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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
ドラゴン学院
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閑話:留学と鍛冶工房の約束

前回のあらすじ

ブールボンの平民サブロワの日常と、幼いころからの目標や勉強する理由などに触れています。

孤児院の所から留学生になるまでを主に描いています。

ep.「孤児院の姉妹達」~ ep.「留学生と副担任」までのサブロワ視点となります。

「サブロワです。留学してきました。これから、よろしくお願いします」


 僕は運が良くて、ホリター公爵家からの推薦でワールドン王国のドラゴン学院に、留学する機会を得ました。

 僕は銃鍛冶屋の息子で、特にお金も持っていないので、ブールボンの学校には通っていません。平民で学校に通えるのは、ほんの一握りの富裕層だけです。いつも、羨ましいと思っていました。


「ハンパな技術で鍛冶に関わるんじゃねぇ!」


 父さんから、幼い頃に言われた言葉。

 マナ工学を学ぶ機会も得られず、鍛冶工房に立ち入る事も許されず、僕は困り果てていました。

 幼馴染のロアンヌからお願いされて、宿の備品を修理するくらいだった。

 勿論、独学なので、失敗も多かったです。

 でも「買い替える前に、ダメ元でお願いしただけだから!」と、彼女はいつも笑って許してくれました。


 それから、ロアンヌからの提案で、孤児院の備品修理を手伝っていました。孤児院には、元孤児から寄付されたマナ工学の本があったので、それを読み込んで必死に勉強します。勉強できる事が嬉しかったです。

 ロアンヌの宿は貧乏なのに、孤児院に食事の差し入れまでしています。宿で作りすぎて余った料理を分けていました。亡くなったおじいさんが、元孤児なので孤児院の面倒を見ていたそうです。


 孤児達も、農作業で採れた野菜等をロアンヌの宿に提供しているから、持ちつ持たれつの関係が出来ていると思います。

 僕も、修理の勉強をさせてもらっているから、おあいこです。


「サブロワ君、いつも手伝って貰ってごめんね?」

「……別にいいよ、僕も見習いだし……」


 シーナさんは最年長だからか、凄く色んな事に気配りできる人です。他の子達は、僕が修理手伝いするのが、当たり前だと思っています。シーナさんだけはいつも気遣ってくれていました。

 そんなシーナさんも、ワールドン王国に移住してしまいました。


(一体どんな暮らしをしてるんだろう?)


 僕は心配しながらも、日課のように孤児院に来ては、手伝い兼修行に勤しんでいました。

 でも、事態は急変します。


「……サブロワ。ホリター公爵家の人から召喚命令があったよ。一体なにをしたんだい?」

「え?僕、何もしてないよ姉さん」


 いきなり、子供の僕を呼び出すなんて……一体何事だろう?1つも思い当たる事が無いです。


「孤児院案内で、あのお嬢様に粗相したんじゃないだろうね?あたい、面倒はごめんだよ?」

「……行ってくるよ、姉さん」


 ミルネ姉さんは、自分勝手な性格です。面倒な作業はいつも押し付けられるから。僕もできれば、シーナさんみたいに優しい姉が欲しかったな。メルはあんなお姉さんで羨ましいです。

 ホリター公爵家から呼ばれた場所に、1人で向かいました。噂のエリーゼ様は、結構優しい人です。それにワールドン様が懇意にしているのだから、噂のような悪い人じゃないと思います。


「君がサブロワ君か?」

「はい、サブロワです。何の御用でしょうか?」

「実は……」


 黒尽くめの従者の人から聞いた話だと、ワールドン様が学院を創られたそうです。

 留学生を募集しているので、ブールボン貴族の子息や令嬢に声をかけたそうですが、全員に断られたという話でした。


「あ、あの……カオやミアも断ったのですか?」

「知り合いか?まあ、このくらいは構わないか。現在の学校で充分と断ったぞ」

「意外です」

「本人達は乗り気だったが、親御さんがな……」


 カオとミアからは、貴族だった事をつい最近打ち明けられました。

 薄々そうかな?とは思っていました。だって着ている服が豪華だったし、何もかもが違いました。

 でも、変わらず友達だから、呼び捨てにしてくれと言われたので……そうしています。

 カオは好奇心旺盛です。

 孤児院にも遊びに来た事があります。ミアはカオが好きだから、ついて回っていました。あのカオが、新しい国の新しい学院に、興味を持たない訳がないと思います。親が断ったと聞いて納得しました。


「それで、君はどうする?」

「……僕の家は貧乏なので、学費が……」

「大丈夫だ。ドラゴン学院は完全無償だ。それに君は、エリーゼお嬢様のご推薦だ」


 お金がかからない。勉強が出来る。僕にとって理想の環境です。不安が無いかと言われると、凄く不安だけど……ワールドン様が収めている国だから大丈夫。


「行きます。両親も説得してみせます」

「そうか!良かった。では支度金として渡しておく」


 そう言って黒尽くめの人は、麻袋を渡してきます。

 中身を確認すると、30000カロリが入っていました。


「こ、こんなにいただけません!」

「これはお嬢様からの贈り物だから、受け取っておけ、じゃないと私がころ……困る」

「あ、ありがとうございます」


 お礼を言って、従者の人とは別れました。明日の早朝に行く場所を確認して、家に帰ります。


(明日の朝に、あんな広大な広場にいって、何をするんだろう?)


 僕は父さんの仕事が終わるのを待ってから、家族会議でワールドン王国へ留学する事を伝えました。


「そんな……1人で他国に行くのは、まだ早いよ!」

「母さん、そうは言ってもね。30000カロリだよ?サブロワが行きたいなら、あたいは賛成だね。あ、お金は家に入れなよ?」


 母さんと姉さんがガミガミと言い合っています。

 父さんは黙ってそれを聞いていました。


「僕、ちゃんと勉強したい」

「だからって!他国だよ!」

「サブロワが行きたいんだから、勝手に行かせればいーでしょ?お金の方が大事だよ」

「…………」


 母さんは反対みたいで、姉さんはお金さえ渡せば、味方になってくれます。

 ……父さんは一言も喋りませんでした。


「アンタからも反対って言っておやり!」

「あたいは応援するよ!」

「……おまえら、うるせぇからちょっと席外せ。サブロワと2人で話す」

「アンタ!~~~っ!」


 父さんが凄い顔で、母さん達を睨みつけました。

 それだけで2人は黙ります。父さんの本気を感じ取ったのだと思いました。


「サブロワ……ちとこっち来い」

「……うん」


 普段入れてもらえない鍛冶工房に、父さんと入る。


(何年ぶりだろう?)


 父さんは未熟な僕を、鍛冶場に入れようとはしなかったから随分と久しぶりです。


「……なんで、勉強したい?」

「僕、一流のマナ工学の技術者と最高の鍛冶師になりたい」

「……そうか」


(やっぱり反対なんだろうか?)


 でも、普段の険が強い表情では無くて、穏やかな表情をしていました。


「お前は、鍛冶師の才能がある。マナ工学の方はわからんが、少なくとも鍛冶師としては、俺を遥かに超えるだろう」

「~~っ!?」


 父さんからは嫌われていると思っていたのに、僕には鍛冶師としての才能があると言います。


「幼い頃、お前が見様見真似で鍛冶仕事をしようとした事は覚えてるか?」

「……うん。父さんに怒られて、それ以降……ここに入れて貰えなかった」

「……あんときからちゃんと出来てた」


 僕は目を丸くしました。


(信じられない。父さんがこんなに褒めるなんて)


「幼い体で中途半端にクセついてしまうより、体が大きくなってから教えるつもりだったんだ」

「どうして、そのことを教えてくれなかったの?」

「知れば、やりたがるだろ?それだけの才だ。鍛冶仕事は楽しいだろう?」


 父さんは僕をちゃんと見てくれていました。

 ずっと嫌われていると思っていたのに、ずっと見ていてくれて、僕が鍛冶仕事好きな事も全部分かっていたんだと気付きました。

 父さんは引き続き静かに語ります。


「出来上がりの性能をイメージして、それ通りに作れるのは才能だ。イメージ通りに作れた時は、熟練の者でも嬉しいんだ」

「……うん。分かる」

「だから、お前に知識を与えれば、どんどん挑戦するだろう。小さな体で作る癖をつけると矯正が難しい」


 父さんは僕の為に、鍛冶場から遠ざけてくれていました。


「……勉強、したいか?」

「うん。勉強したい。でも、体が大きくなるまでは鍛冶場には立たない。約束する」

「……そうか、ならいい。頑張ってこい」

「うん!」


 父さんに認められていた事が嬉しくて、久しぶりに気持ちよく眠れました。

 朝、出発する前に、母さんが凄く心配して色々と小言を繰り返します。


「ちゃんと歯を磨くんだよ。あぁ、それから温かくして寝るんだよ」

「母さん、なんでサブロワに大金持たせんのさ!?あたいの分は!?」

「うるさいね!留学先で色々と入用になるかもだろ?アンタと違ってサブロワは無駄遣いしないよ!」


 こんな小言も暫く無くなると思うと、少し寂しいです。

 でも、勉強ができることへの期待にワクワクしています。


「父さん、母さん、姉さん、いってきます!」

「あんな晴れやかな笑顔……引き止められないね」

「ちぇ、おい!サブロワお土産忘れんなよ!あたいのは一番いいので頼むよ!」

「行って来い!サブロワ、お前は自慢の息子だ!」


 雪の中の家族の見送りを受けて、何度も振り返って手を振りました。

 家族が見えなくなってから、手に息を吹きかけかじかんだ指を温めます。そして、僕は逸る気持ちを押さえながら、雪で転ばないように注意して足を早めました。


 少し息があがった頃、遠目に広場が見え始めます。

 広場には変な建物と緑色の猫魔族、それから先日の黒尽くめの人と、あとは……


(大公様!?)


「サブロワ君ですね。私はルマンドと申します」

「はい。知ってます。よろしくお願いします」

「おぅ、少年。さっさと専用空輸邸に乗れにゃん!」


 緑色の猫魔族はやたらドスの効いた渋い声で、変な喋り方をしています。


「ガトー様、そんなに急かさなくても良いのでは?」

「ゆっくり飛ぶからな。放課後アニメタイムには間に合わせたいぞにゃん」


 ルマンド様が敬称をつけて呼んでいる……つまり、凄い猫魔族なんだと思います。


「ガトー様!サブロワです!今回はどうかよろしくお願い致します!」

「お、礼儀正しいにゃん。吾輩、嫌いじゃないぞにゃん。さっさと乗るにゃん」

「はいっ!」



 それが僕の初めての空旅と、インビジブルドラゴン様との出会いでした。


(父さん……勉強、頑張ってきます!)



サブロワが足繫く孤児院に通っていた理由は自分の勉強の為でした。

まぁ、ミルネとシーナを姉トレードしたいのは本音のようですがw


次回からは新章「娯楽を充実させよう」となります。

次回は「芋焼酎醸造」です。

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