社交界の準備
前回のあらすじ
カルカンとガトーが焼酎の飲み比べに夢中で、聞く耳を持ってくれません。
そこでワドはエリーゼを大声で呼びます。
50km先のポロッサ村で、ワドの救援を聞きつけたエリーゼが爆速で到来。
ですが、社交界の準備と言い出しています。
「さぁ、ワールドン様!社交界の準備を始めますわ!わたくし、外務大臣として全力でサポート致しますわ!」
どうやら僕が社交的な事をしたいって零したのを、真に受けて外務大臣として頑張っているみたいなんだ。今更、軽い気持ちでしたって言い出せない雰囲気。
でもさ、宿題があるから建前シールドは完璧だよ!
「僕は、銀を見つけるって、とても大切な宿題があるんだよ!だから、カルカンのマナ心眼が必要なの!」
「カルカンは大事な開発がありますわ!それに銀様をお探しになるのは、わたくしが同行してお助け致しますわ!」
エリーゼがついてくると言っているけど、何も分かっていないエリーゼを宥めるために説明したよ。
「銀は地中にいるから、マナ心眼が必要なんだ。分かってくれると嬉しいな!」
「ですから、わたくしが秘薬のマナ疑似心眼でお助け致しますわ!」
「あ!そうか!」
(僕、すっかり忘れてた)
そういやホリター公爵家には疑似マナ心眼関連の秘薬があるんだった。それならイケそう!
「じゃあ、さっそく行こうよ!」
「銀様をお探しになるのは社交界の後でお願いしますわ!ルクル、いいですね?許可できないのなら……」
「許可するよー!だから2人きりの鑑賞会は勘弁ー」
ルクルが顔を真っ赤にしながら、許可をくれた。って事は銀の探索に少しは猶予が出来たけど、社交界は強制参加って感じかぁ……
「ね、ねぇ……ガトーも一緒にどう?」
「吾輩がワドの分まで飲んでやるから、ここは吾輩に任せて行くにゃん!」
「カ、カルカン!来てくれるよね!?」
「ぷしゅる~!染みるにゃー!芋もイケるにゃー。ワールドン様は頑張って下さいにゃ!うぃっく」
2人の猫魔族にフラレて、僕は1人ドナドナされた。新しいドレスの採寸と、ダンスの練習をするらしい。
「ねぇ……僕、体型変わって無いのに採寸は必要?」
「ドレスを仕立てる時に採寸するのは当たり前ですわ!常識も少しずつ覚えて下さいませ!」
でもでも、採寸している国民の女性達は、凄く体調が悪そうだよ?マナ酔いじゃないかな?測る手が震えているし、フラフラしていて今にも倒れそうだ。
(僕、心配だな……)
なんとか採寸が終了し、練習用のドレスで、ダンス特訓をする事になったよ。
「エリーゼがダンス相手を努めてくれるの?」
「わたくし、撮影を頑張りますわ!」
「最近ずっとローアングルなのはなんなの?ってパートナー誰にやらせるの?」
「マイティが撮った映像に勝ちたいのですわ!パートナーはマイティが努めますわ!」
道理で、採寸をマイティが担当していない訳だ。
エリーゼに着替えを手伝って貰って、ダンスホールに向かったよ。マイティと、ポポロとテトサがいた。マイティは男装だったな。
「マイティ、胸はどうやったの?」
「サラシを巻いて無理やり誤魔化してます」
純白の生地に、ブルーのアクセントが効いたドレスを纏ったテトサと、礼服のポポロに声をかける。テトサは薫衣草の華やかな香りがした。
「ポポロとテトサもダンス特訓なの?」
「はいっ!ウチ、特訓頑張ります!こんな凄いドレス初めてで、緊張してます!」
「大臣は社交の教養を身につけるべきと、エリーゼ様が仰りまして……私は胃が痛いです」
テトサは気合い入り過ぎていて、ちょっと不安。
ポポロはメンタル鍛えてけ。
マイティは……マジイケメン!
それから、数日間はダンス漬けの日々だった。マイティのリードが上手いからなんとか踊れるようになったよ。
今日の夜は幹部全員が集められて、テトサ考案の新作料理のジャッジだ。社交界で出す料理なので見た目も審査材料だってさ。
(僕、美味しければ見た目気にしないけど?)
そんな訳で温泉宿にやってきた。大宴会場を貸し切りだよ。そして僕は、お座敷の座布団が潰れないよう、慎重に重量を調整する。
料理が運ばれてきたみたいで、海鮮料理の良い香りが漂い、一気に期待が膨らんでいく。
「新作料理とは魚介なのかよにゃん!吾輩は要らないぞにゃん!」
「うまそうな匂いにゃー!日本酒が欲しいにゃー」
「カルカン、ペースは抑えて下さいね」
ガトーは魚介の匂いが嫌みたいで、部屋を出ていった。カルカンは鼻をクンクンさせている。アルは……介護の前フリかな?
運ばれてきた新作メニューは以下だよ。
・鯛の湯引きカルパッチョ。
・サーモンと胡瓜のタルタル。
・帆立と旬野菜のテリーヌ。
・牡蠣のキルパトリック。
・海老と彩り野菜の豪華パエリア。
・銀鱈のアクアパッツァ。
(むむ?海鮮尽くしだな?)
見た目は凄く工夫をしていて、インスタ映えしそうだった。
「テトサ、随分と海鮮メインだね?」
「ウチ、遠足の時にココ伯爵様から、貴族が好む見た目を勉強させて貰いました。どうでしょうか……?」
テトサが目をキラキラさせて、僕の感想を求めている。
でも、僕はお肉も食べたいし、力入れるならスイーツにして欲しいかなぁ。
「僕、鳥の唐揚げとかも欲しいかも?」
「ウチ、水産省大臣なので……それに食卓が茶色になっちゃいますよ?」
「えと……なら白身魚のフライとか?」
「ですから……食卓が茶色に……」
僕はあわあわしながら、別案を必死に考えた。
「シ、シーフードカレーとかどうかな?」
「……ウチの色彩センスはそんなにダメですか?」
あれ?僕の食べ物の好みを伝えていたら、今にもテトサが泣き出しそうな顔しているんだけど?
「ぷしゅる~うまーなのにゃ!どの料理も全部美味しいのにゃ!テトサ氏は自信持つのにゃ!それと日本酒をお代わり下さいにゃー」
「大丈夫ー。自信もってテトサ。どれも綺麗だし美味しいよー」
「テトサさん、牡蠣の料理は俺すごく好きです」
カルカンとルクルがフォローしていたな。農林省大臣のクラッツは素で牡蠣料理が好きみたい。
あれ?これだと僕だけが否定した感じにならない?
「このアクアパッツァは、とても良い香りなの。後でリゼにもレシピ教えてね。彩りも素敵なの」
「姉上の言う通りです。パエリアも香りが素晴らしいですよ。テトサは自信持ってください」
姉弟も褒めちぎっていた。
なんか僕だけが小姑みたいな雰囲気で困るよ!慌てて僕も食べてみる。なにこれ、めちゃうまーだよ!
「テトサ!これどれも美味しいよ!色々言ってしまったけど、これはこれでアリだよ!全然アリ!」
「ワールドン様……ウチ、努力が認められて嬉しい……」
な、なるほど?最初はまず褒めるべきってのを、僕は学習したよ!頭ごなしに否定しちゃダメ絶対。
テトサがどういった所で苦労して大変だったかと、どのように工夫して解決したかを一生懸命述べていた。
(頑張ってたんだなぁ。食べる前から否定してごめんね)
「ぷしゅる~うまー日本酒止まらないのにゃー!なんだか天国にゃー!うぃっく」
「カルカン君さー、一人で一升瓶を3本も空けるのは飲みすぎだと思うんよねー。自重してー?」
「んー?なんらー?自重は窓から捨てたにゃー」
料理を一通り食べ終わって、今は単なる飲み会だよ。カルカンは自重を既に捨てて飲んだくれている。
リゼはテトサに彩りのアドバイスをしていた。なんか料理話が盛り上がっているから、邪魔しないようにしといたよ。それにしても、隣の部屋からチラチラ覗いている猫魔族が鬱陶しいなぁ。
「ガトー……何か用なの?」
「なんで、吾輩を連れ戻しに来ないのにゃん?吾輩とっても寂しいぞにゃん?」
あー、めんどくせーな。かまってちゃん女子かよ。
「だって、魚臭いって出てったの君だろ?」
「普通はさ、おっかけて来るもんだろにゃん?」
「そんなアドリブ求められても困るよ?」
「ふっ、これだから金は女子力低いんだぞにゃん?」
なーんか、喧嘩売られたぞ、おい。
「僕の女子力は53万なのー。残念猫には負けないの」
「自称自演女子乙!にゃん!吾輩の女子力は計測不能まで天元突破してるにゃん」
「ルクル!アル!ジャッジして!」
ルクルが据わった目でダメ出ししてきた。
「お前らがいるとー、女子力の法則が乱れるんよー」
「「な!?」」
アルが冷静なツッコミを入れてきた。
「カール先生に頼んで女子の定義から辞書でひいて来たらどうです?お二人とも勉強不足ですよ」
「「な!?」」
カルカンからトドメの一撃が飛んできた。
「女子力磨きたいなら、トスィーテに頼むのにゃ。うぃっく。そしたら見つめられると思うのにゃー」
「「それはマジ怖いから勘弁にゃん」」
そう。トスィーテちゃんがガチで怒ると見つめてくるんだ。ガトーから伝心されて、僕は怖いと思った。
ーーーガトーが見たトスィーテちゃんVTRーーー
「そんなに下着気にしてるなら、かぼちゃパンツにするとか、短パンにしたらどうだ?……にゃん?」
「……………………」
「じょ、冗談冗談。さぁて、お風呂に入るぞにゃん」
〜〜〜〜〜〜〜ガトー入浴中〜〜〜〜〜〜〜
「ひっ!何でそんなとこから覗いてるんだにゃん?」
「……………」
「なんか喋ってくれ……にゃん!」
「…………………」
「さ、さっさとお風呂からあがろうかな?……にゃん」
〜〜〜ガトーは怖くて外に逃げ出した〜〜〜
「ここなら来ないだろ。あんなに怒らなくてもいいだろ。ちょっとしたお茶目なのにな」
「……………」
「ん?なんか視線を感じるぞ?」
「…………………」
「なんか、嫌な感覚だぞ?……なんだ!?」
「………………………」
「気のせいだよな?誰もいない……よな?」
〜〜〜〜〜至近距離の背後から声〜〜〜〜〜
「……………語尾……忘れて……る……にゃん……」
「ギャーーー、いつからそこにいたんだにゃん!」
ーーーガトーが見たトスィーテちゃんENDーーー
トスィーテちゃんは、何も言わずにずっと見つめているだけなんだけど、いないと思っていたらいつの間にかいるんだ。いつでもどこでも見張っているんだ。
僕は和ホラーを思い出して身震いしたよ。
(トスィーテちゃん、マジ怖い)
……そんなこんなで双魚節。誕生節のお祝いでカルカンには、芋焼酎をプレゼントした。飲み比べで芋がお気に入りだったみたいだからね。
「おい!吾輩には専用麦焼酎を作って寄こせにゃん」
あー、ガトーはワガママで困るよ。
ちなみに、幹部の中で国土交通省大臣のボンだけが、仕事でこの場にいません。
ボンは、毎日20時間労働しているみたいですよ?
次回は「社交界デビュー」です。