閑話:最強テイマーの熱血指導
前回のあらすじ
猫魔族の国からメイジー王国へ飛んできたワド達。
はじめて空輸邸に乗った猫魔族たちはグロッキー状態になります。
それに文句を言ってしまったカルカン。背後から頭を掴まれ宙吊り状態です。
さぁ、教育のお時間ですわ!
ep.「ホラーハウスで女子会」の頃のカルカン視点となります。
「さぁ、教育のお時間ですわ!」
はわわわ……大変な事になった。
エリーゼ様が本気の仁王立ち状態……これは終わった。連れてきた仲間達はこの恐ろしいマナが分からないのか、ギャーギャー騒いでいる。正直、猫魔族の国の総力をあげても、エリーゼ様を片膝すらつかせる事は叶わない。
アラザン様を探す旅に同行したヘーゼル氏が「咄嗟にエリーゼ様を化け物と呼んで、事なきを得ました」と言っていたけど、マジで化け物なのにゃ。
それからエリーゼ様の指示で場所を移す。
ワールドン様の撮った映画のロケ地のような場所。ワールドン様曰く「昭和の採掘場」との事だけど、別にマナ鉱石が採掘できる訳でも無い。
全員がここまでプチマラソン大会になった。もう誰も逆らわない、逆らえない。それも当然なのにゃ……
ーーー移動はマラソンですわVTRーーー
「全員、性根を叩きなおしますわ!」
「皆、死にたくなかったら従うのにゃ!」
((あ、カルカン氏の目がマジだ))
「ふんっ!誰が人族の女なんかに従うかにゃん」
「あー、アマミ氏ダメなのにゃーーー!」
〜〜〜エリーゼがゆらりと振り返る〜〜〜
(終わった。死にましたにゃ……)
「カルカン氏!昔みたいに勇敢な姿をみせて欲しいにゃん!」
「貴女、特別教育プランを受けさせてあげますわ」
「なんにゃん?うるさいにゃん!」
〜〜〜エリーゼが山を1つ消し飛ばす〜〜〜
「……え?……え?」
「全員、あの山の跡地に向かって全力で走りなさい!遅れたら今の鉄拳を顔面にお見舞いしますわ!」
ーーー移動はマラソンですわENDーーー
全員全力疾走した。リッツ氏やワールドン様まで走っていたし、エリーゼ様の本気は有無を言わせない迫力がある。ちなみにリッツ氏は一番弟子なので、正直戦闘力はかなりヤバい。隠しているからまだルクル氏にもバレていないみたいなのにゃ。
それにしてもエリーゼ様の「真空衝撃波」は、もう威力がおかしい。アマミ氏も驚きで二度見したそれは、一撃で山が1つ消し飛んだし、その跡地が昭和の採掘場となってしまった。自然に優しく無いのにゃ。
「じゃ、カルカン達は頑張ってね」
「あぁ~待つのにゃ!ワールドン様!」
ワールドン様は走ったら満足したのか、リッツ氏を連れて王都観光に戻ってしまう。エリーゼ様を止められる二人が居なくなった。これは絶望的な「本当の地獄はこれからだ」の状況……オワタにゃー。
エリーゼ様は瞬きしたらかき消えた。皆はガタガタ震えている。
アマミ氏は……特別教育プランなのか居ないな。
今のうちにマイティ氏に口添えを頼んでみる。そしたら「明日迄なんとか生き延びて下さい」と突き放され、死刑宣告を受けた気分だった。
それから暫くは誰もが押し黙り、この場は静寂に包まれている。それはまるで嵐の前の静けさ。そしてそれを壊す騒音が彼方からやってきた。
……ドドドドドドドドド!
これはエリーゼ様の足音じゃない。
鰐魔族!?
大量の鰐魔族がこっちに走ってきている。その大軍の鰐魔族の背に仁王立ちした人影は、紛れもなく覇王と呼べる貫録を持つ。
その名をエリーゼ様と言うのにゃ。
「お待たせしましたわ。暫くこの子達と遊んでなさい。直ぐに次を連れてきますわ!」
頭を鷲掴みにされていたアマミ氏が無造作にこちらに放り投げられ、私は慌てて受け止める。この数分の間に一体何があったのか!?アマミ氏は既に虫の息だった。
「アマミ氏ーーー死ぬにゃーーー」
「……生きてますにゃん……魔神をこの目で目撃したのにゃん……(ガクッ)」
「「「アマミ氏ーーー!」」」
そんな事より、今はとにかく目の前の鰐魔族。
体長5mもある個体が約200体もいる。正直、戦力差は絶望的。個体の強さも劣る上、20人しかいないので数も足りない。だが、私が父のように皆を守ってみせる!
「そっちいったにゃ!」「あいよ、やるにゃ!」
クシマ&ガシマのコンビが思っていた以上に成長していて、頼りになった。劣勢であるのは変わらない。
だけど、至らない点を私がサポートすれば、なんとか戦況を維持できる状態だ。
鰐魔族は外皮が固く生命力も高い為、絶命させる事は断念し、継戦不能だけを狙っていく。
ようやく終わりが見えたその先に……
「大変お待たせしましたわ!こちら追加のお代わりですわ!さぁ、貴方たちも気合いですわ!」
エリーゼ様がお代わりを連れて颯爽と登場。蛇魔族、蜥蜴魔族、亀魔族がそれぞれ鰐魔族の3倍の規模でやってきた。
(こんなの数の暴力以外の何者でもないのにゃ!)
私は黄金聖水をくいっと呷る。
疲労が消え失せ、体に活力が戻る。私は力強く皆を鼓舞した。
敵は即興で組まされた混成部隊。いわば烏合の衆だ。付け入る隙は充分にあるだろう。私はマナ心眼で流れの淀みを見極め、連携の不備を突いていく。
敵は大軍勢。だが種族も異なる彼らは連携が取れていない。遊軍も多く、同士討ちも多発していて、混乱そのものといった所だ。
最初はあまりの大軍勢に勝ち目は無いと思われたが、疲労をどうにか出来れば戦える。皆も黄金聖水を飲んで踏ん張っていた。
(猫魔族の底力を舐めるにゃ!)
日が落ち始めた頃。傷を猫魔族の秘薬で癒しながらのギリギリの攻防が続き、戦闘音が激しさを増している。……って何か音がウルサすぎるのにゃ!?
……ドドドドドドドドド!
ま、まさか?と思いつつ振り返ると笑顔のエリーゼ様が、追加のわんこそばならぬ鰐魔族を引き連れて現れた。初回の鰐魔族の5倍の規模だ……あり得ない。
「鰐魔族の部族丸ごと説得完了ですわ!」
ついに均衡が崩れ始め、重症者が出始める。
仲間が次々に力尽きて倒れていく。残弾が尽きた私も、もう戦えない。
父の背中は遠すぎた。いくら手を伸ばしても届かない。そう思っていた所に救援物資が届く。
マイティ氏が超速で戦場を駆け抜け、弾補給と秘薬による癒しを与えている。強制覚醒を促すホリター家の薬まで使っているようで、エリーゼ様が高らかに宣言していた。
「楽になれると思わないで下さいませ!ワールドン様の手足として働くにはまだまだ不十分ですわ!マイティ!教育は延長ですわ!」
「はい、お嬢様」
それから軍勢の連携が悪い事を叱責するエリーゼ様。抗議とも取れる嘶き声が相次いだ瞬間……
ドッッッゴーーーーーォォオオン!
信じられない事に、目の前に渓谷が出来た。辺り一帯に煙が立ち込めている中、「これは警告ですわ!」と告げるエリーゼ様。後にメイジー渓谷として観光名所になるその爆誕の瞬間を見てしまった。
そして種族を超えた友情が芽生えていたのにゃ。
皆、生き残る為に必死なのにゃ。
少しずつ連携が取れ始めた敵は、私たちにとっては絶望でしか無かった。
二日目。辺り一帯はゲロまみれ。
戦闘継続させる為に、薬を投与されすぎて拒絶反応が出始めている。今日はリゼ氏だから救いがあるはずだ。自分にそう言い聞かせて、気力をふり絞る。
ゲコ……ゲコゲコ……ゲーコゲコ……ゲロッゲロ!
朝日を背に遠方から現れた蛙魔族。
鰐魔族の半数と、同じくらいの数の援軍だ。
完璧に統制が執られた彼らを指揮するのはマイティ氏。いつもの淡々とした様子で「お嬢様からのお届け物です」と無情な現実を告げていた。
「「「いらにゃーーーい!」」」
丸一日戦い続けた私達は、心が通じ合っている。それはもう敵味方関係なく。強大な恐怖の化身に立ち向かう為に、協力して予定調和な戦闘を繰り広げている。
そこに「八百長は許しませんわ……とお嬢様からの伝言です」と、マイティ氏に釘を刺されてしまう。
私達の心はベキベキにへし折られるのだった。
(も、もう爬虫類の魔族さんは要らないにゃ……)
後日、移住する猫魔族全員から今回の苦情をあげたけれど、それに対する関係者の回答が酷いのにゃ。
関係者M曰く「お嬢様ですから」と言葉を濁す。
関係者R曰く「エリーゼお姉ちゃんだし、仕方ないよ」と諦観しており……
更には関係者W曰く「あ、終わった?あれ?誰も死ななかったん?今回は凄く平和だったよね!」と、まるで被害が軽微だったかのように言い放ち……
又、「蛙魔族は両生類だから爬虫類じゃないよ?」と細かい追加の指摘を受けた。
(細かいのにゃ、どうでもいいのにゃーーーー!)
アマミは昔のカルカンに憧れがあるみたいですが……。
力尽きる際、「そんな事」扱いされちゃってますね。
※なお、カルカンの主観の為、多少の誇張表現を含みます。
次回からは新章「育児はトラブルの連続」となります。
次回は「不利な交渉テーブル」です。