音楽や芸術を豊かに
前回のあらすじ
三ヵ国の首脳会談が行われて、同盟が成立し、二柱の神様による連名で神託が行われました。
これによってワドとルクルの国際指名手配は解除されました。
社交界が終わり、各国の重鎮を見送った。
それから反省会を兼ねて、僕の部屋で飲んでいるのだけれど、ルクルが問題提起し始める。
社交界では、演奏もルマンド君に用意して貰ったし、迎賓館は美術品や絵画などがほとんど無い。絵画に関しては、エリーゼの私物だよ。しかもボンに描かせた、僕の裸体ばかりだ。これは確かに頂けないね。
「娯楽を提供する側が、精通してるべきなんよー」
「でもでも、すぐにどうこう出来ないよね?」
「そうだねー。でも、だからって始めないといつまでも出来ないぞー」
とにかく、始める事が重要とルクルは主張している。
インフラ整備が落ち着いたら、朝活やアフターの余暇を音楽や芸術に充てられるようにするんだと。
「あたし、授業で習いたい!」
「学院の授業に、音楽と美術を追加しようかー」
久しぶりに防護服を着ていないリッツが、授業で習いたいと主張している。今日はガトーが部屋に居ない&マナ吸収素材が出来たからね。でも20mも離れている。
なんか逆に辛いよ。悲しい。
「僕も演奏と絵画を習いたいんですけど?」
「ルクル!全力でおねだりを叶えなさい!」
「んー、じゃあさー、ワドは絵画の素材材料提供をよろしくねー。あとガトーに専用の楽器作るから演奏の素材提供よろしくって伝えといてー」
ルクルは、カール先生に授業については話を通しておくと、請け負ってくれた。授業楽しみだなーと軽く考えていたんだ。細かい所を気にしない性格をどうにかしないと、ルクルには騙され続けるなと後日反省したよ。
……後日、カルカンの研究に付き合わされた。
研究道具を僕の部屋に持ち込んで、ガッツリ研究する日々が続いている。
「あ、ガトー様はこっちを試して下さいにゃ、ワールドン様はこれとこれをリテイクですにゃ」
「お兄ちゃん!吾輩専用の楽器はもうそろそろできるのかにゃん?(裏声)」
「…………(ジー)」
「トスィーテのモノマネはヤメロにゃん!」
「その言葉、ガトー様にそっくりお返ししますにゃ」
もう1週間もリテイクさせられているし、土地が狭いから色んな鉱物を確保するのが難しいって話で、顔料を別で確保する必要があるんだと。
んで、僕の光を操作する能力を使うって訳。
研究していたバイオエタノールから、アクリル樹脂を作る事には成功している。
僕、アクリル樹脂がなんなのかよく分かっていないんだけど「水彩画と油絵しかない世界に、革命起こしてやろうよー」って、ルクルに言われて、最初はやる気に溢れていた。
「お、ガトー様は要領がいいのにゃ。じゃあ仕上げにはいるにゃ。微調整をお願いしますにゃ」
「吾輩にかかれば楽器など余裕だにゃん!」
「あー……ワールドン様は全然ダメにゃ。全部リテイクにゃ。夜通しトライ&エラーよろしくですにゃ」
「はーい……(シクシク)」
光の吸収率と反射率を、細かく制御して持たせるようにって事なんだ。
けど、今まで感覚でやっていた事を、理詰めでやってと言われても困る。光の制御だけで様々な色が出来るのは知っていたけど、狙った色を安定して生成できる割合は難しくて辛い。
「ガトー様、スイーツご褒美あるらしいのにゃ、一緒に受け取りにいくにゃ?」
「吾輩は後で行くから先にいってろにゃん」
「じゃあ、私はお先に失礼しますにゃ。ビールが私を待ってるにゃー!」
カルカンはご褒美のお酒を飲みに、意気揚々とあがっちゃった。僕はまた夜通し残業だ。カルカンを見送ったガトーがクルリと振り返る。
「ワドよ、たまには息抜きも必要だぞにゃん?」
「ガトォー……スイーツが食べたいですぅ……」
「おぅ、吾輩がコッソリ持ってきてやるぞ?」
「さすガトだよぉ~さすガト~」
僕は、ガトーが差し入れを持ってきてくれるのを待ちながら、必死に残業をしていた。ふいに強烈な警報音が、けたたましく鳴り響く。
ビーー!ビーー!ビーー!
(な、何事!?まさか敵襲!?)
ガトーが泣きながら駆け込んで来る。
……なんか凄く臭いんだけど?
「ガトー、一体どうしたの!?」
「ルクルはガチで鬼畜だ!なんだアイツやりすぎだろ!鼻がおかしくなりそうだ!」
ガトーが語尾忘れるぐらいに取り乱している。
あ、この匂いは異世界の「シュール・ストレンミング」を再現したやつか。僕も【伝心】でトラウマになったヤバい匂いの缶詰だよ。
ガトーは完全に参っていて、のたうち回っている。
(ん?誰か来た)
「ガトー、勝手な差し入れは困るんよー」
「ルクル、ガトーになにしたの?」
「んー、スイーツを部屋の外に持ち出そうとすると、警報機が作動してあの缶詰が開く仕組みを用意してたらさー、それに猫が引っ掛かったんよー」
「ぐぅぅぅ!鼻がおかしくなるぞ!ぐぁあ!」
鬼畜トラップ!しかもガトーを狙い撃ちだよ!
ガトーは臭い匂いダメなのに、それに嫌いな海産物で攻めるなんて酷いよ。
僕はガトーを擁護した。
「ガトーは僕に息抜きさせようとしたんだよ!?そんなに悪い事?僕、頑張ってるんだけど?」
「ご褒美は頑張った先にあるんだよー?ワドが好きなマラソンで例えると、途中でタクシー乗った感じ?」
「う……」
ご褒美はやり切った後じゃないと、頑張らなくてもご褒美が得られる怠惰なループに入るから、ダメだって言われた。
それにしても罠が鬼畜過ぎるよ。
「さすがにあの缶詰はやりすぎじゃないの?」
「んー、そんなヌルい事を言ってるから、コレクションを盗まれちゃうんだよー。トラップは、相手の心を折るのを仕込まなきゃねー」
確かに……これじゃガトーは二度と手を出せない。
そのくらいのトラウマを植え付けられたと思うよ?
でも、友達にこの仕打ちは酷くないかな?
まだガトーはのたうち回っているんだけど?
「ガトーに謝って!」
「んー、コッソリじゃなくて正攻法で来たらちゃんと対応してたよー」
結局、謝らせる事はできず終いだった。ルクルが帰った後も、僕はせっせと色の調整を続けていた。寝そべって天井をみていたガトーが呟く。
「……なんでそんなに頑張るんだにゃん?」
その言葉は、流れる水の音しか無い、僕とガトーだけの部屋にやけに響いた。僕は作業を止めてガトーに向き直る。
「僕は……」
僕は心の中に抱えていた物を、全てガトーに語った。こんなに語ったのはルクル以外だと初めてかも知れないな。ガトーはずっと黙って聞いていたよ。
「吾輩も付き合ってやるぞにゃん」
「ありがとう」
ガトーはそれ以上は何も聞かずに、僕の作業を手伝ってくれた。それから1週間かかったけど何とか光調整を宝玉に封じ込めて、引き出せるようになった。
……そして音楽と美術の授業が追加されたんだ。
「はい。それでは今日は美術の授業ですよ」
カール先生の授業に、僕とガトーも参加している。
この世界で初めてのアクリル絵の具でお絵描きだ。
ボンは別格としても絵に関しては、シーナがめちゃうまだった。それと夜の大人学校では、バギャが上手いらしくって個展を開きたいと言っているんだって。
バギャに触発されたのか、フウカナット村では音楽や絵画の熱が伝播している。オールレーは演奏の才能を開花させていたなぁ。学生では巨乳の妹のマーデルが楽器を弾きこなしていた。その熱で嘆願書が届く。
ルクルに相談したら、前向きな回答だったよ。
「んー、ワドはやってみたいんだよねー?」
「僕、コンクールとコンテストをやってみたいよ!」
「じゃあさー、夏の開催を目指して頑張ろうかー」
嘆願書は受理され、夏に向けて皆の熱は高まっている。特に、フウカナット村の盛り上がりは凄い。
「ワールドン様、コンテストゆうんは必ず優勝してみせますわ!」
「私も、こんなに演奏が楽しいものだとは思いませんでした。コンクールでは優勝を狙います」
バギャは絵画で、オールレーは演奏で参加するみたいだよ。皆が口々に意気込みを語る。既に農作業は、大半の機械化が進んでいるのもあって、今の彼らは勉学や娯楽に時間を多く使っているんだ。
「皆、頑張って。僕も出るから負けないよ!」
「所でワールドン様、コンクールの名前はなんでしょうか?」
「せや、コンテストの名前も気になってますわ」
え?名前って必要なの?絵画コンテストと音楽コンクールで良くない?でも、皆が期待の眼差しを向けてくるよ。どうしよう?
「ワドが決めないなら、吾輩が決めるぞにゃん?」
「ちょっと待って、いま考えるから……」
「3・2・1。待ったぞ、ではガトーのベス……」
「ちょちょちょ!待ってって言ったでしょ!?」
「だから3秒待ったぞ?にゃん?」
皆からはキラキラした眼差しが続いている。
「えとえと、【夏コミ】で!」
「なんだ【夏コミ】って?知らないぞにゃん?」
しまった!なんか夏のお祭りを意識していたら、ふいに関係ない単語でちゃったよ!
「よっしゃー!【夏コミ】に向けて頑張るぞ!」
「「「おー!」」」
え?これ決定の流れ?待って!リテイクさせて!
(このままじゃルクルにまた嫌味言われるぅぅぅ!)
案の定、後日ツッコミを入れられた。
リッツに淹れてもらったお茶を飲みながら、僕の部屋で細かい事をチクチクと言われている。
「コミック無いのになんで夏コミなんー?」
「いいでしょ!どうせ異世界の情報なんて無いんだしさ!いちいち細かいよ!」
「……シュコー……シュコー……」
(ちょっと!落ち込んでるリッツは凄く失礼だよ!)
「まぁ、ワドとリッツは前衛的な絵だよねー」
「吾輩には理解できないぞ?落書きにゃん?」
「どっちもどっちにゃー。もう少し勉強するにゃ!」
カルカンにまで馬鹿にされた。僕とリッツの絵は誰にも理解されず、カール先生にも気を遣われ、慰めとも、励ましとも言えない言葉をかけられた。子供達の間でリッツは「ワールドン様と同じ高みにいるんだ」と、理解できない別枠認定されている。
「……シュコーーーーー……」
(ちょっと!あり得ないって僕のセリフだけど!?)
リッツは理解できない画伯扱いが凄くショックなようです。
あと、ワドがガトーに語った想いについては、かなり先の開示になる予定です。
次回は「料理コンテスト開催」です。