表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
転生者を探す旅
15/389

閑話:大嵐と船乗り達

前回のあらすじ

新大陸へ一足先へ向かったワールドンを、エリーゼは船で追いかけます。

その船旅で仕事をしていた船乗りのバタック視点のお話です。

ep.「世間知らずドラゴンの奮闘の旅」の頃のバタック視点です。

 今回の航海は、実入りがいいと俺は喜んで参加した。


「よう、バタック。お前も特別報酬に釣られたクチか?」

「まあな、でもそれは皆も同じだろ?」

「だな」


 いつもの手取りの3倍の金額が提示されている。

 これに飛びつかないやつはいないだろう。

 俺も今年できる予定の嫁に、少しは良い暮らしをさせてやりたい。

 俺達は急な準備を終えて、出航に漕ぎ着けた。

 季節は春に入り少しずつ暖かくなってきている。

 潮風の香りとまだ少し肌寒い風が心地よい。だけど着替えたばかりの春用の服は、仄かにタンスの肥やしの香りがした。


(もう少し、ちゃんと洗えば良かったな……)


 そんな事を考えながら、甲板の清掃をしていた。

 こびり付いた汚れを、ゴシゴシとデッキブラシで力強く擦っていく。


「なぁ、バタック。今回の仕事が終わったらよう、臨時収入でぱあっと飲みに行かないか?」


 そう声をかけられた俺は、一旦作業の手を止めて、肩をすくめながら軽く返した。


「ちょっとデカイ出費の予定あるから暫くは無理だ」

「デカイ出費?」

「なんだなんだ?バタックどうかしたのか?」


 数人から問われ、俺は少しうつむき加減で照れながら報告する。


「実は俺さ、今回の仕事が終わったら結婚するんだ」

「マジかよ!バタックおめでとう!」

「こりゃめでたい話だ!酒は祝いに奢ってやんよ!」


 そんなやり取りをしながら始まった今回の仕事。

 航海の始まりこそ順調だったが、なんというか変な客だ。

 80人は乗れる客船を、たった4人で貸し切っている。

 貴族にしちゃ従者が少な過ぎるし、デカイ商会にしちゃ採算度外視すぎて、どうにも違和感が強い。

 だが、俺達は客の詮索などせずに働いていればいい訳なんだが……詮索するのがタブーとは言え、今回のはどうしても気になっている。

 なぜなら今回乗せた客は毎日狂ったように祈っているからだ。



「ワールドン様!一日でも早くお傍にまいりますわ!あぁ神様!どうか一日でも早く!」



 早朝から深夜まで毎日これが続いていた。

 正気を疑うレベルで、一心不乱に祈り続けている。

 身体に触ると親切心で声をかけにいったヤツは、鉄拳制裁を受けていた。

 可哀想に数日間は生死の境を彷徨っていたな。

 本人曰く「女神の使い」と自称しているが、あんな正気ではない狂った女の主張を信じる乗組員は、一人もいない。



「ったくよ、毎日毎晩あれじゃ、こっちが先にマイっちまうよ……」

「確かにな……ふぅ……」


 俺は同意して、疲れから少しため息を吐いた。皆も参っている。

 既に日付が変わる時間なのに、狂った祈りは大音量で続いていた。

 よくも声が枯れないもんだなと感心するよ。


「俺、ノイローゼになりそうだ」

「俺もさ、あの女の声を聞くだけで気分悪くなるぜ」

「明日ってか、もう今日か……また日の出の前から始まるんだろうな」


 皆が口々に愚痴っているのを、俺は黙って聞いていた。その客は深夜遅くまで祈り、日の出の前から祈り始める。

 祈りが聞こえない時間は、せいぜい2~3時間だ。

 それがもう二週間だ。本当に狂ってやがる。

 俺達は限界が近かった。今日もまだ続くのかと、皆がうんざりしていた。

 だが、今日は何かが違う。

 他のヤツらも違和感を感じ取っているのか、口数が減っていく。



 その時、雷鳴が轟き、船が大きく揺れた。



 俺達はただ事ではない揺れに驚き、船外の状況を確認するべく甲板へと殺到する。空を覆うような大蛇を思わせる白き巨大ドラゴンが、間近まで迫っていた。


(……俺は、今日ここで死ぬのか?)


 婚約者の笑顔を思い浮かべながら、俺は大粒の涙を流す。やっと掴めそうだった幸せな日々が、手の中からすり抜けていく感覚を感じていた。



 しかし、誰も予想すらできなかった事が起こる。



「ワールドン様!一日でも早くお傍にまいりますわ!あぁ神様!どうか一日でも早く!」

『人よ。ワールドンは金だな?盟友の白だ。近くに行きたいのか?』

「はい!白様!わたくしワールドン様のお傍に一日でも早く行きたいのですわ!」

『そうか……では手助けをしてやろう』


 空を覆い尽くすほどの白いドラゴンは、それだけのやり取りで巨大な雷雲を作り出した。暴風が一気に吹き荒れだし、船が無理矢理に進行方向へ押し出される。ミシミシと船体から軋む音が聞こえているが、それ以上の暴風で音がかき消されていた。


「神と交信した!?女神の使いとは本当だったのか!?」


 俺は思わずそう叫んでしまった。だが明らかに白いドラゴンの意思で暴風が起こり、船が進行方向へと押しやられている。それだけは間違いが無かった。

 そして皆も堰を切ったかのように、俺と同じようなことを口にし始める。


(生きて帰れるかも知れない!)


 そう思った瞬間、船長の怒声が飛ぶ。


「何やってやがるテメエら!こんだけの嵐だ!転覆しねぇように全員死力を尽くせ!さっさと持ち場につきやがれ!」


 俺達は慌てて持ち場についた。しかしながら、船が転覆するような気配はない。まるで大いなる意思を持ったかのような嵐に導かれ、危なげなく航行速度だけが上昇するという奇跡が起こっている。


「これが……神の御業なのか……」


 暴風の一瞬の切れ目に、誰かの呟きを俺の耳が拾う。

 白き大蛇のようなドラゴンは、船乗り達に語り継がれる御伽噺で出てくる神様だ。あのドラゴンを見て、俺も直感でそう思った。これは神だと。

 皆もこの信じられない奇跡の現象に、同じ事を考えているだろうな。


 そう思いを巡らせながら、俺たちの夜は続いた。


─────────────────────


 夜が明ける。


 目的の港町まで、あと半日のところでピタッと嵐がやんだ。

 雷雲が意思を持っているかのように霧散する。

 雨上がりの虹がいつもより美しく思えた。周囲が明るくなるにつれ、海が日差しを受け黄金に輝き出す。

 そして、港町と虹を背に、客の女は俺達に告げる。


「海の魔獣にも会わず、嵐でも安全に航行できたのは全てワールドン様の御蔭ですわ!貴方達もワールドン様の御慈悲と御寵愛に感謝しなさい!」


 その言葉で、自然に感謝の念が引き出された。

 この船に、女神様を信じていないやつはもう一人もいない。

 俺達は心の底から、ワールドン様に感謝を捧げた。



(生きて婚約者の元へ帰れる事に感謝を!)


 その日から航海でワールドン様に祈りを捧げる事が、俺たち船乗りにとっての日常の光景となった。

バタック、巨大なフラグをおっ立ててからの見事な生還ですw


次回から新章「約束の帰路」になります。

次回は「猫魔族の国」です。


※色でのキャラ呼称の補足

本作の最高位ドラゴンの7柱は色で呼ばれています。

金、銀、白、黒、赤、緑、青、となります。

特にドラゴン達は敬称も付けずに色で呼び合っているので、唐突に色だけの呼称で出てくる事もあります。

分かりづらくて申し訳ないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元毛玉作品集
新着順最近投稿されたものから順に表示されます。
総合評価順人気の高い順に表示されます。
ドラ探シリーズ「ドラゴンの人生探求」の関連作品をまとめたものです。
本日の樽生ラインナップ樽酒 麦生の短編集です。
セブンスカイズ
代表作。全25話。
なろう執筆はじめました!なろう初心者作家向けのエッセイです。
― 新着の感想 ―
 ルクル(ケタ)がワドのことを思い出して、良かったです。そしてエリーゼが有能すぎ&ヤバすぎで、面白すぎます~!   彼らの旅がどうなっていくのか、楽しみです!
ここまで読ませていただきました。 一人称ですが、描写も細かくなってきましたね。 他の登場人物の動きもよく読み取れて、頭の中で映像化されるようでたのしいです! あ、アルフォートもエリーゼも好きです♪ …
あらあら? もしかして、みんな最後は、ワールドン教の信者になっちゃったねwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ