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ドラゴンの人生探求  作者: 元毛玉
ドラゴン学院
118/389

閑話:遠足の引率

前回のあらすじ

ココ伯爵達の船舶コンテストに、遠足として参加したカール先生と子供達。

カール先生の初引率の旅日記です。

ep.「船舶コンテスト」~ ep.「校舎建設とインフラ整備」までのカール視点となります。

 私はカール。ドラゴン学院で講師をしています。

 この度、モンアード様に推薦されて、噂のワールドン王国に移住してきたのです。


「しかし、ルクル師匠との出会いは大きいですね」


 実際に訪れてみれば、何故か幹部に子供がいて、ほとんどの政策に関わっている事に驚きました。

 最初は何の冗談かと思いましたが、政策の成果を目の当たりにし、彼と会ってみれば分かります。この国を運営しているのは、この少年だと。

 私は今回、そのルクル師匠から依頼され、引率の先生として遠足に同行しています。


「ノヤマ様、今回の船旅、宜しくお願い致します」

「カール先生、硬いですぞ?もっと気軽に。景色でも堪能して、くつろぎ下さい」


 そう促され、私は景色に目を向けます。既に南半球に入り、日差しが少しずつ暖かくなってきていました。

 南国の空は、目の覚めるような青さです。季節としても、最も嵐が起きない時期なので、揺れも少なく快適な旅です。


(あぁ、潮風の香りが心地よいです)


「ノヤマ様、我が国のビールは如何です?」

「最高ですぞ!ルクル殿の知識は、世界の常識をも変えますぞ!」

「私も同感です」


 彼の知識は、ただの子供ではあり得ません。特に酒に関する知識は、尋常では無いと思います。

 私も大の酒好きで、特にビールが好きです。だからこそ、彼の卓越した知識が異常だと理解しました。


(師匠こそ、まさしく革命者です)


 今回の遠足は、26日間の旅です。

 王都からモンアードまで陸路で片道3日、船旅が片道9日。現地で3泊4日(実質+2日)の工程です。

 以前の船とは、比較にならない速さです。これまでの船なら、3倍の期間がかかります。これも、師匠の暗躍があると聞いています。


─────────────────────


 あっという間に、南の島へ着きました。すぐに、女子班と合流します。

 澄みきっている青空は、とても近くに感じます。

 エメラルドグリーンの海と、白いビーチサイドも、メイジーにいた頃には見る事のない凄い景色でした。絶景です。


「カール先生、この船は速かったですね」

「おや、リッツさん。その言葉はノサト様に伝えて下さい。それに師匠の功績ですよ?」

「先生、ルクルの事教えて下さい!」


 リッツさんは幼い頃に奴隷になり、船旅の経験がお有りだと聞きました。ルクル師匠も元奴隷だと伺いましたが、あり得ません。あれほどの才能は、国の為に発揮すべきです。彼の才能を見いだしたワールドン様は、やはり女神様です。


「伯爵様達の関係を改善して、健全な技術競争が行われるように、提案したらしいです」

「ルクルってそんな事してたんですか!?」

「ふふっ、リッツ嬢。本当の事ですぞ?緑の最高品質のマナ鉱石も提供してくれました」

「それも……ルクル?」

「そうですぞ」


 私の説明に、ノサト様が本当だと後押しします。ノサト様の回答に、リッツさんは驚いていました。

 技術競争が自然に促される体制の提案といい、詫びに相手が最も有益な物を用いる事といい、師匠は深い一手を無数に打ってきます。子供だとは、とても思えません。


(ですが、それにしても……)


 人馬節(12月)だと言うのに南の島はとても暑く、まるで初夏のようでした。荷下ろしをしていると、汗だくになります。


「先生、お荷物はここでいいですか?」

「センセー!建物も植物も変わってるよ!」

「カール先生、なんでこんなに暑いの?」

「皆さん、1人ずつでお願いしますね」


 子供達は大はしゃぎです。無理もありません。私ですら、年甲斐もなく心が踊りますから。

 建物も建築様式から違います。赤瓦という物が屋根に使われており、どの建物も全体的に低いです。


 植物も見た事がありません。まるで樹木のように高い草が幾つもあります。実も食べられるそうですから、お土産にしましょう。

 それから、先ほどの草と非常に似た形状の樹木もありました。

 こちらは実が食せるとの事で、生徒達と一緒にジュースとミルクを頂きました。ジュースはスッキリした味わいでごくごく飲めます。ミルクは香りも味も甘くて、子供達は喜んでいますが、私は少し苦手でしたね。


(ふぅ、やっと着きました)


 宿泊施設の中に到着して早々に子供達は大はしゃぎで駆け回っていて、引率の仕事は思っていたよりもハードだと感じます。そういえば、先程の樹木も内装に使われていて、硬くてガリガリした質感のシートが不思議な感覚でした。


「カール先生、南国の島は初めてですかな?」

「ええ、南半球に来たのも初めてです」

「それですと料理も驚く事になりますぞ?」

「とても楽しみにしてますよ、ノヤマ様」


 料理はスパイシーな物が多いようです。単に辛いのでは無く、それぞれの植物の良さを活かしていました。


「こちらの植物の苗を手に入れたいです。見たこともない料理が、非常に魅力的です」

「ポポロさん、国に戻って栽培できるとは、限りませんよ?」

「ええ、ですがガトー様とワールドン様がいらっしゃるのです。出来るかも知れません」


 ポポロさんが果物や植物を、手に入れる協力を求めてきました。確かに、神様が二柱もおられるのですから、なんとかなるかも知れませんね。明日の観光名所巡りの際に、現地の方に尋ねてみる事にしましょう。


─────────────────────


 ドザーーー!


 翌日、生憎の豪雨です。出鼻を挫かれました。

 雨音がまるで地鳴りのようです。立ち込める雨の匂いに、立ち尽くす生徒達を慰めて回ります。


(……あれはリッツさん?)


「ガトー様!雲を散らして下さい!」

「吾輩がなんでやるんだにゃん?」

「この雨じゃ出掛けられないでしょ!」


 リッツさんは、ガトー様に御力を使ってのご協力を求めていました。


「すぐに止むから不要だぞにゃん」

「え、そうなの?」

「「そうですぞ!安心下さい、リッツ嬢」」


 ガトー様の言葉を、ココ伯爵様達が肯定していました。実際、10分もしたら雨は止んで、カラッと晴れており、先ほどまでが嘘のようです。


「「「わー、すげー!虹だー!」」」


 男子達は水たまりも気にせず、走り回っています。

 女子組は、転写の魔術具で撮影しながら観光名所巡りをするようです。私やポポロさんも走る元気が無いので、こちらに合流しました。


「お前ら、吾輩についてこいよにゃん!」


 男子はガトー様が率いているので、問題ないですね。ポポロさん&テトサさんとで、現地の人と交渉しながら観光しました。

 種や苗を快く譲ってくれましたよ。

 眼前に広がるサトウキビ畑を見た時の、ポポロさんのテンションは凄かったですし、「手に入れれば、ワールドン様に甘味をもっとお出しできる!」と、興奮していました。


「全く、これだから。ウチ、止めてきます」

「テトサさん、お願いします。……おや?」


(あそこに見えるのは……ひょっとして?)


 私は気付くと、すぐに駆け出してしまいました。

 夢中になって、そこに生えている植物を検分し、香りや味を確認していきます。


「カール、ナニシテルアルカ?」

「すみません!今、大事なとこなんです!」


 師匠が欲しいと言っていたホップ。ガトー様経由で、味と香りを【伝心】(    )して頂きました。その中で、特に欲しいと言っていた品物です。


「こんなに沢山あるなんて……」

「カール、ソレ、ニガクテ、タベラレナイ」

「ホップはビールに必要ですよ!」

「えー、カール先生まで暴走するの?ウチ1人じゃ、もう面倒見きれないよ~」


 宿泊施設に戻ったら、皆から叱られました。思わず我を忘れてしまい、反省しています。

 しかし、現地ではただの草と認識されているとは……とても勿体ない。でも、今回は助かりました。大量に譲って貰えたのです。伯爵様達に依頼して、船に積み込みました。

 夜には、それぞれのグループで思い思いに過ごしています。私はリッツさんから相談の呼び出しを受けました。


「それで、リッツさん。相談とはなんですか?」

「カール先生、実は……」


 どうやら、ルクル師匠に追いつく為の、特別補習をして欲しいみたいです。


「では、夜間の大人向けの授業に参加して下さい。まず昼と夜の両方で首席を取ること」

「はいっ!首席を取って、特別補習受けます!」


 そんな事などもありまして、現地での日々はあっという間に過ぎました。急いで帰り支度をします。行きと帰りで乗る船を変えるので、復路はノサト様の船になります。女子班をノヤマ様に任せる挨拶に伺いました。


「ノヤマ様、女子班をよろしくお願いします」

「ええ……」

「あの、ガトー様がすみません。気分を害されたのなら謝罪致します」

「ハハハ……仕方ないですよ。今回は負けです」


 船内スペースが寛ぎやすいノサト様の船が良いと、ガトー様が居座っています。

 往路でも船内スペースに籠もり、出て来られなかったとの事でした。どうやら海の香りが、苦手でいらっしゃるようです。


「「「ただいまー」」」


 全工程を終えて無事に、ワールドン王国まで帰ってきました。

 私達のお土産に、皆様は興奮していますし、ワールドン様はサトウキビや果実にご執心です。


「先生!このお土産は、本当に素晴らしいですー!俺、一生先生についていくよー!」

「ほほほ、師匠から聞いていたホップに近かったので、現地で交渉して大量に手に入れました」

「それはなんですにゃ?」


 師匠が私のお土産を、喜んでくれています。

 頬ずりしていて、ちょっとキモイです。少し前までの自分自身を見ているようで、とても反省しました。


「これはねー、ほぼシムコーなんだよー!」

「シムコーってなんにゃ?」

「旨いビールが造れるという事ですよ、カルカン君」

「カール先生、それ本当にゃ!?」


 ビールという言葉にカルカン君も、ビール造り部隊も好反応で食いついてきます。



(さて、師匠の新しいビールが楽しみですね)



遠足の引率は大変だったようですが……本人もホップではしゃいでるので楽しんでいたのでは無いでしょうか?


次回はエリーゼ視点の「閑話:朝日と夕日」です。

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 お邪魔しています。地球規模の世界観がよく分かりました。  いたって普通の感覚をもったカールの視点っていいですね。世の中、新鮮なことがよく分かります。ただ、ホップを見つけたのは、大功績だったんですね…
[良い点] 人馬節(12月)←これありがたいです! [一言] いいですねぇ〜、自分も一緒に付いて行きたいです
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