第1話 ぽち の るなちゃん・・・待っててね。
くんくんくんくん・・・・・。
くんくんくくくん。
ぼくは自分の鼻で思い切り地面をにおいながら歩き続けていた。
「ねえ、そこのわんちゃん。そんなに下ばかり見て歩いていたら、木にぶつかっちゃいますよ。」
ぼくが、声のした方を見上げると小さなかわいいリスさんが木の上から ぼくを見ていた。
「ありがとう。りすさん。」
「なにか探しているの?」
「うん。そうなんだ。」
「何を探しているの?落とし物?」
「ううん、ちがうよ。」
ぼくのしんけんな顔を見て、りすさんはこう言った。
「まあ、お座りなさいな。この木の涼しい所で休んで話してみて。」
「うん・・・・。」
ぼくは話し始めた。
ぼくの名前はぽち。
どこにでもいるふつうの犬だ。
そしてぼくの大好きな女の子は、るなちゃん。
とってもかわいくて、とってもやさしい世界で一番大好き。
ぼくはるなちゃんと遊んだり、一緒にお散歩したり、一緒にお昼寝したり。
とにかくぼくはるなちゃんといるととっても幸せ。
でも・・・。
「でも・・・どうしたの?」
ぼくが悲しい顔をして何も言わないから、リスさんが心配して聞いた。
「あのね、るなちゃんが・・・。
るなちゃんは・・・。びようきってのになってしまったんだ。」
「まあ・・・。」
「るなちゃんは、今、にゅういんってのをしてて。
お家にはいないんだ。
ぼくはずっとずっとるなちゃんを待ってるけど。
るなちゃんはしゅじゅつってのをするんだって。
お家でお父さんとお母さんが話してたのを、ぼく聞いたの。」
「まああ・・・。それは心配ね・・・」
リスさんは心配そうにぼくに言った。
「お母さんがお父さんに言ってたの。
るなちゃんはしゅじゅつってのが怖くて泣いてるんだって。
そしてぼくにとっても会いたがってるんだって。」
「そうね、ぽちちゃんもるなちゃんに会いたいでしょうね。」
「うん。ぼくは何回もお母さんに、ぼくも病院に連れていってってわんわん鳴いてお願いしたけど。
お母さんは悲しそうにため息ついて、ごめんねって。ぽちも連れていってあげたいけど、病院には犬は入れないのよって言うんだ。」
「そう、そうなのね。」
「それでね、お父さんがこの前、ぼくの頭をなででくれながら、言ったんだ。
<なあ、ぽち。るなちゃんがしゅじゅつを怖くなくなる薬があればなあ>って。
だからね。ぼく決めたんだよ。ぼく、るなちゃんのお薬を探すんだ。」
「まああ。あなたが?そのお薬ってどこにあるのか知っているの?」
「ううん。分かんない。でも、ぼく、ぜったいるなちゃんのためにその<怖くなくなるお薬>を見つけるんだ。」
「そう・・。それで、さっきからずっと地面をくんくんして探していたのね。」
「うん。」
リスさんはぼくの話を聞いてから、少し何か考えて、ぼくに言った。
「ねえ、ぽちちゃん。私に良い考えがあるんだけど・・・・」
今、ぼくとりすのマリお姉ちゃん(リスさんはぼくよりだいぶんお姉さんだったんだ)は森の中をぐるぐる歩いてる。
「ねえ、マリ姉ちゃん。もうだいぶん歩いてるよ。ぼく、早くるなちゃんのお薬を探しに行きたいんだ。」
「まあ、待って。もうすぐだからね。」
ぼくの背中に乗って右とか左とか道案内をしてながら、マリ姉ちゃんは森の木をじっと見つめてる。
「ここだわ!」弾んだ声でマリ姉ちゃんが言った。
「こんにちは~。」
マリ姉ちゃんは森の奥に立っている一本の大きな木に向かって大声で叫んだけど、返事は返ってこない。
「ぽちちゃんも大きな声で呼んでちょうだい。」
マリ姉ちゃんに言われてぼくも大きな声で叫んだ。
「こんにちは~!」
ぼく達の声は森中に響き渡ったみたいだった。
すると木の上の方から声が聞こえたんだ。
「ふわわわ~。誰じゃい。うるさいのう。」
その大きな木の上の方の穴から顔を出したのは、大きなみみずくだった。
「あら、お昼寝中だったのね。じんじい。ごめんなさい。でも、ちょっと急いでいるのよ。じんじい。この子の話を聞いてあげて欲しいの。」
みみずくのじんじいさんはきのうろ(穴)から出て来て、マリ姉ちゃんがぼくの話をするのを黙って聞いていた。
そして話が終わると、みみずくのおじいさんは木の上からぼくの目ををじっと見つめながら言った。
「なるほど、なるほど。<怖くなくなる薬>か・・。
マリや。森の中のことはわしはたいていは知っておるが、その薬は・・・・。」
難しそうな顔をして言葉が途切れたみみずくのおじいさんにマリ姉ちゃんが言った。
「じんじい。じんじいなら、知ってるでしょ?お願い。なんとか助けてあげて。」
「ううむ。ぽちとやら。おぬし・・・そんなにその薬が欲しいのか?」
「わおん。はい。」
「どんなに大変でもか?」
「はい。ぼく、るなちゃんのためなら、なんでもします。
お願いです。ぼくにその薬のことを教えて下さい。」
みみずくのじんじいさんはぽちの顔をじいっと見つめた。
「分かった。では、『虹の谷』を訪ねるがよい。きっとそこでおぬしが探しているものが見つかるであろうよ。」
「じんじいさん。ありがとう。」
そして、ぼくとマリ姉ちゃんは『虹の谷』を目指して歩き出したんだ。
「マリ姉ちゃん。ぼくたち、どの位まで来たのかな?。ぼくもうだいぶん歩いてきたと思うんだけどな。」
「ううん。ぽち。じんじいがくれたこの地図によるとね。
『虹の谷』は、さっき私たちがいたあの森を抜けて、川沿いの道の先にある大きな岩を目指すようにって書いてあるのよ。」
「さっきからずっとこの川に沿って歩いてるけど、大きな岩なんてまだまだ見えないね。」
「ぽちちゃん、足が疲れたでしょ?
私はあなたの背中に載せてもらってるから疲れないけど。少し休まない?」
「ううん。大丈夫だよ。るなちゃんに早くお薬を届けてあげたいんだ。だから、その大きな岩に着くまでがんばるよ。」
ぽちは走った。
川沿いの道をとにかくひたすら走り続けるうちに、ぽちとマリ姉ちゃんは、自分達が川のかなり上流まで登ってきていることに気付いた。
いつの間にか、自分達は山の上の方まで走ってきていたのだ。
そして・・・。