港町巡り・後編
前回のあらすじ
アルフォートと出会って、隣町まで旅を一緒にしていました。
隣町にはアルフォートの姉がいるそうですが……ワールドンはその危険性をまだ知りません。
「ふぅーーー!女神様は僕っ娘でしたわ!」
「え?え?アルフォート?」
「……こちらが私の姉です。ワールドン様……」
アルフォートとお話ししながら、11番目の港町に入っていった。
まだこの頃は変化とホバーに慣れて無くって、若干浮いて空中を滑るように歩いていたかな?
そのUMAを見た彼女は目を輝かせ、一直線に駆け寄ってきた。
そう。エリーゼとの出会いがこれだったんだ。
アルフォート曰く、エリーゼは問題児(というか成人してるけど)らしい。惚れ込んだものには見境なく突撃する性格で、困っているとの事。エリーゼに聞かれない様に【伝心】でアルフォートと内緒話をする。
『姉は少々、暴走する事がありまして……』
『そんな重要な情報を後出しじゃんけんされても困るんだけど?』
そういう事は、先に教えて欲しいよね。
僕は困った表情をしながら、次を促した。
『ワールドン様の美しさであれば、姉が惚れ込むのは分かっておりましたので。どうか家に戻るように説得をお願いできませんか?』
『えー、一応やっては見るけどさ……君の姉でしょ?なんとかしてよ?』
『それが出来たらワールドン様にお願いしていませんよ』
どうやら、アルフォートのいう事を全く聞かない姉らしい。
でもさ、アルフォートは何も分かって無かったんだ。
連れ戻すどころか、勝手にどこまでもついてく信者が生まれるなんて、思って無かったみたい。
エリーゼにずっと付きまとわれたから、今なら分かる。あれは消火じゃなくて、火にガソリンをくべる行為だよ。
説得で家に戻るどころか、家の財産を全部持ち出して、僕を追っかけてきた。アルフォートは事態収拾に追われ、逆に家へと帰って行った。
(……どうしてこうなった?)
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それから、エリーゼとの旅がはじまった。
最初は、従者が20人ぐらいついて来ていたんだけどさ、エリーゼが工作して最終的に3人になっていた。
エリーゼから「わたくしと、ワールドン様の仲を割こうという従者には、帰っていただきました」と満面の笑顔で言われた時、初めてゾワゾワっと悪寒を感じたのを覚えている。
旅先で別行動になる時は、ちょっとホッとしていたんだ。移動中はずっと至近距離にいて、何かちょっと落ち着かなかったから。
(でも、それは罠だったんだよ!)
街中で別行動になった時、エリーゼが行っていた事は、僕の布教活動だった。
滞在1日目、2日目。3日目と経過していくと、どんどん町の人の反応が変わってくるんだ。
どこの港町にいっても、同じ感じだったな。
明らかに「何かおかしい」と思ったので、町の人に聞いてみたら「エリーゼ様にワールドン様の素晴らしさを教えて頂きました!」だとさ。
お金を渡して素晴らしさを理解して貰ったり、物理的に素晴らしさを理解して貰ったり、薬品を使って素晴らしさを……って待って!
僕は逃げ出した。
だって、だってしょうがないじゃない。
最初は注意したんだ。でも彼女は止まらない暴走列車なんだよ。
会話も、怒涛の勢いにいつも押し切られてしまう。
「エリーゼ、僕の布教活動は控えてくれないかな?そういうの困るんだ」
「まぁ!ワールドン様が一切お困りにならない様に布教しますわ!誰が迷惑と言ったのでしょうか?わたくし今から説得に行きますわ!」
「いやいや!誰も迷惑なんて言ってないんだ!落ち着こう。僕がちょっと困るだけで……」
「大丈夫ですわ!お困りにならない様、徹底的にやってやりますわ!任せて下さいませ!」
(僕、悪くないよね?逃げてもいいよね?)
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汽車での移動を諦めて、空を飛んで別の港町に避難した。
その次の港町に移動した時に、逃げられない事を悟る。
「ワールドン様!お待ちしていましたわ!この港町と周辺の港町は全て教育済みですわ!」
「え!?周辺って?待って!待って……」
「この大陸の北側の21の港町全てですわ!」
「エ、エリーゼ!?ど、どういうことなの?」
「そんなに喜んで頂けて、わたくし、幸せですわ!さぁ次は内陸でしょうか?わたくし、もっともっと頑張りますわ!」
喜んでいません!僕は全く幸せじゃありません!
僕は泣きたい気分だよ!
近くに置いて監視していたほうが、エリーゼからの被害が少なく済むという事を学習したよ……
ただ、どの港町でも熱烈歓迎されて、金銭的な問題も、エリーゼという強力な財布のおかげで無くなった。実質的な被害は、僕が通行人に涙流して拝まれるくらいさ。
(……僕のエンジョイライフどこで狂ったの?)
でも、エリーゼのおかげで、スイーツに関しては充実している。僕のこの旅での1番の楽しみだ。
彼女の暴走さえなければね。
『こんな感じのが、パフェって言うんだけど……』
【伝心】でエリーゼにパフェの見た目と、味・香り、食感を伝える。
「このようなスイーツ見た事ありません。全ての国にあらゆる手を尽くし探し出しますわ!」
「いや、もしかしたらまだ無いかも?」
「なんですって!?それでは料理人に作らせますわ!必ず近日中にお持ち致します!」
いや、あったらいいなーぐらいなんで、頼まれた料理人が、深夜番組のように大幅ダイエット成功しそうな、強引な方法は求めていないんだけど?
(あ、ダメだな止まる未来が見えない。捕まった料理人の人、頑張って。応援だけしてる)
フレンチトーストやパンケーキは類似品があったので、一言気軽に「おいしい」と言ってしまったら、次の日から頼むとすぐに出てくるようになった。
文字通りのすぐだよ?
そこの料理人さんは連行されて、旅に強制参加していて、移動中いつでも調理できるようにスタンバイしていたらしい。どうりで香ばしい香りがいつも漂っていたんだな……と。頑張ったんだな料理人さん。
ちなみに僕は一度も会った事が無い。
流石に、気軽においしいとも言えないのは辛いので、苦言を伝えた。
「おいしい料理作れる料理人を、引き抜くのはやめようね」
「ワールドン様においしい料理をどこでも食べて頂きたいと思うのは、料理人として当然ですわ!」
このままではマズイと感じた僕は、ワタワタしながら慌てて軌道修正を図る。
「ほら、その土地に行った時の驚きというか、旅先での楽しみの確保も必要だから……ね?」
「気が利かなくて申し訳ありません。各町にちゃんと配置するように致しますわ!」
それからは数日間の強制連行で、お抱えの専属料理人がレシピを習熟したら、解放されるようになった。
解放時に「次にワールドン様が訪れた時に、驚かせる料理を開発しなさい」と笑顔で脅している現場をみた。
(いや、僕は何も見てない。見ていないよ)
でも「黄金の女神が通過した町は料理人が消える」という不本意な噂は、なんとか解消する事ができた。
このホーミング地雷をどうすれば撤去できるのか、ケタに早く相談したい。
道中で、貴族のいざこざに巻き込まれた事もあったな。
なんか、分家と分家で、どちらが本家を継いでいるかで、ずっと争っている有名な一族らしい。
その争いにガソリンをくべたのもエリーゼだし、僕が文句言ったら、手のひらドリルしてマッチポンプ消火したのもエリーゼだった。
ただ、そのお家騒動は一旦棚上げしただけなので、ケタと合流した後の宿題として残っている。
なんだか探す前から帰りの気が重い。
それと、エリーゼが同行するようになってからは、移動時間を分単位で気にするようになった。
なぜなら僕が遅れたら、エリーゼが汽車の運行を止めちゃうから。
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「運行ダイヤは決まってるんで困ります!」
「あら?ワールドン様がお乗りになられる栄誉なのに待つ事もできないなんて、教育が足りていない人がいたみたいですわ!」
背筋が凍るようなエリーゼの笑顔を見ました。
その運転手さんは行方不明になりました。
僕は時間を絶対に守るようになりました。
運転手さん。草葉の陰から見守っていて下さい。
……僕、頑張ります。
運転手さんはお星さまになったのです。
回想は終わり、次から物語本編に戻ります。
次回は「魂の再会」です。