閑話:王家と秘密とストーカー
前回のあらすじ
自分の出自を知って揺れる心と、しつこいストーカー達と、誰にも言えない秘密。
ルクルとの新しい関係性へと踏み出したリッツの想い…一つの恋が終わりを告げます。
ep.「学院テスト作成」~ ep.「税金撤廃と夏コミ」までのリッツ視点となります。
あたしはイライラしていた。
昨夜、牢屋に捕らえられた4人組。
その人達からある事、無い事を言われ続けて、正直ウンザリしているよ。ま、無い事だらけだね。
あたしの姿を見るや否や、姫だとか、王家の希望だとか意味不明な事を言うし、あたしが騙されているとか、更には虐げられているとかまで言い出したから。
ワールドン様が国際指名手配犯だったのは知っている。でも、何かの間違いだよ。
あたしはワールドン様の優しい所を、沢山知っている。
あたしを救ってくれたのはワールドン様。あの人達じゃない。でも、恩人だと伝えても、聞く耳を持ってくれないんだ。これじゃあたしだって会話放棄したくもなるよ。
「シュコーー……シュコーー……シュシュシュ?」
ワールドン様へ、あの人達があたしの事をどこかの姫様と、勘違いしているっぽいよと報告したら、直々にお話を聞いてくれるって事になったの。
これで一安心と胸を撫でおろす。
こんな事に構ってられない、あたしは今度のテストで主席をとって、カール先生の特別補習を受ける。
そう決意を新たにしていた。だけど……
「ありますわ!リッツの背中に刻印!どこかで見た気がすると思ったら旧ビスコナ王家の紋章でしたわ!」
「え!?じゃあ……リッツってお姫様なの?」
「シュ?」
なんだか、話が大事になってきたんだ。
ワールドン様が確認してきた情報を確かめる事になって、お風呂で背中の映像を撮影したの。そしたら本当かも知れないって話になった。
ワールドン様があたしの半裸映像をルクルに見せるとか言い出したから全力で止める。
(露出狂のワールドン様と違ってあたしには無理!)
なんだかワールドン様から「露出狂じゃないし!」と言われたけれど、見られても平気なんて露出狂じゃなかったらなんなの?って返したよ。
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翌日。テスト期間に入った。
期間中は午前にテスト、午後からは自由時間だ。
男子組は自由時間を部活や遊びで使っているけど、女子組はあたしの提案もあって、テスト勉強に充てる予定なんだ。ワールドン様も誘って欲しそうにチラチラ見ていたから、誘ってあげたの。
神様で国王様なんだけど、恋バナ大好きなとっても可愛い神様なんだ。ワールドン様は。
テスト勉強にもメリハリをつける為、罰ゲームのペナルティありで想定問を出し合う。最終的にシーナとアンが罰ゲーム。
シーナの事は知っていた。
あたしも絵がうまくなりたくて、一緒にボンさんに習いに行っていたから。シーナは常に熱視線を向けていたし、気づかない方がおかしいもん。
アンの事は驚きで、失敗したとも思った。
リゼお姉ちゃん達と一緒にお胸ガードを頑張っていたけど、その事が原因でアンが本気でルクルに恋するなんて、一体誰が予想出来たって言うの?
アンはモテるから脅威だよ。
あたしだけ、ワールドン様と距離を取ってテスト勉強をしていた。
(心の距離じゃないよ?物理の距離だよ?)
皆は「もう進化してるから諦めて」と言うけど、諦めちゃったら防護服を着る理由がなくなっちゃう。
ルクルから貰った初めてのプレゼント。皆にとってはヘンテコな服でも、あたしにとっては大切なの。
そんな感じでテスト期間の日々は過ぎていく。
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テスト結果では主席をサブロワ君に奪われた。
本来通りの実力が発揮できてれば、マナ工学は無理だけど、あたしが勝てる勝負だったのに……全部、あの人達のせいだよ。
テスト期間中に釈放されたレオさん達は、あたしに付きまとい始めたんだ。それが鬱陶しくて、精神的に情緒不安定になって、テストうまく行かなかった。
それを相談したら「それはストーカー被害だね」って言われたよ。なんでもワールドン様もその被害を受けた事があるんだって事で、すごく親身になって相談にのってくれた。やっぱり優しいよね。
その付きまとい行為に毎日ウンザリしていたんだけど、ある日、レオさんから告げられたの。
ーーーリッツが告げられた真実VTRーーー
「リッツ姫!ルクル君からは君を解放してくれるとの確約を貰った!さぁ俺たちと共に帰ろう!」
「え、どういう事?ルクルが……?いま何て?」
「……俺達は姫と共にあろう」
「安心して姫様、私もいるから」
「いやぁ~、解放するノルマが鬼畜過ぎて、これ達成するのって姫が成人するまで無理っぽいんですよ?」
「ノワールは黙ってろ!」
「ノワールは黙ってて!」
「……死ね」
「え?ルヴァンさん、酷くない?」
ーーーリッツが告げられた真実ENDーーー
こんなの信じたく無かった。
嘘だと言って欲しかった。でも本当だった。
あたしは酷く落ち込んだ。エリーゼお姉ちゃんが付きっきりであたしの話し相手をしてくれたよ。
「リッツ……元気を出すのですわ……」
「……うん……うん……」
あたしはずっと泣いていた。エリーゼお姉ちゃんも困っていたな。それで何か望みは無いかを聞かれた。
「それなら……」
リゼお姉ちゃんがコッソリ飲んでいるお薬。
マイティさんも絶対に飲むなって言っているそれ。
あたしはもうどうなっても良かったんだ。
だから理性が壊れるっていうそのお薬を飲んで、滅茶苦茶になりたかった。
「わたくしも一緒にコッソリ全力で飲みますわ!」
「……どうして?」
「もう一人のわたくしに、叱られるときリッツ一人なのは可哀想ですわ!」
「……ありがとう」
お薬を飲んでも、あたしもエリーゼお姉ちゃんも特に変わらなかった。でも、なんだか下腹部が凄く熱くて、変な気分だったよ。
エリーゼお姉ちゃんは、お薬のせいで何か問題を起こして、リゼお姉ちゃんに酷く叱られていた。
(あたし……叱られてない……もう叱る価値もないの?)
あれから、一度も従者のお仕事に就いていない。
それをワールドン様も、マイティさんも叱ってくれないよ。
(あたしは本当に要らないの?)
なんだか全てがどうでも良くなって来ていた。
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暫くして、ワールドン様から君主命令で強制連行される。
前にもいった港町モンアードへ。
前回も泊まった宿につくなりワールドン様は、お話しようと言い出してベッドに寝そべった。いつもの恋バナモードだ。
(なんであたしに言うかな?)
その日の夜は何度も、ワールドン様から大好きを言われたよ。あたしじゃなくてリゼお姉ちゃんに言ってよね。
(もう、可愛いなぁワールドン様は……)
どんな話題をしていても、ワールドン様はいっつも恋バナに持っていくの。最近は、ルクルもガトー様も飲みに誘わないようになっている。
だってワールドン様はKYだから。皆が恋バナにうんざりしていても気づかないの。
それから、旧ビスコナ王家についても調べた。
カール先生に文献を貸して貰って、隅々まで漁る。
王家の血筋なら赤の高品質なマナ鉱石に触れると、紅緋色の瞳が赤色に変わるとあった。カルカン様に頼んで触れさせて貰う。そして鏡を見た。
(……赤いね。更に赤みが増して真っ赤になったよ)
自分の出自にも納得はできた。
でも、これからどうすればいいかは分からない。
だから、めちゃくちゃ考えた。毎日毎日。
あたしの事。ルクルの事。ワールドン王国の事。
ルクルとリゼお姉ちゃんがキスした事を知っても、あたしは諦めようとは考えなかった。
あたしだって幼い時にほっぺにチューしたし?
今は大人のリゼお姉ちゃんが優位なだけだし?
って言い聞かせてさ。
自分でも分かってはいるんだ。諦めるにもキッカケが必要なんだって。
マイティさんが料理コンテストで優勝したけれど、ワールドン様は「できれば水着コンテストしたい」って言っていたからちょうどいいよね?
思い切って提案したら、ワールドン様はあたし以上にノリノリだよ。
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「ルクル!大好きだよ!」
「リゼお姉ちゃん!大好きだよ!」
「二人とも大好きだよ!末永くリア充爆発しろぉぉおおぉぉお!」
あたしは水泳大会の歌の参加で思いっきりぶちまけた。なんだかスッキリしたよ。これからは新しい関係性で前に進めると思う。
(……今までありがとう。これからもよろしくね)
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水泳大会が終わって直ぐに夏コミになった。
あたしは絵が得意じゃないから、参加はしていない。
ワールドン様は賞をとって喜んでいたけど、あれってワールドン様の為に用意された賞だから、どんな絵でもとれちゃうし。でも、嬉しそうにしていたなぁ。
それにしてもさ、皆はよく平気で飲めるよね。
テストの時も皆は黄金聖水を飲んでいたし、各イベントの準備にあたっている人も飲んでいる。
(あたしには無理だよ!)
あたしはあの黄金聖水の秘密を知っている。
重要な秘密を。
だからこそ皆には言えない。言えないよ。
「リッツは飲まないの?すごい効き目だよ?」
「今週分を配ってたよ。早くしないとなくなるよ?」
「うん……あたしはいい」
「「「黄金聖水はすごいよねー!」」」
皆が絶賛する黄金聖水。
その黄金聖水がどのように作られているかを、ほとんどの国民が知らないの。だから言えない。
実態を見れば……皆も飲めなくなると思う。
ーーーリッツが見た黄金聖水の秘密VTRーーー
「あー、今日もいっぱいブラック重機したよ」
「吾輩も疲れたにゃん」
「あ、ガトーそこのシャンプー取って」
「ん?これかにゃん?」
「ついでにボディーソープで足の裏も洗おっか」
「虫がいたから叩いたら中身でて気持ち悪いにゃん」
「うへぇ、ガトー早くそこで洗っちゃいなよ」
「こういう時すぐに洗えるの便利にゃん」
「グジュグジュ……ぺっ!ふぅ、歯磨き終了だよ」
ーーーリッツが見た黄金聖水の秘密ENDーーー
あたしは飲みたくない。絶対、飲みたくないよ。
それにさ、ルクルはそれを知っているから、竜鱗を削ってお湯につけてティーバッグっていうので飲んでいるんだけど……あの竜鱗が、人形態のどこの毛にあたると思う?
それを知っているのは、あたしとマイティさんだけだよ?
美味しそうに飲んでいるルクルにも言えない。
あれって大人の毛だしさ……誰にも言えないよ。
リッツは叱られたくて、叱られるような行動をしていました。
媚薬を飲んだのも、従者の仕事をサボったのも。
叱られる事で、まだ必要とされていると思い込みたかったのかも知れません。
ま、そんな心を溶かしたのはワドのKY力ですがw
次回はバラン・カーボス視点の「閑話:家の大願と友人の懸念と」です。