第2回船舶コンテスト
前回のあらすじ
ブラック社畜をして完成させた遊園地。そしてラザはご近所へ引っ越してきました。
楽しい自国の新年祭ですが、ストローが不在な事をワドは気になっています。
まだ里帰りなのか、ストローが見当たらない。
僕は楽しいからストローにもおすそ分けしたいと考えて、【伝心】しようとしたら、ルクルから声をかけられた。
「おいーワドー!遊園地だけじゃ足りないからなー。来年までにもっと頑張れよー」
「う、うん。お手柔らかに。あとさストローがいないんだけど?」
「はぁーーー……人気俳優気取りなんかなー?帰ってきたら3倍は仕事をつまないといけないかなー?」
うわ、ストローご愁傷様。これは下手に触れない方が良いね。なるべく今だけは休暇を楽しんでよね!
ストローにはお休みを満喫して貰おう。それで、同じ友の会メンバーであるガトーへ視線を向ける。こんなイベントでガトーが大人しいのには理由がある。
「……過去をやり直したいにゃん」
「法則の男神に怒られるよ?」
カルカンから聞かされるトスィーテちゃんの現状。
しかも、興味本位で【伝心】で読み取ったらしい。
緑の蜥蜴を切り刻む。部屋に響く笑い声。笑顔なのに瞳だけは全く笑っていない。そして何もかもを忘れる朝。
トスィーテちゃんの部屋はイメチェン済み。
暖色系の色に塗り替えられているんだ。というか赤いんだけどさ。何の赤なのかは言及したくないかな?
それにね、トスィーテちゃんは部屋が赤いのを気にしていないみたいだよ。怖いよね。
それとさ、リッツが持ってきたお土産がヤバイ!
ーーーリッツからのガトー専用お土産VTRーーー
「はい、ガトー様へのお土産だよ!」
「お、リッツ気が利くにゃん」
「え、なんでガトーだけなの?」
「早速開けてみるにゃん」
〜〜〜周囲に異臭が立ち込める〜〜〜
「「くっさー!」」
「くさいぞにゃん。……ん?ギャーーー」
「鼻が曲がるぅ……どしたんガトー?」
〜〜〜箱の中にある大量の緑色の蜥蜴の死体〜〜〜
「ひぃぃぃ!?なにこれ!?怖いんですけど!?」
「……吾輩、めちゃくちゃ怖いぞにゃん」
「シュコーシュコーシュッコー」
ーーーリッツからのガトー専用お土産ENDーーー
箱の中には、どなたかが切り刻んだと思われる大量の死体。どの死体も首なしだったり、胴体がえぐられていたりと、どこか欠損している。
極めつけは箱の底の「絶対……許さない……にゃん」の血文字!
(怖いんですけど?とても怖いんですけど?)
リッツは、トスィーテちゃんからガトーにだけ渡すように言われていた事で、何か勘づいて、防護服をいつでも早着替え出来るようにスタンバイ済みだった。
なんやかんやで収穫祭も終わり、肌寒くなってきたこの頃。人馬節がもう間近。今年も恒例のドラゴン学院の遠足が行われる。まだ1回しか行って無いのに恒例ってのが変だって?こういうのは気分が大事なの。
でも、今年は水泳大会で優勝した温泉女将ママさんバレーチームの社員旅行も兼ねているのだ。
「船の旅行、私は楽しみですっ!」
「うん。楽しんでね」
「ワールドン様、いっぱい恋バナしましょうね」
女将さん達のは恋バナじゃなくて旦那の愚痴大会なんだよなぁ。もっと心トキメクお話を切望だよ。
温泉宿は年中無休を謡っている。宿の営業はどうするのか尋ねてみたら「全室貸し切り扱いにします」って事だった。
なので表向きは休んで無いよ!(ドヤァ)
「おいー?ワドー?なんでドヤ顔してんのー?」
「あ、ごめんごめん、なんだっけ?」
今日はルクルに呼ばれて、来年の新年祭の催し物の打ち合わせ。
アルとストロー以外の幹部が集まっている。
「あれ?ストローは?」
「んー?里帰りからそのまま外の仕事を依頼したよー。それよりさっさとアル抜きの配役きめるぞー」
(外の仕事はペテン師活動かな?)
ま、とにかく新年祭だ。演劇をやるんだ!
その招待で各国を巡っていたって訳。
演目はシンデレラ。
ルクルからの「まずは無難なのからだろー」って案での着地だよ。
アルは王子様役での参加が決まっていたんだけど、戻ってきていないから代役を立てる事になった。
自薦・他薦含めて多数の応募がある。でもこの圧倒的な推薦の数。これ議論するまでも無いよね?
「じゃ、マイティさんに決定ねー」
「頑張ってね!マイティ!」
「かしこまりました……」
2位以下にダブルスコアの差で即決。話は終わりかな?と思ったら、船舶コンテストの話になった。
どうやら今年は幹部の慰安旅行も兼ねるらしく、僕も行って良いんだって!おっしゃー!
「但し、ラザによく言い聞かせる事。これだけはちゃんとやってねー」
「おけおけ、任せて!」
参加有無の内訳はこんな感じ。
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・遠足班:僕、ガトー、カルカン、バラン、ポポロ、クラッツ
・居残り:ルクル、エリーゼ、ボン
・不参加:アル、ストロー、テトサ、ヴェスト
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ラザと仲の良いボンは、旅行で僕らが不在の間、ラザの面倒を見てくれるそうだ。彼が居ないとほぼほぼ建設事業が止まるし、事業を止めないためにもボンに社畜してもらうしかないんだ。
それと防衛面の理由で、僕とガトーが国を離れるから、エリーゼかカルカンのどちらかは防衛に残さなきゃならない。リゼから説得されて、エリーゼが残る事になった。
テトサとヴェストは爆発しろ!あの二人は別の旅行先に二人で新婚旅行だって!
ルクルはギルドの仕事が忙しいって事なんだけど、思考を和ホラーガードしていたから絶対に何か怪しい事をやっている。僕に飛び火しない事を祈る。
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いよいよ出発の日。
「ワールドン様、今年も宜しくお願い致します」
「今回も張り切って持て成しますぞ」
「伯爵達には悪いけど、今年もよろしくね」
学院の生徒の参加も増えている。それで去年の船よりも数倍大きい船でいく事になった。
青の最高品質もプレゼントしてあったらしく、移動期間は更に短縮できたそうだ。その分、現地での滞在期間を延ばす予定。
それで往路の船を僕とガトーが選定することに。
「吾輩、ノヤマの船一択だにゃん!帰りもこっちで良いぞにゃん!」
ガトーは船を確認する前までノサトの船が良いと言っていたのに、手のひらくるんですよ。
ノヤマ伯爵は去年選ばれなかったリベンジに燃えていて、今年はガッツリ媚びてきた。なんとガトー専用VIPルームがあるんだ。
ガトーの好みは完全に抑えてあり、部屋の中は物凄く狭くて、手を伸ばせばなんでも出来る快適仕様。
しかも外の匂いをシャットアウトし、森の中にいるような香り&空間演出まである。手のひらくるんは頷ける出来だった。
ちなみに僕専用も用意されていた。だけど、好みじゃない。僕は広々スペースの方が好きだしね。
って訳で高級志向のノサト伯爵の船を選んだよ。
「はい、皆さんちゃんと並んで下さいね」
「荷物の確認をして、点呼して下さい」
「なんや?トイレか?ほな、こっちついてきてや」
カール先生とバラン君が生徒の引率をしている。
生徒が多いので、クラッツや女将さんたちもヘルプに入り、手伝っているけど大変そう。
ノサト伯爵の船を選んだ人達が、ぞろぞろとやってきた。皆も僕と同じように、キョロキョロと物珍しい物を見回していて、楽しそうだ。
「ガトー様から、KYの二人はまとめてあっちに行けと言われて、送り出されたにゃ!」
カルカンはなんだか嬉しそうに報告していて、僕は突っ込む気力も失せた。
割り振りも決まったみたいで、出発だ。
「ルクル、行ってくるね!お土産期待しといて!」
「ご褒美だからなー、来年からまた頑張れよー」
本格的な船旅は初めてで、僕は期待に胸を膨らませていた。……ここまでは。
リッツが本当にあった怖い話を披露した事で、流れが変わったよ。皆が自慢の怪談を持ち出したんだ。
「ワールドン様、耳を押さえて無いで、話に加わってよ!一番怖く無かったら、恥ずかしい話の罰ゲームだよ?」
「僕、罰ゲームで全然いいんだけど!?」
「またまた~、神様のワールドン様は平気なのに怖がってるフリが巧いよね!」
「フ、フリじゃないかな!」
「……あたし、余計な事したね。ごめん……」
季節外れの怪談に盛り上がっている。リッツは謝っているけどさ、絶許案件だよ!?
そして、真打が登場してしまうのだ。
「皆、そんな作り話は怖くないのにゃ。私はもっと怖い実話を知ってるのにゃーー」
カルカンが淡々と語る実話。そのあまりの恐怖に全員が凍り付いていた。
船は既に南半球に入っている。だから、気温は上昇。されど、体感温度は下降。
さらに、KYな所が悪い方向に働いている。皆はドン引きしていて、もう辞めて欲しいという空気一色。なのに、更に怖い話を投下するカルカン。
そのあまりのリアリティーに「あ、これ実話だ」ってのが否応にも分かってしまう具体性。
カルカンの話は夜遅くまで続いた。
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「おや、皆さんどうしました?」
「南の島は暑いにゃん。ん?なんだワド?そっちの船のやつらは元気がないぞにゃん?テンションあげてくにゃん!」
「ぷはーー!ビールうまーーなのにゃ!」
南の島に着くころには、ノサトの船に乗った全員が睡眠不足。最終的にカルカンを黙らせる為に大量のビールを投下。でも、被害というか事件の後遺症として皆が怖くて寝れないという事態になったのだ。
「だから、僕言ったでしょ!?」
「「「……」」」
皆は無言で頷く。KYを調子に乗せると、とんでもない事になると、誰もが学習した。安易に怪談に触れてはいけないと。これは大切な教訓。教訓だ。
(でも……僕、実は嬉しかったな)
皆が「眠れない」と夜通し話し相手をしてくれたから、僕は退屈せずに済んだ。僕の恋バナにも食いつきが過去一良かった。
流石!ワールドン様!きよく・やさしい!と言われ、ちょっと嬉しい。
「結局、ワールドン様はそっち側なんだよ……」
(なんだか、冷めた視線のリッツの言葉がやたらと耳に刺さったかな?)
KYと揶揄されているコンビ。
カルカンは褒め言葉だと勘違い。
ワドは言葉通りに受け取って、込められた皮肉に気づかない。
ま、どっちもどっちですw
次回は「新年祭の演劇」です。