ワールドンカップ・前編
前回のあらすじ
ワールドンカップと料理コンテストが開催される事になりました。
料理コンテスト優勝のご褒美に、リッツとリゼは並々ならぬヤル気を燃やしているようです。
スポーツの祭典がやってきた。
……と、言ってもまだ種目が少ないけども。
僕はマラソンをめちゃ推したけど、反対意見が多くてダメだったんで、バレー、バスケ、サッカーの3種目だけになったよ。来年こそはマラソンもねじ込むと心に誓っていた。
ちなみに、料理コンテストも同時開催だよ。
既に予選は終わっていて、今日は大会本選。
本選に勝ち進んだのは、リゼ、リッツ、ヴェスト、テトサ、アン、コウカ、サブロワ、カール先生だよ。
アンは孤児院でも料理担当だったらしくて、普通に上手いんだ。コウカちゃんも、おじいさんの食事を作り続けていただけあって、年齢の割りにベテラン並みだよ。それに温泉組合の女将さん達にも、料理を習っているんだと。
意外にもサブロワ君は料理上手だった。
母も姉もメシマズ料理らしくて、ロアンヌちゃんのおばあちゃんに習って、サブロワ君が家の料理を作っていたんだって!
テトサとヴェストは、優勝賞金目当てだよ。
結婚資金にするつもりみたいで、2人で研究してきたらしい。ちなみに、2人が結婚する事は、ポポロには内緒って約束で僕が言いふらしたんだ。だからポポロだけ知らないの。テトサからは「ワールドン様、プライバシーは大事ですよね?」って笑顔で凄まれたよ。でも、良いニュースなんだから「ちょっとぐらいいいじゃん?」って僕は思うけどなぁ~。
リゼとリッツはまさしく鬼気迫る感じのやる気だよ。料理のレベルも凄く高い。まさかルクルとのデート権でここまで燃えるとは思わなかったな。
そして、ダークホース且つ、大本命のカール先生。
最初は誰もマークして無かった。だけど、先生のお酒の知識と、それに合う料理のチョイスを舐めていた。審査員が呑兵衛だらけなのもあって、予選はトップ通過だったよ。正直驚いた。
「スポーツの方は、まだレベルが低いねー」
「うん。むうびいの魔術具で撮って見せるんだよね?撮影隊が気合い入れてたよ!」
バスケとサッカーは、ボールに全員で群がるお団子状態だった。アニメで知識としては戦術を知っていても、指導者もいないし仕方ないのかも知れない。撮影したのを見せて現実を知って貰う予定だよ。
バレーは……リッツが無双していた。
「ワドワド、リッツは人族辞めてないかにゃん?」
「シー!それ言っちゃダメなやつだよ!」
「ワールドン様、どうしてダメなのにゃ?進化は凄い事だから教えた方がいいのにゃ!」
「ほら!ガトー!カルカンになっちゃうよ!」
「確かに配慮が足りなかったにゃん。吾輩、反省したにゃん」
カルカンが「どう言う意味にゃ!?」と騒いでいる。
それはそうと、リッツは防護服を着てまで対策していたのに、流石に接する機会が多すぎるのか進化していた。ジャンプ力もスパイクも別格だね。あ、今レシーブした人は、腕が折れた。ルクルが治しに行ったよ。
「ワールドン様、流石にこれはハンデが必要ではありませんか?」
アルから、リッツへの対策というか、相手チームへのハンデを求められた。でもハンデって言われても……僕、分かんないんだけど?
「吾輩が思うに、リベロにしたらどうだにゃん?」
「ガトー!賢い!」
「ふふにゃん!あ、ドヤ顔ってこれで合ってる?」
「もちょい鼻息荒くして、背筋伸ばす……そうそう」
「はぁ……私、リベロで提案してきますね」
なんか今、アルに呆れまじりのため息を吐かれた?
僕、結構ショックなんですけど?もう!ガトーのせいだよ!
ハンデを適用したら、攻撃をリッツに依存していた学生女子チームは、途端に防戦一方になった。リッツを攻撃の主軸に練習していたみたいだし、前提が崩れてガタガタだよ。ダフ村おばさんバレーが盛り返している。
2セット立て続けに取り返し、ついに2対2のファイナルセットにもつれ込んだ。
「秘密兵器、使います!ガードお願いします!」
リッツが宣言した。お、ガードマンのお仕事だよ。
アンを攻撃に使うみたいだね。視線が集まるから出来れば、アンも避けたかったみたいだ。けど、このままじゃ負けちゃうからね。
「ワールドン様、秘密兵器ってなんにゃ?」
「…………」
「…………」
「ガトー様まで、なんで黙秘権使ってるのにゃ?」
カルカンにだけは教えられないんだ。ルクルにソッコー情報漏れるから。
(さ、ガードの仕事仕事)
アンがブロックで飛ぶ。スパイクでジャンプする。
その度に僕とガトーはなるべく自然なお胸ガードを発動させる。それにしても揺れるなぁ。
守備の時は、リゼとマイティがルクルの周囲で立ち位置調整をしていた。
(完璧な布陣だよ!)
念の為、ガトーに目配せして【伝心】チェックを……
「ギャーーー怖い怖い!なんで幽霊がくさや持ってくんの!?」
「くっさーーー!あり得ないぞにゃん!」
和ホラーガードとくさやガードで、僕とガトーの両方を同時に対策してきた!
くさや持って追っかけてくる幽霊って、色んな意味でワケワカンナイし、ヤバい!怖い!マジホラー!
僕とガトーは2人してのたうち回っていた。
そこに黒い笑顔のルクルがスタスタとやってくる。
「カ、カルカン!ちょっとルクルを足止めして!」
「なんだか分からないけど、分かったにゃ!」
カルカンがルクルの前に立ちはだかった。
「ルクル氏、ここを通りたければ私を倒すにゃ!」
「はい。新作のブランデーだよー」
「にゃっにゃにゃっにゃ!」
おいおい、秒殺だよ……カルカンなんかに頼った僕が馬鹿だった。
「アル!少し時間を稼いで!」
「…………」
アルはスッと視線を反らした。ルクルが目前まで迫ってきている。
「なぁー、そこの愉快なドラゴンズさんー?」
「な、何かな?全然愉快じゃないけど?」
「わ、吾輩は中日ファンじゃないぞにゃん?」
僕らは焦って吃っていた。ルクルの笑みが深まる。
どんなお仕置きが待っているのかとても怖い。
「あぁ~ルクル様!こんなとこ、おったんか!例の件で相談ありますわ!」
ストローが慌てて駆けつけてくれた。Nice Timing!
ストローに連れられてルクルが遠ざかっていく。
そちらを見ていると、ストローが少しこっちを見てウインクしたよ。
(あ!助け舟だったん!?マジ感謝!)
「あっっっぶなかったー!僕もうダメかと思った」
「くさや持って全速力で駆けてくる幽霊女は、意味がわからな過ぎるぞにゃん!それにくさいにゃん!」
僕らが取り乱している間に、学生女子チームはファイナルセットを取って、ダフ村おばさんチームに勝っていた。観衆の視線をアンが独り占めしていたよ。
大会本選が終わり、明日の決勝カードが出揃った。
バスケ:学生男子チーム vs ダフ村おっさんず。
バレー:学生女子チーム vs 温泉女将ママさんバレー。
サッカー:フウカナット村ビール部隊 vs なし。
サッカーは荒れた。アニメの必殺シュートをマネようとして危険行為で、1試合に20枚のレッドカードが出たんだ。
ビール部隊はルクルが監督だったから、そういった危険行為は絶対に禁止と徹底していたね。違反者は禁酒1週間の刑だから、皆は禁止事項を守っていた。
というわけで、サッカーだけは決勝を待たずに優勝チームが決まったよ。
続いて夜の部は、料理コンテストの大会本選だ。
……だけど僕とガトーは、ルクルからのお仕置きで急遽仕事だよ。ブラック重機だよ!
「なぁ……ワド。ガードマンのお仕事は割に合わないぞにゃん?」
「だって!ルクルにざまぁしたいでしょ!?」
「吾輩、本選の料理食べたかったにゃん……」
「僕だって同じ気持ちだよぉ……(シクシク)」
僕とガトーは、リニアモーターカーの線路作りだ。
総距離700km分の線路を作るまで、催し物に参加させないという鬼畜お仕置きだよ!
材料は揃っているから、後は頑張るだけなんだけど……ツラい。建国祭までには終わらせたいよ。
「くっ、全部計算にゃん?これ、頑張れば明日の夜には終わるぞにゃん!」
「ガトー、それってマ!?」
既に140km分が終わっていて、このペースなら時間で割ると明日の日没には終わる。なにがなんでも優勝祝賀会&料理コンテスト決勝には間に合わせるぞとやる気を出したよ。
そこにストローがやってきた。申し訳無さそうにして近付いてくる。
「ワールドン様、ガトー様……お仕置きの免除までは無理やったわ」
「ううん、めちゃ助かったよ!」
「吾輩も感謝してるぞにゃん!」
ストローは辺りをキョロキョロと見回し、ルクルがいない事を確認してから持ってきた物を取り出した。
「本選で出た料理を、コッソリ差し入れ用に確保しましたわ。これ食べて元気出してーや」
「「ストロー!マジ神!」」
「ハハハ……神様の御二人にそう言ってもろて光栄ですわ。あ、ルクル様には内緒やで?」
リッツは僕が褒めた小麦パンのサンドイッチだ。
リゼは新作のハヤシライスで勝負に来ている。
「どっちも旨いぞーーーにゃん!」
「僕、ハヤシライスの方が好きかなぁ」
更にストローが料理を出した。
「カール先生のカルボナード・フラマンドと、テトサのブランマンジェですわ」
僕とガトーは早速パクついた。
「カール先生ヤバいぞ!うますぎだにゃん!」
「このブランマンジェ凄いよ!異世界のより美味しい!本格的で……僕、泣けてきたよ!」
僕とガトーは全部たらい上げた。差し入れしてくれたストローにはマジ感謝だね。
「ストロー!流石はルクル被害者友の会、会長だよ。さすストさすスト!」
「被害者の仲間意識が強くなったぞにゃん!」
「ハハハ……会長はお譲りします。けど、ルクル様の鬼畜にはご褒美ないとホンマキツイで」
「「わかりみ……」」
決勝進出は、リゼ、リッツ、テトサ、カール先生との事だ。
僕らは決勝に間に合わせる為、作業を再開した。
ついにガードマンのお仕事がルクルにバレました。
そして、ルクル被害者友の会の結束は固くなりました。
次回は「ワールドンカップ・後編」です。