閑話:風ガードの特訓
前回のあらすじ
風の一柱であるインビジブルドラゴンが、猫魔族の国に電撃訪問してきました。カルカンの招待状を持っていた事で、トスィーテが応対しています。二人の変化の特訓の日々です。
ep.「ドラゴン建国する」~ ep.「秘密の特使」までのトスィーテ視点となります。
「下着が見えたにゃん!やり直しにゃん!」
私は猫魔族のトスィーテ。
救国の英雄の娘で、まだ頼りない兄を支えて頑張っている17歳の猫魔族です。
お父さんに恥じない自分で在りたいと、いつも思って自分自身を厳しく律しています。
(お兄ちゃんが頼りない分、私が頑張らないと……)
そして今は風の一柱のインビジブルドラゴン様の、変化の特訓に付き合っています。
インビジブルドラゴン様はよりによって私を変化の姿に選びました。
(光栄な事だとは思うけど、その姿で裸体や下着を見られるような行動は絶対に見過ごせない!)
「また見えたにゃん!木の葉ガードは無理だからもう諦めるにゃん!」
「だが、砂埃もダメで木の葉もダメとなると……あと何があるんだ?」
「語尾を忘れてるにゃん!」
「おぅ……ごめんなさい、にゃん」
私がインビジブルドラゴン様に「もう人前での変化と解除を諦めるように」と何度進言しても諦めてくれません。ワールドン様が綺麗に変化するのを見て憧れているみたいです。
(確かに光ガードは凄いけど……私だったらあんな半裸は見せられない。恥ずかし過ぎる……)
そうして、ワールドン様の光ガードを思い出していると、ふと気になる事がありました。
(そういえば……あの御姿は誰なんだろう?)
「インビジブルドラゴン様、今日はもう終わりにしましょうにゃん。もう日没にゃん」
「うむ、そうだな!……にゃん!」
「所でワールドン様の御姿は、有名な人族なのですかにゃん?」
インビジブルドラゴン様は口をあんぐりと開けて驚いていました。私の姿でそんなマヌケな表情は正直やめて欲しい。
「え?ホントに知らないのか?あれは虚無の女神様の御姿だぞ?……にゃん」
「えぇ!?虚無の女神様ですか!?」
「おい!トスィーテも語尾忘れてるぞ!にゃん!」
「あ……あんまりにも驚きましたにゃん」
(語尾を忘れるなんて、私とした事が……)
虚無の女神様は、とても恐ろしい御姿だと伝承されています。でも、誰も見たことが無く姿絵も一切残っていません。
輪廻の女神様の姿絵は、何名かの異世界の賢者様達が残されています。それらに共通点があるのでその御姿なのだろうと目されていました。
ワールドン様はどこで虚無の女神様を拝見なさったのでしょうか?
「虚無の女神様にお会いになれたのですかにゃん?」
「ん?あの御方は顕現してないから神界でしか会えないぞ。にゃん」
「……他の神様も見てみたいにゃん」
私の呟きに、インビジブルドラゴン様が微妙な表情をしました。
「あー、それワールドンの前では絶対に言うなよ?」
「どうしてですにゃん?あと語尾気をつけるにゃん」
お話を聞いて驚きました。ワールドン様は神界では目が見えないとの事です。光の一柱であるワールドン様は自身が光の化身で在らせられるので、色が見えないそうです。それを嘆いて数十億年前に顕現し、現世に降り立ったとお話を伺いました。
(そのような過去があったなんて……)
そして、光の力さえも失わせる虚無の女神様の御姿だけが、唯一ワールドン様が見る事が出来た存在との事です。
「虚無の女神様は、他の眷属神では誰も見えなかった。ワールドンだけが見れたから、伝心で見せて貰ったんだ」
「インビジブルドラゴン様もですかにゃん?」
「おぅ、見えなかったぞ。ある意味、ワールドンの変化で全ての生物がようやく目視できたな……にゃん」
インビジブルドラゴン様をはじめとした他の眷属神のドラゴン様達は、ワールドン様に誘われて顕現したそうです。
それにワールドン様は、その事を忘れていらっしゃるようです。虚無の女神様と会えなくなったのが辛かったのだろうとインビジブルドラゴン様は仰りました。
凄い話を聞いてしまいました。今日は興奮して中々寝付けません。秘密だと言われたので墓まで持っていきます。明日からまた言葉と変化を教える為にも、早く寝付かないといけないのです。
翌日。
危うく寝坊してしまう所でした。
なんとかインビジブルドラゴン様より先に起きて、朝食の用意を始めます。インビジブルドラゴン様は甘味がお好きなので、一品必ず用意しています。
(今日は、大学芋にしましょう)
ルクル様から苗のお礼にレシピを幾つも頂きました。そのお蔭で食卓が随分とバリエーション豊かになっています。
「インビジブルドラゴン様、朝食ができましたにゃん!」
「お、今いく!にゃん!それと夜通しで書き取りできたぞ、にゃん」
「随分と進みましたにゃん。今日は変化の着替え特訓に注力しましょうにゃん」
終日特訓して日没の少し前に自宅へ戻りました。
「ん?ワールドンが近くに来たぞ……にゃん」
「私が見てきますにゃん」
インビジブルドラゴン様に教えられて外を見ると遠くに巨影が見えました。うっすらと金色に光っているようにも見えます。辺りはかなり暗くなっていますが、その光を目印にして私は近くに急ぎました。
「ワールドン様、お久しぶりですにゃん!」
「カルカン妹の……トスィーテちゃん?久しぶり!」
ワールドン様は人族の女性を幾人も連れていました。紹介されたのはリゼ様とリッツさんだけでしたが、他にも4名の女性がいらっしゃいました。姉妹との事で4人の相部屋で良いかを聞いてみたら、快諾してくれて一安心です。
(それにしても……)
アンさんは巨乳です。私はあまり大きくないのでコンプレックスを感じます。
私が浮かない顔をして戻ったら、インビジブルドラゴン様に心配されました。
「心配して伝心してみたら、なんだトスィーテは胸がコンプレックスだったのか?にゃん?」
「伝心で覗くのはダメですにゃん!」
「おぅ、ごめんごめん!だったらパッドってのをいれるといいらしいぞ?にゃん?」
(この緑色のお馬鹿さんは……今なんて言いました?)
「私、耳が聞こえなくなったようです。もう一度お願い致します」
「ちょ!マジギレはやめろよ、軽い冗談だろ?怒りで語尾を忘れてるぞ?にゃん?」
「次は……無いと思うにゃん?」
インビジブルドラゴン様改めガトー様は必死にコクコクコクコクと頷いていました。
私もまだまだ精神的に未熟なようです。
成人したのだからもっとおおらかにならないといけませんね。明日の為に早く休みます。
─────────────────────
(ワールドン様とガトー様がうるさくて一睡もできませんでした!)
私におおらかはまだ無理のようです。
「お二人共、昨夜はお楽しみでしたのにゃん?女子会オールではしゃぐ時は声の音量に気をつけるにゃん!」
2人を叱った後、エリーゼ様が国王様との謁見に向かいました。
エリーゼ様はリゼ様と同一人物だそうですが、雰囲気は別人です。私はとても驚きました。
それからワールドン様達が私の成人のお祝いをしてくれました。本当に嬉しかったです。
……でも、お兄ちゃんにはガッカリしました!
ガツンとワールドン様に説教しておきます。ワールドン様は責任を持ってお兄ちゃんに【伝心】すると請け負ってくれました。
ワールドン様達が帰られた後は、ガトー様と変化の着替えの特訓です。毎日のように特訓に励んでいます。
ガトー様は「ちょっとくらいならいいだろ?」と、甘えた事を言っていますが、私の姿でそんな事は絶対に許しません!
「おう!今日はいいネタあるから期待していいぞにゃん!」
「……本当にゃん?」
毎日のように同じ台詞を聞いています。
今日は遥か上空まで飛んで雲の上で着替えました。
初めて着替えが見えなくて成功したように思いました。
ですけど詰めが甘いです。地表に戻って来る際にスカートの中が見えてしまっています。
「ワールドンの案でもダメだったのか!ちょっと厳しいぞ、にゃん!」
「私の下着が見えたらダメにゃん!」
「他のやつの下着ならいいのか?にゃん?」
「私のセンスが疑われるから、もっとダメにゃん!」
ガトー様は乙女心を何にも分かっていない。
見られる事よりも、見られても平然としているのがダメなのに全く分かっていない!
こんなんで許可なんか出せる訳ないでしょう!
まだまだ修行の日々が続きそうです。
そう思っていたら、ある日突然、お兄ちゃんと【伝心】を繫ぐと言い出しました。
私は良い機会なのでここぞとばかりにお兄ちゃんへ説教しました。
『お兄ちゃん!そのポッコリお腹はなんなのにゃん!?』
『トスィーテ、これは海より深い理由があって……』
『いい加減にするにゃん!どうせお酒飲んで運動しなかっただけにゃん!』
『はい、ごめんなさいにゃ』
『カルカン……お前も苦労してるんだな……』
どうやらお兄ちゃん経由で、ルクル様にアドバイスを求めるつもりのようです。
「なんと言っても異世界の知識があるし、吾輩の名前も一発で決めてくれたからな!」
「……語尾ついてないにゃん」
「おぅ……ごめんにゃん」
─────────────────────
どうせ今回も同じと思って見ていたら、ガトー様が透明になりました。服も下着も一切見えない。
凄い……と思ったらまだ甘い所があります。
でも、この変化の着替えなら完全に隠せるから、ひたすら練習すれば良いと思います。
「もっと、精度を上げるにゃん!」
ちょっと上手く行き始めたら、今度は妙にカッコつけ始めました。そういうのは完璧になってからにして欲しいと思います。
ガトー様はすぐに調子に乗るから叱る方も大変です。
そして、数日の特訓が過ぎて……
「いくぞ!変!身!」
(完璧……全く見えない。ここまで来るの長かった……ルクル様、本当にありがとうにゃん!)
「いやー上手くいったな。見えないからやっぱり胸にパッド詰めとくかにゃん?」
「…………」
「お、おぅ、吾輩が全面的に悪かったぞにゃん!そんな深淵を覗くような目は怖いからやめろ……やめて下さいにゃん!」
……次は……許さない……
私は、このお調子者の神様を世の中に放っていいのか、今までで一番不安になりました。
合格をもぎ取るまで……色々と大変だったようです。
緑はお調子者なので、無自覚のセクハラやモラハラをしてきます。
その度に深淵を覗くような目でじっーと見つめるという反撃をしていました。
神をも恐怖させる視線は凄いです。
次回はベコウ・ストロー視点の「閑話:すれ違いの訪問と会長就任」です。