魂の再会
前回のあらすじ
ケタの魂が、北の新大陸へ移動したので追ってきました。
エリーゼは謎パワーで合流を果たします。新大陸でケタの魂を探し始めたところです。
新大陸の幾つかの港町を巡った。
移動した新大陸の港町調査にて、ほぼこの大陸で確定のようだ。これから内陸の村落や、川沿いにあるらしい王都や都市を巡る予定。
「ワールドン様!この村ですわ!」
地図を見ながら移動経路の検討をしていたら、エリーゼがズバっと村を指差して決めつけた。
「どうして分かったの?ほんとにここなの?」
「わたくしがワールドン様の事で間違う事などこの世で何一つありませんわ!」
とりあえず理由を聞いてみた。すると、巡った港町で僕が気にしていた視線の先を伸ばして、全ての線が交差するのがこの村との事。
(僕の視線も常時監視してるの?こ、怖いんですけど?とても怖いんですけど?)
エリーゼの予想が外れても問題ないので、その村へ向かう事にしたよ。
村へ向かう道はかなり登りが急な山で、道路も整備されていなくて、所謂けもの道だったね。
草木が生い茂り、葉の香りが立ち込めている。
ある程度登ると、農地が幾つかの段に分かれて整備されていた。
ドドドドドド……!
木々には木の実が成っている。
脇に生えている果実も美味しそう。果実はパフェに使えるかも知れないから、帰りに採りにいきたいな。
見た目は異世界のブルーベリーに似ている。食欲を唆るフルーティーな香りをしていたよ。
ドドドドドドドドド……!
雇った現地の案内人が、息を切らしていた。
僕は、はやる気持ちもあって、ホバリングでの移動速度をあげていたんだ。勿論、走るフリも忘れない。
ドドドドドドドドドドドド!
あんまり早いと、変な目で見られるからね。
平地でのお馬さんの全力疾走ぐらいのスピードにしておいた。
ドドドドドドドドドドドドドドドド!
従者3人組と案内役の人はかなり後方だよ。ちょっと早かったのかな?
加減が難しいなぁ。
エリーゼだけは笑顔でついてきているけどね。
さっきから聞こえる爆音はエリーゼの足音だ。
(……もうエリーゼの事は、深く考えないと決めた)
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夏の日差しがキツイ中、ようやく村へ辿り着いた。
確かにケタの魂を近くに感じる。この村で当たりだ。
こんな山奥なのに、建物はレンガや岩を削った素材で作られていたな。
軽く質問してみる。
「こんな山奥でも木造建築はないの?」
「ワールドン様。木造では翼竜族が出た時に、火災の被害が大きくなってしまいますわ!」
「あぁそうだったね」
空を飛ぶ【翼竜族】は、火を吐く個体が多いらしいね。しかも群れで行動しているとの事。防壁にマナ石が使われているが、都市のように高純度のマナ鉱石が使われているのは珍しいんだと。
小さな村では、定期的に魔獣被害が出るって話だ。
(ま、ドラゴンでは無いんだけどね)
【翼竜族】は、人からはドラゴンの一種と考えられているけど厳密には違う。上位個体は人語も話せるから、勘違いするのも分かるけど。
最下位のドラゴンでも、10倍のマナを持つ。そもそも腕が無い時点で別種族だ。
【翼竜族】は異世界イメージだとワイバーンに近いと思う。腕が翼になっている感じ。
別種族だと訂正するのも疲れたし、僕は諦めて聞き流している。
それで先ずは、村長へ挨拶する事にした。
誰が村長か分からないから、案内役と従者組を待つことにしたんだ。
さっきから隣にいるエリーゼが「ワールドン様を待たせるなんて……」と何か怖いオーラを出している。
早く来ないと皆が大変そうだ。頑張って欲しい。
暫くして後続も村へ到着したので、村長に子供を集めて貰ったよ。
「この子供達の中にはいない」
「まぁ!村長!ワールドン様に隠し事なんて許されませんわ!すぐ子供を出しなさい!」
「いえ、10歳以下の子供は全員ですじゃ」
おかしい。村長の言葉に嘘は無い。
でも、魂の反応としてはこの村で間違いが無い。
どうなっているのだろうか?
エリーゼが極刑だとか変な事を口走り始めたから、従者組が頑張って止めている。
「他に子供は全くいないの?」
「……確か、奴隷区画に何人かの子供がおりました」
「さっさと連れてくるのですわ!(ニッコリ)」
「ひぃぃぃ!」
エリーゼが笑顔で脅していたので、村長は震えていたよ。だから僕は村長を気遣って申し出た。
「いや、僕が出向くよ。案内して」
「さっさと案内するのですわ!」
「ひぃぃぃ!い、今すぐ!」
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農奴と呼ばれる、奴隷がいる区画へ案内して貰う。
過酷な農作業を担当しているらしい。
奴隷区画で一人の少年が、汗だくになりながら農作業をしていた。
僕が少年を見つめていると、村長は少し目を伏せながら、ゆっくりと説明を始める。
「……この年齢の子供だと、親に売られたのかと思われますじゃ……」
「そうなんだ」
村長は申し訳なさそうな表情をしていたから、僕は首を傾げ、顎に指を当てながら反応を伺う。
「ワールドン様を奴隷区画に、いつまでも留めるのは恐れ多いですじゃ……」
「大丈夫、気にしないで」
奴隷区画が失礼に当たると思っていたようだ。
エリーゼが変な圧を飛ばしているからかな?
さっきからエリーゼが、一人で百面相の顔芸をしていて、村長が喋ると般若の様な形相で、僕が喋ると満面の笑顔。会話毎によく切り替えられるなと思う。
(たくましい表情筋だね!)
少年に警戒されないようにゆっくり近付いて、目の前で少し屈んで目線を合わせながら語りかける。
「やぁ僕はワールドン。君の名前と年齢は?」
「……ルクル。13歳」
(……あぁ、ケタだ)
間違いない。会話をする距離まで近づいて確信した。
「僕の事はワドって呼んでよ。ケタは友達だからね」
「ケタって誰だ?俺はルクルだ」
一人称が僕じゃなくて俺になっていて驚いた。
僕は変わってしまったケタを軽めにイジる。
「あれ?俺とか言って中二病なの?思春期?」
「……用が無いなら帰れ」
ケタは農作業の汗を拭いながら、こちらを見もせず作業に戻り言い放った。その瞬間、エリーゼから凄まじい殺気が発せられる。それは、ケタに向けたものなので許せない。
「エリーゼ。彼は僕の友達だ。今のような思念を飛ばす事は絶対に許さない」
エリーゼは大人しくなったよ。これで安心してケタと話せるね。
でも、ケタの記憶が無いのは困ったな。
(そうか今、変化しているからかも?)
「これでどうかな?ワドって呼んでよ」
ドラゴンの姿へと戻る。
すると、村長たちが絶叫に近い驚愕の声をあげ出して、周囲の声に慌ててケタが振り向き、僕を見あげて絶句していた。
村人がパニックで悲鳴をあげる中で、無言のケタと、飛び跳ねて小躍りしているエリーゼだけが、叫んで無く対称的だよ。
「……俺が友達?会った事もないが?ワド?」
「君が名付けてくれたんだよ」
困ったな。
そういやなんだっけ?
確か、「8年後に会った時に」と、思い出す為の事を約束していたはず……
(って待てよ。そもそも何で13歳なんだ?)
エリーゼと出会ってからは、旅がかなり短縮できている。想定の半分の期間で、見つける事ができた。
だとすると6歳ぐらいじゃない?
いや、ここで考えるのはケタとの約束だ。
(……そうだ。思い出したよ)
ドラゴン形態だと音量調整が難しいので、人の姿に変化する。
魔法少女のような高速着衣もこなれてきているし、僕の光の力で大事な所は隠している。
(ふふん、完璧!)
人とドラゴンの姿を切り替える僕に対し、一歩後ずさって引き気味に警戒するケタ。
そしてケタの近くに寄りつつ、フワッとホバリングで着地する。
大きく息を吸って一言。
「僕の歌を聞けぇぇぇぇぇぇええ!」
ようやくケタの魂を見つける事ができました。
次回は「約束の歌」です。