
「あーハイハイ。カルカン君の予想は全然違うからねー」
「にゃ!?」
カルカンはよほど自信があったのか本気で驚いていた。
今もまだプルプルしている。
そこから、ルクルのカービル帝国の思惑解説&どういった効果があったのかの講座がハジマタ。
どうやら、王都再建とリベラさん救出関連が原因みたいね。
現在は王都の再開発で、多くの人手が王都に集中している。その分、王都以外での監視&警備の目がどうしても緩んでしまう。そのためこの時期に仕掛けてきたとルクルは見ていた。
それから、女性の誘拐。
カービル帝国はザグエリ王国にもスパイを潜入させているので、僕らとザグエリ王国がリベラさんを巡っての問題で揉めている事は把握しているとの事。
ただ、リベラさんの重要性までは把握していなくて、「ワールドン王国の女性を人質にすれば、大きな譲歩を引き出せる」という誤情報から誘拐に踏み切っているだろうとの推察を述べていた。
どうしてそんな予想になるのか聞いたら、そういう風にドウエン将軍が受け取るようにメコソン兵士長から情報を流していたらしい。
その本当の理由は、リベラさんの重要性を悟らせない為だそうだ。僕の知らない所で、カービル帝国ともバチバチやりあっていたのだと今更知ったよ。
「今後は僕にも先に相談して欲しいかな」
「んー、なるべくはそうするけどさー、まずはガトーに相談してからだなー」
「僕らは親友でしょ!?なんでガトーばかり信用するの!?」
「だって、ワドは暴走ドラゴンの前科持ちだしー?」
ぐぬぬ。それを言われると何も反論できぬ。
悔しくて手元にあったお茶を一気に飲み干した。
(ぐぇえ?ナニコレ?)
凄い苦手な味だった。テトサに聞いたらセロリティーだと言っていたよ。道理で……やめてよね。
苦手なセロリの味が気持ち悪くて、ルクルが語っているカービル帝国への対策プランは、全く僕の頭に入ってこなかったよ。
─────────────────────
それから夜までは誘拐被害にあった女性達に、事情聴取していたんだ。とはいえ、僕は単にお悩み相談というかお話を聞いてあげるだけ。ちゃんとした事情聴取は暗部の人がやっているからね。僕は安心させてあげる係なのだ。
少しでも元気を出して欲しくて、積極的に声をかけて回る。テトサ、リッツ、マイティも同じように話を聞いてあげているな。
エリーゼは部屋の中央で、手を腰に当てて堂々と突っ立っている。確かにここの防衛がエリーゼのお仕事なんだけど、ただ突っ立っているだけなのに堂々としているのもなんだかなぁとは思わなくも無いね。
配給を配りつつ、僕らも順番に食事休憩だ。
食欲をそそる香りに連れられて、僕も久しぶりに穏やかな気分で食事を取っていた。
(リベラさん、早く助かるといいけど)
【伝心】で見えたのはリベラさんが大怪我を負う所まで。充満する血の香りや呻き声、床をのたうつ音が感じとれたけど、ストローはリベラさんの様子を見ないようにしていた。
それから「このショックな場面を届けない様に」と強く願っていた思いまで伝わってきたよ。それで、僕の為にストローが精神的にすり減った事を知ったんだ。
ストロー……ごめんね。そしてありがとう。
隣にいたエリーゼがお茶のお代わりを注いでくれる。ふと近くを見回すと、リッツとテトサが楽しそうにお喋りをしているね。
(僕も混ざりたいなぁ)
そう思い立ち上がって二人に近づくと、急にテトサが食べていた物を吐き戻し始めたんだ。
リッツが「テトサさん大丈夫!?」と慌てていて、僕もプチパニック。そこにマイティが颯爽と現れて、テトサを外に連れ出したよ。
僕はテトサの身に何があったのか気が気で無くて、マイティの後を直ぐに追いかけた。
ここは連日でエリーゼになっています。理由は後ほど。
被害者は女性ばかりなので、事情聴取は女性で構成されていますね。
ワドが女性かどうかは微妙な所ですが……。
次回は「良い知らせと大嵐」です。