留学生と副担任
前回のあらすじ
メイジーとカービルの国境沿いの村と港町を制圧しました。そして新たな国境林を作ります。
一段落した所にロワイト・ホリター前大公と、バラン・カーボス伯爵が訪ねて来ました。
ポポロがバラン君達を、観光案内へ連れてったよ。
ロワイトからは、前回との変貌ぶりに驚かれた。ま、ガトーが来てからの建設ラッシュは凄かったし、インフラも整ってきたからね。
そして、最大の目玉は……ホバーバスだよ!
大型乗り物の開発には苦戦していたけれども、つい先日完成したのさ。これが完成したから、カルカンを出向させられたんだ。
乗客員最大36名のバス。だけど、異世界でのバスとは形状がかなり違うの。んーー、なんていうか円盤?UFO?
僕の【伝心】したバスイメージの形状はホバー向きじゃないらしくて、円盤状にした方が安定すると判明したらしい。
でも、使う最高品質のマナ鉱石が尋常では無いので、量産には向かないとの事。半年に1台ずつしか生産できないってさ。
ちなみに、農業自動化もかなり進んだよ。
ブールボンの散水の魔術具。そこに異世界のスプリンクラーを追加導入していて、使われている技術は桁違いだ。マナ回路技術者ヘーゼルの力作だよ。
僕のマナ濃度に応じて、散布量が自動調節される仕組みが導入されている。勿論、作物毎に散布量を設定可能だ。青のマナ鉱石が手に入ったことで、区画へ均一に散水する仕組みも実現した。
要は苗植えと収穫以外が全自動になったの。
コンバインも高性能になっているから、苗植えや収穫も効率が段違いになったよ。
ビノーが開発していた、バイオ化学繊維もサンプルが出来た。手が空いた農民達は修学に時間を割いて、色んな事ができるようになったんだ。
でも、これらはやっぱり、黄金聖水あっての偉業だよ?かなり無茶なブラック開発だったのに、誰も倒れないでメキメキ進んでいる。
つまり、僕のおかげだよ!(ドヤァ)
「ワールドン様、お話に聞いてた以上に凄いです。1年かからず、これ程とは驚きです」
観光から戻ってきたバラン君達を、迎賓室で持て成していた。バラン君は本当に感嘆したようだ。
「折角なので、夕食をご一緒しようよ!」
「ええ、喜んで。光栄です」
なんかさっきから、ロワイトが無言だよね?
ちょっと【伝心】してみた……けど、怖いよ!
めっちゃルクルを欲しがっている。ずっとルクルの事を考えていて、ショタなのかと思っちゃったくらいだよ!
「ロワイト、ルクルはあげないからね?彼は僕の国のギルドマスターなんだから」
「いえいえ、ワールドン王国から引き抜こうなどとは考えておりませんよ?」
「1人娘に媚薬使わせての、既成事実とかも絶対にやめてね?」
「……はて?なんの事でしょう?」
(いや!伝心でバレてるからね!)
僕らは夕食が用意されるまで、ジンジャーティーを楽しんでいた。生姜の香りが部屋中に漂っている。
「ワールドン様、生姜が名産なのですか?」
「ん?違うよ?生姜はあんまり取れないかな?」
「そんな貴重なものを頂いて良かったのですか!?」
「毎月1tは採れるから、余ってるけど?」
バラン君は驚愕している。なんか話が噛み合わないなぁ。
「カーボス伯爵。ワールドン様の国で成される事は通常の尺度では測れないよ」
「どうやら、そのようです。常識が邪魔をしますね」
ん?僕の常識が無いって話なの?なんで?
そう思っていたら、料理が運ばれてきた。
「これは、どういった料理ですか?」
「ワールドン様、この料理は愚息からも聞いておりません。珍しい料理ですね」
「これはルクルに教えて貰った、異世界の日本料理ってのだよ。海産物がこれまでは輸入だったけど、これからは自国で獲れるしね」
ふろふき大根とほうれん草のおひたしが、最初に運ばれてきたよ。
これまではモンアード君からワカメ、コンブ、カタクチイワシに似た食材を輸入していた。だけど、これからは自国で獲れるの。港町はやっぱりいいよね。
【伝心】で箸の使い方を伝えたけど、2人は苦戦していたね。フォークやナイフもあるよって伝えたんだけど、ムキになって箸にチャレンジしていた。
「これは旨い。このかかってる餡はなんでしょうか?変わった風味です」
「これは豆の発酵食品ですかな?」
「そう。流石だねロワイト。熟成発酵させたの。僕の力でね!(ドヤァ)」
様々な料理が次々に運ばれてくる。お、いい香りがすると思ったら鍋もあるのか。
「これらはどれも珍しい料理ですな」
「えーとね、枝豆、冷奴、串盛り、焼き餃子、それから、塩モツ鍋だよ。ビールと一緒にお勧めだよ」
「このビールはブールボン王国と全然違いますね。苦味がありますが、スッキリしていて美味しいです」
「ビールも、ビールに合う料理もルクル考案だよ!」
バラン君は驚き、ロワイトは納得の表情をした。
でも、僕は塩モツ鍋よりも、カニ鍋の気分だったんだけどなぁ。
ちなみに、僕の力でカニの養殖も実現している。
ルクル曰く、カニの養殖は難しいから助かったとさ。
「素晴らしかったです。私も移住を前向きに検討致します。よろしくお願いいたします」
「それでは、私も……」
「あ、ロワイトは移住しなくていいからね!」
「そ、そうですか」
バラン君が移住&移籍に前向きなのは良かった。
「ルマンド殿にも、早く報告したいです」
「じゃあ、今から連絡する?」
「「は?」」
二人は困惑しているけどさ、白のマナ鉱石が手に入って、鉱石ラジオの魔術具が完成しているのよね。
……ピー、ザザ……ザザザ……
「あー、ルマンド君。こちらはワールドン。聞こえるかな?返答してくれる?」
僕は魔術具を持ってきてもらって、使って見せた。歓談しながら待つ事、3分。受信側に反応があったよ。
……ピー、ピー……ザザ……ザザ……
「……こちらルマンドです。聞こえますか?」
周波数をこっちとルマンド君で変えている。
それでお互いに発信しあう事で、無線機のような使い方をしているんだ。ちなみにルマンド君に届けたのは、ドラ猫ラジオの宅急便ことガトーだよ。
「バラン君が話をしたいんだって。代わるね?」
「……はい。カーボス殿、どうしました?」
「ルマンド殿、私は移住を今決めました!」
はい?いきなりバラン君が決意表明したよ?
さっきは検討だったから、理由を聞いてみたら鉱石ラジオの魔術具を見て、踏ん切りがついたんだと。
「ルマンド、この魔術具の事は聞いてないぞ?」
「……ち、父上!?これは5日前に頂きまして」
ルマンド君が平謝りをしている。やっぱりロワイトは、ホリター公爵家の中でも特別な存在なんだな。
「……父上、ワールドン様にご報告があるので代わって下さい」
「あぁ、分かった。ルマンド。媚薬を多く用意しておけ。エリーゼに使わせる為にな」
(だから、ルクルを既成事実で狙うのはやめてよね)
僕はロワイトから魔術具を取り上げて、部屋の隅の方に少し移動してから会話をする。
「ごめんごめん、媚薬云々は無くていいから。それで僕に話って?」
「……ドラゴン学院に、留学希望の平民がいるのですが、どのように致しましょう?」
「平民?なんで?」
確かに、留学希望者がいるなら連絡してと伝えていたけどさ、平民は予想していなかったよ。
「……エリーゼの紹介で、ガトー様も知り合いだと仰ってました。伝心で読み取ったので確かだと」
「ガトーが?ちなみになんて名前?」
「……サブロワと。ご存じでは?」
お、サブロワ君なのか!それなら大歓迎だよ。
「知ってる。多分、OKだと思うけど。ギルドマスターに確認してから折り返すね」
「……はい。ルクル殿によろしくお伝え下さい」
バラン君もサブロワ君も、許可が出た。
バラン君は副担任として、学院で働く事になったよ。対貴族のマナーや交渉術や目利き、高度なマナ工学や法則理論を主に担当する予定だ。夜間の大人向けの授業も、担当してくれるって。
それから温泉組合の女性達が、家庭科の授業を受け持つ事になったよ。料理、裁縫、洗濯、掃除に加えて、仲居の体験授業にも対応してくれるんだ。マジ感謝!
家庭科の授業は、女子だけじゃなくて男子にも人気があったね。まぁ、温泉宿で働けるスキルが手に入るってだけじゃなくて、テトサが人気なんだけどさ。で、めちゃくちゃ競争率が激しいらしいよ?
「おーい、ワド!安心安全の低空飛行で連れてきたぞにゃん!」
「ガトー、おつかれだよ!」
「あー、大学芋が食べたいぞにゃん」
ガトーがそういうのを予想して、既に用意してあるんだなこれが。予想したのはルクルだけど。
「お久しぶりです!ワールドン様!留学のお誘いを頂き、ありがとうございます!」
「サブロワ君、そんなに固くならなくてもいいよ。アン達も喜ぶと思うよ。あとリッツもね!」
「……は、はいっ!」
ありゃ、サブロワ君はリッツ苦手なのか。リッツの名前を出すと、視線が泳いでいたので気付く事が出来た。
前回会った時、めちゃお姉さんぶっていたからね。ミルネさんもいるから、年上の女性が全般的に苦手っぽいな。【伝心】で覗くとそんな感じだった。
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「皆さん、今日から副担任の先生と、留学してきた転入生が加わります。仲良くして下さいね」
僕は授業参観で参加していた。カール先生が紹介して二人が自己紹介を始める。
「バラン・カーボスと言います。よろしく」
「サブロワです。留学してきました。これから、よろしくお願いします」
サブロワ君はリッツと元孤児院組の4人の女子に囲まれている。さっそく男子生徒から嫉妬の感情が向けられていたよ。
(サブロワ君……色恋沙汰で刺されないようにね?僕、Nice boatとか見たくないから!)
講師も増えて、留学生も来て、学院は順調だよ!
リッツとアンはモテる女子です。
その二人にチヤホヤされるサブロワは早速恨みを買っています。
※サブロワはブールボン王都で出会った平民の少年です。
9章「ドラゴン学院」の本編はここまで。
今回の別キャラ視点の閑話は5話予定です。
・遠足の引率先生を務めるカール先生視点
・新年祭の様子を描いたエリーゼ視点
・港町と船旅を描いたテトサ視点
・カービル帝国のヤオシーサ・ドウエン視点
・ブールボン王国からの留学生サブロワ視点
となります。
次回はカール視点の「閑話:遠足の引率」です。